角化細胞からでるエンドルフィンやACTHは放射線があたった細胞以外の細胞に影響を及ぼします。これをバイスタンダー効果と言います。

 

DNA損傷の低線量での線量応答はLNTで予想されるよりも増加します。これはバイスタンダー効果のせいだと考えられます(図)1)

 

バイスタンダー効果は照射細胞と直接接触することや、液性因子が分泌されることで他の細胞に伝達します。液性因子としては活性酸素、一酸化窒素(nitric oxide: NO)などのラジカルやTGFβなどのサイトカインが知られています。

 

放射線があたるとNO合成酵素(nitric oxide synthase: NOS)が活性化しNOが酸素分子とアルギニンから合成され、これが隣の細胞のDNAを傷つけます。あるいは、NOの刺激がTGFβを誘導し、分泌されたTGFβは隣の細胞のNOSを活性化することでNOがでてくる場合もあります2)

 

しかし、NOは抗酸化作用もあり酸化ストレスから細胞を守ります。血管を弛緩させ血圧を下げて血流を促進したり血小板凝集を抑制し血栓症や動脈硬化を抑制する重要な生理活性物質です。

https://ja.wikipedia.org/wiki/内皮型一酸化窒素合成酵素

 

NOによって誘導されるTGFβは炎症を鎮め、組織修復をうながすヒーリング作用があります。リューマチなどの炎症で生じた組織損傷を緩和するホルミシス効果はTGFβによるところが大きいと考えられます。

 

バイスタンダー効果はNOやTGFβによってDNA損傷を増幅しますが、DNA損傷はホルミシス効果も生み出します。NOやTGFβはホルミシス効果を誘導する重要な因子でもあるのです。

 

1) Beels et al, Circulation, 120:1903 (2009)

2) Shao et al, Oncogene, 27:434 (2008)

 

 

 

馬替生物科学研究所 所長

                     第1種放射線取扱主任者
                                  馬替純二