年経ればくちこそまされ橋柱むかしながらの名だに変わらで

 

           長柄の橋をよみ侍りける
           
壬生忠岑 新古今和歌集 巻第十七 雑歌中 (1591)


私が生まれるより、はるかに昔からその橋はあった。

多くの人々がそこを往来してきた。── 異国の産品を負う行商たちが、人の想いを負い、伝える飛脚たちが。

他国に嫁いでゆく姫君と侍従の一行が、── あるいは、制圧のための黒い軍隊が。

 

あの空の下、未知なる街はひろがり、── あの街もまた、こことつながっている。

境界である川は、人と人とを、街と街とを優しげに分断し、── だが人は境界の先へと歩んでゆく。

 

いにしえの時代を豊かに語る橋脚は、時の流れの侵食を受け、朽ちた痕跡は次第に拡大してゆく。

── だが橋の名が変わることはない。

渡っていった人々が、その名を忘れないからだ。── 橋の先にある世界が、消え失せることはないからだ。

 

 

 

 

 

 

 

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