かはず鳴く清き川原を今日見てば何時か越え来て見つつ偲ばむ
読み人知らず 萬葉集 巻第七 (1106)
夏の日、川原を歩めば、清流のざわめきに重なり、蛙の鳴き声が聞こえてくる。
── 沼池ではない、この明るい川原に。
清流の音は、この思いの中の淀みを洗い去り、── 蛙が歌っている。
流れゆく清烈な光は、けっして消え失せてしまうことなく、旅人の胸に刻まれる。
── 洗い去ってくれたからだ。
越えなければならない稜線を越え、ふたたびここに来よう。
いま、このときは、ふたたびここに来るとき、なにも変わることなく、ほほ笑みかけてくれるだろう。
── いまという存在の瞬間は、けっして消え失せることはないだろう。
