この季節、立ち惑う街路にオーバーラップする、山間の湧水群。
日差しの下、湧水は岩の間を流れ、飛沫に野草の緑は濡れている。── そこにもまた、頌歌がある。

熱は増幅してゆく。── あの日々の午後の時間帯、コーヒーが増幅してくれた高揚と同じように。
── 止まることのない会話は、湧き上がる熱の中にあった。そんなとき、言葉はかならず燦をまとっていた。

なにが一番重要なものなのか、そんなことはわかりきっていた。
ほんのわずかな時間帯であっても、そのすべてがこの身に焼き付けられる場に、それはあった。
そんなとき、いつでも、頭上の天空には燦をまとって舞踏しているものがあった。
歩む先、道のかなたに立っているものがあった。


ときおりやってくる、季節はずれの驟雨。── それも熱がもたらすものだ。
だが、驟雨が残す靄と大気の香とが視界に満ちれば、そこで覆い隠されてゆくものがある。
── 道の横でうずくまる若者は、淡い靄と大気の香の中で目を閉じている。
── 驟雨が残していった淡い靄にすべてが覆い隠されてゆく中、押し黙る街路。

頭上、数式を描くかのように、ゆるやかに天空に舞踏している、金と銀との燦をまとう巨大な影も、淡い靄のかなたに遠ざってゆく。
歩む先、いつでも道の中央に立ち、なにも持たぬ旅人たちを見つめている、尖った角を持つ白い獣も、淡い靄のかなたに遠ざかってゆく。

── それらは、この身の内の熱を見失えば、いつでも遠ざかってしまうものなのだ。
そうして、見失うことに慣れてしまえば、やがて旅人たちの故郷の地の湧水群は枯渇してしまうのだろう。


なにが一番重要なものなのか、戻るべき場所はどこなのか、そんなことはわかりきっている。
ふたたび歩み出せば、驟雨の残していった淡い靄を、季節の風は大気の中に洗い流してゆく。

そのとき、ふたたびこの地上に姿をあらわす湧水群は、飛沫を上げながら形なき形を成してゆく。そうして金と銀との燦をまとい、天空に舞踏する。

淡い靄の中で目を閉じてしまっていた言の葉は、ふたたび燦をまとい、そのとき、ふたたび旅人たちの身に、すべての時間が焼き付けられる。
太古において故郷であった湧水のある地で、言の葉は頌歌の音律に送られ、すべての混沌を解き明かしてゆく。




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Polonaise No. 6 in A-Flat Major, Op. 53 "Heroic"