マウスでは白血病が頻発するのに対してヒトでは固形がんや代謝疾患など加齢に伴う病気が主な死因になります。

 

この違いは「テロメア」の違いだという説があります。テロメアというのは染色体の端についているキャップ構造で、細胞が分裂するたびに少しづつ短くなります。

https://www.jfcr.or.jp/chemotherapy/department/molecular_biotherapy/research/001.html

 

ですからテロメアがなくなるとそれ以上分裂できなくなりヒトの正常体細胞は増殖できなくなります。これを細胞老化と言います。

 

人のゲノムにはテロメアを作る酵素がコードされていてテロメアを維持することも可能ですが、これができるのは生殖細胞など一部の幹細胞や癌細胞などだけで、彼らは無限に増殖することができます。

 

テロメアが生体の寿命も決めているとすれば、テロメア合成酵素が壊れたマウスでは寿命が短くなることが予想されますが、実際にはほとんど影響がでません。

 

マウスのテロメアはヒトの5倍も長く、使い切る前に寿命がくるのでテロメアを補充する必要はないのです。しかし、このマウス同士の交配を5-8代続けるととテロメアも寿命も短くなります1,2)

 

しかもこのマウスでは腫瘍の発生率が格段に上がりヒトと同じように胃がんや乳がんなどが多くなり、糖尿病や動脈硬化などの成人病や骨粗鬆症もおこすようになるのです。

 

ヒトが癌や成人病で死ぬのは天賦の分裂寿命を全うすることができるからかもしれません。

 

1) Rudolph et al, Cell 96:701 (1999)

2) Artandi et al, Nature 406:641(2000)

 

 

馬替生物科学研究所 所長

                     第1種放射線取扱主任者
                                  馬替純二