今回は単房性の卵巣嚢胞について調べてみた。

単房性嚢胞の組織に言及した報告が2つあったので引用する。いずれもAbstractしか読んでない。

 

 

単房性で無エコー、壁が平滑な卵巣嚢胞のうち、腹腔鏡手術された127例を後方視的に検討した。

嚢胞腺腫 57例 (44.9%)、機能性嚢胞 15例 (11.8%)、持続性の黄体嚢胞 9例 (7.1%)、嚢胞性奇形腫 7例 (5.5%)、undifferenciated cysts (=診断不能ということ?) 9例 (7.1%) だった。

年齢や嚢胞サイズで分けた群の間に、組織の違いはみられなかった。

 

B Gerber, et al. Histology and cytology of laparoscopically operated "simple ovarian cysts". Geburtshilfe Frauenheilkd. 1995 Jul;55(7):369-73.

 

非機能性卵巣嚢胞に対する穿刺細胞診の有用性を調べるため、1999~2000年にかけてUSで発見された単房性で隔壁のない卵巣嚢胞性腫瘤53例を前向きに研究した。組織学的に確認された内訳は、卵胞嚢胞 25例、黄体囊胞 6例、漿液性嚢胞 15例、粘液性嚢胞 4例。


Z Tahir, et al. Fine needle aspiration of unilocular ovarian cysts--a cytohistological correlation. J Pak Med Assoc. 2004 May;54(5):266-9.

 

 

まあ、そんなところかという感じではある。

 

 

では、良性以外がでる割合はどの程度だろうか。

MRIの研究はあまり網羅的なのが見つからず、USの研究を調べざるを得なかったが、以下の報告があった。

 

 

International Ovarian Tumor Analysis (IOTA) は9カ国の21施設が参加する前向き多施設共同研究であり、卵巣腫瘍を有する患者を経膣USで評価した。そのデータベースに含まれる3511例を後方視的に検討した。

 

IOTAでは「単房性嚢胞」を充実成分や(3mm以上の)高さの乳頭状隆起がなく、無エコーのものと定義した。

3511例のうち、1148例 (33 %) がUSで単房性嚢胞に分類され、そのうち5例 (0.43 %) が境界悪性、6例 (0.52 %) が悪性だった。

 

漿液性境界悪性腫瘍

3例

粘液性境界悪性腫瘍

2例

甲状腺成分に微小癌を伴う成熟奇形腫

1例

腹膜原発漿液性乳頭状腺癌

1例

神経内分泌癌の成熟奇形腫への浸潤

(乳房神経内分泌癌の既往あり)

1例

類内膜癌

1例

卵管癌

1例

粘液性癌の再発

1例

 

このうち6例では、病理医が肉眼的な乳頭状隆起を指摘できた。7例はUS検者が出血性嚢胞とした病変が充実性病変だった。

3例は病理医が肉眼的に乳頭状隆起や充実成分を指摘できなかった。この3例は粘液性境界悪性腫瘍 2例と甲状腺成分に微小癌を伴う成熟奇形腫 1例だった。

 

L Valentin, et al. Risk of malignancy in unilocular cysts: a study of 1148 adnexal masses classified as unilocular cysts at transvaginal ultrasound and review of the literature. Ultrasound Obstet Gynecol. 2013 Jan;41(1):80-9.

 

 

元文献では複数の過去の類似の報告を調べているが、単房性嚢胞で悪性の割合はだいたい1%以下らしい。この報告のように悪性がでているものは少なく、あって境界悪性までのようだ。

 

 

まあ、そりゃそうかという感じではある。

 

 

  単房性嚢胞+隆起性病変

 

 

では単房性嚢胞に隆起性病変があったらどうだろうか。

同じIOTAのデータベースに基づく以下のような報告がある。

 

 

IOTAのデータベースに含まれる3511例を後方視的に検討した。
IOTAでは「乳頭状隆起」を嚢胞内腔に突出する高さ3mm以上の充実組織と定義した。
3511例のうち、252例 (7 %) がUSで隆起性病変を伴う単房性嚢胞に分類され、そのうち良性が163例 (64.7 %)、境界悪性が40例 (15.9 %)、悪性が43例 (17.1 %) だった。

 

良性

163例 (64.7 %)

 内膜症性嚢胞

37例 (14.7 %)

 奇形腫

21例 (8.3 %)

 線維腫

1例 (<1 %)

 漿液性嚢胞腺腫

24例 (9.5 %)

 漿液性乳頭状嚢胞腺腫

4例 (1.6 %)

 漿液性嚢胞腺線維腫

35例 (13.9 %)

 粘液性嚢胞腺腫 / 粘液性嚢胞腺線維腫

3例 (1.2 %)

 その他良性

38例 (15.1 %)

境界悪性

40例 (15.9 %)

悪性 (原発性)

43例 (17.1 %)

転移

6例 (2.4 %)

 

L Valentin, et al. Unilocular adnexal cysts with papillary projections but no other solid components: is there a diagnostic method that can classify them reliably as benign or malignant before surgery? Ultrasound Obstet Gynecol. 2013 May;41(5):570-81.

 

 

補足すると、IOTAでは充実性の部分でも嚢胞内腔に"突出"しないものは、「充実成分」として区別しているようだ。

境界悪性や悪性の組織型の内訳は分からなかった。

 

 

割と良性も多いが、悪性も境界悪性と同じぐらいあるという…

 

 

形態ごとの境界悪性や悪性の頻度については他にも情報があるので引用しておく。

 

 

IOTAのデータベースを用い、1066例の1233病変を検討した。

 

 

良性 (n=896)

悪性 (n=330)

単房性 (n=377)

372 (98.7 %)

5 (1.3 %)

多房性 (n=213)

191 (89.7 %)

22 (10.3 %)

単房性+充実性 (n=143)

90 (62.9 %)

53 (37.1 %)

多房性+充実性 (n=323)

184 (57.0 %)

139 (43.0 %)

充実性 (n=170)

59 (34.7 %)

111 (65.3 %)

* Table 4. 陽性適中率の数字から計算した。悪性は境界悪性も含むと思われる。良性のうち7例は分類不能。

 

D Timmerman. Simple ultrasound-based rules for the diagnosis of ovarian cancer. Simple ultrasound-based rules for the diagnosis of ovarian cancer.

 

 

2011~2015年にかけて卵巣腫瘤に対してUSが行われた連続する851例のうち、病理結果が得られた326例を後方視的に検討した。211例 (64.7%) が良性、115例 (35.3%) が悪性だった。

 

USでの性状

良性

(n=211)

境界悪性

(n=27)

悪性*

(n=88)

単房性

65

0

1

多房性

71

6

0

単房性+充実性

19

5

6

多房性+充実性

35

16

36

充実性

20

0

45

* 元の文献ではStage I, Stage II-IV, 転移あり に分けられて記載されていたが、合算した。

 

EMJ Meys, et al. Estimating risk of malignancy in adnexal masses: external validation of the ADNEX model and comparison with other frequently used ultrasound methods. Ultrasound Obstet Gynecol. 2017 Jun;49(6):784-792.

 

 

上記はいずれもUSの報告なので、ご留意ください。

 

充実性、単房性と調べたので、次は多房性を調べてみたいが、意外といい文献が見つからない。。