いつも何を基準に板を選んでいますか?
店員さんのおすすめ、好きなライダーが使っているから、グラフィックが好み、安かったから、などなど。
様々な理由があると思いますが、売り手としては、買い手に満足してもらうことを一番に考えますが、結局は売り手側が何に重点を置いて板を選ぶかによって大きく変わってきてしまいます。
当然ながら売り手側がしっかり板の特性を理解していなければ、買い手側は良いものを手に入れることは出来ません。
最近はインターネットなどでの販売も増え、メーカーのホームページなどで簡単に板の説明を見れますので、その流れで「調子良さそう!」と、ポチッとやる人も多いと思います。
しかし当然ながら、メーカーの説明文にはその商品を良いようにしか記載しません。
例えば、「パウダーで浮いてカービングも切れる!」、「高反発でパークもパイプもぶっ飛べる」など。
ちょっと何言ってるかわかんない。笑
自分は10代の頃より各メーカーの開発にも関わってきました。
性格的に、素材や各工場の特性などもとことん調べないと気が済まないので、もはやオタクと自負してます。笑
スノーボードというのは、性能は必ず相反するものです。
どこかを良くすれば、必ずネガがでてくる。全てにおいて完璧なものはありません。
プロが巨大なパークでぶっ飛ぶ板も、殆どはビギナーにとっては上達を妨げる乗りにくいものでしかありません。
このコーナーではカタログなどには書かれていない、ちょっと深いところまで追求していきます。
今回は、今人気のパウダーボードについて語ってみます。
まず、「パウダーで浮いて」というよく見かける文章、これは紛らわしいですね。
浮力=スピード なのです。
たとえフルキャンバーのパーク用ボードでも、スピードさえあれば(つけれれば)どんなに深いパウダーでも浮きます。
プロサーファーが小さい波でも小波用ボードを使わず、非常に薄いコンペ用サーフボードで加速し鋭いリッピングを決めるのも同じ理由ですね。
むしろパウダーでのハイスピードなターンにおいては、キャンバーがしっかりある分テールにパンチがあり、踏めばしっかりスプレーも上がりこれ以上ないターンの伸びと気持ちよさが味わえます。
しかし世の中の全ての人がパウダーをハイスピードで駆け抜けれるライダーな訳ではありません。
そこで誕生したのが、最近よく見る「パウダーボード」と言われるものです。
このパウダーボードというのがまた面白く、全メーカー合わせるとそれぞれ独特な形状があり、とても幅広くラインナップがあります。
極端にノーズにボリュームを持たせテールを小さく有効エッジを短く、さらに極端なフィッシュやスワローテールになっているのもから、普通のオールラウンド系キャンバーボードを長くしただけのようなものまで、各メーカー様々です。
最初に述べたノーズが大きく、テールが小さいものは、パウダーゾーンに突入してもノーズ大きく抵抗がある分前は勝手に浮いて、テールは小さいので後ろは勝手に沈みます。テールがスワロー(フィッシュ)になっていると接雪面積が減る為さらにテールが沈みます。
このような形状は、今までパウダーで進行方向に転がることの多かった方が乗ると魔法のように感じるかもしれません。
しかしこの形状のボード、カービングに至ってはテールの有効エッジが極端に短い為、エッジホールドが弱くターンエンドに伸びが無く、少し荒れたハードバーンでは簡単にテールが弾かれます。この板で初心者がカービングターンを習得するのは至難の技です。
パウダーもテールを使わない(使いにくい)ので、必然的に前足をこじったようなドリフトターンになってしまいますし、ノーズも浮きっぱなしなのでスピード(最高速)も出ません。
接雪面にまで食い込んでくるような極端なスワローテールは、板の剛性を失いターンエンドでテールが横方向へ捻じれてしまいます。
その様な板を乗り続けた場合ビギナーレベルから脱出したくとも、自分で板をコントロールすることより、自分が板にコントロールされる時間が長いのでなかなか次のステップに上達できません。
それどころか板に頼る癖がついてしまうので、正直メインボードには僕はおすすめはしておりません。
