老子 第十五章

古之善爲道者
微妙玄通
深不可識
夫唯不可識
故強爲之容

與兮若冬渉川
猶兮若畏四隣
儼兮其若客
渙兮若冰之將釋
敦兮其若樸
曠兮其若谷
混兮其若濁

孰能濁以靜之徐清
孰能安以動之徐生
保此道者
不欲盈
夫唯欲不盈
故能蔽而新成



彼。
いにしえの時代に、
この世界の現象を「彼抜き」で捉えることができた彼。
「彼抜き」で?
そう、人がいてもいなくてもあるものを、彼は捉えることができたのだ。

この世界という、存在と時間の異名。
現象のいっさいがかかわって「意味」が成り立つところにある、「名のないもの」を知る彼。

そんな彼を知ることはできない。そんな彼を捉えることはできない。
彼はなに者なのか。
私は、強いてそんな彼を形にしよう。


凍てつく川をわたる彼。
彼は滑り、転倒することの意味を知っている。まるで怖れているかのように。
周囲のすべてを見る彼。
彼は彼の居場所の意味を知っている。まるで怖れているかのように。

怖れている?それは、彼を見る私の言葉に過ぎない。
この世界はいつでも恐怖に満ちているかのように見える。
彼はそこにいる。いっさいを直視して。
どこに恐怖があるのか?それは、彼の姿に私が作りだしたものなのだ。

威儀を正した客であるかのような彼。
彼は、他者と自分との間にある境界を知っている。
この世に生を受けた、「身体」という名の、人と人との「境界」。
そこにある孤独というもの。

彼は素朴なのか。
降る雨は谷に流れ込み、谷はなにも拒絶しない。
そこが小さな池なら、たちまち雨水はあふれてしまうだろう。

川は流れ、満たされることなく、だからこそ久遠に流れ続けることができる。

解け始めた氷の姿なのか。決まった形であり続けることを拒否する彼。
彼は流れ行く変化そのものなのであり、そこにこそ永遠という場はある。

形がないがゆえに多様であり、まるで濁っているかのように見える彼。
だが、人がこの世界にある「意味」のいっさいは、そんな「流れ行く変貌」の異名なのだ。
確定したものはなにもない。彼は、無限を、永遠を知るのだ。


ああ、この日々。
思いの激しさをもって、静寂の透明さに転じることができるのだろうか。
静止したものをもって、「動の帰結である意味」を成して行くことができるのだろうか。

道を知る彼は、手に入れることを求めはしない。
無限であり、永遠である器はいつでも空虚に見え、満ちることなどありえない。

道を知る彼は自らの破綻をすら受け入れ、形の変わらない作り物を恋慕することはない。




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