顔のある、食虫植物 。

大勢の者たちがこちらを見ている気がする..


私はこれからどうする?

 ドアの前に行くのか?

 明かりが灯っているのにドアをノックするのか?

中の人間が出てきたらどういう言い訳をする?


  そうだ!

この庭の中に迷い込んできてしまったと言おう。

 車道から 近道をして別な道へ出ようとして、 この庭へ迷い込んでしまって。

ここから下ってまだ車の通る道へ出ることができますか? と聞いてみよう。


 少し頭のおかしい女が来たとは思われるだろうが、教えてくれないことはなかろう 。

いや待って!!

もしかしたら ここには本当に危ない人間が住んでいて、中に引きずり込まれるかもしれない。

 それとも こんな夜に 空き地の中の家を訪ねてきて、 本当に失礼な人だとこの家の住人に激怒されるかもしれない。

 だってそもそも こんなところに住んでいる人は、少し変わっている人で、人に訪ねて なんて 来て欲しくない人かもしれない。

  変わり者の館だったとしたら怒って黙って、 ドアを閉めるかもしれない。


 色々なことに思いを巡らすが、 とにかく出てくる人の顔を見てから、

 私はこの空き地に迷ってしまって、 他の車道に出る道を探しているんです、と いうのが妥当だなと思いながら ドアの前に立っていた。


呼び鈴などない。

あ、というより、古いブザーのあったはずの場所に布切れが貼ってあり、☓の字が書かれている。


やはり。


ここの住人は誰にも訪ねてきて欲しくはないのだ。

私は振り向きサルバドレンシスの方を見たが、どういうわけか花の顔はすべて通りの方を見ており、私のこころの不安など素知らぬ振りだ。


庭に迷い込んできた虫を食おうとしている。



軽くドアを叩いてみる。



返事はない。



もう一度叩いてみる。



何もない。



灯りがついている部屋がいくつかある。



ドアを少し引いてみる。



やはり開いた!

開いたのだ!!


入ったら、泥棒と一緒だろ?

私にそんな思いがよぎる。泥棒と一緒じゃないよ 、玄関先までなら。


胸がはやがねのように鳴った。



つづく



続きををお読みの方は、

前の記事へ  を押してね。




アリストロキア ・サルバドレンシス。。。


顔のある食虫植物。


あの庭。


あれは現実の庭だったのか。

ともかく早く行かなくては。 そんな気がした。

偽紫の夜は時間とともに闇を増し、籐煤竹(ふじすすたけ)の紫に変わっていく。


いつも車で通っているあの道。けれど 車では行かない 。

車で行けばあの庭はないような気がする。前だって 夜徒歩で散歩をしていて見つけたのだ。


何も知らずに行ったあの夜は良かった 。恐れも緊張も期待も何もなく歩いた。


今宵は。


動悸も恐れも迷いも後悔もある。

永遠に L 字の突き当たりまで着かなければいいとも思った。


しかし 突然 L 字の角はやってきた。恐る恐る 突き当たりの生垣をかき分ける。


まっすぐにやってきた車のライトに背中が照らされ 、私は驚いて振り向く!

この生垣の中に入ろうとしていることをどこかの車に気づかれただろうか。



まさか!!

あの家は、あった。
私を待っていたように。
私を探し出し、私を誘うように。

昨夜の、
絶望と言う名の一人称を
当たり前の顔面(かおめん)を外した、その下にあるズタズタにちぎれた皮ふを、
気持ちが、泥水に変わって流れて行ってしまったあの時間を、


知っているような家だ。


今日は灯りがついている!
今日は灯りがついているような、気がした。

胸に灯がともったような気がして走った。






偽せ紫の夜。

(似紫の色は本当に存在します。)



夜散歩は長くなっても構わない。

明日の仕事は休みだし。


前に一度見た光景は現実だったのだろうか。家から2kmほど行った道はL字に左に曲がり、車でそこを通過する場合は、左に曲がると道は開けてやがて県道と交差する。



しかし 以前 夜散歩をしていて この道を L 字に曲がらずにそのまま まっすぐに行く方法はないかと、 突き当たりの生垣をよくよく見たことがある。



すると 生垣の向こうは一段低い場所に 空き地が広がり、空き地は坂になり、その先がかなり低地なっているため 、車の道はないのだということを発見した。


しかも 空き地の向こうには取り残されたような古い家があり、不思議な感じのする その館には今でも誰かが住んでいるような気配があった。

そしてそれに気づいた2ヶ月ほど前の夜、空き地の坂を躓きながら踏み入って、イラクサ を踏み分けながら とても奇妙な 顔のいっぱいついているような草に絡まれながら、その家の玄関の前まで行ってみたことがある。


しかしその夜、

その家は完全に廃屋になっている様子ではなかったが 明かりも灯っておらず、

 誰も使っている様子はなかった。


ためしにそうっと 、ドアノブを引いてみたのだ。


ドアが開く!


しかし 中は真っ暗だ

ドアが開いたのだ !!


私はそのことに驚愕してしまって腰を抜かすほど慌て、その恐ろしい顔のついた草を踏み分け イラクサ に足を取られながら、元の道に戻った 。


元の道に戻るには草の中の段差をかき分けながら登らなければならないので私はひどく息を切らし、 生垣のわずかな隙間を縫って 表の道に戻った。


ひょっとしたらそこに車の通る道はもうなく、私は家に帰る方法を見いだせなくなるのでは、と心細くなりながら 慌てて道を探したのだ。


しかし何事もなかったように 道はあり、 私は2キロ近くの道のりを戻って無事部屋に帰った。


あれ以降 私はあの家を訪ねてみようという気持ちに全くならなかった 。


しかし今日は事情が違う。

 昨日 あんなことがなければ!



今夜の私は違う世界を探していた 。



もしかしたらあそこに行けば違う世界があるような気がした。 もう二度と行くつもりがなかったあの場所に。


けれど今夜は現実にあの家があったのかどうか 、それだけでも確かめてみようという気持ちになった。



つづく




続きをお読みになりたい方は、

前の記事へ

を押してね!