羽田から1時間あまり空の旅を楽しみ、
日本海に面したローカル空港に着いたのは、
そろそろ秋も深まり肌寒さを感じる日だった。
そこからさらに車で1時間半ほど
日本海を横に見ながら着いたところは、
昔から農業と漁業で生計を立てているという人口8,000人弱の小さな町だった。
訪れたS店は、その町で唯一の履物屋として70年近く商い、
今は婦人靴を中心に紳士靴・子供靴とDPEを扱う50坪ほどの店で、
60代半ばの社長と奥様、そして三代目の後継者となる息子さん夫婦に、
社長の次女である娘さんの5人で経営を行っている。
本店は主に社長と奥様と若奥様で、
2kmほど離れたスーパー内の支店は娘さんが、
そして息子さんはトラックに靴を積み、
毎日のように近隣の市町村へ外販に回っている。
早速社長に今回の相談内容を確認したところ、
金融機関へ融資の申し込みをしたが、
現在の経営内容や大幅な在庫過多を指摘され融資に難色を示され、
資金繰りに困っているということであった。
特に在庫については、別の場所に約500坪ほどの倉庫があり、
そこには5年ほど前からのスリーピングストック
(かなりデッドストックに近いもの)が4000足近くはあるという。
そのストック商品を何らかの形で処分できないものかというのが主な相談内容だった。
しかし人口8,000人ほどの町で4000足を処分するとなると、
計算上では町内の半分の人に1足購入してもらわなければならない。
S店の売上は通常一日5~10万円位という。
販売総数に換算すると20から30足である。
さすがに私も唸ってしまった。
しかし何等かの策を講じなければ、
このS店は遅かれ早かれ倒産の危機を免れない。
いずれにせよ瞬間最大風速百メートル位の策を講じるしかないのである。
社長ご夫妻といろいろな話をしているところへ、
奥の居間で私達の会話に聞き耳を立てていたのか、
三代目の息子さんがひょっこりと顔を見せた。
32歳の彼は、体育会系と思われる180cmはゆうに超える身長と
ガッチリした体格で見るからに頼もしい後継者だった。
聞けばあるスポーツ競技の元全日本代表にもなったほどの
スポーツマンだった。
彼は私と社長との会話を傍らで黙って聞いていた。
そこへコーヒーをお盆に乗せ一人の女性が現れた。
息子さんの奥様である。
やはり息子さんの横に座り、黙って私と社長ご夫妻の話を聴いている。
社長ご夫妻との話で5分位が経った時である。
突然息子さんが言葉を発し、会話に入り込んできた。
その第一声は
「オヤジ、先生にそんな昔の良い時の話ばかりしてても
仕様がないんだヨ。
それよりも、今どうするかを相談しなければ意味がないじゃないか?」
まさにそれまでの社長ご夫妻の話は、
繁盛していた頃の良き昔話と現在の悪しき愚痴の連続だったからである。
そんなところへもう一人、
支店から娘さんが駆けつけて来た。
これでS店の経営陣が全員顔を揃え、
本題解決への本格的な模索が始まったのである。
つづく
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