(1. 最高の中の最高)
・この本のテーマは、ビジョナリー・カンパニーである。ビジョナリー・カンパニーとは、ビジョンを持っている企業、未来志向の企業、先見的な企業であり、業界で卓越した企業、同業他社の間で広く尊敬を集め、大きなインパクトを世界に与え続けてきた企業である。重要な点は、ビジョナリー・カンパニーが組織であることだ。
・ビジョナリー・カンパニーにはずば抜けた回復力がある。つまり、逆境から立ち直る力がある。
12の崩れた神話
・神話1。素晴らしい会社を始めるには、素晴らしいアイデアが必要である。現実は、ビジョナリーカンパニー・カンパニーはスタートでは後れをとるが、長距離レースには勝つことが多い。
・神話2。ビジョナリー・カンパニーには、ビジョンを持った偉大なカリスマ的指導者が必要である。現実は、ビジョンを持ったカリスマ的指導者は全く必要なく、むしろ会社の長期の展望にマイナスになることがある。ビジョナリー・カンパニーの歴代のCEOの中でも特に重要な人物は、長く続く組織を作り出すことに力を注いでいる。
・神話3。特に成功している企業は、利益の追求を最大の目的としている。現実は、単なる金儲けを超えた、基本的価値観や目的といった基本理念も、同じように大切にしている。
・神話4。ビジョナリー・カンパニーには、共通した「正しい」基本的価値観がある。現実は、理念の内容ではなく、理念をいかに深く「信じて」いるか、そして、会社の一挙一動に、いかに一貫して理念が実践され、息づき、現れているかだ。
・神話5。変わらない点は、変わり続けることだけである。現実は、ビジョナリー・カンパニーは、基本理念をしっかりと維持しながら、進歩への意欲が極めて強いため、大切な基本理念を曲げることなく、変化し、適応できる。
・神話6。優良企業は、危険を冒さない。現実は、ビジョナリー・カンパニーは、「社運を賭けた大胆な目標」に挑むことを恐れない。この目標を使って、人を惹きつけ、やる気にさせ、前進への勢いを生む。
・神話7。ビジョナリー・カンパニーは、誰にとっても素晴らしい職場である。現実は、ビジョナリー・カンパニーは、その基本理念と高い欲求にピッタリと「合う」ものにとってだけ、素晴らしい職場である。
・神話8。大きく成功している企業は、綿密で複雑な戦略を立てて、最善の動きを取る。現実は、先見の明がある計画によるものに違いないと思えても「大量のものを試し、うまくいったものを残す」方針の結果であることが多い。
・神話9。根本的な変化を促すには、社外からCEOを迎えるべきだ。現実は、ビジョナリー・カンパニーの延べ1700年の歴史の中で、社外からCEOを迎えた例はわずか4回、それも2社だけだった。根本的な変化と斬新なアイデアは社内から生まれないという一般常識は、何度も繰り返し崩されている。
・神話10。最も成功している企業は、競争に勝つことを第一に考えている。現実は、ビジョナリー・カンパニーは、自らに勝つことを第一に考えている。
・神話11。二つの相反することは、同時に獲得することができない。現実は、ビジョナリー・カンパニーは、「ORの抑圧」で自分の首を絞めるようなことはしない。「ANDの才能」を大切にする。これは逆説的な考え方で、AとBの両方を同時に追求できるとする考え方である。
・神話12。ビジョナリー・カンパニーになるのは主に、経営者が先見的な発言をしているからだ。現実は、ビジョナリー・カンパニーが成長を遂げたのは、経営者の発言が先見的だからでは全くない。ビジョナリー・カンパニーは、基本理念を生かすために何千もの手段を使う終わりのない過程をとっており、これは、ほんの第一歩に過ぎない。
(2. 時を告げるのではなく、時計を作る)
・素晴らしいアイデアを持っていたり、素晴らしいビジョンを持ったカリスマ的指導者であるのは、「時を告げること」であり、1人の指導者の時代を遥かに超えて、いくつもの商品のライフサイクルを通じて繁栄し続ける会社を築くのは、「時計を作ること」である。
・「素晴らしいアイデア」を待つのは、悪いアイデアかもしれない。企業として早い時期に成功することと、ビジョナリー・カンパニーとして成功することは、逆相関している。長距離レースで勝つのはカメであり、ウサギではない。
・ビジョナリー・カンパニーの創業者はどこまでもねばり抜き、「絶対に、絶対に、絶対にあきらめない」を座右の銘としている。しかし、何をねばり抜くのか。答えは会社である。
