雨音がひびく。この初春にひさしぶりの雨。
木々は雨に打たれ、ようやくふくらみ始めたつぼみもまた雨に打たれ、木々を育てる雨に打たれ。

あの白い浜辺にも、雨は白く降り続けるのか、あの青い川に沿った道にもまた青く、無数の円は川面にくり返しひろがり、そこに雨は。

川の水源の方向、とおくに見える、赤い煉瓦で組み上げられた古代の城壁。
夏の正午にはあの赤い城壁の上に腰をおろし、風の中に語らいは止まることなく続くのだが、いまは白い水煙にくもる城壁。

雨は木々を育て、雨は川面に円を描き続け、そうして赤い城壁を洗ってゆく。


川はゆるやかに、ふたつに分かれてゆき、だがかなたにひろがる山々。
── 川に沿い、水源の方向を見つめているだけなのだ。
ふたつに分かれてゆくわけではない、川はこちらに向かって流れている。

川が合流する姿なのだ。ふたつの川はひとつになって海をめざす。

降りしきる雨。── ほほえみをまとう告別の言葉もまた雨に打たれ続け、── それもまた海へと向かう。


雨の中、”S”の後ろ姿。「犬は餌で飼い慣らすことができる。人は快楽で飼い慣らすことができる。だが狼は、なんぴとたりとも飼い慣らすことはできない」。
── きみらしいな。だからひとり、それほどまでの手傷を負ったんだ。

雨の中、”K”の後ろ姿。「動物は死ぬまで動物のままだが、人は生まれ変われるんだ」。
── きみらしいな。だからひとり、終わることなく追われ続けるんだ。


雨降る中、ふたつの川はひとつになってあの海を目指す。
教条はとうの昔に無効を宣言された。だからこそ、ふたつの川はひとつになって、波濤のかがやく海をめざす。

優雨、── 優しき雨。
白く、青く、天空の西風の中に立つ軍神の見守る中、優しき雨。
優しき人々の優しき思い、── 雨に打たれる旅人たちの視界のかなた、西からの風の中、雨にくもる赤い城壁。


あのあたりでは、ふたつの川が流れている。
だが、ふたつの川はひとつになって、波濤のかがやく海をめざす。
降りしきる雨。── ほほえみをまとう告別の言葉もまた雨に打たれ続け、── それもまた海へと向かうのだ。




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