セーブできないゲーム|もし人生が観測されていたら

この物語を読んでいるあなたは、まだ存在していますか?

人は、誰かに覚えてもらっている限り存在できる。
もし——世界から認識されなくなったら?

名前を呼ばれなくなったら。
記憶から消されたら。
写真に写らなくなったら。

それでも、あなたは「ここにいる」と言えるだろうか。

これは、俺たち四人と一人の少女に起きた、
静かに世界が書き換わっていく記録だ。

そして気づいたときにはもう遅い。

この物語には——
セーブポイントが存在しない。


登場人物

相沢 湊(あいざわ みなと)

中学二年生。陸上部・長距離所属。
努力はしているが結果に結びつかず、家では出来の良い兄弟と比較される毎日を送っている。

勉強はそこそこ。要領も悪くない。
それでもどこか満たされないのは、「誰かに必要とされている実感」が薄いからかもしれない。

白石琴乃に想いを寄せているが、その気持ちはまだ誰にも言えていない。

唯一心が軽くなる時間は、友人たちと過ごす休日とアニメショップ。

気づいてしまう側の人間。
――つまり、“観測者”。


白石 琴乃(しらいし ことの)

ショートカットが似合う、笑顔の可愛い女子。
バレーボール部所属で友人も多く、誰にでも分け隔てなく接する。

明るく闊達。クラスの中心にいるタイプ――のはずなのに、
ふとした瞬間、存在が周囲に溶けるように薄くなる。

まるで最初から、世界との接続が弱いかのように。

ゲーム好きな弟がいる。

そして彼女は、どこか“知りすぎている”。


一ノ瀬 健太(いちのせ けんた)

実家は蕎麦屋。親孝行者で、忙しい日には当たり前のように店を手伝う。

湊が何度も泊まりに行ったことがあり、
そのたびに父親が作ってくれるカレーうどんは絶品。

面倒見がよく、空気も読める。
四人の中ではムードメーカー的存在で、自然と輪の中心にいる。

——だからこそ。

彼がいなくなったとき、世界は静かすぎた。


榊 弘大(さかき こうだい)

冷静沈着、頭脳明晰。成績上位の常連。
それでいて嫌味がなく、人柄も良い。教師からの信頼も厚い、いわゆる“本物の優等生”。

感情より先に構造を理解するタイプで、
世界の違和感にも誰より早く気づいていく。

湊にとっては、「自分にないものを全部持っている」ように見える存在。

だが彼は、誰より現実を疑う。


矢崎 潤(やざき じゅん)

口数は少ないが、驚くほど手先が器用。
壊れた物を直すのも、細かい作業も得意。

自己主張はしないが、友人が困っていると必ずそっと手を貸すタイプ。

観察力が鋭く、誰も気づかない小さな変化を拾う。

多くを語らない分、時折口にする一言が核心を突く。

四人の中で最も静かで――
もしかすると、最も多くを見ている。

 


第一話「リセットできない毎日」

中学二年生の春。

俺――相沢湊は、どこにでもいる男子だ。

勉強はそこそこ。
陸上部では長距離をやっている。

努力はしている。

でも、記録は伸びない。

家に帰れば、出来の良い兄弟と比べられる。

「お前ももう少し結果出せないのか?」

その言葉を聞くたび、胸の奥に重たい何かが沈んだ。

だから俺は走る。

考えないために。


そんな毎日の中で、唯一心が軽くなる瞬間がある。

白石琴乃を見るときだ。

ショートカットが似合う女子。
笑顔が明るくて、誰とでも分け隔てなく話す。

バレーボール部で、いつもコートを駆け回っている。

俺は、その姿に惚れた。

ただ――

なぜか時々、彼女の存在が背景に溶ける瞬間がある。

教室にいるのに、ふと見失う。

最初から、白石琴乃は少しだけ影が薄かった。


休日。

俺たちはいつもの四人でアニメショップにいた。

健太、榊、潤。

息が抜ける場所。

……本当は。

休日に白石に会えない寂しさを紛らわせるためでもある。

その時だった。

「相沢くん?」

振り向く。

白石が立っていた。

私服姿。

一瞬、息が止まる。

「弟のゲーム買いに来たの」

健太がニヤつく。

「運命じゃん」

榊が静かに追撃する。

「顔、真っ赤だぞ湊」

潤は無言で親指を立てた。

俺は何も言い返せなかった。

ただ、不思議だった。

白石が店に入ってきた瞬間を――

誰も見ていない。

自動ドアの音すら、記憶にない。


その日、俺はまだ知らなかった。

人生がもしゲームなら。

これはもう、セーブできない場面に入っていたことを。