心がちに大輪向日葵かたむけりてりきらめける西日へまともに

夏の日に太陽を指し続けるひまわりは、夕暮れ時になってなお、沈み行く太陽を追っている。

夏の日の太陽の花よ。
きみが見つめる先には夜しか待たないのだ。
きみが
追い続けた太陽は、もうその姿を隠そうとしているのだ。

それでもきみは、夏の太陽を追い続け、見つめ続けていようとしているのか。

そんな姿を誰かに示そうとする意図をきみは持たず、しかし残照の中にきみの姿は明らかに浮かび上がっている。

きみを見る者たちに、きみのすべては伝わるのだ。夏の残照の中に。


戦死者の墓はもかなり古りにけり赤い夕陽に曼珠沙華咲き

逝った兵士の墓は古び、戦ももう遠い過去へと遠ざかる。
戦の中に倒れていったきみよ。いまは眠るきみよ。

沈み行く夕陽は秋風の中に赤く、曼珠沙華の花々は秋風の中に赤く。
九月か。夏も遠ざかり、九月の風の中にある赤。

秋風の中、逝った兵士よ。
いま、秋風の中にある赤は、戦場に流される血の赤ではない。
戦は終わり、ときは過ぎた。この静けさは、きみが残してくれたものなのだ。
そうしていま、ここにある赤。

夕照。いっさいの影は、秋風のかなたに遠ざかっていく。
殺すために流される血の赤ではない。守るために流される血の赤のかなたに。

秋。夕照の中にある赤という色彩。


葉より葉へつたふ雫の音久しく軒端ひそけき昼間の時雨

時雨か。ふいにやってくる、この季節の雨。
道ゆく人々が見る風景は、雨音の中に洗われていく。
時雨か。光に洗われていくのか、光に濡れていくのか、人の生活空間は。

雨宿りした軒端から見る雨のしずく。
光のしずくは輝きながら、葉から別の葉へと伝い、そうして地へと落ちていく。
だが、悲嘆など問う必要もない。地へと落ち、だが悲嘆などどこにもない。

そこに旅はあるのか。光の中にある旅。旅人たち。
光に濡れた木々は、この時雨の中にいつでも瑞々しく。
旅の路上は、光の中にいつでも瑞々しく。

雨音というもの。音楽。時雨の中にある光の音楽。
雨のしずくは光の中に旅を続ける。終わることのない光の中の旅を。




Prelude Op.28 No.15 Raindrops - Chopin (J.m.w.Clarke)



◆リンク
雨の音楽 - 都市に妖精たちは
柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺 - 三つの名詞
反応と対応 - 「掛け軸俳句」の素顔
水辺の風景 - 水面(みなも)に拡大していく円
詩文に寄せて - 旅人の見る地平線

【超訳】 南山田中行  李賀
【超訳】 西行三題 - 季節の中に