・アイデアは諦めたり、変えたり、発展させることはあるが、会社は絶対にあきらめない。会社の成功とは、あるアイデアの成功ではない。そのアイデアが失敗した場合、会社まであきらめる可能性が高くなる。そのアイデアが運良く成功した場合、そのアイデアに惚れ込んでしまい、会社が別の方向に進むべき時期が来ても、そのアイデアに固執しすぎる可能性が高くなる。
・ビジョナリー・カンパニーが、素晴らしい製品やサービスを次々生み出しているのは、こうした会社が組織として卓越しているからに他ならず、素晴らしい製品やサービスを生み出しているから素晴らしい組織になったのではないと思われる。
・カリスマ的だあろうとなかろうと、偉大な指導者が重要だという仮説では、ビジョナリー・カンパニーが比較対象企業よりも優れた業績を上げてきたことは説明できない点も指摘しておきたい。ただ、ビジョナリー・カンパニーには、その歴史の岐路になった重大な局面に、優秀な指導者が組織のトップに居たことを否定しようというわけではない。
・素晴らしい製品の場合と同様に、ビジョナリー・カンパニーで優秀な経営者が輩出し、継続性が保たれているのは、こうした企業が卓越した組織であるからであって代々の経営者が優秀だから、卓越した企業になったのではないだろう。
・ビジョナリー・カンパニーが成功したのは、基本的な過程、基礎になるダイナミクスが組織に深く根づいていることが少なくとも一因になっているからで、ひとつの素晴らしいアイデアや、素晴らしい判断を下し、偉大なカリスマ性を持ち、巨大な権限を握る、全知全能の神のような偉大な指導者がいたためではないと、考えるべきなのだ。
・一流の知性と言えるかどうかは、二つの相反する考え方を同時に受け入れながら、それぞれの機能を発揮させる能力があるかどうかで判断される。
(3. 利益を超えて)
・ビジョナリー・カンパニーの理念は、現実的な理想主義というべきものであり、メルクはその典型である。『医薬品は患者のためにあることを忘れてはいけない。医薬品は人々のためにあることを、絶対に忘れてはいけない。医薬品は利益のためにあるのではない。利益は後からついてくるものであり、我々がこの点を忘れなければ、利益は必ずついてくる。』
・時計を作る志向が非常に強いだけではダメである。心のある時計、すなわち、効率的に生産し、雇用を創出し、市場を作り、売り上げを伸ばし、利益を生み出す企業経営しか考えていない心のない時計ではなく、利益を上げながら、意義のある理想を追求するという経済活動を行う存在を超えた、心のある時計、を作ることがビジョナリー・カンパニーとなる要因の一つである。
・ヒューレット・パッカードは、「利益は会社経営の正しい目的ではない。全ての正しい目的を可能にするものである」と述べており、利益と利益を超えた目的の間の緊張をはっきり表明して、「ANDの才能」を見事に示した。一方、テキサス・インスツルメンツは、利益を超えた理由のためにあるという発言は一つもなく、TIの目標は、HPとは違って、財務面での成長だけに向けられていた。
・ジョンソン&ジョンソンも、HPと同じように、まず利益を超えた理想を掲げ、次に、理想を追求する上での利益の重要性を強調した。ロバート・W・ジョンソン・ジュニアは、「顧客への奉仕が第一であり、従業員と経営陣への奉仕がその次で、株主への奉仕は最後である。」と述べた。その後、地域社会への奉仕をリストに加え、理念を文書化した。
・ジョンソン&ジョンソンは、タイレノール事故の際に全米からタイレノールカプセルを、費用を度外視し、信条に基づき回収した。その結果、正しいことを自発的に行う企業だとイメージを確立するのに成功した。一方で、ブリストルマイヤーズは、同様の問題、エキセドリン事故に直面した際には、地域を限定した回収しかせず、ブリストルマイヤーズの会長であったリチャード・ゲルブは、すばやく、エキセドリン事故は「ブリストルマイヤーズの収益にはほとんど影響しない」と強調したコメントを出した。
・ビル・アレンは、ボーイングで働く目的をこう述べている「人生の最大の喜びとは、困難で建設的な仕事に携わり、それから得られる満足感である。」
・モトローラのように、ビジョナリー・カンパニーは、価値観を守るか、それとも、現実主義に徹するかの選択を迫られているとは考えない。現実的な解決策を見つけ、かつ、基本的価値観を貫くのが課題だと考える。
・マリオット・ジュニアは、父親が何年も前に定めた指導原理を貫き通し、マリオットを動かす要素は「カネではなく」、素晴らしい仕事をしているという誇りと達成感だと語っている。
