暖かく包まれる感触だった。
私は ニ人静(実在する紫色の種類です) の闇の中に墜ちていったが 一番下でやわらかく誰かに抱き止められた。
優しい腕だった。
そのことは、
背中の感触だけが憶えていた。
なぜあんな所に行ったの??
まだ10月の半ばだから良いけれど、
もう少し秋が深くなっていて、朝まで野っぱらにいたら、
低体温になり、命が危なかったってよ。
母は手を握った。
早朝の草刈りのおじさんがあなたのことを見つけてくれて、
救急隊員の人がバッグの中にある、
あなたの免許証の身元と、
私の連絡先を探してくれたのよ。
え?私が落ちた時に、下で 抱き止めてくれた人がいるでしょ?
それがそのおじさんなの?
落ちた?あなたはどこか から落ちたの?
だだっ広い空き地の中に倒れていたんではないの??
広い空き地の草の中だそうよ。
じゃあ、あの腕は??
あ、それはね、
さっきまで、丘飛呼君がここに来てたのよ。わたしが連絡したの。
私も動揺しちゃって、何かあったらと思ってね。
低体温になっていたから 点滴をしなくちゃならなかったしね。治療用のベッドに移す時 手を貸してくれたのよ。
しばらくここにいたんだけど急に電話が鳴って、
どうしても新しい仕事のことで 行かなくちゃならない所が出来たからって。
本当に申し訳ないです、って 私に言ってたわ。
起きたらよろしく伝えて下さいね、って。 連絡くださいねって。
何度も何度も 看護師さんに、命に別状ないんですね 、と聞いてたわよ。(笑)
ああ、母は別れ話のことなど知らなかったんだ、
だから 急遽 連絡したんだ。
きっと結婚するんだろう、
と思ってただろうし。
私は少し恥ずかしい気がした。
本人の目が覚めて点滴が終わっていたら、
受付で退院手続きをして 、
いつでも帰っていい、という話だったけどどうする?
お母さんのところに来る?
ううん 。自分の部屋に帰るわ。
どうしてあんな場所にいたかって言ったらね 、夜散歩をしてて、 近道かな、って 空き地の中を通り過ぎようとして転んだんだわ。
そのくらいで気を失うの?
少し飲んでたからね。きっとね。
しかし私の胸はザワついていた。
あの家はどうなったのだろう??
私は2階の窓から飛び降りたんではなかったのだろうか?
看護師さんを呼んで点滴を外してもらった。
母は何事もなくて良かったと言い、 1階で会計を済ませ、
じゃあね 、気をつけて帰りなさいよ と タクシーに乗せてくれた。
私は家に帰ったが彼にお礼の電話はしなかった。
忘れないうちにしなければならないことがあるのだ。
彼 が誰に逢いに行ったのかも知っていた。今はまだ午後1時半。
夕方には帰って来るだろう。
わたしはスーパーで材料を買い、手料理を作って 夕方6時半に彼の家を訪ねた。
胸がドキドキする。
別れ話を言われて まだ未練があって来たと思われるだろうか?
でも もし そんな顔を彼がしていたら、お見舞いに来てくれたことのお礼を言って、料理だけ渡して帰ろう。
『母は何も知らなかったから、 わざわざ呼んでしまってすみません。』と言えばいい。
これからも元気で頑張ってね、と言えばいい 。
傘を返してもらってもいい。 あげたつもりだったけど、オレンジの傘なんかもう使わないもんね 、と笑えばいい。
それにしても、こんなに緊張したことは 会社の面接 以来なかった。
彼とは いつもうまくいっていたし、
ドアチャイムを押すとき こんなに 指が震えたことはなかった。
つづく。
やだー、いつまでつづくんだろう?
彼の反応は??
それは、、、明日の私の機嫌にかかっています。
って、そんな事はないか〜。💦💦💦😅😅😅
仮面の下が血だらけの私は、
それでも普通に仕事をしていたと思う。
仕事も大切であるが 彼 のことはもっと大切であったはずなのに。
あまりにも波風がなく来てしまったから
失うことなど 予想すらしていなかった。
一度迷って入ってきてしまった 食虫植物の生い繁る庭、
もう二度と来ないであろうと思っていたあの家に夜になり私はやってきたのだ。
自分を変えたかった?自分を終わらせたかった?理由はどちらかわからない。
この家に来てしまったことに意味があるのか、
気の迷いの行動などは 、
間違いだったのか。
昨夜のことを回想した後で、急に意識が醒めると、銃弾を放った男はもういなかった。
私も、うつ伏せに倒れていたが、(多分膝から崩れ落ちたのだと思う。)
火薬のようなピストルの臭いが残り
撃たれた男は椅子の足を片手で掴み、仰向けに目を見開いていた。
撃った男性はどこ??
