夕月夜さすや川瀬の水馴棹なれてもうとき波の音かな
相模川といふ川あり月さし出てのち舟にのりてわたるとて
金槐和歌集 巻之下 雑部 (591) 鎌倉右大臣実朝
月が出ている。舟は対岸へと、川面を緩やかに渡ってゆく。── 激しかった陽光は、静まる稜線のかなたへと遠ざかってゆく。
月が出ている。舟は対岸へと、川面を緩やかに渡ってゆく。── 激しかった陽光は、静まる稜線のかなたへと遠ざかってゆく。
岸辺に増えてゆく、家々の灯、── 穏やかな月明かりに染り始める、人の日々。
舟の棹は川面に触れ、そこに淡い光は砕け、交錯する。── 楽し気になにかを語らっているかのように。
水面を走る、遠い国からの風。── 置かれた太刀に残る、かすかな熱。
波音は止まることなく寄せている。いつしかそれがあることも、忘れてしまうほどに。
だがその音は、異界の調べなのだ。
── 人はどこからきて、どこに行くのか、── 月の光降る中、川は流れてゆく。
