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父の残してくれた

懐かしい洋書の絵本と共に、

私へ書き残した絵本も発見する。




それは、愛情深過ぎて兎の母が息子兎をどこまでも追いかけて行く、

ランナウェイバニー(前出)の絵本ともう1冊の



望遠鏡で娘の行く先をずっと見続けている、作家のお父さんの話しが描かれていた。



それは随筆家の父の作品だった。しかし、父はそれを出版社から出すことはなく、ただ唯一の

次女に書き残した作品にしていたらしい。

本の装丁をするために自費出版のような形で、装丁をしてくれる所で仕上げていた。


その本には、、、




面白い顔をした、眼鏡のお父さんが登場する。



そのお父さんは身体が弱く病院通いをしているため、

気難しい次女の行動を図りかねている、

と、

魔法使いをはるばる訪ねて相談に行く。


すると魔法使いは、



期間限定なのだがね、



と、とある条件をつけつつ、1本の望遠鏡を手渡す。


それからは。

小学生の娘が学芸会の練習を失敗している時も、

先生に怒られ、しゅんとして家に帰りそびれている時も、



初恋をして、

いそいそと待ち合わせ場所に出掛けた中学生の時も、

合唱コンクールで優勝を取りそびれ

皆で2位泣きしている姿も



その眼鏡の父親は、娘を覗き見る事ができる望遠鏡で

その時々を見つめていた。



ある日、娘が高校に入学して、

自分はなぜその入学式に行かなかったのか、今日なら行くことが出来たのに、

と眼鏡の父は思うが、




なぜか高校の別棟の屋上から娘の入学式を見ているのだ。



今までだったら家からでも望遠鏡で娘を見ることが出来たのに。

身体に無理をすれば

直に入学式にも行く事ができたのに。



どうしてこんな所から見ているのだろう?

そう思い、身を乗り出して望遠鏡の中を覗いてみるけれど、

 家から見た時のように 娘の姿をクローズアップで見ることができない。


 望遠鏡の中は、

その日に限って 黒い雲がかかったように何も見えない。


 どうしたんだろう? おかしいな、 と望遠鏡を幾度も振り 、

屋上から彼女をよくよく見ようと身を乗り出した瞬間、

 望遠鏡は手の中から滑り落ち、


 校舎の下の方へと落ちて行ってしまった。 


待ってくれ!彼はそう思うが、 あっという間に 望遠鏡は小さくなり、


視界から消えた。




地面に落ちた音もしなかった。

 慌てて 階下に 降りてその望遠鏡を探そうとするが、

自分の体はなぜか空に吸い込まれるように上がっていく。




 そうか。


自分はこの世界からいなくなったのだ。

 だから 家で望遠鏡の魔法を使い、

彼女の姿を見ることはできなくなったのだ。



最後に彼女の入学式を見たのは、

魂がまだそこにいたからに違いない。



上へ上へと 吸い込まれるように上がっていく。

自分の目には 入学式の景色がしっかり見えた。 そして 娘のクローズアップ の姿もそこから見えるようになった。




 しかしその後どんどん吸い寄せられるように 空へ 上がり、

 

心が 羽のように軽くなる。

そうだ 、

上から だったらあんな 望遠鏡などなくても、

いつでも娘のことを見ていられるのだという気持ちに

眼鏡の父はなって行った。



父は娘に種明かしをする。


みことちゃん、パパはね、

生きている間だけ、君のことを見られるという約束で魔法使いに望遠鏡をもらったんだよ。


それを返す時が来ちゃったけど

パパは望遠鏡より、

もっと君を近くで見られるかもしれないよ。


兎の母さんは、兎の坊やに、

いつだってあなたを摑まえる、って言ったけど、 


君はそれをコワい、と言っていたから、



パパはいつも見てた、とは言わなかったよ。


君のその日の出来事や君の心を知っている、

とも言わなかった。


これからもいつも見てるよ、


とは言わない。



それはみことが思いたい時に思うだけで充分なんだよ。


と、絵本の中で眼鏡の父さんは言うのだ。







父がこれを描き、絵本にした日付けは

私が中学3年の11月20日となっていた。



現実には父は私の高校入学に届かず、

2月の初旬に亡くなっていたが。



桜を見たかった、と母に言い残していたらしい。






望遠鏡を高校の屋上から落として、箱の中に入って来るわけないわね、と、私は呟いた。




これがその望遠鏡なの??

まどかは言う。



父が生きている間だけ、ミコトを見ることが出来るという、


魔法の。。


現実的なまどかでさえ怯える。




私はなぜか震えながらそれを手に取った。



姉のまどかを見つめると、

絵本を一緒に読んだまどかは、



やめてよ?!

わたしに渡さないでよ??

貴女のものだからね。


貴女を観る望遠鏡たからね!


コワい、こわ〜い!!!


と、まどかはいつになく神妙になる。



私が見なきゃいけないのよね。
私は静かに深いため息を呑み込んだ。






窓の外の裏庭はすでに



滅紫(めっし)を塗り込めたような、暗い夜になっていた。





      

           つづく。




まだつづくと思うとイヤになりますよね。


私に、筋書きが降り注いでくるんですよ!


まだ終わりじゃないよ、って。


これを話しとかなきゃ、みんなわからないよ、って。



どーでもいいですよね。!



