※一次

「あんたに笑っていてほしいのはこちらの勝手な祈りだ。だから、これが呪いになるなら忘れてくれ」
 握りしめそうになる手をふる。手はとうに放した。もう、この温もりを取り戻さない。
 このヒトの顔を覚えてはいかない。背負う覚悟がないから手放すのだから。
「笑っていて、幸せでいて、っていう祈りだけを押し付けていく。そこにあるのは命への喝采だと信じて」
 怖いよ。そんな感情を裏に張り付けて、言い募る。積もらせてしまった感情を全部ここへおいていく。持っていけない。なにも、持ってはいけない。そんな腕はない。とうに切り落とされた。
「……『私』からの願いは」
 人間として、生命として、人生として、告げる。
「心を体に閉じ込めて、泥のなかで眠ることをよしとしないで、前を向くことに勇気を必要としない。そんな、行き先があなたにあること、それが、あれば、いいの」

 別れへ向けた言葉。
 たった一人に向けた言葉。
 あんたがあんたで、あんたの願いのために生きてくれりゃあいい。
 それだけのことだ。
 だけど、言葉をいくら尽くしたってたりない。
 この夢を見ているのは自分で、彼の人ではない。

きっと、この夢は空よりも遠く。