これは思ったより難しく、多房性については"multilocular"や"septated"で検索しても、なかなか思うような研究が見つからなかった。
そこで "indeterminate" とか "complex" みたいな括りで調べてみたところ、充実部を伴う病変については多少情報が得られた。先に言っておくと、多房性卵巣嚢胞の内訳については、残念ながらパッとしない結果に終わった。
まずは、イギリスからの報告だ。
2007~2011年にかけてindeterminateな付属器病変に対してMRIが施行された、連続する126例の132病変があった。このうち71病変がincludeされた。
inclusion criteriaは病変内に3 mm以上の造影される充実部があり、組織が得られているが、あるいは2年以上画像フォローされていること。除外されたのは、純粋な嚢胞 (n=10)、充実部が3 mm未満 (n=3)、充実部が造影されない (n=12)、組織がないか、2年以上画像フォローされていない (n=16)、悪性病変の再発例 (n=1)、子宮摘出後 (n=1)、造影剤の血管外漏出 (n=1)、3T装置で撮像 (n=17)。
良性 (n=31) |
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境界悪性+悪性 (n=40) |
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成熟嚢胞性奇形腫 |
9 (12.7 %) |
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漿液性嚢胞腺癌 |
8 (11.3 %) |
嚢胞性腺線維腫 |
6 (8.5 %) |
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転移 |
7 (9.9 %) |
良性漿液性嚢胞腺腫 |
4 (5.6 %) |
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乳頭状嚢胞腺癌 |
3 (4.2 %) |
Brenner腫瘍 |
3 (4.2 %) |
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粘液性嚢胞腺癌 |
3 (4.2 %) |
良性粘液性嚢胞腺腫 |
2 (2.8 %) |
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顆粒膜細胞腫 |
3 (4.2 %) |
卵巣甲状腺腫 |
2 (2.8 %) |
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明細胞癌 |
3 (4.2 %) |
間質性黄体腫 |
2 (2.8 %) |
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粘液性境界悪性腫瘍 |
2 (2.8 %) |
線維莢膜細胞腫 |
1 (1.4 %) |
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漿液性嚢胞腺腫 (境界悪性) |
2 (2.8 %) |
内膜症性嚢胞 |
1 (1.4 %) |
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Sertoli–Leydig細胞腫 |
2 (2.8 %) |
膿瘍 |
1 (1.4 %) |
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漿液性境界悪性腫瘍 |
1 (1.4 %) |
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卵巣漿液粘液性境界悪性腫瘍 |
1 (1.4 %) |
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未熟奇形腫 |
1 (1.4 %) |
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mixed Mullerian tumor |
1 (1.4 %) |
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類内膜腺癌 |
1 (1.4 %) |
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癌巣を伴うmesothelial cyst |
1 (1.4 %) |
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扁平上皮癌を伴う奇形腫 |
1 (1.4 %) |
このリストは結果的に「造影される充実成分を有する卵巣腫瘍」の頻度を反映しているかもしれない。成熟嚢胞性奇形腫が多いのはRokitansky結節のためだろうか?
ちなみに、元の論文の内容は造影効果で良悪性を鑑別するというもののようだ。
次は中国の上海からの報告だ。
2011~2014年にかけて複雑 (Complex) な卵巣腫瘍が疑われ、dynamic MRIが行われた、連続する131例を後方視的に検討した。手術されなかった15例、MRI前に化学療法が行われた5例、画質が悪い4例、明らかな充実成分がない5例は除かれ、最終的に102例がincludeされた。
良性 (n=15) |
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悪性 (n=71) |
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線維莢膜細胞腫 / 莢膜細胞腫 |
11 (10.8 %) |
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高悪性度漿液性癌 |
31 (30.4 %) |
線維腫 |
3 (2.9 %) |
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二次性腫瘍 |
9 (8.8 %) |
稀な精索成分を有する間質腫瘍 |
1 (1.0 %) |
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複雑な腺癌 |
6 (5.9 %) |
境界悪性 (n=16) |
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低分化腺癌 |
5 (4.9 %) |
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漿液性境界悪性腫瘍 |
8 (7.8 %) |
