以前、中高齢の女性でリンパ節転移で発見された卵巣癌を経験した。
原発巣は対側の萎縮した卵巣よりは大きかったが、性成熟期なら普通ぐらいの大きさで、こんな卵巣癌もあるのかと驚いた。

 

さて充実性の卵巣腫瘍はもちろん良性もあるが、(特にMRIで非特異的な性状ものは) 悪性が多いと思うのだが、どうだろうか。

 

 

充実性卵巣腫瘤には悪性が多いという報告はある。

以下は、インドの大学病院からの報告だ。Abstractしか読んでない。

 

 

1971~1990年にかけて診断された117例の充実性卵巣腫瘍を研究した。全卵巣腫瘍500例のうち、23.4 %を占めていた。19例 (16.2%) が良性で、98例 (83.8%) が悪性だった。

平均年齢は26.8歳で、胚細胞腫瘍の平均年齢は他の群より低かった。15歳未満では、未熟奇形腫 4例、顆粒膜細胞腫 2例を認めた。

 

上皮性腫瘍

28.2 %

胚細胞腫瘍

22.2 %

性索間質性腫瘍

21.4 %

転移

19.7 %

非特異的な腫瘍

8.5 %

 

SP Tyagi, et al. Solid tumours of the ovary. J Indian Med Assoc. 1993 Sep;91(9):227-30.

 

 

ただ、どうやって充実性と判定したのかはよく分からない。

いろいろ探すと、USで充実性腫瘤にみえた病変について研究した報告があった。

 

 

USのBモードで全体が充実性の付属器腫瘤と診断された227例を後方視的に検討した。他院で手術された症例やデータが不完全な症例は除かれた。150例 (66%) は悪性で、77例 (34%) は良性だった。

 

上皮性卵巣癌

94 (41.4%)

転移*

47 (20.7%)

奇形腫

24 (10.6%)

線維/線維莢膜細胞腫

24 (10.6%)

子宮平滑筋腫

14 (6.2%)

Brenner腫瘍

6 (2.6%)

胚細胞腫瘍

4 (1.8%)

性索間質性腫瘍

2 (0.9%)

リンパ腫

2 (0.9%)

肉腫

2 (0.9%)

境界悪性腫瘍

2 (0.9%)

卵巣卵管膿瘍

2 (0.9%)

嚢胞腺線維腫

2 (0.9%)

内膜症性嚢胞

2 (0.9%)

* 転移の原発巣は、乳房 11例、S状結腸 11例、胃 10例、肺 2例、子宮平滑筋肉腫 2例、子宮内膜癌 1例、肝 1例、虫垂 1例、胆管 1例、尿管 1例。

 

J Alcazar, et al. Predicting malignancy in entirely solid-appearing adnexal masses on gray-scale ultrasound based on additional ultrasound findings, clinical complaints and biochemical parameters: a retrospective study. Ultrasound Obstet Gynecol 2017; 49: 784–792.

 

奇形腫や内膜症性嚢胞はUSでは充実性にみえることもあるのかもしれない。

手術例に限っているので悪性が多くなっている可能性もありうるかもしれない。

 

さて以下もUSの報告だが、結果が興味深かったので引用しておく。

良性/悪性の組織型の内訳は、元の文献に記載がある。

 

 

2011~2015年にかけて卵巣腫瘤に対してUSが行われた連続する851例のうち、病理結果が得られた326例を後方視的に検討した。211例 (64.7%) が良性、115例 (35.3%) が悪性だった。

 

USでの性状

良性

(n=211)

境界悪性

(n=27)

悪性*

(n=88)

単房性

65

0

1

多房性

71

6

0

単房性+充実性

19

5

6

多房性+充実性

35

16

36

充実性

20

0

45

* 元の文献ではStage I, Stage II-IV, 転移あり に分けられて記載されていたが、合算した。

 

EMJ Meys, et al. Estimating risk of malignancy in adnexal masses: external validation of the ADNEX model and comparison with other frequently used ultrasound methods. Ultrasound Obstet Gynecol. 2017 Jun;49(6):784-792.

 

 

調べ方が悪いのかもしれないが、MRIでnの大きな報告は見つけられなかった。

 

小児に限った報告もあった。以下はスペインの報告だ。

 

 

1994~2017年にかけて、14歳以下の充実性卵巣腫瘍の手術例を後方視的に検討した。31例に37病変を認め、6例は両側性だった。USとCTは全例で行われ、いくつかの例でMRIも行われた。

なお、両側線維腫を認めた12歳女児はGorlin症候群だった。両側性腺芽細胞腫を認めた5歳女児はFrasier症候群だった。

 

 

全病変 (n=37)

成熟嚢胞性奇形腫

20 (54.1 %)

漿液性嚢胞腺腫

7 (18.9 %)

粘液性嚢胞腺腫

3 (8.1 %)

線維腫

3 (8.1 %)

性腺芽細胞腫

2 (5.4 %)

未熟奇形腫

1 (2.7 %)

ディスジャーミノーマ

1 (2.7 %)

 

FV Rueda, et al. Analysis of solid ovarian tumours in a Spanish paediatric population. An Pediatr (Engl Ed). 2020 Feb;92(2):88-93.

 

 

次もスペインの報告。Abstractしか読んでないが、以下の内容が分かった。

 

 

1972~2007年にかけての小児の充実性卵巣腫瘍53例を検討した。年齢の中央値は9.2歳 (0.9-14.2歳)。

 

成熟奇形腫

26例

未熟奇形腫

10例

ディスジャーミノーマ

8例

顆粒膜細胞腫

5例

卵黄嚢腫瘍

2例

性腺芽細胞腫

1例

胎児性癌

1例

 

MM Andrés, et al. Solid ovarian tumours in childhood: a 35-year review in a single institution. Clin Transl Oncol. 2010 Apr;12(4):287-91.

 

 

ただし、いずれもどのような方法で「充実性」と判定したのか謎ではある。

 

MRIへのアクセスが良い本邦で「充実性」卵巣腫瘍の鑑別として成熟奇形腫や漿液性/粘液性嚢胞腺腫などが上位に挙がるかは疑問がある。