川はかなたまで白く光っている。川に沿った土手道に木々は連なり、風がすでに忘れてしまっていた香を運んでくる。
── 木々のざわめきの色、── 鳥たちの声の色。
胸元にしまい込んだままの水晶の破片。
── 誰に譲られたものだったか、── あの神殿の祭壇に置かれていたものだということだけは、覚えているのだが。
だが、思い出しかければ、放心するかのような瞬間が訪れる。
あたらしい本を初めて開くときのように。── さまざまな幻想が屈折し、交錯する言の葉を、初めて知るときのように。
同じ言の葉を知る人々は、同じ高まりを知り、── だからこそ、高まりを知ったとき、放心したかのような沈黙を知ることになるのだ。
── それは、古代の兵士たちが、あの神殿の祭壇の前で知ったことと、同じものなのだ。
川に沿った道に吹く風が、胸元にしまい込んだままの、水晶の破片に透けてゆく。
空はひろく、川辺の木々の花期が近い。
風は、あらゆることを伝えてくる、── いつの間にか、解けぬ秘密としてしまったすべてのことを、ふたたび。
かなたには稜線が、高く霞をまとっている。
稜線の内には、数知れぬ生命の試行錯誤があり、交錯する彩りがあり、── だからこそ、この身を成り立たせている生命はそれに共振し、── この胸の内の、水晶の破片はそれに共振する。
その瞬間なのだ、熱の高まりが、放心したかのような沈黙をもたらすのは、── そこでこそ、結ばれるものがあることを知るのは。
祝福される、対にある者たちは、いつでもその瞬間ばかりを求めてきたではないか。
なんという不道徳だ。── だが、あの祭壇の前で、それはけっして涜聖ではない。
だからこそ、いまも空はひろく、稜線は遠く、川はかなたにまで白く輝き、川に沿った道に、あらたな季節の風は吹き続ける。
"The Windmills of Your Mind" - Percy Faith and His Orchestra
- "風のささやき" - パーシー・フェイス・オーケストラ - [Vinyl]
