第四話
ご利益の正体は、笑いすぎて痛くなる腹筋だった
――三峯神社・初詣旅 最終章
Laviewに揺られ、
我々は再び都会へ戻っていく。
行き先は池袋。
朝早くから動き、
雪の残る山道を歩き、
寒空の下でバスを待ち、
神社をはしごし、
電車待ちの間に缶ビールを一本。
そりゃ、眠くもなる。
うつら、うつら……
気づけばアナウンス。
「次は、池袋〜」
早い。
早すぎる。
タイムマシン、ここにありました。
数年ぶりに降り立った池袋は、
駅前の景色がずいぶん変わっていた。
大きな電気屋、ドン・キホーテ。
いかにも「今」の街並み。
でも、
少し歩くと残っているんですよね。
昔の空気。
あの頃の池袋の名残。
懐かしさと少しの安心感を抱えつつ、
西口方面へ。
向かったのは、
友人の知り合いがやっている焼き鳥屋さん。
気づけば、
もう12時間以上一緒にいる。
「さすがに話題尽きるだろ」
と思いきや、まったくそんなことはない。
内容は取り留めもない。
意味もない。
でも、それがいい。
中学生の頃、
放課後に何時間もダラダラ喋っていた、
あの感じ。
ああ、これだ。
この感覚。
そして次の流れは、
あまりにも自然すぎた。
「このあと、どうする?」
――カラオケ。
そう。
中学生に戻った我々が行き着く先は、結局カラオケ。
歌うのは、
アニソン、懐メロ、少しだけ最新曲。
1時間のつもりが、
気づけば30分延長。
なぜ1時間だったかと言えば、
僕の終電が近いから。
……だったはずなんだけど。
盛り上がると、
そんなことはどうでもよくなる。
でもそこは一応、
成長した大人。
後ろ髪を引かれながら、
カラオケルームのドアを開けて会計。
時計を見る。
終電15分前。
やばい。
普通に歩けば10分。
でも、自信がない。
なぜなら――
相当、飲んだから。
それでも、
帰巣本能はちゃんと残っていた。
友人と改札で別れ、
ホームまで全力ダッシュ。
久々に感じた。
「今日、最速出てるな」と。
そして――
間に合った。
プシューッ。
思わず漏れる「セーフ」。
まるで映画のワンシーン。
連休中日の終電、
車内は静かで、人もまばら。
席に座り、
今日一日を振り返る。
神様のご加護は、
果たしてあったのか。
考えてみれば、
友人と会い、
神社を巡り、
一日中笑って、
中学生に戻れて、
大人として酒を飲み、
行動力だけで乗り切った一日。
こんな初詣、
そうそうない。
――ああ、そうか。
これが、
神様のご加護なんだ。
特別な奇跡じゃなくていい。
「楽しかった」と言える一日。
腹筋が痛くなるほど笑えたこと。
大人になると、
友人に会う機会は確実に減る。
だからこそ、
意識して会う。
時間を作る。
それだけで、
人生はちょっと豊かになる。
そう実感した、
今年の初詣でした。
……腹筋、痛いー。
シリーズ あとがき
初詣というと、
お願いごとをして、手を合わせて、
「今年もよろしくお願いします」と頭を下げて終わるもの、
そんなイメージがありました。
でも今回の旅は、
お願いよりも、出来事のほうが多かった。
バスが来ない。
渋滞にハマる。
歩く。
待つ。
正座で痺れる。
温泉で油断する。
また待つ。
そして、まさかの救いのミニバス。
思い通りにならないことばかりなのに、
なぜかずっと楽しかった。
それはたぶん、
隣に友人がいたから。
中学生の頃のように、
意味のない話で笑い、
大人になった今だからできる無茶をして、
終電に本気で走る。
神様のご加護って、
宝くじが当たることでも、
急に運が向くことでもなくて、
「この一日を、ちゃんと楽しかったと思えること」
なのかもしれません。
大人になると、
忙しさを理由に会わなくなる友人が増えます。
でも、
久しぶりに会って、
一日一緒に過ごすだけで、
心はあっさり昔に戻れる。
今年は、
そんな時間を少しでも増やしたい。
そう思わせてくれた初詣でした。
読んでくれて、ありがとうございました。