中高年女性。肝両葉に早期濃染、washoutを示す境界明瞭で粗大な腫瘤が多発。
HCCをまず考えたが、背景肝はきれいで腫瘍マーカーも正常だった。
違和を感じ、NETや原発不明癌の転移も鑑別に挙げた。

肝生検され、結果はNETだった。詳細に検討すると小腸に小さな多血性病変があり、原発巣として疑われた。

 

HCCのmimickerとなる病変は、他に何があるだろうか。
肝血管筋脂肪腫が有名だが…
個人的にはHCCと見分けがつかない偽リンパ腫もみたことがある…

 

下記の文献では、
 A-P shunt、血管腫、限局性脂肪沈着/正常化域、炎症性病変、
 慢性的な門脈血栓による偽腫瘤、塊状線維化巣、胆管細胞癌、
 血管筋脂肪腫、FNH-like lesion、Osler病の血管塊
がmimickerとして挙げられている。

 

TK Kim, et al.Imaging findings of mimickers of hepatocellular carcinoma.Clin Mol Hepatol. 2015 Dec; 21(4): 326–343.

 

頻度も知りたい。

 

難しいところだが、次のような文献もある。

 

 

肝硬変を有し、HCCが疑われて生検が施行された連続する167例を検討した。患者は前方視的に集められ、HCCの疑いがあり、生検が可能な患者には生検が行われた。生検が行われなかったのは、最初から手術が検討された患者や腹水貯留例、低血小板例、凝固異常、生検困難など。
造影CTと細胞外液性造影剤を用いたMRIが、LI-RADS 2018に基づいて読影され、良性あるいはHCC以外が疑われた患者は除かれた。
167例中、137例 (82 %) が生検で診断され、そのうち114例 (83.2 %) がHCCであり、12例が他の悪性病変 (肝内胆管癌 9例、混合型肝癌 1例、血管肉腫 1例、大腸癌転移 1例)、7例が異型結節、4例が良性病変 (大型再生結節、腺腫、血管腫、非特異的な線維炎症性病変) だった。
残りの30例 (18 %) の生検では腫瘍性変化が得られなかった。そのうち20例は既往やフォロー経過よりHCCと考えられ、5例はフォロー中に良性病変と示され、5例はフォローされなかった。

 

 

HCC

HCC以外

LR-4 (n=27)

19

8 (3例は異型結節、5例は良性病変)

LR-5 (n=100)

89

11 (3例は異型結節、2例は肝内胆管癌、1例は大腸癌肝転移、5例は良性病変)

LR-TIV (n = 18)

16

2 (2例は肝内胆管癌)

LR-M (n = 11)

6

5 (4例は肝内胆管癌、1例は血管肉腫)

 

B Brusset, et al. Radiological diagnosis of hepatocellular carcinoma does not preclude biopsy before treatment. JHEP Rep. 2024 Jan; 6(1): 100957.

 

LIRADS 2018のLR-5は、ざっくりいうと早期濃染を示す1cm以上の結節で、被膜様濃染、washout、増大傾向のうち1つ以上の特徴を有するものであり、早期濃染/washoutと同義ではない。しかし、意外と1割ぐらい外れたよう…

 

この研究では異型結節、肝内胆管癌あたりが多くmimickerとなり、血管筋脂肪腫や偽リンパ腫はなかったのか。

 

"良性病変"の内容は不明なので、もしかするとそこに含まれていたりして…

 

ところで肝移植で摘出された肝臓と、術前のMRIを比較した研究は沢山あるらしい。

以下のレビューでは、HCCが疑われたが実際にはHCCがなかった患者の診断がまとめられていた。

 

 

慢性肝疾患があり、HCCが疑われた成人に対するMRIの診断精度を調べるために34文献 (4841例) をレビューした。

HCCの診断におけるMRIの感度は84.4 % (80.1-87.9%)、特異度は93.8 % (90.1-96.1%) だった。
移植の摘出肝を対象とした研究のうち、実際にはHCCがなかった患者の診断は6文献で記載されていた。

 

 

患者数

HCCがなかった患者

内訳*

de Lédinghen (2002)

34

13

異型結節8例、巨大再生結節6例

Libbrecht (2002)

49

14

血管腫1例、FNH 1

Hanna (2008)

48

23

限局性線維化域3例、脈管3例、良性再生結節3例

Yu (2011)

638

99

異型結節あるいは再生結節 6例、血管腫 2例、

限局性梗塞1例

Hwang (2014)

63

11

異型結節15例、大きな再生結節3例

Villacastin Ruiz (2016)

273

164

胆管細胞癌6例、血管腫 2例、異型結節6例

 

生検結果を対象とした研究のうち、実際にはHCCがなかった患者の診断は、4文献で記載されていた。

 

 

患者数

HCCがなかった患者

内訳*

Giorgio (2007)

73

25

再生結節8個、異型結節4個、限局性脂肪肝6個、血管腫4個、転移1個、非ホジキンリンパ腫1個、FNH 1

Sangiovanni (2010)

64

22

胆管細胞癌2個、軽度異型結節3個、巨大再生結節18

Sersté (2012)

74

27

異型結節7個、巨大再生結節9個、胆管細胞癌1個、類上皮血管内皮腫1個、慢性肝疾患の領域9個

Shin (2017)

75

18

異型結節1個

 

*“個”なのか”例”なのか不明なため、一応”個”で記載した。

 

T Nadarevic, et al. Magnetic resonance imaging for the diagnosis of hepatocellular carcinoma in adults with chronic liver disease. Cochrane Database Syst Rev. 2022 May 6;5(5):CD014798

 

患者数は個々の研究の規模を把握するために一応記載しておいた。

申し訳ないが、個々の研究は詳しく読んではいない。無料で読めないものも多い。

 

HCCと実際に間違えられた病変としては、再生結節、異型結節あたりが多く、胆管細胞癌も比較的あるかもしれない?

まだまだ調べる余地はありそうだが…