あらかじめ弱い放射線にあたっておくとその後の強い放射線被ばくに対して耐性を獲得することを「適応応答」といいます。この現象は細胞でも個体でも認められ、個体の場合は米澤効果(図)として知られています1,2)。
低線量率の放射線で連続照射した細胞も放射線耐性を獲得します。放射線ばかりでなく、他の毒性物質に対しても耐性を獲得します3)。
適応応答は生物の基本的な生存戦略の1つです。生物が誕生したのは36億年前といわれていますが、その頃の地球は強い放射線にさらされていたので生物はこれに対抗しなくては生きていけませんでした。
線量あたりの変異率が最も低くなるのはバックグラウンドの100万倍の高線量率領域であることが示されています。これは太古の地球で生き抜いた適応応答の名残かもしれません4)。
光合成細菌が登場して酸素が増えて来ると酸素に適応応答した生物が選抜されます。彼らは抵抗性を獲得するだけではなくこれを利用してエネルギーを獲得するようになり、その生存が酸素に依存するようになります。
適応応答により敵を排除するばかりでなくこれを必要不可欠な味方として利用するようになるのです。適応応答は「共生」と言い換えることもできるでしょう。
放射線、酸素、ウィルス、細菌などの外的な「刺激」に対する適応応答によって生物は動的ホメオスタシスを維持しています。「放射線との共生」はホルミシスの基本的な考え方です。
1) Yonezawa et al, Radiat Res, 161: 161 (2004)
2) 米澤司郎、薬学雑誌 126: 833 (2006)
3) Nakajima et al, Radiat Res, 188: 181 (2017)
4) Vilenchik et al, Proc Natl Acad Sci USA, 97: 5381 (2000)
馬替生物科学研究所 所長
第1種放射線取扱主任者
馬替純二