前記おかげさまで、 先週のブログのアクセス数が1000を超えました!
前回の投稿が、過去6年ほどのブログの中でアクセスが1番多かったようです!初め、誰も読んでくれていなかったのに、
こんなつたない文章を読んで下さっている皆様、イイねを下さっている皆様に心から御礼申し上げます。
有難うございました!
本当に感謝しています。
緋蝠の紋章 (14)
高速を降りて行くと、そこはもう横浜の街だった。
子供の頃は母に良く連れて来てもらったが、今は雰囲気がやや変わった。
僕はまだ元町に、老舗の食器店やここにしかない服のブランド、上品なご婦人のバッグの店々などが軒を連ねていた頃の横浜が好きだ。
それは、古き良き時代の上等な外国の香りがしているからだ。
しかし、逆にその頃の中華街は、裏通りに雑多な怪しい人々がウロついていて、今の小綺麗なその街と豊かな中華系三世の人々には想像も出来ない光景だったかも知れない。
薗子と待ち合わせをしているのは、山手あたりのレストランで、
繁華街からはやや離れている。
そこは彼女の指定なので、僕の知らない店だった。
紳にナビで調べてもらい、分かり易い場所である事を確認した。
横浜は、
僕がまだ見た事のない彼の歴代のガールフレンドと、しばしば来ている紳の方がよっぽど詳しいと思った。
「もうすぐ着くぞ。」
紳は路肩に車を停めた。
「俺はお前の保護者じゃない、
どうする?」
もちろん、紳にレストランまで付いてきてもらう気はなかった。
いい加減、ひとりで行動しなければならない。
心拍数が上がる。
だが、時間は中途半端に早かった。
あと、38分くらいあるか、と紳が僕の心を探るように言う。
少し向こう、この道に今、カフェがあったよな。
戻るか。
時間調整しよう。
言い終わらないうちに紳はUターンしていた。
いつも決断が早い男だ。
キュルキュルとタイヤの鳴る音がして、僕は又、ヤツに惚れ直す。
カフェは、昔ながらの珈琲ハウスのような雰囲気で、三角屋根が可愛らしい外国の屋敷のような造りだった。
庭も花壇も良く手入れがしてある。
「瀬田のカフェで見せようと思ったのだが、、、やめてしまった。」
僕は薗子から送られて来た、最初の頃のファンレターのようなものを二通、紳に手渡した。
紳はしばらく手紙を見続けていた。
一枚、二枚、と彼にしては珍しく真剣に見て行った。
黙って、次の封書も見ていた。
「お前がこのファンレターに心惹かれるのが、わかった気がするよ。」
と、ぽつりと言う。
俺も今まで、、
と紳はかみしめるように言う。
心優しいファン達からステキなレターを沢山貰ってはいる。
だがこれは、そのどれとも違っている。
優しくたおやかで、温かく懐かしい。
思慮深く控えめではあるが、お前の近くに手を差し出し、地にしっかりと足のついた女神のようなけはいがする。
何だか知らない人のような気がしないよ、
と紳は言った。
不思議だった。
過去の経験上、紳はいつも、
「お前は、甘ちゃんだ、」と言う。
騙されやすいし、感動しやすい。お人好しで、考えが甘く人にも優しいが、自分にはもっとずっと甘い。
アメリカの砂糖菓子くらい甘い!
と言われていたが、
今回ばかりは僕と紳は、
感性が一緒だった。
そんな時も、ないといけないよ、紳。
僕らは四歳の頃からずっと一緒に同じものを見て、ウチの母親のおやつを食べて育ったんだぜ。
それにしては二人は性格が違い過ぎるが。
と心の中で思っている。
そうだ、
それで手紙の彼女だが、途中ずっとメールでやりとりしていたのに、最近又、手紙が来た。
それが、これだ。
紳に三通目の手紙を見せる。
「ふうん、逢えるのを楽しみにしています、と言っているけど、困惑も見え隠れしているな。」
「それは僕が れあと別れてしまったのは本当かと気にしているからじゃないのかな。」
誰だって、そんな事を知っていたらなんとなくプレッシャーを感じるだろ?
そうだな、
紳は言った。
だが何となく不思議な気がするな、彼女。
そうか、普通の大人しい女の子だ。
そんなフツーの女の子にお前がこんなに本気で惚れるか?
でも、変わったところは見受けられないな。写メの姿を見ても、おとなしそうな、むしろ古めかしいような普通の28才のコだ。
けれど、僕の好きなもの、考えている事、やりたいと思っている事やこうしたらいいと思う事などを知っているような気がする。
ふうん。
紳は最後の手紙の封筒を嗅いでいた。
いい匂いがする。
何だか懐かしい香りだ。
おい。
見ろよ!?
封書の裏に、美しい蝶々のシールが貼ってあった。
そうさ、彼女はいつもセンスのいい書箋に素敵な封筒、
一番初めは見た事もないような雰囲気のある花のシールだったのさ。
紳は、何を思ったか、最近彼女から来た封筒のシールを剥がしていた。
欲しいのか、
僕は笑いながら言った。
いや!下に何かが、、、
その直後の紳のあっけにとられたような顔は僕の印象の中に、写真のネガのように白黒逆に焼き付けられた。
何?
これを、、、
見ろよ。
え?
アゲハ蝶のような美しい蝶のシールの下に。
赤いコウモリの柄が
描かれていた。
え?
僕は他の言葉を飲んだ。
しかも、
紳は言った。この名前、
その子って読むんだろ?
俺がランスの街で聞いた少女の名前、確か、、、
ソノコだったぞ、ソノコ フジモト、だったか。
そうだな。そう記憶している。
だけど、、、
僕は一瞬、わけがわからなかった。
紳がパリで聞きに行ったのは、れあの幼い頃の話だろ?
れあが、 ソノコ?
そうだ、本名はその子だと、聞いた事はなかったか?
ない。
その時、薗子からメールが来た。
今、教会のミサに来ているのですが、牧師様のお話が今日は長くなり、いつものように、11:50では終わりそうになく、レストランのすぐそばの教会なのですが、12:00に、10分くらい遅刻してしまうかも知れません。
お待たせしてしまって申し訳ありませんが、お待ち頂けますか?
とあった。
れあ?教会?薗子?
僕は、この店の庭の向こうに、さっきから景色の一部として見ていた教会を指差し、紳に聞いた。
教会って、近くに沢山はないよな?
沢山は、、、、、ないだろ。
約束のレストランならこの道沿いだが、車で2分だぞ、行くか?
気を使って、いつになく慌てる紳に。
いや、ここからは自分で行くよ。
あの教会に彼女がいる!
もう一度戻ってテーブルにいる紳に言う。
勘定、立て替えといてくれ。
だからだ、だからなんだ。
だからだ、だからだったんだ。
そうだったんだ。
だから、ここに来たんだ。
だから、ここまでやって来たんだ!