膵癌と鑑別が難しいものとして、腫瘤形成性膵炎が知られているが、どれぐらい頻度であるものなのだろうか?

 

アメリカのエモリー大学医学部の報告を紹介しよう。

「膵癌が疑われて」膵頭十二指腸切除術が行われた症例を検討している。

 

 

1998~2011年に膵癌が疑われて膵頭十二指腸切除術が行われた878例を検討した。CTは紹介前によく行われ、所見は全例で外科医のノートに記録されていた。95例 (10.8%) の最終病理が良性だった。この95例のうち、85例 (89.5%) でMRI が、25例 (26.3%) でEUS/ FNAが、32例 (33.7%)でERCPが行われていた。最終的な診断を以下に示す。

 

自己免疫性膵炎

6 (6.3 %)

慢性線維性膵炎

20 (21 %)

慢性膵炎

18 (18.94 %)

限局性活動性膵炎

11 (11.57 %)

Groove膵炎

14 (14.73 %)

動静脈奇形

1

梗塞を伴う慢性膵炎

2 (2.1 %)

肉芽腫性膵炎

1

壊死性膵炎

5 (5.26 %)

腫瘤形成性膵炎

6 (6.3 %)

限局性脂肪壊死

2 (2.1 %)

結石を伴う慢性膵炎

2 (2.1 %)

脂肪腫

1

Lipomatose pseudohypertrophy

1

膵管内腺腫

1

黄色肉芽腫性炎症

1

血栓化した仮性動脈瘤

1

血栓化した脈管を伴う慢性膵炎

1

十二指腸憩室による慢性膵炎

1

 

SS Yarandi, et al. Increased Incidence of Benign Pancreatic Pathology following Pancreaticoduodenectomy for Presumed Malignancy over 10 Years despite Increased Use of Endoscopic Ultrasound. Diagn Ther Endosc. 2014:2014:701535.

 

もちろん手術例を検討しているので、実際の疾患頻度を反映しているとは限らない。

なお、元の論文の趣旨はEUSが行われる頻度が増加しているものの、術後に良性と判明する割合が減っていないというものだ。

 

腫瘤形成性膵炎と慢性膵炎関連で半分以上を占めているね。

 

イギリスのクイーンエリザベス大学病院からの報告も紹介しよう。

膵頭十二指腸切除術が行われた症例を検討しており、おそらくは術前に遠位胆管癌や乳頭部癌が疑われていた症例も含まれている。

 

 

1997~2006年にかけて膵頭十二指腸切除術が行われた499例を前向きに検討した。術前検査として腹部US、造影CT、そして症例を選んでMRIが行われた。

悪性が疑われて手術した459例のうち、49例 (10.6 %) が良性疾患だった。

良性が疑われて手術した40例のうち、11例 (27 %) が悪性疾患だった。

 

良性が疑われたが悪性 (n=11) (術前→術後診断)

 

悪性が疑われたが良性 (n=49) (術前→術後診断)

十二指腸腺腫 → 乳頭部癌

1

 

膵頭部腫瘤 → 慢性膵炎

14

乳頭部腺腫 (軽度異形成) → 乳頭部癌

3

 

      → 炎症性総胆管狭窄

5

乳頭部腺腫 (軽度異形成) → 腺癌

1

 

      → 腺腫

4

慢性膵炎 → 腺癌

1

 

      → 良性乳頭疾患

1

慢性膵炎 → 非機能性内分泌腫瘍

1

 

      → 炎症性偽腫瘍

1

膵頭部嚢胞腫瘤 → IPMN with 腺癌

2

 

      → 遠位総胆管の血管奇形

1

膵頭部嚢胞腫瘤 → 腺房細胞癌

1

 

胆管細胞癌 → 炎症性総胆管狭窄

5

膵頭部嚢胞腫瘤 → solid papillary cystic carcinoma

1

 

      → 良性乳頭疾患

2

 

 

 

      → 慢性膵炎

1

 

 

 

乳頭部/十二指腸癌 → 腺腫

7

 

 

 

          → 慢性膵炎

5

 

 

 

乳頭癌部癌 → 良性乳頭疾患

1

 

 

 

      → 胆管乳頭腫

1

 

 

 

      → 十二指腸潰瘍

1

 

2006年からEUS-FNAがルーチンで行われるようになり、2006~2008年にかけて手術された85例では、診断特異度が向上していた (37 %→75 %)。

 

TM Manzia, et al. Benign disease and unexpected histological findings after pancreaticoduodenectomy: the role of endoscopic ultrasound fine needle aspiration. Ann R Coll Surg Engl. 2010 May; 92(4): 295–301.

 

なお全体としてどのくらいの症例が「膵癌疑い」「胆管癌疑い」「乳頭部癌疑い」だったのか、それぞれの内訳はよくわからなかった。

 

参考までに、別の報告で悪性疾患に対し膵頭十二指腸切除術が行われた内訳は膵癌 63%、胆管癌 9 %、乳頭癌 15 %、十二指腸癌 9%だった。もちろん施設により割合は異なっているだろうが。

 

JWC Chen, et al. Predicting patient survival after pancreaticoduodenectomy for malignancy: histopathological criteria based on perineural infiltration and lymphovascular invasion. HPB (Oxford). 2010 Mar; 12(2): 101–108.

 

やはり1割ぐらい良性が出ているね。まあ現在の状況はもう少し変わっているかもしれないが…
 
個人的には胆管癌と区別がつかない硬化性胆管炎を数例経験したので、「炎症性総胆管狭窄」が10例あることに診断の難しさを感じる…
あと、膵、胆管、乳頭部のいずれの病変か判別が難しい例も一定数あることが分かる。

 

他に有料なのでAbstractしか読めないが、比較的最近の報告で、膵頭十二指腸切除術446例のうち、29例 (6.5 %) が予期せぬ良性だったいうものもあった。論文のタイトルには「不可避のものとして受け入れる」とある。まあどうしても難しい症例はあるよね…

 

RM Gomes, et al. Unexpected benign histopathology after pancreatoduodenectomy for presumed malignancy: accepting the inevitable. Langenbecks Arch Surg. 2016 Mar;401(2):169-79.