充実性腎腫瘤は腎癌のことが多いが、3回ほどオンコサイトーマにやられたことがある。いずれも多血性で淡明細胞型腎細胞癌と区別がつかなかった。
腎癌のmimickerとしてはfat poor AMLも有名だが、実際の頻度はどうなのだろう?

 

まず本邦の研究だが、無料ではなく、Abstractしか読めなかった。

 

1993~2007年にかけて腎細胞癌が疑われて腎部分切除術が行われた、連続する176例の日本人患者を検討した。病変の平均サイズは2.3cm (0.3~5.8cm) だった。良性は19例 (11 %) にみられた。

 

血管筋脂肪腫

10 (5.7 %)

オンコサイトーマ

5 (2.8 %)

complicated cyst

2 (1.1 %)

Solitary fibrous tumor

1 (0.6 %)

腎瘢痕

1 (0.6 %)

 

血管筋脂肪腫10例のうち、8例は女性だった。良性11 %というのは西欧諸国の既報における20~30 %より低いが、これは日本人でオンコサイトーマの発生率が低いからかもしれない。女性は男性に比べ血管筋脂肪腫の発生率が高いので、良性病変の可能性も男性より5倍高い。

 

Y Fujii, et al. Incidence of benign pathologic lesions at partial nephrectomy for presumed RCC renal masses: Japanese dual-center experience with 176 consecutive patients. Urology. 2008 Sep;72(3):598-602.

 

国や地域、性別によって異なるのか…
たしかにfat poor AMLは若年女性に多いと教科書に書いてある。

 

アメリカのデータベースを用いて腎部分切除された18060例を検討した研究では、2007~2014年にかけて、毎年3割ぐらい恒常的に良性がでているらしい。

 

JH Kim, et al. Association of Prevalence of Benign Pathologic Findings After Partial Nephrectomy With Preoperative Imaging Patterns in the United States From 2007 to 2014. JAMA Surg. 2019 Mar 1;154(3):225-231.

 

ただし、これは後述のメタアナリシスの文献中でもかなり高めの方のようだ。

さすがに日本ではそこまで良性の比率は高くない気がする…

 

さて、次にフランスのフォッシュ病院の報告を紹介しよう。

 

 

充実性腎腫瘤に対する119回の生検の結果、79例は悪性 (58.8%)、24例は良性 (20.1%)、25例は診断つかず (21.0 %) だった。生検対象は4 cm以下あるいは論文に記載の悪性の診断基準を満たさないequivocalな腎腫瘤。

なお、術前の生検なしに腎摘出術が行われた323例の充実性腎腫瘤 (平均サイズ:68.3 mm) のうち、26例 (8%) は良性と診断された。

 

悪性 (n=70)

淡明細胞型腎細胞癌

41例

 

嫌色素性腎細胞癌

4例

 

乳頭状腎細胞癌

12例

 

腎盂癌

4例

 

転移

8例

 

リンパ腫

1例

良性 (n=24)

オンコサイトーマ

15例

 

血管筋脂肪腫

4例

 

膿瘍/黄色肉芽腫性腎盂腎炎

5例

診断つかず (n=25)

正常腎実質

12例

 

壊死組織

1例

 

線維化を伴う炎症組織

12例

 

T Lebret, at al. Percutaneous core biopsy for renal masses: indications, accuracy and results. J Urol. 2007 Oct;178(4 Pt 1):1184-8; discussion 1188.

 

オンコサイトーマの方がAMLより多いが、先の論文の記載からは本邦の傾向とは異なるのかもね。
黄色肉芽腫性腎盂腎炎は嚢胞性腎癌と鑑別困難な例を経験したことがあるので、個人的には馴染みがある。。

 

手術例の研究もだが、生検例の研究もセレクション・バイアスがかかっているかもしれない。

あと、色々探していたらメタアナリシスを見つけた。

 

腎部分切除術後に良性の病理が出る割合を調べるため、メタアナリシスを行った。

79の観察研究 (36528例) と65の比較研究 (17136例) の合わせて144研究が対象となった。

良性の病理が出た割合は19.2 % (17.8-20.6) だった。良性病変3447例の内訳を示す。

 

血管筋脂肪腫

1041例 (30.2 %)

 

Hybrid oncocytic tumor

2例 (0.06 %)

オンコサイトーマ

1534例 (44.5 %)

 

血管腫

2例 (0.06 %)

嚢胞

379例 (11.0 %)

 

レニン産生腎腫瘍

1例 (0.03 %)

後腎性腺腫

21例 (0.61 %)

 

線維化

2例 (0.06 %)

平滑筋腫

15例 (0.44 %)

 

結石

1例 (0.03 %)

種々雑多なもの

12例 (0.35 %)

 

神経鞘腫

1例 (0.03 %)

炎症性偽腫瘍

10例 (0.29 %)

 

過誤腫

1例 (0.03 %)

黄色肉芽腫性

5例 (0.15 %)

 

Solitary fibrous tumor

1例 (0.03 %)

瘢痕あるいは正常組織

4例 (0.12 %)

 

悪性黒色腫の転移

1例 (0.03 %)

感染性病変

3例 (0.09 %)

 

その他

411例 (11.92 %)

 

JH Kim, et al. Prevalence of benign pathology after partial nephrectomy for suspected renal tumor: A systematic review and meta-analysis. Int J Surg. 2020 Dec:84:161-170.

 

まあ、やはり血管筋脂肪腫やオンコサイトーマが多いね。

 

当初は充実性腎腫瘤に限って調べるつもりだったが、上記の報告などは嚢胞性病変も混じっているかもしれない。

あと本当は多血性と乏血性で分けて考えたかったが、あまりいい報告が見つからなかった…