職場復帰してすぐに優也はユキコから「四十年後」に続く第二弾携帯小説を書いてみてくれと言われた。

 

 言われたときは、作家でもない自分にはそんなにインスピレーションがあるわけでない、もう無理だろうと思っていたのだが、ユキコから一層の好意を得たい一心で書いてみようと思ったところ、どういうわけかスラスラと脳内に一本道の構成やら情景やらが思い浮かび筆が進みだすのが自分でも不思議であった。

 

 どいつもこいつも、セックスと美男美女のカッコいい恋愛物語ばかり書きやがってという悲しい怒りからなのか、俺流の感動世界を描いてやるという意気込みが一層執筆に拍車をかけたということもあった。

 

 とにかく現実世界がつまらない、辛すぎる。確かに読書は好きだったが読むのはもっぱらミステリー系だけであり、彼からみるとスーパーマンのような男性主人公が登場することの多い恋愛小説は架空のものとはいえ、気分が悪くなるばかりであった。

 

 そこで考え出したのが、モグラ男という恋愛小説であった。

 

 これはとりあえず、三分の一位書き上げてから、こまめに分けてはいいところで続くという「四十年後」と同じ格好で執筆してはユキコに送信するということにした。

 

 その頃、優也には池袋のファッションマッサージで知り合ったトモコというお気に入りの風俗嬢がいて、彼女にもついでだから送ってみようと考え、とりあえず「四十年後」を送信してみた。

 

 やはり、不思議であった。風俗嬢トモコもまたユキコやマユミと同様に最大限の賛辞の言葉をくれたのである。そして、「四十年後」を境にトモコとの間で一層親密なしっぽりとした関係が生じるのである。

 

 なんか変だな、現実世界では女性に敬遠ばかりされる人生を歩んできた全身コンプレックスのような自分が、小説を書きだすとまるで真逆な事態が生じるような気がする。

 

 まあいいや、どんどん書こうと思って、三人の読者のために「モグラ男」を書きだしたのだが、これが「四十年後」以上に好評を得るのである。

 

 当時は毎週土曜日トモコのいる池袋のファッションマッサージに行くか、ユキコのいる下北沢のガールズバーに行くかのどちらかであり、彼女たちは会うと、小説の賛辞をくれた。

 

 女性の好意については誰よりも疑い深い彼が好意を感じるのであるから、それは真実であったのであろう。

 

 モグラ男はどんどん進行し、やがて佳境に入る。

 

 彼が第二弾として書いた携帯小説「モグラ男」というのは、恋愛要素よりもかなりミステリーの要素を重視したものであったが、概略、次のような内容である。

 

 

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