ミトコンドリアは細胞内に数百から数千個ほどある二重膜構造の粒子です。内膜は内側に貫入(クリステ)し、内部(マトリックス)はDNAやクエン酸回路の酵素群などがあります。DNAは酸化的リン酸化の酵素などミトコンドリアの遺伝子をコードしています1)

 

クエン酸回路でできたNADHは内膜に埋め込まれた電子伝達系という酵素群で酸素と反応して水素イオン(プロトン)を内膜と外膜の間に吐き出します。このプロトンがマトリックスに戻るエネルギーでタービンを回してATPを作ります。

 

ヒト細胞の祖先は酸素を利用しない古細菌に属していました。彼らは地球の隅で慎ましく暮らしていたのですが、酸素を利用する細菌をミトコンドリアとして寄生させることで動植物に進化したと考えられています。

 

その結果エネルギー効率は増したのですが不完全燃焼が起きて活性酸素ができます。活性酸素はミトコンドリアのDNAを傷つけます。DNAが傷つくとできそこない酵素ができて不完全燃焼がさらにひどくなります。

 

細胞はミトコンドリアを増やしてエネルギーを作ろうとしますが、できの悪いミトコンドリアをふやせば状況は悪化し細胞は弱っていきます2)

 

これが老化の「ミトコンドリア説」です。神経疾患、代謝疾患、がんなど加齢に伴う疾患はミトコンドリアゲノムの変異と関係していることが知られています。

 

ヒトは出世のためにミトコンドリアという悪魔と契約を交わしたのです。

 

1) https://ja.wikipedia.org/wiki/ミトコンドリア

2) Wallace et al, Annu Rev Genet, 39: 359 (2005)

 

 

 

馬替生物科学研究所 所長

                     第1種放射線取扱主任者
                                  馬替純二