エルミナージュにはマーシャの酒場というものがあります。
訓練所で作成したキャラクターをここで仲間に加えます。また、いまいる仲間を酒場に待機させることもできます。
それから、アイテムの鑑定もここでできます。アイテムの鑑定は司教の役割です。ダンジョン中でも、司教がいれば鑑定できますが、帰ってきてからは酒場でもできます。
酒場は出会いの場所であり、出会った仲間たちがワイワイガヤガヤする場所だと思います。
ここで初めて顔を合わせた冒険者たちが一緒にダンジョンに潜り、帰ってきて戦利品を鑑定しながらさっきまでの冒険の話をする場所だと思います。

司教ワネーは、メロ達の帰りを いまかいまかと待ってました。ワネーは、パーティに入ることもありますが、マーシャの酒場で待っていることも多いです。
ギギ、とドアの開く音がして、ワネーは酒場中に聞こえるほど大声を出しました。
「こっちだ、こっち」
戦士メロたち一行が帰ってきたのです。ワネーは、ちらりと彼らの荷物に目を走らせました。メロたちのリュックがパンパンに膨らんでます。
コウモリも一飲みしそうな大口を開けてワネーが何事か叫ぶなか、一行は、テーブルに座りました。さっきまでと一緒に飲んでいた男たちは、ワネーが手で追い払い、テーブルには早くもいれたての酒が並んでいます。

狩人のゼムがいかに自分の弓が百発百中か自慢し、実際に弓を取り出して熱く語ってます。ワネーはそんな話には一切耳を傾けず、メロのリュックを逆さにして、中に入ってた砂まで出し尽くしています。
ワネーが鑑定したアイテムの名前を発表するたびに、テーブルからは歓喜とため息が交互にあがります。鑑定が終わったあとは、酒を飲みながら冒険の話が尽きません。
後半になると、ゼムの幾度目かわからない自慢話が始まります。人間の何倍もあるトロールの息の根を止めた話を誰も聞いてないのに、延々と続けます。
召喚師のギオは、最近気の合うことに気づいた魔術師のゾイとなにやらボソボソと話してます。後衛同士、話が合うようです。

こうして冒険者たちは、酒場を通して絆と酔いを深めていくようです。
クレディアの洞窟には、アビという彫像のモンスターがいます。両手に盾を持っている青年の彫像なのです。いつも決まった場所にいて、呼ぶと戦えます。
アビはほとんど攻撃をしてきません。何をしているかというと、寝ているのです。顔を合わせると礼儀正しく「こんにちは!」と挨拶してくれるのですが、戦う頃にはもう寝てます。

狩人のゼムがよく狙いを定めています。早射ちの得意な彼ですが、相手が寝ていることもあって、確実に当てるつもりです。ギリギリという音が小さく聞こえ、音が変わった瞬間に矢は放たれました。矢がアビの頭に当たったことを確認して、次の矢を準備します。

ゼムがアビの後ろから攻撃しているのに対して、戦士メロと忍者ユッテは前面からしかけてます。
ユッテは蹴り、拳、蹴り、肘鉄とめまぐるしく人体の急所をついてます。メロはアビの腹を剣で突き、おおきく振りかぶって斬りかかります。

前衛の攻撃に合わせるように、魔術師ゾイの炎の呪文も順調です。火の玉が次々と前衛を避けながら、アビにヒットしていきます。

もう倒れるタイミングだなと直感した忍者ユッテは腰を落としてから、ゆっくりと溜め、回し蹴りをアビの右頬のあたりに決めました。頬からヒビが入り、アビの彫像は大きな音を立てて、倒れました。


アビはなかなか経験値がいいので、レベルの低いキャラクターを育てるのにちょうどいいのです。たまに起きるのですが、だいたい寝ているとぼけたモンスター、それがアビです。
冒険というのは、いつ始まり、いつ終わるのでしょうか。RPGは、レベル1で始まり、ラスボスを倒して冒険は終わります。その後、勇者たちはどうするのでしょう。ひとつの冒険が終わっても、また冒険を続けるのかもしれません。

クレディアの洞窟にはふたりの冒険者がいます。見た目から判断するに、魔法を使うふたりです。着古したローブに身を包み、使い込んだ杖を持っています。経験豊富そうな外見をしています。二人はおじいさんとおばあさんなのです。

おじいさんはワープしたのに、それに気づかず不思議そうにしてます。おばあさんは、そんなおじいさんにワープしたじゃないですか、とつっこみます。短いやりとりの中からも二人が長年付き合った仲であることが感じられます。

低レベルからずっと一緒にいて、歳をとっても共に冒険をしていたのでしょう。若いときには倒せたモンスターが段々と倒せなくなったのでしょう。体力も判断力も落ちた二人はとうとう最初のダンジョン、クレディアの洞窟にいたのです。

そういうと落ちぶれた冒険者のようですが、そうでもないとも言えます。いくつになっても冒険を続けたいというのは、なかなかよろしいことなのではないでしょうか。

回復呪文をスライムにかけ、炎の呪文でおばあさんの帽子を焦がしてしまう、そんな冒険もひとつくらいあるのでしょう。