放射線があたるとDNAが切れる。これを修復するとある確率でエラーすなわち変異がおきる。エラーが癌関連遺伝子に起きると癌化する。LNTもWAMもこの仮説に基づいて構築されたモデルです。

 

しかし、実際の癌の発生率はこの計算値より比較にならないほど高いのです。

 

細胞は1回分裂するとの遺伝子当たり2x10-7の確率で変異が起きます。大人のからだはおよそ37兆個の細胞でできています。人のゲノムは22,000個の遺伝子をもち、その中の350個ぐらいが癌関連遺伝子だといわれています1)

 

増殖した細胞の1%がからだを構成しているとすると1つの受精卵は53回ほど分裂することになります。すると1つの細胞で癌関連遺伝子1つが変異している確率は10-5となり、人は4億個のがん細胞をもつことになります。

 

しかし、悪性腫瘍では複数の癌関連遺伝子が同時に変異しており日本人では平均5つの変異があることが示されています2)。人がこのようながん細胞を持つ200億人に1人ということになります。

 

つまりがんになる確率はほとんどゼロということになります。しかし、実際にはほとんどの人はがん細胞の1つや2つは持っているのです。

 

これは遺伝子の中に遺伝子を安定化したり増殖を制御したりする「ミューテーター」があり、これが変異することで変異速度が加速するためだと考えられています3)

 

こうして癌細胞は増殖性、転移性、浸潤性、転移性、薬剤耐性などの形質を次々に獲得して致死的な悪性腫瘍に「進化」するのです1)

 

1) Stratton et al, Nature, 458: 719 (2009)

2) http://www.lsrc.u-toyama.ac.jp/rirc/rirc_pdf/niwa.pdf

3) Loeb, Cancer Res, 51: 3075 (1991)

 

 

馬替生物科学研究所 所長

                     第1種放射線取扱主任者
                                  馬替純二