・ビジョナリー・カンパニー全社に共通している基本理念の項目はひとつもない。一言で言えば、ビジョナリー・カンパニーの理念に不可欠な要素はない。理念が本物であり、企業がどこまで理念を貫き通しているかの方が、理念の内容よりも重要である。
・自分の組織の基本的価値観を文書化するときに重要なポイントは、基本的価値観は3から6個にするべきである。5か6を超える項目がリストアップされた場合、こう自問するように勧めたい。「これらの価値観のうち、外部環境が変わっても、たとえ、これらの価値観が利益に結び付かなくなり、逆に、それらによって不利益を被るようになったとしても、100年間にわたって守り続けていくべきものはどれか。逆に、これらの価値観を掲げていては不利になる環境になった場合に、変更でき、捨てされるものはどれか。」
(4. 基本理念を維持し、進歩を促す)
・世界は変化している。この難題に組織が対応するには、企業として前進しながら、信念以外の組織の全てを変える覚悟で望まなければならない。組織にとっての聖域は、その基礎となる経営理念だけだと考えるべきである。
・ヘンリー・フォードはこう語っている。「我々は常に向上できる。常に進歩できる。常に新たな可能性を見つけられる。大切なのは前進し続けることだ。」
・素晴らしい意図を持ち、気持ちを奮い立たせるようなビジョンを持っているが、その意図を活かす具体的な仕組みを作るという不可欠な手段をとっていない組織が少ない。素晴らしい意図を具体的な行動に移せるかどうかは、飴と鞭を組み合わせた仕組みを作れるかどうかが、ビジョナリー・カンパニーになれるか、永遠になれないまま終わるかの分かれ道になる。
(5. 社運を賭けた大胆な目標)
・どの企業も目標は持っている。しかし、単なる目標を持っていることと、思わず怯むほど大きな課題に挑戦することの間には、明らかな違いがある。
・月旅行がそうであるように、本物の社運をかけた大胆な目標(BHAG)は明確で説得力があり、集団の力を結集するものになる。強いチーム意識を生み出すことも多い。BHAGは人々の意欲を引き出す。人々の心に訴え、心を動かす。具体的で、ワクワクさせられる、焦点が絞られている。誰でもすぐに理解でき、くどくど説明する必要はない。
・BHAGが組織にとって有益なのは、それが達成されていない間だけである。
・重要なのは指導者ではなく、目標。指導者が交代した後も目標は生き残り、計画を促し続ける。
・BHAGは組織のどのレベルでも、進歩を促すために使える。
・BHAGは極めて明確で説得力があり、説明する必要もないほどでなければならない。BHAGは目標であり、「声明」ではないことを忘れてはいけない。それで組織内に活力がみなぎらないのであれば、それはBHAGではない。
・BHAGは気楽に達成できるようなものではあってはならない。IBM360や、ボーイング747のように、組織内の人々が、なんとか達成できるだろうが、それには英雄的な努力とある程度の幸運が必要だと思えるものではなければならない。
・BHAGは極めて大胆で、それ自体が興奮を呼び起こすものでなければならず、達成する前に組織の指導者が去ったとしても、進歩を促し続けるものでなければならない。
・BHAGには、それを達成したのち、「目標達成症候群」にかかって組織の動きが止まり、停滞する危険が付き纏っている。この問題を避けるためには、次のBHAGを準備しておくべきだ。
・最後に、最も重要な点として、BHAGは会社の基本理念に沿ったものでなければならない。
(6. カルトのような文化)
・ビジョナリー・カンパニーは、どんな社員にとっても素晴らしい職場とは言えない。
・極めて先見的な企業では、基本理念を中心に、カルトに近いとすら言える環境を作り上げており、私たちはこれを「カルト主義」と呼ぶことにした。カルト主義の企業には、採用にあたってか、入社の早い時期に、基本理念に合わない社員を厳しく選別する傾向がある。そして、残ったものには強烈な忠誠心を吹き込み、行動に影響を与えて、社員が基本理念に従い、熱意をもって常に一貫した行動をとるようにする。
・ビジョナリー・カンパニーには、「カルト主義」「カルトのような」という言葉で捉えられる慣行が一貫してみられるのだ。この性格が、基本理念を維持していく上で中心的な役割を担っていると私たちは考えている。
