しかし ここの住人は一体どんな人なのだろう?
私は彼の同僚たちがあまりにも自分勝手で、よくいる会社でのいじめに似た感じとか、上司が部下に パワハラする古い慣習とか、そんな状況を絵に書いたような人々だったので、
きっとここの住人はいい人で苦労をしたのではないかと感じたのだった。
けれど一方ではもしかしたら女の子を監禁し続けたり、
入り口近くにいたスーツの男などは仕事のことで彼を探しているのに実はそのことを知っていて姿を見せないような、
やはり 会社の人間たちが言っていたような 掴みどころのない、自己中な、付き合いの悪い、
自分のことを語らないない男なのかもしれない。
ここの住人は一体いつ帰ってくるのだろう?
本当に会ってみたい。
その人間が たとえ 悪い人間だったとしても、この家に この部屋の一つ一つに こんな変わった人々がいたのだ、と説明してみたい。
他の部屋に行ってみるべきか。
私は夜のど真ん中にたったひとりでいるような とても途方にくれた気持ちになっている。
しかし そんな私を 勝手に歩かせてしまう、
ちょっと変わったシチュエーションが起き始めていた。
食べ物の匂いだ!
私は とりわけ 食いしん坊ではないが、
なんだかとても良い匂いがしていて、言ってみればもう夜中に近い時間だというのに 私は 何だかお腹が空いていた。
普段だったら 食事などしない時間。
けれど 私の゙足は勝手にそのドアの方に向かっていた。
暖かい 優しい匂いだ。
遠い日の、牧場で飲んだミルクのような懐かしい匂い。
ドアが開いている。
後ろ姿のご婦人がキッチンの方に向かって 大鍋をかき混ぜている姿が見える。
私はまた何と言い訳をしようかと考えながら 半開きのドアの前に立っていた。
あのう、、、
外国人のおば様のような姿のご婦人がエプロンで慌てて 手を拭きながら こちらに駆けてきた。
ね、食べていきなさいよ。 シチューをね、 今作ってるんですよ。
ずっと待っていたけどどんなに待ってもあの人が来ないんで、 もう今日は シチューを作って、ダメになっても仕方がないから置いて行こうと思ってたの。
ちょうど良かったわ。あなたに 作り方も教えるから。
そして食べて行ってちょうだい。
いつかあの人が来たら絶対に食べさせてあげてね。
まずね、鶏ムネ肉は白ワインに漬けこんでおきます。
チーズはチェダーチーズの硬いのをチーズおろしで、このくらい、粗めの粉にしておくのよ。
野菜はね あの人は、昔はペコロスとかが好きだったけどカリフラワーでも ブロッコリー でも 芽キャベツや普通の玉ねぎでもいいわ。他にちょっと秘密の野菜も教えるわね。
人参などは一度、
さとうバターで下茹で しておくといいわね。
私はいつかなぜか、この夫人の説明に惹き込まれるように聞き入っていたのだった。
岩塩をほんの少し入れていたみたいた。
できたわよ!
あとのブイヨンなどの味付けは、
貴女がこの味を憶えていて、愛情いっぱいとセンスを一滴足して作ればいいのよ。
そう、 この時に蜂蜜を大さじ2杯入れるわよ。魔女のヨダレよ。(笑)
たまに 栗の実やら いちじく やらを料理してごろっと入れるのもいいわね。
キャセロールに 綺麗に盛られたシチューはどこか遠い夢の国の、
雪景色のようだった。
あの、その、
食べさせてあげてという人は
誰なんですか?
私はその人に会いたいけど、
逢えるかもわかりません。
夫人は私の両手をしっかり握った。
逢えるわ!
じゃ私は行くわね、急ぐから!
夫人はエプロンを外しながら突然ドアを出ていってしまった。
私はもうひとつだけ聞きたいことがあって彼女を追ったが、
廊下に出た途端見失ってしまい、どこを探しても姿はなかった。
白くなって、消えた、
ような気もした。
シチュー鍋は火が消えているのに、まだプツプツ言っていた。
スプーンで一口吸い込んでみる!
拡がる牧場。笑う妖精たち。
カモミールのような甘い香り。
サボリーのような歌う香辛料。
けして忘れることのない風味に、
見たことのない景色が拡がる。
忘れないわ。
しかし、その白い靄(もや)が煙るようなアルカディアフィールドを打ち砕くような叫び声が聴こえた!
それは、2つくらい向こうの部屋だ。
つづく
いつも、こんなバカらしい散文小説にお付き合いいただきまして、
ありがとうございます。
実はこの小説は あと 3〜4話ぐらいで終わりになります.。
勘のいい方は もうストーリー展開がお気づきだと思うし、
そうでもない方は、さっぱりわけがわからない話しだと思いますが 最後は、皆さんに なるほどね 〜、って思っていただけると思います。
どうぞどうぞ 最終話までお付き合いくださいね。🙇🙇🙇🙏🙏🙏



