・天職が、思いもよらない時期と場所で他者から与えられるものであると考えた場合、そのような偶然をより良い形で起こさせるための思考様式や行動パターンこそが「天職への転職」に最も必要な技術なのではないか、というのが筆者の考えである。
・「将来ありたい自分の姿」を明らかにし「現在の自分」との差分を抽出した上で、どのようなアクションを取ればそのギャップが解消できるかを明確化して日々のアクションプランに落とし込み、それを実行していくという考え方は、バックキャスティングの考えかたである。しかし、現在のような変化の早い時代には、こういったバックキャスティングのキャリア設計はうまく機能しないのではないかと考えている。
・キャリア形成のきっかけは、80%が偶然であるという調査結果がある。
・転職において問題になるのは常に、「どのように始めるのか」ではなく、むしろ「どのように終わらせるか」である。
・転職を煽る人たちが、転職者が多ければ多いほど儲かる構造の事業を営んでいる。大事なのは、転職を志向する人々が、エージェント企業のそのような行動様式が分かった上で、彼らの煽りに乗せられることなく、主体的に転職活動を制御していく必要がある。
・年収だけで転職の成否を決めるのは愚か
・現時点では転職の成功確率は低い、だかやめておいた方がいい、という考え方は、極めて短絡的かつネガティブで、思考を放棄しているとしか言いようがない。
・リスク回避成功が強い日本だからこそ、積極的にリスクをとりにいく期待効用は大きい。
・格差を攻撃する人の発想は、「富裕層がもらいすぎている」という相対的な問題に行きがちであるが、実際は「貧困層の拡大」という絶対的な問題に行きつかない。これは、ルサンチマンに囚われた人の典型的な志向パラダイムである。
・新卒で入った会社に一生いるというのは、本来的には不自然なことであり、少なくとも非合理的である。適材適所を推し進めた方が良い。
・経営はサイエンスではないので、全てを機械的にロジックで判断しようとすると、どこかで論理破綻してしまうか、極めて不自然な解、または当たり前すぎて何の面白みもない解を出すことになる。そういった際にクライアント企業の置かれている状況や先方の担当者の性格やビジョンを踏まえた上で、ロジカルに判断すべき所とそうでないところを絶妙に切り分けて、真に想像的でインパクトのある解を出せる、というのが活躍するコンサルタントである。
・ある職業が求めるスキルやコンピテンシーについて外から理解するというのは非常に難しいことで、個人が社会に出て発揮できる強みや能力というのは、結局のところ、実際にその仕事について色々と試行錯誤を経てみなければわからない。「自分は何が得意か?」という問いは、転機を迎えた人ならごく自然に向き合わざるを得ないものですが、その問いに答えるためには1日部屋に閉じこもって沈思黙考しても、あまり有益な示唆は得られない。
・往々にして人は「自分が好きなこと」と「自分が憧れていることなくを混同している。
・「自分が何が好きか」という問いにムキになって取り組んでも意味がないのではない。指摘する2つ目の理由として、その職業なりの面白さや楽しさというのは、結局のところ、その仕事をある程度までやりこんでみないとよくわからない、ということがある。
・柔道や剣道など「道」と名のつくような技術体系は全般的にそうですが、ある程度の奥行きを持った営みもまた、一定水準以上やりこんでみて初めて面白さが「見えてくる」ようになるという傾向がある。
・「歌は世につれ、世は歌につれ」という言葉から、自分らしさを安易に称揚する歌謡曲の氾濫は、我々が「過大自己愛の時代」を生きつつあることを示しています。ナンバー1とオンリー1という対比の構造で見た場合、ナンバー1を目指すには今の自分を部分的に否定しながら、より高い目標へと自己を駆り立てていかなければならないが、オンリー1であれば、自己否定をせずに安易に自己充足することが可能である、という違いが見出されます。足元に転がっている石ころでも全く同じ形のものは世界に二つとないわけで「世界に一つだけのオンリー1なのです」と言われても、価値判断する側としては「は?だから何?」としか答えられないでしょう。つまり、これらのレトリックは、ナイーブな人たちを慰める一種の「まやかし」でしかないということです。
