脳腫瘍全国統計2005-2008についてまとめてきたが、最後にもう少しだけ情報を引き出してみる。

 

 

この報告の特徴を記載しておく。

・組織分類はWHO 2007に基づいており、古い (最新はWHO 2021)。

・「登録数の多い上位25腫瘍」を定義し、その中で部位ごとの頻度ランキングが記載されている。

・上位25腫瘍とは「髄膜腫 (Grade I~III)、びまん性星細胞腫、乏突起膠腫 (Grade II)、退形成性星細胞腫、退形成性乏突起膠腫、膠芽腫、PCNSL、毛様細胞性星細胞腫、上衣腫、退形成性上衣腫、髄芽腫、血管芽腫、Germinoma、神経節膠腫、中枢性神経細胞腫、神経鞘腫、類上皮腫、下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫、脊索腫」など。

 

 

  多発例

 

 

まず多発しやすい腫瘍について情報があった。

 

 

「上位25腫瘍」のうち、多発していたものの登録数

(% はその腫瘍全体の中での多発例の割合)

 

PCNSL

325 (40 %)

膠芽腫

204 (10 %)

髄膜腫 (Grade I)

119 (3 %)

Germinoma

61 (24 %)

退形成性星細胞腫

48 (9 %)

神経鞘腫

48 (3 %)

血管芽腫

29 (12 %)

退形成性乏突起膠腫

23 (6 %)

びまん性星細胞腫

12 (3 %)

毛様細胞性星細胞腫

9 (4 %)

乏突起膠腫 (Grade II)

9 (2 %)  

髄膜腫 (Grade II)

6 (2 %)

髄膜腫 (Grade III)

5 (8 %)

退形成性上衣腫

3 (3 %)

髄芽腫

3 (2 %)

ACTH産生下垂体腺腫

2 (1.2 %)

脊索腫

2 (3 %)

類上皮腫

2 (1.4 %)

中枢性神経細胞腫

1 (1.3 %)


Brain Tumor Registry of Japan (2005-2008). Neurol Med Chir (Tokyo). 2017 Apr; 57(Suppl 1): sl9–sl102. を基に作成
とくに 4. General features of top 25 tumors (2005-2008) の表 5) Multiplicity を参照した

 

 

PCNSL、膠芽腫は確かに多発しそう。
Germinomaもbifocal germinoma (松果体部+鞍上部) とかあるので多発しそう。
髄膜腫や神経鞘腫、血管芽腫の多発例はNF2やVHL関連だろうか??

 

  髄膜播種

 

 

播種例についても情報があった。

 

 

「上位25腫瘍」のうち、播種していたものの登録数

(% はその腫瘍全体の中での播種例の割合)

 

PCNSL

25 (3 %)

膠芽腫

19 (0.9 %)

Germinoma

11 (4 %)

髄芽腫

8 (6 %)

退形成性星細胞腫

7 (1.3 %)

退形成性乏突起膠腫

3 (0.7 %)

髄膜腫 (Grade I)

3 (0 %)

毛様細胞性星細胞腫

1 (0.5 %)

退形成性上衣腫

1 (1.1 %)

PRL産生下垂体腺腫

1 (0.3 %)

類上皮腫

1 (1 %)


Brain Tumor Registry of Japan (2005-2008). Neurol Med Chir (Tokyo). 2017 Apr; 57(Suppl 1): sl9–sl102. を基に作成
とくに 4. General features of top 25 tumors (2005-2008) の表 5) Multiplicity を参照した

 

 

  遺伝性腫瘍症候群

 

 

「上位25腫瘍」のうち、遺伝性腫瘍症候群例の登録数

(% はその腫瘍全体の中での割合)

 

 

NF-1

NF-2

VHL

結節性硬化症

MEN-1

毛様細胞性

星細胞腫

5

(2 %)

 

 

 

 

びまん性

星細胞腫

7

(2 %)

 

 

 

 

退形成性

星細胞腫

2

(0.4 %)

 

 

 

 

膠芽腫

7

(0.3 %)

 

 

 

 

PCNSL

 

1

(0.1 %)

 

 

 

髄膜腫

(Grade I)

1

(0.0 %)

11

(0.3 %)

 

 

1

(0.0 %)

神経鞘腫

4

(0.3 %)

29

(2 %)

1

(0.1 %)

 

1

(0.1 %)

GH産生

下垂体腺腫

 

 

 

 

4

(0.7 %)

PRL産生

下垂体腺腫

 

 

 

 

2

(0.5 %)

非機能性

下垂体腺腫

 

 

 

 

1

(0.1 %)

血管芽腫

 

 

36

(14 %)

 

 


