角化細胞の役割はケラチンという丈夫な繊維状のタンパク質を作って物理的な障害からからだを守る「鎧」となることですが、その他にも様々な生理活性物質を出して生体の恒常性を保つ重要な細胞でもあります。

 

角化細胞にα線があたるとDNAはあちこちで切れますが、増殖細胞ではないので死にはせず、DNA損傷に応答していろいろなタンパク質がでてきます。

 

DNA損傷によって活性化する代表的なタンパク質はp53というがん抑制遺伝子です。p53はがんの半数以上で変異しており、この機能が損なわれることは細胞がん化のための必要条件だと考えられています。

 

p53は転写因子と呼ばれるタンパク質でDNAにくっついて細胞の増殖や死を制御する様々な遺伝子の発現を制御します。その標的遺伝子の一つにPOMCがあります。

 

POMCからは、エンドルフィン、色素細胞刺激ホルモン(αMSH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の3つのタンパク質ができます。αMSHは色素細胞に抗酸化物質であるメラニンの分泌をうながします。ACTHはステロイドをだして炎症を緩和します1)

 

p53はUVや放射線で皮膚がダメージをうけるとメラニンでダメージを緩和し、ステロイドで炎症をしずめ、エンドルフィンで痛みをとめ、至れり尽くせりのケアをしてくれるのです。

 

効果は近隣の細胞ばかりではなく血流にのったり神経を刺激したりすることにより全身に拡大していきます。p53によるDNAダメージ応答はホルミシス効果の主要なメカニズムの1つです。

 

1) Oren et al, Cell, 28:826 (2007)

 

 

馬替生物科学研究所 所長

                     第1種放射線取扱主任者
                                  馬替純二