アメリカのマサチューセッツ総合病院から、次のような報告がある。
2000~2008年に膵嚢胞性腫瘍疑いで精査された566例を後方視的に検討した。330例が偶発発見例であり、これらの術前診断と最終診断を対比した。136例 (41 %) が早期に手術され、これらの術前診断の正診率は68 %だった。
早期に手術された症例の術前診断/術後診断 (n=136)
術前診断 |
術後診断 |
分枝型IPMN 50例 (37 %) |
分枝型IPMN 32例、混合型IPMN 10例、SCA 2例、MCN 1例、分類不能な良性膵嚢胞 5例 |
主膵管型IPMN 16例 (12 %) |
主膵管型IPMN 15例、MCN 1例 |
SCA 12例 (9 %) |
SCA 11例、MCN 1例 |
MCN 30例 (22 %) |
MCN 18例、分枝型IPMN 4例、Cystic NET 3例、SPN 2例、SCA 1例、cysticな腺房細胞癌 1例、分類不能な良性膵嚢胞 1例 |
Cystic NET 8例 (6 %) |
Cystic NET 4例、SCA 2例、SPN 2例 |
嚢胞型膵管癌 2例 (1 %)、 SPN 4例 (3 %)、 その他 3例 (3 %) |
このうち4例正診 (Table 2と他の結果から、これらの最終診断の内訳はおそらくSCA 2例、SPN 4例、その他 3例) |
特定の術前診断の記載なし 11例 (7 %) |
MCN 4例、SCA 4例、SPN 1例、Cystic NET 1例、リンパ上皮性嚢胞 1例 |
SCA:漿液性嚢胞腺腫、MCN:粘液性嚢胞腫瘍、SPN:solid pseudopapillary neoplasm
上記の続き。179例 (54 %) はサーベイランスとなり、そのうち23例は最終的に手術された。
術前診断と最終診断が一致したのは12例 (52 %) だった。
最終的に手術された症例の術前診断/術後診断 (n=23)
初期診断 |
手術時の診断 → 最終診断 |
分枝型IPMN 12例 |
分枝型IPMN → 分枝型IPMN 4例 → 主膵管型IPMN → 混合型IPMN → SCA → MCN → リンパ管腫 → 分類不能な良性膵嚢胞 2例 MCN → 分類不能な良性膵嚢胞 |
SCA 2例 |
SCA → SCA MCN → MCN |
MCN 2例 |
MCN → 分枝型IPMN IPMN → SCA |
リンパ上皮性嚢胞 1例 |
リンパ上皮性嚢胞 → リンパ上皮性嚢胞 |
仮性嚢胞 1例 |
混合型IPMN → 混合型IPMN |
不明 5例 |
主膵管型IPMN → 主膵管型IPMN MCN → MCN → 分子型IPMN 不明 → SCA → MCN |
この他にも、有料でAbstractしか読めなかったが類似の報告があり、術前診断の正診率は78-60.9 %のようだ。
以下のようなアメリカのメモリアル・スローン・ケッタリングがんセンターからの報告がある。
1995~2010年にかけて膵嚢胞と診断された1424例が前向きに登録された。患者数は毎年約8 %ずつ増加していた。
422例が初診から6ヶ月以内に手術され、上皮内癌を含む悪性が94例 (23 %)、悪性化するリスクがある病変が169例 (52 %) だった。
最初に手術されず、 6ヶ月以上画像フォローされた719例のうち、47例 (6.5 %) が後に手術された。そのうち12例 (25 %) が悪性だった。
|
初診から6ヶ月以内に手術 (n=422) |
フォロー後に手術(n=47) |
||
|
1995~2005年(n=199) |
2005~2010年 (n=223) |
合計 |
|
IPMN (非浸潤性) |
33 (17 %) |
81 (36 %) |
114 (27 %) |
21 (45 %) |
腺癌 |
25 (13 %) |
35 (16 %) |
60 (14 %) |
8 (17 %) |
漿液性嚢胞腺腫 |
68 (34 %) |
30 (13 %) |
98 (23 %) |
5 (11 %) |
粘液性嚢胞腺腫 |
25 (13 %) |
20 (9 %) |
45 (11 %) |
3 (6 %) |
内分泌腫瘍 |
10 (5 %) |
16 (8 %) |
27 (7 %) |
4 (8 %) |
仮性嚢胞 |
16 (8 %) |
2 (1 %) |
18 (4 %) |
2 (4 %) |
Solid pseudopapillary tumor (SPT) |
4 (2 %) |
4 (2 %) |
8 (2 %) |
― |
単純嚢胞 |
10 (5 %) |
18 (8 %) |
28 (7 %) |
― |
その他 |
7 (3 %) |
12 (5 %) |
19 (4 %) |
2 (4 %) |
もちろん手術例の報告なので、画像でみつかる頻度とは異なっているかもしれないが…
おまけ
opeされないし、剖検でないと分からなさそうなので、その方面で調べてみた。
有料で読めないが、以下のような報告があった。
連続する300例の剖検のうち、73例 (24.3 %) に186の嚢胞性病変を認めた。年齢とともに嚢胞性病変の有病率は増加した。嚢胞性病変の上皮の異型を組織学的に5群に分類すると、正常が47.5 %、異型のない乳頭状過形成が32.8 %、異型のある過形成が16.4 %、carcinoma in situが3.4 %、浸潤癌が0 %だった。嚢胞性病変に隣接する拡張した分枝膵管の上皮は、嚢胞性病変自体の上皮と類似した異型の程度を示した。主膵管の上皮の異型は2例を除き、軽度であった。
また2300例の高齢者の剖検のうち7例で小さな膵管癌を認め、そのうち2例で小さな癌性の嚢胞病変を認めた。小さな嚢胞性病変は悪性のpotentialがありそうだが、さらなる研究が必要だ。
この文献は膵嚢胞の剖検報告として、よく引用されているようだ。発表時期的に、まだIPMNとMCNの異同が議論され、混沌としていた時期のものかもしれない。
https://publish.m-review.co.jp/files/tachiyomi_J0001_3501_0009-0012.pdf
著者の木村先生は後年「3mmの膵嚢胞で浸潤を始めているものや、8mmの膵管拡張にin situ carcinomaが存在し,浸潤していないものもありました。後者は今考えるとIPMN の“芽”のようなものだったのかもしれません」と口演で語られている。
木村 理. 膵臓病学の真髄へ. 膵臓 28:1-10, 2013.
他にも近年の剖検例の報告もあり、やはり異型の有無が論じられているようだが、IPMNかどうかはAbstractからは伺えなかった (有料で中身読んでない)。
なおIPMNの規約での定義は「粘液を入れた肉眼的な膵管拡張を特徴とする膵管上皮性腫瘍で,拡張膵管内面に種々の乳頭状構造および異型を呈する腫瘍性上皮の増生を見る」らしい。