・IBMが特に成功を収め、環境の変化に適応する能力が特に高かったのは、カルトのような企業文化が特に強かった時期である。
・IBMやノードストロームと同様に、ウォルト・ディズニーも基本理念を維持するために、教化、同質性の追求、エリート主義の三つを徹底して使っている。
・宗教団体や社会運動団体では、カリスマ的な指導者が中心になって、いわゆる個人崇拝が強まることが少なくないが、ビジョナリー・カンパニーでは、イデオロギーに関してカルト的になっている。
・カルトのような文化は、基本理念を維持するものであり、これとバランスを取るものとして、進歩を促す強烈な文化がなければならない。ビジョナリー・カンパニーでは、この二つが相互補完の関係にあり、お互いに強化し合っている。
・カルトのような同質性は、多様性を促すものになり得る。カルト的な色彩が強いビジョナリー・カンパニーの中には、大手企業の中で、女性や少数民族にとって最高の職場だとされている企業がある。会社の基本理念を信じていれば、肌の色、身体の特徴、性別などは、全く問題にされない。
・ビジョナリー・カンパニーは基本理念を厳しく管理すると同時に、業務上、幅広い自主性を認めて、個々人の創意工夫を奨励している。
(7. 大量のものを試して、うまくいったものを残す)
・ビジョナリー・カンパニーは比較対象企業に比べて、BHAGに続く第二の種類の進歩として、進化による進歩をはるかに積極的に促している。この種類の進歩を「進化」と表現するのは、生物の種が進化して自然環境に適合していくのに似ているからである。進化による進歩は、2つの基本的な点で、BHAGによる進歩とは違っている。第1に、BHAGによる進歩では、曖昧なところがない明確な目標を掲げる。これに対して進化による進歩では、目標は曖昧である。第2に、BHAGによる進歩で思い切った飛躍をするが、進化による進歩では、通常、初めはそれまでの事業の延長線上にある小さな一歩に過ぎず、予想外の機会を素早く捉えた動きにすぎないが、そこから、大きな、時には意図しなかった戦略的な転換が生まれる。
・個々人に自由を与え、自主的に考え、行動するように促せば誤りも出てくる。しかし、長期的に見れば、経営陣が独裁的な指揮命令体制を作り、従業員の一挙一動を支持していて犯すか誤りに比べれば、この従業員の誤りはそれほど深刻にはならない。
・アイデアを生み出し、そして試験する力強い体制を築かなければならない。考え出されたアイデアは全て、その進化を問う機会を与えられなければならない。その理由は2つある。第一に、それが良いアイデアであれば採用したい。第二に、良いアイデアでなかった場合にも、それが実際的ではないと証明できれば、一種の保険になり、安心できる。カールトンはアイデアを評価し、淘汰する際の基準として、あと2点加えている。どちらも3Mに基づく基準である。第一に、採用するアイデアは本質的に新しいものでなければならない。3Mは革新的なアイデアだけを選択したいと望んでいる。第二に、社会のニーズに合致したものであることを証明しなければならない。
・ポストイットの開発には偶然の積み重ねという部分があったとしても、その開発を可能にした3Mの環境は、偶然の産物ではない。
・進化の過程が最もうまく働いているケースとして、3Mを手本にするなら、ビジョナリー・カンパニーが進化による進歩を促すにあたって学ぶべき教訓は、以下の5点である。①試してみよう。なるべくはやく。②誤りは必ずあることを認める。③小さな一歩を踏み出す。④社員に必要なだけの自由を与えよう。⑤重要なのは仕組みである。着実に時を刻む時計を作るべきだ。
・上記の5つの教訓に加えて、6番目の教訓として、進化による進歩を促す際に、基本理念を維持することを忘れてはならない。
(8. 生え抜きの経営陣)
・ウェルチのような経営者がいるのは、素晴らしいことだ。一世紀にわたってウェルチのような経営者が輩出し、その全員が生え抜きであるのは、素晴らしいというにとどまらない。GEがビジョナリー・カンパニーだと言える主な理由の一つである。
・ビジョナリー・カンパニーと比較対象企業の差をもたらしている最大の要因は、経営者の質ではない。重要なのは、優秀な経営陣の継続性が保たれていること、それによって基本理念が維持されていることである。
(9. 決して満足しない)
・ビジョナリー・カンパニーで最も大切な問いは、「明日にはどうすれば、今日よりうまくやれるか」である。ビジョナリー・カンパニーが飛び抜けた地位を獲得しているのは、主に、自分自身に対する要求が極めて高いという単純な事実のためなのである。
