正月明け、地元最寄り駅近くの居酒屋で、大平くんから聞かされた最高の女性との邂逅というのは、概略次のような話になります。

 

 数か月前の秋口、六本木のセクキャバに二人で行った際偶然席に着いたホステスであるルリと親しくなったという大平くんですが、結局、彼女の営業成績に使われ同伴出勤を三回したといいます。ルリというのは、年齢若めに見えたけれど意外にも三十代半ばで最近旦那と離婚したばかりであるとのことだったそうです。セクキャバ嬢としては賞味期限が迫っているような状態で野心も見受けられなかったのはいいにして、当面、お金が必要な事情があり、週の内半分を夜のセクキャバで働いて、残りの半分は同じ六本木だが少し距離のある昼キャバで働いているというのです。

 

 昼キャバだとか朝キャバというのは、その当時耳にするようになった新形態のキャバクラでしたが、私自身は一度も行った事がなかった。だから、なんで朝っぱらからそんな店の営業が成り立つのか不思議だったものです。

 

 大平くんの説明によると、やはり一番栄えているのは新宿歌舞伎町の昼キャバなのだそうで、客層は東京観光に来た旅行客や定年退職した高齢な男性がメインだとの事です。歌舞伎町は日本のみならず世界的にも名の通った大繁華街であり、そこのキャバクラで一杯飲むという体験を求める男性観光客は意外と多いようで旅行ツアーに含まれているケースがあるとのことです。そして、それよりも早くから始まる朝キャバというのは、明け方まで働いた水商売やバイト帰りの大学生、それに漁業関係者等が客層であり意外にも需要は高いとのことです。

 

 大平くんの説明によると、朝キャバにしても昼キャバにしても夜とは違って明朗会計を第一にしており安価で安全な店が多いのだが、キャバ嬢の年齢層が高いのも特徴であるとのことです。

 

 大平くんが理想の女性に出逢ったのは、ルリに連れられて、当時の麻布警察署裏側にあった「六本木ミラージュ」という朝昼兼ねたキャバクラに客として赴いた際だそうです。

 

 朝の六時から午後三時までが営業時間であり、だから派手派手しいネオンやミラーボールが輝く事はなく、地下に向かう入口は変な表現だが洋風な高級割烹のような雰囲気を有していたと大平くんは語るのです。店内は少し広めだがごく普通のキャバクラであり、場所柄か内装に凝ったゴージャス感は覚えたといいます。

 

 彼がルリと同伴出勤して入店したのは日曜日の正午に近い時間帯だったらしく、店内のボックス席には白人の観光客グループや六本木ヒルズに遊びに来た日本人の中年男性グループが昼間から賑やかに酔っぱらっていたらしいです。

 

 健全なサラリーマンである彼にとっては、どうも退廃的な雰囲気を感じ一応ルリに義理立てしただけであり二度と来店するつもりはなかったとの事。

 

 推しのアイドルが結婚、引退して、心の中にぽっかり穴が開いてしまったような気持を埋めるべくして、少しばかりこういう経験をてみただけなのである。どうも自分には合わない世界だな、革張りのソファーにのけぞるように座りながら違和感を覚えていたのだそうです。

 

 一番奥のボックス席で両腕を伸ばし欠伸をする大平くんでして、ルリがドレスに着替えているのを待っている間、ヘルプに付いてハウスボトルで酌してくれたのが、その後彼が追っかけまがいの行動を起こすことになる運命の女性だったわけです。

 

 「はじめまして、アイと申します。ルリさんが来るまで、おじゃましますね。」

 

 女性にしては低音だが安定感のある柔らかい声が、彼の耳に滑り込んできた時です。

 

 ふと目を上げて、彼女を見た時、あれっと思ったそうです。

 

 その女性、美しくはありましたが他のホステスに比し外見に特徴があり、こういう遊びの経験が少ない大平くんには、まずその外見的特徴に不思議な印象を覚えたのだそうです。

 

 

 

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