車は家の前から わりと遠いところまで走って

また家の方へと向かい 

家から10分ちょっとくらいの空き地にとまっていた。


はじめの方に  下手くそな嘘の話があったのと

沈黙の時間が長いのとで 

時間は とっくに1時をまわっていた。


「オレも向こうも離婚する気はなかった」

と言うと  

「遅くなったし 家に帰ろう」

夫は空き地から車を走らせた。

離婚する気はなかった だからもういいだろう…

そんな感じでもあった。


「明日もあるしね」

って 私が言うと 運転してる横顔が

まだ続くのかって顔になったけど

「そうだな」

って答えた。


なんの覚悟もなく

 ただ飲みに行った嫁を迎えに行ってやっただけなのに

不倫の話をされ『早く家に帰りたい』が本音だろう。


聞きたいことは たくさんあったはずなのに

いざとなると あまり聞けてないなかった。

ただ 夫が本気だったのだけは伝わってきた。


 あと10分ほどで家についてしまう…

今聞かなきゃダメなこと…


「あのさ…3回も別れ話でて その度に説得して

   そんなに私たちのところには 戻りたくなかった?

   離婚する気はなかったって言うけど

   私も子供たちも 女いるの気がついてて

   チクチク言ってたでしょ。

   離婚しなくても 家庭が壊れてるの感じなかった?

   私はいいよ  別れたら他人だから

   子供たちの気持ち考えなかった?

   父親が浮気してるかも…って心配する辛さ考えてよ」

「皆  気がついてるん?」

正直その言葉にビックリした。


「(二女)はいつも言ってたでしょ『女の気配がする』

   とか『怪しすぎる女がいるとしか思えない』とか

   …で 私と二人で 嫌味なくらい 

  怪しい怪しい言ってたじゃない」

「ゴメン…全く気がついてなかった。

   子供達 気がついてたんや…」


不倫する人って 回りの事が わからなくなるのかしら

回りの声も 聞こえなくなるのかしら

あんなに 頻繁に 疑いの言葉かけ続けていたのに。


「すべてが怪しかったもん。

   怪しいどころか 全てが女いますって感じだったし

   (長女)は 華恵さんとそうなって 

   半年くらいで  怪しいって言い出したよ。

  (長女)は、完全に男性不振だよ」


本当になにも気がついていなかったのか

かなりショックを受けているようだった。


「皆 子供じゃないんだよ。なんでも気がつくし

  なんでも感じる 。傷付いてるよ。

  二人で楽しんでたのかもしれないけど

  その間も傷つけたんだよ。

  今日話す事も  知ってるから」

「そっか…明日なんか言われるかな…」

しばらくの沈黙があって 家の前に着いた。

エンジンを止めて車から降りようとする夫に聞いた。


「私を嫌になって華恵さんを好きになったん?

  彼女を好きになって私を好きじゃなくなったん?」


「話が合うから あっているうちに そうなった。

  (私)の事は 嫌なところが見えて だんだん 嫌なところ      しか見えなくなった」

夫は そう言って車を降りて 家に入っていった。

答えにはなってないよ…

私は 溢れ出す涙を こらえることができず

しばらく車にいた後


ピッ


ボイスレコーダーをとめて

泣きながら車を降りた。


嫌なところが見えて 

だんだん嫌なところしか

見えなくなった

その言葉が 頭のなかに回った。


死にたい。

消えてなくなりたい。


眠れそうになかった。