「同席をお願いした亘さんも、奥様がエアコンの悪臭で悩まれています。
施工会社は七条工務店。
新築とリフォームの違いはありますが、エアコンの初稼働から異常が見られます。
なぜ、顧客からの問い合わせを無視なさるのですか?
原因を突き止めようとは思いませんか?」
「俄に言われましてもね、こちらさんの担当は私ではありませんし、わかりかねます」
堪えることができず、秀美は鼻で笑った。
「別に亘さんのお宅の説明を求めてはいませんよ。
多村さんが担当なさり、十分に把握なさっている、こちらのエアコン問題で構いません」
「脇坂眼科のエアコンでしたら、三ツ葉電機に部品の交換を依頼しています。
ですが、悪臭を訴えていたのは山岡さんだけですから、もうその必要はないかと」
「部品の交換で悪臭はなくなりますか?」
「試さないとわかりませんよ。
しかし、今も言ったように、悪臭を訴えるのは山岡さんだけ。
部品の交換でどう変化しようと、誰にもわかりません」
「多村さんは、それで満足ですか?」
多村清の睨みは益々強まり、右眉が痙攣している。
「七条工務店も然りです。
その程度の対応で、問題が解決したと胸を張れますか?
感じる感じないは個人差です、悪臭を感じた人がいる限り、このエアコンは臭気を発している。
では、その臭気の種類は?
人体への影響が心配になりませんか?」
秀美はエアコンのリモコンを手に取り、電源を切った。
「申し訳ありませんが、冷房を切らせて頂きますね。
私はこのエアコンの発する空気を、吸いたくありません。
科捜研の者に言われました、私のようにエアコンの臭いがわからない人間ほど、無防備で危険だと」
すくっと亘は立ち上がった。
自宅にいる妻を想い、血の気が引いている。
「亘さん、怖がらせてごめんなさい。
奥様は、大丈夫よ」
亘の肩を軽く叩き、落ち着かせた。
大丈夫なんて無責任な言葉をかける自分に、秀美は後ろめたさを感じる。
「刑事さん、私たちは危険な空気を吸っているのですか?」
院長夫人も蒼ざめている。
「今すぐに人体に影響が出るわけではないようです。
ただ、身体にいい空気ではありません」
「なんて酷いことを…」
肩を落とし、背を丸めた院長夫人を横目に映しながら、
「科捜研の鑑定結果です、どうぞお持ちになって下さい。
客の声に耳を傾け、親身に対応していれば、科捜研でなくても原因は追求できたはずです。
臭いがするかどうか、個人差を理由にするのなら、人間の鼻で調査しても意味がありません。
悪臭に気付き問い合わせてくれる人は、あなた方にとっては有り難い存在なはずですよ。
誰も気づかなかった異常をいち早く指摘してくれたのですから。
機械を使って調査すれば、子供の使いのような顧客対応をしなくて済む。
頭痛やめまいに苦しんでいる人を放り置くなんて、軽薄にも程がある」
多村清へ、科学捜査研究所からの報告書の写しを突き出した。
つづく。。。
この作品は、フィクションです。
登場する企業、学校、人物は架空のモノです。