私はフラフラしながら 廊下を歩き 、
人の語り声のする部屋の前で足を止めた。
「 お前が小さいうちに俺が あの家を出て行ったから、だからお前はこんな風になったんだよな 。」
声は続いていた。
ずっとお前のことを思い出さない日はなかった。母さんとお前がどんなにしているのか 考えない日々はなかった。
仕事がうまくいかなくなり、酒に溺れることが多くなった俺は、 小さなお前を置いて、女と一緒に遠い町へ行ったんだ。
だけど心は一つも救われなかった。
女と一緒だったが、心の空白は埋められなくて、何十年も寂しさに耐えたんだ。
仕事はしていたが、酒を飲むことはやめられなかった!
けど、お前は、
俺がもう危ないという事を人づてに聞いて、病院に来てくれたよな 。
だけどその時、俺は何もお前に喋ることはできなかった。鼻と口にチューブが入れ込まれていただろ。
言いたかったんだよ。 ごめんな、と。
大きくなったな、と。
俺みたいにはなるなよ、と言いたかった。
ごめんな。
50代の上の方かと思われる男は、30代くらいの男性にしがみついて泣いていた。
え?今はこんなに大きな声で喋れるのに、病院では
そんなに具合が悪かったのだろうか?
いいんだよもう。。。
その言葉が聞ければいいんだ。
それより、それより僕は、、、
今、人を撃ってきた。
死んでしまったと思う。
許せなかったんだ。 今までね、 あいつがね。
あいつの してきた嫌なことが、僕の心の真ん中にに染み付いて離れなかったんだ。
お前、、じゃあ今、
父さんのこめかみを撃てよ !
そして俺が倒れたら、
俺の手に銃を握らせてくれよ。 そうすればすべて俺がやったことになるだろ。
それはできない。
僕には父さんを消すことはできないんだ。
やっと会えたんだから。
僕は今日のことを、
忘れるつもりはないよ。
その男性は、
渋めのハンサムな顔をした、少し酔っているかに思われる50代くらいの男の手を握っていた。
背中しか見えない。
ガタッ!
フラフラしている私は、半開きのドアに足をぶつけ、その時音を出してしまった。
誰っ?!?
振り向いた30代ぐらいの男。
その顔に 私は驚愕した。
それは私がゆうべ別れてきた男だった。
どうして??!!
どうして君、
ここが分かった!!?
なぜかわからないが 私はあまりのショックと 誤爆する悲しみのせいで、
さっきの部屋に逃げ込んだ。
なぜなの!?
あの人がこの家の住人なの?
今まで入った部屋の、
皆が探していた のは あの人なの??
え?
あの人は私がよく知っている、
小綺麗な2 LDK に住んでいたはずじゃない??
なぜこんな 怖い 古い館にいるの?
ここが 第二の家だから??
待ってくれ!!
君はもう、全ての部屋を見たんだね?
そしてここへ来たんだろ??!!
しかし さっき 銃で撃たれたはずの男の部屋には屍も何もなかった。
屍が掴んでいた椅子はまだあるのに。。
消えた、、。とでも言うのだろうか?
私は別な部屋に逃げた。入ってきた 玄関から逃げたかったが 廊下が何箇所か分かれているために、
動揺して、戻る道がわからない。
初めて入った突き当りの部屋は、珍しく 窓があった。
今までの部屋にはどこにも、外が見える窓はなかったのだ。
私は一度、腰高窓にまたがり、 逃げるために外へ飛び降りた。
ここは 1階の゙はずだよね??
私は思いながら深い闇の中へ落ちていった。
入ってきた 玄関は1階だったのに、
突き当たりのその窓は、2階以上の高さがあった。
崖の途中に立っている家だったのだろうか?
闇に吸い込まれていく。
紫檀の夜は、夜明けに向かって、二人静(実際にある色の名前です)と言う名の紫に色を変えていた。
誰かが私の手をあわてて掴んだ気がした。
冷たい指がそっと私の中指と薬指に触れる。
けれど 手首を握られることはなく、
深く深く墜ちていった。
ある地点で どさり と柔らかく 鈍い音がする。
私は 食虫植物に食われる虫
の夢を見ているのだろうか??
なんだか、暖かくて、動けなくて、
溶けていく感じだった。。。
つづく。
皆様 、次回はもう少し、 いやもっとずっと、
明るい話になります !
今しばらくどうぞお許しくださいね。
🙏🙏🙏🙇🙇🙇