・現在の自分のあるべき姿とを直線で結んでしまえば、そこには遊びもたるみも生まれない。しかし、人生というのはさまざまな出会いや事故、事件によって紆余曲折せざるを得ないものである。過去の自分と、過去に自分が思い描いたゴールとを結ぶ直線の上から、現在の自分が外れていたとしたら、それを嘆き、再度その直線の上に自分を戻す努力をすべきなのでしょうか?最終的には人それぞれの判断に委ねられるべきことですが、私自身は、それは決して嘆くべきことではないと考えている。
・自分が何かの意思決定をしようとしている時、その選択は本当に内発的な動機なのどうかを今一度考えてみてみる。
・キャリアについて考える上で、「何をするべきなのか」という問いを逆転させて、「何が譲れないか」ということを明らかにする方が有用かもしれないという考え方が、キャリア・アンカーという概念である。
・「仕事の幸せ」と「本人の幸福度」は異なる。「仕事の幸せ」は、本人のパーソナリティと不適な職業でも、努力次第でハイパフォーマーになれる。「本人の幸福度」は、本人のパーソナリティと不適な環境で無理をしすぎるとアイデンティティ・クライシスに陥る可能性がある。

・キャリア形成につながるような「いい偶然」を引き起こすためには、どのような要件が求められるのか?①好奇心。自分の専門分野だけでなく、色々な分野に視野を広げ、関心を持つことでキャリアの機会が増える。②粘り強さ。最初はうまくいかなくても粘り強く続けることで、偶然の出来事、出会いが起こり、新たな展開の可能性が増える。③柔軟性。状況は常に変化する。一度決めたことでも状況に応じて柔軟に対応することでチャンスを掴むことができる。④楽観性。意に染まない移動や逆境なども、自分が成長する機会になるかもしれないとポジティブに捉えることでキャリアを広げられる。⑤リスクテーク。未知なことへのチャレンジには、失敗やうまくいかないことが起きるのは当たり前。積極的にリスクを取ることでチャンスを得られる。
・メタファー的展開の読書の利点は2つあり、①純粋に自分が興味を持った対象をその場その場で追いかけてドリフトしていくことになるので、興味を維持しやすく、従って定着能率が高いというのが1つ目の利点。②展開を動機付ける元になった本と、展開先の本とが構造関係を形成するので、濃く太い理解が促進されるという利点である。
・自由さを獲得したければ不自由な期間を過ごさなければならないという考え方には、時代を超えた普遍性がある。真に自由になりたいのであれば、一時期完全な不自由を受け入れなければならない。自由に生きるためには技術が必要であり、それを身につけるための訓練という側面から不自由な時期を甘んじて受け入れざるを得ない、というのがその趣旨である。それに加えて、自由には相当の心の強靭さが必要である。
・「逃げの転職」をする際は、「あと半年待てないか?」ということについてよく考える必要がある。なぜなら、平均への回帰によって状況が変わる可能性もあるし、「逃げの転職」をせざるを得ない状況というのは、本人にとっては一刻も早く逃げ出したい状況であるため、拙速に転職を選んでしまう傾向があるからである。
・「攻めの転職」をする際は、「失うもの」が空気のような存在になって意識されにくいという側面があるため注意が必要である。例えば大企業の連帯感や安心感、比較的小さくて風通しの良い会社。加えて、仕事のネイチャーというポイントにも注意が必要である。「課題先行」型の仕事から「好奇心駆動」型の仕事に転職する、またはその逆の様にネイチャーが異なる仕事に転職する際は、前職で活躍していたからといって新しい職で活躍できるとは限らず、苦労する可能性が高い。
・「課題先行」型のネイチャーを持つ会社でも、経営者になった途端、「好奇心駆動」型の仕事になるため、力を発揮できなくなる事がしばしばある。
・大事なのは、自分にとって自己を駆動するための内発的な動機づけを維持する事なので、報酬と成果のバランスには注意が必要である。高額な報酬という外発的な要因に駆動されることに慣れてしまった人が、その後でなかなか内発的な駆動を維持できずに沈没していく事があるので注意が必要である。