「登夢くんの様子は?」
「あの子は大丈夫、内心は心細いだろうけどね、お利口さんだったよ」
オイラは軽く頷き、肩の水滴をタオルで拭った。
「横井さんは何と?」
「神経を尖らせてくれたようだけど、昨夜は誰も帰宅していないって。
登夢くんを預かるよと言ってくれたけど、引っ越してきて日が浅い上に、妊婦だろ、面倒かけるわけにはいかない」
「いや、登夢くんの面倒ならオイラが―― 」
言ったまでは勢い。
「出来ないことを口にしてはいけない」 親の遺言が頭に過る。
ああ、どうしよう・・・。
オイラが登夢くんの面倒をみるなんて、どう考えたって無理だぞ。
今月は夜勤集中型のシフトだからな。
「登夢くんは、私に任せときゃいい。
さっき嫁に話したら、今日から小学生の孫をうちに泊まらせるって言ってくれたからね。
同年代の子が一緒なら、登夢くんの不安も少しは軽減できるだろ?」
やったー、と声が出そうだったが、抑えて抑えて。
安堵の表情を隠すように、オイラはタオルで顔をごしごしと拭いた。
「あはは、その方が前村さんも好都合だ」
岸田の婆さんは、オイラの心を読みとったと言わんばかりに豪快に笑った。
「岸田のば・・・、 いやいや、岸田さんの場合も・・・、 場合? 場合・・・」
思考停止。
いつも岸田の婆さんを何と呼んでいたっけ?
岸田の婆さんじゃ、失礼だしな。
胡麻化そうとしたが最後、続ける言葉が思いつかず詰まる。
「バカ言ってぇ、岸田の婆さんでいいよ。
ん? 何を言おうとしたんだい?」
バレバレか・・・。
「あ、いや、孫だけでなく登夢くんまで泊めるとなると、岸田さんに負担がかかるだろ」
「あら、気遣ってくれるの?
ほっほっ、このくらい平気だよ。
夕飯は息子の所で一緒に食べればいいしね。
登夢くんのおかげで、私も楽ができる」
どんなことも楽しくプラスに解釈できるのは素敵だ。
岸田の婆さんに登夢くんを預けて正解。
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