しかし例外もあります。年に数えるほどしか滑れなく、絶対にパウダーのみしか行かないという初~中級者の方で脚力に自信のない方などは板に頼ることも必要なので、このようなボードも選択肢の一つにはなるかと思います。
次に二つ目に述べたキャンバー系のパウダーボードは(カービングボードやフリーライディングボードとも言います)、低速域での重たい雪質では浮力を感じにくいのですが、その点一旦スピードに乗ると失速しにくい気持ちのよいターンが可能です。
ゲレンデでカービングをマスターした、中級者以上向けのボードです。
圧雪でのカービングも可能で、多少のスキルがあればこちらの方が乗り味としては圧倒的に楽しい滑りが可能です。
ただし、低速域では浮力は少ないので、「パウダーボード=浮く」と勘違いして買う人へは印象が悪くなってしまうかもしれませんね。
しかしこのような板の乗り味に慣れると、先程述べたようなボリュームに頼って前を浮かせる板に乗るとターンも伸びず物足りなく感じてしまうと思います。
フリーランが断然メインでたまにパイプやパークもという方は、こういうボードをメインにすると楽しいシーズンが過ごせそうです。
つまり低速で極端に浮く板はカービングは切れない(・・・ような形状にどうしてもなってしまう)し、ある程度低速での浮力を犠牲にすることで、ハイスピードでのフルカービングが可能になります。
浮力とカービング、どちらも完璧に両立するボードは存在しないということです。
ちなみに、自分の知り合いの北海道にいるライダー達はパウダーでも極端なパウダーボードは使いません。
むしろパーク用のツインチップを長くしたようなボードで攻めるライダーも多数います。
そもそもスノーボードは(スケートやサーフィンも同じですが)踏んで加速させるものです。
ここぞという時に踏める形状(テールにある程度ボリュームがある)でなければ、パウダーでの気持ちよさは味わえません。
そして最近はシンプルな構造なのに非常に高額なパウダーボードもあります。
高額なものをブランド品のように所有する楽しみも一つなのでその点では僕はアリだとは思います。
自分も過去に、決して必要ではないのに高額な車のアルミホイールを買ったりしたこともあったので同じことでしょう。
高額な物を所有することで満足感も得られますが、そのホイールは鍛造だったり2ピースだったり、コストが掛かる(定価が上がる)相応の理由があるもの事実です。
しかしスノーボードに関しては、ユーザーがスペックを理解した上で乗っているのかは謎です。
「高い=良い」と思ってしまっているユーザーも多数いるのではないでしょうか?
スノーボードの価格はコア(心材)と、ラミネート、トップシート、ソール、サイドウォールなどで決まります。(他にも細かい部分はありますが)
シンプルなポプラコア、バイアクスのラミネート、ノンカーボンビームで、そこそこのシンタードソールでは例え国産工場だったとしても10万円以上の価格設定はなかなか強気なもの。(ちなみに国産工場が必ずしも良いとは限りません。それぞれ特性があります。)
ビッグメーカーの遥かに安価なボードの方が、より優れたマテリアルで作られている場合も多くあります。
結局、売り手がスペックに対する費用対効果を理解した上で説明し、ユーザーに販売しているかですよね。
数年前にロッカー形状が登場してから、板のシェイプの幅が爆発的に広がりました。
そして、第一次スノーボードブームを経験した30代以上の世代用をターゲットにしたボードが多いです。
非常にコスパが高く優れたボードも増えましたが、それと同じ分だけ数を売る為だけに考え出されたようなキワモノ商品も増えてきました。
売り手は板の形状や素材による変化、各メーカーの特性など、常に最先端を理解しないと、ユーザーが本当に求めるものを選び出すには難しいようになりました。
以前のような強烈なスノーボードブームの熱も収まり、専門店も少なくなった今こそ、昔以上にギアの面でもサポート出来ることがこれからのプロショップには必要になってくると思います。