Brain Tumor Registry of Japan (2005-2008). Neurol Med Chir (Tokyo). 2017 Apr; 57(Suppl 1): sl9–sl102. を基に作成
とくに 4. General features of top 25 tumors (2005-2008) の表 14) Incidence of hereditary cancer syndrome を参照した

 

 

血管芽腫はVHLとの関連が比較的強いね。

 

 

  髄膜腫など

 

 

脳実質外腫瘍として知られている腫瘍の登録数は

・ 髄膜腫 3973例

・ Solitary fibrous tumor 24例

・ 血管周皮腫 35例

・ Anaplastic hemangiopericytoma 2例

であった。SFTと血管周皮腫は同じものとされているので、これら全体に占める後3者の割合を計算すると、61/4034 (1.5 %) であった。

 

髄膜腫の発生部位についても記載があった。

部位別の数を合計すると4064と全症例数より多くなってしまったので、複数選択可かもしれない。

 

 

髄膜腫の発生部位

 

円蓋部

970 (24.4 %)

傍矢状洞

451 (11.4 %)

蝶形骨稜

437 (11.0 %)

大脳鎌

391 (9.8 %)

小脳橋角部

324 (8.2 %)

鞍結節

293 (7.4 %)

斜台/斜台錐体部

237 (6.0 %)

テント

212 (5.3 %)

嗅窩

138 (3.5 %)

その他

129 (3.2 %)

中頭蓋窩

101 (2.5 %)

蝶形骨平面

79 (2.0 %)

脳室内

78 (2.0 %)

小脳円蓋

73 (1.8 %)

海綿静脈洞

70 (1.8 %)

大後頭孔

56 (1.4 %)

視神経鞘

25 (0.6 %)


Brain Tumor Registry of Japan (2005-2008). Neurol Med Chir (Tokyo). 2017 Apr; 57(Suppl 1): sl9–sl102. を基に作成
とくに 4. General features of top 25 tumors (2005-2008) の表 9) Tumor origin of meningiomas を参照した

 

 

  眼窩や頭蓋底など

 

 

「上位25腫瘍」のうち、眼窩や頭蓋底等の各部位における頻度の高い上位5腫瘍

 

 

1位

2位

3位

4位

5位

眼窩内

(n=54)

髄膜腫

(Grade I)

18

(33 %)

PCNSL

 

18

(33 %)

神経鞘腫

 

14

(26 %)

非機能性

腺腫

1

(2 %)

類上皮腫

 

1

(2 %)

視神経

(n=43)

髄膜腫

(Grade I)

16

(37 %)

毛様細胞性

星細胞腫

16

(37 %)

びまん性

星細胞腫

4

(9 %)

神経鞘腫

 

3

(7 %)

Germinoma

 

2

(5 %)

脳神経

(n=258)

神経鞘腫

 

255

(99 %)

髄膜腫

(Grade I)

3

(1 %)

 

 

 

斜台

(n=206)

髄膜腫

(Grade I)

139

(67 %)

脊索腫

 

57

(28 %)

類上皮腫

 

6

(3 %)

髄膜腫

(Grade I)

1

(0 %)

神経鞘腫

 

1

(0 %)

海綿静脈洞

(n=99)

髄膜腫

(Grade I)

71

(72 %)

神経鞘腫

 

14

(14 %)

PCNSL

 

5

(5 %)

髄膜腫

(Grade II)

3

(3 %)

脊索腫

 

3

(3 %)

他の頭蓋底

(n=831)

髄膜腫

(Grade I)

668

(80 %)

神経鞘腫

 

62

(7 %)

髄膜腫

(Grade II)

31

(4 %)

頭蓋咽頭腫

 

2

(3 %)

類上皮腫

 

11

(1 %)

 

 

Brain Tumor Registry of Japan (2005-2008). Neurol Med Chir (Tokyo). 2017 Apr; 57(Suppl 1): sl9–sl102. を基に作成
とくに 4. General features of top 25 tumors (2005-2008) の表 8) Ranking of top 25 tumors depending on original region を参照した

 

 

注意点として上位25腫瘍以外の腫瘍は、上記のランキングの対象外であり、nの数にも含まれていない。これらは部位ごとの登録数も記載されていない。

上位25腫瘍以外も含めた「全原発性脳腫瘍」の部位別登録数をみると、眼窩内 156、視神経 52、脳神経 268、斜台 230、海綿静脈洞 121、他の頭蓋底 902 となっている。*


眼窩内は「上位25腫瘍以外」が6~7割を占めており、上記のランキングの信頼性が低いと思われるので、ご注意下さい。


* 2. General features of primary brain tumors (2005-2008) の表 7) Tumor location を参照