第八話 三秒の正体

山本慎二は、突然言った。

「その力、昔からなのか?」

潤は頷いた。

四人で帰る夜道。

街灯が長い影を作る。

「俺のじいちゃんが似た話をしてた。」

潤は顔を上げる。

「人間の脳はな、“未来を一瞬だけ予測してる”らしい。」

「予測…?」

「たとえば、落ちるコップを反射的に掴めるのもそれだ。
本来は誰でも持ってる。」

城が言う。

「でも潤のは異常に精度が高いってことか。」

山本が頷く。

「たぶんな。
三秒先の世界を、無意識に選び取ってる。」

潤の背中に、静かな震えが走る。

動かしているんじゃない。

——選んでいる?

「じゃあ…未来は決まってないの?」

山本は少し笑った。

「分からん。
でも少なくとも、お前は選べる側の人間だ。」

その言葉は、不思議と怖くなかった。

むしろ——救いだった。


第九話 三秒より長い勇気(最終話)

冬の気配が近づく頃。

潤は模型店にいた。

いつもの場所。

でも今日は違う。

城が隣にいる。

工具を握りながら、城が言った。

「俺さ、サッカー推薦来た。」

「すごいじゃん。」

「でも県外なんだよな。」

手が止まる。

胸の奥がざわつく。

三秒。

未来を選ぶ?

違う。

今回は——選ばない。

城が続ける。

「正直、迷ってる。」

潤は深く息を吸った。

そして初めて、自分から踏み出した。

「行きなよ。」

城が目を見開く。

「城は、走ってるときが一番城だから。」

沈黙。

やがて城が笑った。

「潤ってさ、たまにすげーこと言うよな。」

心臓がうるさい。

でも逃げない。

「……好きだったよ。」

言ってしまった。

世界が止まる。

三秒じゃない。

現実の静止。

城は驚き、そして優しく笑った。

「過去形?」

潤も笑う。

少しだけ涙が滲む。

「うん。たぶんもう、大丈夫。」

不思議だった。

未来を動かさなくても、前に進める。

店を出ると、智香と山本が待っていた。

「遅い!」

智香が笑う。

潤は思う。

三秒の力の意味。

それは——

未来を変えるためじゃない。

踏み出す勇気を知るための力だった。

人はきっと、毎瞬間未来を選んでいる。

能力がなくても。

潤は空を見上げた。

世界は動いている。

もう、三秒に頼らなくてもいい。

自分の足で歩いていけるから。