・安心感は、ビジョナリー・カンパニーにとっての目標ではない。それどころか、ビジョナリー・カンパニーは不安感を作り出し、それによって外部の世界に強いられる前に変化し、改善するよう促す強力な仕組みを設けている。
・ビジョナリー・カンパニーの経営幹部は、短期的な業績または、長期的な成功の二者択一が必要だという考え方を受け入れない。何より長期的な成功を目指しながら、同時に、短期的な業績についても高い水準を掲げている。
・常に改善を求めて自らを律しているかどうかは、ビジョナリー・カンパニーと比較対象企業の違いの中でも、特に鮮明なものである。
・企業の育成や経営に取り組んでいるのであれば、以下の点を問いかけてみるように勧めたい。①どのような「不安をもたらす仕組み」をつくって、自己満足に陥らないようにし、内部から変化と改善を生み出すとともに、基本理念を維持していくことができるのか。そのような仕組みに強力なムチの要素を加えるには、どうすれば良いのか。②将来のための投資を進めながら、同時に、たった今の業績を良くするために、何をしているのか。業界に先駆けて、新しい方法や技術を導入しているだろうか。③不景気にどのように対応するのか。不景気の間も将来のための投資を続けていけるのか。④安心感が目的でないこと、ビジョナリー・カンパニーが働きやすい職場でないことを社員は理解しているだろうか。楽な生活を最終目標にするのを拒否し、こうした目標に変えて、いつも明日には今日よりも前進するという終わりのない修練の過程を重視しているか。
(10. はじまりの終わり)
・ビジョナリー・カンパニーの真髄は、基本理念と進歩への意欲を、組織の隅々まで浸透させていることにある。目標、戦略、方針、過程、企業文化、経営陣の行動、オフィス・レイアウト、給与体系、会計システム、勤務計画など、企業の動きの全てに浸透させていることにある。
・一貫性を達成するためには、働き続けるしかない。
①全体像を描く。重要なのは、驚くほど広範囲に、驚くほど一貫性を、長期にわたって保っていくことである。
②小さなことにこだわる。従業員は日々の仕事で、「大きな全体像」に取り組んでいるわけではない。従業員に強い印象を与え、力強いシグナルを送るのは、ごく小さなことであり、重要なことである。
③下手な鉄砲ではなく、集中砲火を浴びせる。ビジョナリー・カンパニーはいくつもの仕組みや家庭をバラバラに作っているわけではない。それぞれが互いに強化し合い、全体として強力な連続パンチになるように、仕組みや過程を集中している。
④流行に逆らっても、自分自身の流れに従う。現実はしっかりと捉えなければならないが、自社の基本理念と理想こそが現実を捉える際の指針にならなければならない。正しい問いの立て方は、「これは良い方法なのか」ではなく、「この方法は当社に合っているのか、当社の基本理念と理想にあっているのか」である。
⑤矛盾をなくす。一貫性を達成するには、新しいものを加えていいわけではない。同時に、基本理念からの乖離をもたらしたり、進歩を妨げたりする矛盾を見つけ出し、粘り強く終わりのない努力が必要である。ビジョナリー・カンパニーで変えてはならない聖域は基本理念だけであることを忘れてはならない。それ以外のものはなんでも変えることができるし、なくすこともできる。
⑥一般的な原則を維持しながら新しい方法を編み出す。ビジョナリー・カンパニーになるためには、基本理念がなくてはならない。また、進歩への意欲を維持しなければならない。もうひとつ、基本理念を維持し、進歩を促すように、すべての要素に一貫性がとれた組織でなければならない。以上の3点は、どのビジョナリー・カンパニーにも言える一般的な原則である。しかし、ビジョナリー・カンパニーが基本理念を維持し、進歩を促すために使う具体的な方法は、間違いなく変化、進歩していくため、そのような方法を編み出していくべきである。
・本書を読んで、今後のビジネスに活かし、周囲の人たちに伝える教訓として、以下の4つの概念だけは覚えておいてほしい。①時を告げる預言者になるな。時計を作る設計者になれ。②「ANDの才能」を重視しよう。③基本理念を維持し、進歩を促す。④一貫性を追求しよう。
・最も重要な点は、基本理念を維持し、進歩を促す方向で、組織に一貫性を持たせることである。一貫性が大切であることを無視するのは、経営者や経営幹部が陥りやすい誤りの中でも、飛び抜けて手痛いものである。