人は蛋白質、炭水化物、脂肪などを含む食物を摂ってエネルギーを得るとともに自分の体を作ります。蛋白質はアミノ酸へ、炭水化物はグルコースに、脂肪は脂肪酸に分解され細胞に入ります。

 

グルコースは解糖系という一連の化学反応を経てピルビン酸、さらに乳酸になり、得たエネルギーは2つのATPに変換されて保存されます。解糖系ではエネルギーを得るのに酸素はいりません。

 

酸素があれば、ピルビン酸はアセチルCoAになってミトコンドリアに運ばれ、アセチルCoAはクエン酸サイクルと電子伝達系で水と炭酸ガスになりATPを34個もつくります。

 

しかし、栄養を全てエネルギーにしたら自分の体を作ることができません。増殖が盛んな細胞ではエネルギー生産では効率が落ちても、全ての栄養をミトコンドリアで分解せずに解糖系の化合物を使ってDNAや脂肪を作ります。

 

その結果、酸素がある環境でも解糖系の代謝が盛んになり多くのグルコースを取り込むようになります。このような代謝形態を「好気的解糖」と呼びます。激しく増殖する癌細胞はこのような代謝上の特徴がありグルコースを盛んにとりこみます。これを利用した診断法がPETです。

 

スパイク蛋白質がACE2と結合するとミトコンドリアの活性が抑えられ、細胞の代謝は好気的解糖に変換されます1)。ウィルスは自分の体をたくさん作れるように細胞の代謝を自分好みに変換させるのです。

 

ACE2という蛋白質に目をつけたコロナの賢さには舌を巻くばかりです。

 

1) Lei et al, Circ Res, 128: 1323 (2021)

 

 

馬替生物科学研究所 所長

                     第1種放射線取扱主任者
                                  馬替純二