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類内膜腺癌 |
4 (3.9 %) |
粘液性境界悪性腫瘍 |
4 (3.9 %) |
|
明細胞癌 |
4 (3.9 %) |
漿液粘液性境界悪性腫瘍 |
3 (2.9 %) |
|
悪性胚細胞腫瘍 |
4 (3.9 %) |
類内膜境界悪性腫瘍 |
1 (1.0 %) |
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低悪性度漿液性癌 |
3 (2.9 %) |
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粘液腺癌 |
3 (2.9 %) |
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Sertoli-Leydig細胞腫瘍 |
1 (1.0 %) |
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神経内分泌腫瘍 |
1 (1.0 %) |
includeされた卵巣腫瘍の特徴
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良性(n=15) |
境界悪性 (n=16) |
悪性 (n=71) |
主に嚢胞性 |
0 |
9 (56 %) |
25 (35 %) |
嚢胞性と充実性が混在 |
2 (13 %) |
1 (6 %) |
13 (18 %) |
主に充実性 |
13 (87 %) |
6 (38 %) |
33 (47 %) |
このリストは結果的に「充実成分を様々な程度で有する卵巣腫瘍」の組織型の頻度を反映しているかもしれない。
ちなみに、こちらの論文の内容も造影効果で良悪性を鑑別するというもののようだ。
最後はイラン大学の報告だ。
2015~2016年にかけて経膣USで複雑な卵巣腫瘤と診断された患者を前向きにenrollした。「複雑」の定義は充実+嚢胞性で、充実成分が2 mmより大きく、厚さ2 mm以上の隔壁を有する多房性嚢胞であること。
47例がrecruitされ、手術されなかった3例と画質不良の1例を除いた43例を検討した。
平均年齢は39.9±10.5歳 (18-59歳) だった。
良性 (n=27) |
|
悪性 (n=19) |
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内膜症性嚢胞 |
16 (32.7 %) |
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漿液性乳頭状腺癌 |
5 (10.2 %) |
広靱帯の線維腫 |
2 (4.1 %) |
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ディスジャーミノーマ |
2 (4.1 %) |
類皮嚢胞 |
2 (4.1 %) |
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類内膜腺癌 |
2 (4.1 %) |
卵管水腫 |
2 (4.1 %) |
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Krukenburg腫瘍 |
2 (4.1 %) |
粘液性嚢胞腺腫 |
2 (4.1 %) |
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卵巣リンパ腫 |
2 (4.1 %) |
漿液性嚢胞腺線維腫 |
2 (4.1 %) |
|
粘液性嚢胞腺癌 |
2 (4.1 %) |
漿液性嚢胞腺腫 |
1 (2.0 %) |
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Primitive neuroectodermal tumor (PNET) |
2 (4.1 %) |
境界悪性 (n=3) |
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卵黄嚢腫瘍 |
1 (2.0 %) |
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粘液性境界悪性腫瘍 |
2 (4.1 %) |
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漿液性嚢胞腺癌 |
1 (2.0 %) |
漿液性境界悪性乳頭状囊胞性腫瘍 |
1 (2.0 %) |
|
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このリストは結果的に「充実成分を有する卵巣多房性腫瘍」の組織型の頻度を反映しているかもしれない… といいたいところだが、珍しい組織型が多くなっており、とてもそうは言い難い印象だ。
ちなみに、こちらの論文の内容も造影効果で良悪性を鑑別するというもののようだ。
あまりパッとしない結果に終わった。多房性嚢胞については、文献で頻度を調べる方法には正直限界を感じた。。
調べ方が悪いせいかもしれないが。
最後に一応、境界悪性や悪性の頻度については情報があるので記載しておく。
IOTAのデータベースを用い、1066例の1233病変を検討した。
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良性 (n=896) |
悪性 (n=330) |
単房性 (n=377) |
372 (98.7 %) |
5 (1.3 %) |
多房性 (n=213) |
191 (89.7 %) |
22 (10.3 %) |
単房性+充実性 (n=143) |
90 (62.9 %) |
53 (37.1 %) |
多房性+充実性 (n=323) |
184 (57.0 %) |
139 (43.0 %) |
充実性 (n=170) |
59 (34.7 %) |
111 (65.3 %) |
* Table 4. 陽性適中率の数字から計算した。悪性は境界悪性も含むと思われる。良性のうち7例は分類不能。
2011~2015年にかけて卵巣腫瘤に対してUSが行われた連続する851例のうち、病理結果が得られた326例を後方視的に検討した。211例 (64.7%) が良性、115例 (35.3%) が悪性だった。
USでの性状 |
良性 (n=211) |
境界悪性 (n=27) |
悪性* (n=88) |
単房性 |
65 |
0 |
1 |
多房性 |
71 |
6 |
0 |
単房性+充実性 |
19 |
5 |
6 |
多房性+充実性 |
35 |
16 |
36 |
充実性 |
20 |
0 |
45 |
* 元の文献ではStage I, Stage II-IV, 転移あり に分けられて記載されていたが、合算した。