主治医の先生からは

母だけでなく私や妹とも話をしたいと

言われていました。


ただ 妹は 自分の病院で

まだまだインフルエルザの感染が広がっていて

看護師にも感染が出て人が足りないのと

自分も保菌している可能性を考え

他病院にも行くべきではないと判断し

母と私とで話を聞くことになりました。



主治医の先生は

開口一番 私達に謝られました。

『病院に来て手術して治療して

 元気にして帰してあげたいのに

 申し訳なかったです』と


ちょっと意外な気がしました。


完璧な手術をしても 絶対元気になるとは

神様でも言えないのだとわかっています。


それでも 謝られたりしたら 

人によっては つい…何処にもぶつけられない

どうしていいかわからない気持ちを

先生にぶつけてしまう人もいるような気がして


そんな事は 先生だってわかってるはずだから

謝られるなんて 思ってなかったのです。


手術する人も その家族も 

手術前に山ほど書類にサインして

手術の結果に絶対はない事を理解していても

どこかで『絶対大丈夫』と思ってしまってる。


ましてや父のように1週間から10日くらいで

退院できるなんて言われていたら

元通り元気にならないなんて事は

本人は勿論 家族も周りの人も皆

万が一 億に一もないと信じて疑わない。


父だって心のなかでは思ってるはず

ステージ2なのに 

手術したら治るはずなのに何で?

だったら手術なんかしなきゃよかった…と。


実は私だって ボソッと妹に言ったよ

「手術したら治るはずなのに何で?

 何が起こったら こんな状態になるん?」

手術の結果に絶対はないとわかってても

思ってしまいますよ。当然ですよね…



でもね成功させるために 沢山の検査をして

万全の準備をしているから

あきらかな医療ミスなど

滅多に起こるものではないのです。


術後の経過は人それぞれで

父のように残念ながら思いがけず

どんどん悪い方向に行ってしまう人もいる。


実際 患者さんの家族の中には その様子に

『医療ミスがあったのでは!』と

思う人もいるのではと思います…でも 

明らかにミスと言い切れるミスなんて

滅多にないと前に妹は言い切ってました。


医療機関で働く人たちは

患者さんが元気になることを考え

常に それが一番いいと思う方を選んでる

それでも 思うほど良くならなかったり

亡くなってしまう事だってある。

きっと 元気にしてあげたいのに

そうならなかった時は先生方も悔しいでしょう

手術した人が必ず助からないと

『ミスだ』と決めつけ 訴えられたなら

怖くて手術をする医師はいなくなるかも…。


妹は普段から 

『人の命を預かる仕事をしてるから』と

とても自分に厳しい。

私なんか いいかげんなので

免疫力のない父に接する意識が足りないと

叱られてばっかりだった。


手を洗え うがいをしろ マスクをしろ

手袋をしろ…

家に帰っても普段の生活でも 

どこでウイルスや菌をもらうかわからないから

常に意識していて!…とか。

😩ちょっとくらいいいやん 厳しすぎ

うるさすぎたよ〜

絶対若い看護師にうるさがられてるよ。

内心そう思うことも多々ありました。

『その ちょっとくらいって気持ちが

 お父さんの命奪うこともあり得るんだから』

はいはい…でも そこまでじゃないでしょ

大袈裟だなぁ…って思っていたけど

『こんなに気をつけてても菌を持ち込んだり

 そのせいで 院内感染がおきたり

 免疫力が落ちている人が亡くなる事もある

 自分のせいで人が死ぬなんて絶対嫌だから

 私達はどんなに神経質になっても

 やりすぎってことはないんだ』

って妹をいつもそばで見ていたら

父が元気になれなかった最初の原因が

感染症だと聞いても 

誰も責める事なんて出来ないです。



先生は謝られた後 

父の状態について話をされました。

肺に水がたまっていて 抜いてもすぐにたまる 

右肺は水でいっぱいで 

左肺にも 少しづつたまってきている。

だから 今は寝ている状態が

一番楽な姿勢だと思います…と。

実は元気に車椅子に乗る練習の為にも

家に帰ったら筋力をつける為

まず身体を起こしておく練習からしようと

思っていた私は 『寝ているのが一番楽』と

言われたことがショックでした。


それなのに続けて先生からは

『私の診たところでは おそらく

 だんだん弱りで 余命半年くらいかと…』

と 余命を告げられました。

そして私達に 自宅での介護をする意思を

再度確認されました。


母は

『いろんな人に助けていただきながら

 自宅で介護したいので お願いします』

と答えていた。

母は強いです。 

私は『半年』と考えただけで

涙が止まらなくなりました。

桜は見ても 紅葉を見せてあげられないのか…


多分 妹にはわかっていて

いつも考えの甘い私を見ていられなかったのか

『姉ちゃんが思ってるほど良い状態じゃない』

と 何度も言ってくれていました。

それなのに私にはまだ 父が居なくなる覚悟は

全くできていなかったのです。


その後 退院までの流れや

しなくてはいけない事の説明等ありましたが

聞かれることに答えるのが精いっぱいでした。


ただ 病室に帰る時には

私も母も お互い無言ではありましたが

部屋の前で顔を見合わせ

一生懸命笑顔で父に言いました。

『バッチリ 退院の話してきたからね

 往診の先生決まったら帰るよ』と。