正直どーでもいい!!!ですが、、、



どーでもは良くないよ、



って言ってる小さなバカ女が

わたしの中にいます。



             いやです。










その箱の中には。




父がよく読んでくれた海外作家の絵本も入っていた。



懐かしい!!


忘れてた!



私は叫んだ。




その絵本は、、、




小さな兎の男の子が


母の愛情を鬱陶しく思う年頃になり、





僕は庭の草むらの中に隠れていなくなっちゃうからね!!

と言うのだ。

すると母兎は、

大丈夫!私はガーディナーになって、
すぐにあなたを見つけるから。


じゃ、僕は遠くの高い山に行っちゃうから。
という、子兎坊やに、



大丈夫よ。私はクライマーになって

すぐあなたを探すから!

と、母兎は言う。


それじゃ僕はヨットになって海に出て、遠くまで行っちゃうからね!




何てことはないわ!

ママは君を吸い寄せるから。





じゃあ、僕はサーカスに入ってどこかへ旅に行っちゃうからね。



大丈夫!
ママもサーカスに入って綱渡りして、
君を掴まえに行くわ。



じゃあね、じゃあね、
僕は風になって、ずーっと向こうに飛んで行っちゃうんだからね!




ああそうなの!?!

それじゃママは大きな樹になって、
あなたを捕まえるから、見ててごらん!!



そうして結局兎の坊やは、

僕に危ない事が、全て無くなるとしごろまで、


ママは僕の事を手放す気はないのだ、


と、諦めて、(実は安心して。) 眠りにつく、


という、絵本なのだ。

大人になった今は、この母心がとてもわかるが、
小さな私は父に


このお母さんはしつこいね、
とか
怖いね、
と言っていたのを、思い出す。


そんな私を父は膝の上に乗せて、
重たくない愛し方をしなくちゃいけないね、

それはなかなか難しいね、(笑)

と、ぽつり  と言った。


父の葉巻の匂いがしていた。


          つづく。      


  
      絵本引用
The  Runaway Bunny
作 Margaret Wise Brown










パパの書斎に行かなくちゃだわね。


窓花が珍しく、神妙な顔をして言う。





ねえ、ママ 、

パパの書斎の鍵を貸してよ。



書斎?何で?

と、母は、和菓子の上にクリームを絞りながら言う。


ねぇ、結婚報告祝いのお菓子を食べてからにしてよ。

 だいたいね 鍵、どこに行ってしまったかわからないわ。

 

ああ。 そう! 

あそこの引き出しに入ってたかも知れないけど。




姉のまどかは、こんな時に、

母の言うことをすぐに聞いたりしない。


ね、 ママ。


 私たちパパの書斎にミコトの結婚報告に行ってから、お菓子は食べることにするわ。


それもそうね。


母はしぶしぶ 手を洗ってから鍵を探しに行った。

それは母の部屋の 小さな引き出しの中に入っていたらしい。

 これで開けてね 、私 お菓子作ってるから。と母は言い、

私たちは父の書斎に向かった。


母は未だ、

その書斎の椅子に確かにいた、

父の背中を追想することにあらがいがあるのだろう。





そこは 何十年かぶりに開けられたはずだ。


 懐かしい匂いがする。

窓からの景色もずっと見てない 。

あの日の花瓶が埋められたあの裏庭の景色だった。



 私 、思いついたことがあるんだけど。 

と、まどかは言った。


いきなり、

かつて父が座っていた 回転式の椅子をどけ、 その後ろ側の本棚を じっと見つめて、

何を思ったか 本棚の端を 強い力でグッと押した。

重たい感じで本棚は少し 押しやられ、

ゆっくりと廻って行った。



回った!



これ回るのよ、知ってた ??

とまどかは得意げに聞く。 

 私はあっけに取られた。


 多分この本棚が回ることを知っていたのは 父と姉だけだったかもしれない。


裏側の本棚には アルバム 数冊と父が大好きだった 海外の作家の絵本。

その他 父が本当に大切にとっていた 数冊の著名人や好きな作家の初版本 などがあった。


ずっと棚を見ているうち、

まどかがあることに気づいた。

 

これね、これよこれ!


変だと思わない? これ本じゃないよね。


前にその本の形をしたケースを父が手に取って見ていた 。

そのことを 姉は覚えていたのだ。


ねぇ。深言が取って見なさいよ。

 貴女が開けてみなさい。

きっとこれだと思う。



それは本革の、

本の形をした ケースだった。

 たくさんの本の中に、 

あたかも本のコスプレをして隠れ、

めかし込んでいる 秘密の箱だった。



あの映画の中の聖櫃(アーク)を開けるるような、不思議な、

孤独を孕んだ 気迫だ。



みこと が開けて。



おかひこ も言う。



開けたら光りを放つのだろうか、

 光の粒子がいっぱい出て 思い出や 霊魂や幸せや憎しみ悲しみや

喜びや恨みやその当時の景色や昔の人々がいっぱい飛び去っていくのだろうか。



恐る恐る 本に化けた革のケースの蓋を開けてみる、、、


そこには。



愛する美琴へ、の父の文字と一緒に

2冊の絵本と

望遠鏡が入っていた。


  



      つづく。