パーキンソン病とその類縁疾患の疾患割合
病院が変わり、神経内科の読影をする機会が増えた。パーキンソニズムの精査が多いのだが (あと認知症も)、パーキンソニズムを来す疾患群の疫学はどうなっているのだろうか…パーキンソニズムの原因には変性疾患と二次性がある。変性疾患として パーキンソン病 (PD) 線条体黒質変性症 (多系統萎縮症のうちMSA-P) 進行性核上性麻痺 (PSP) 大脳皮質基底核変性症 (CBD) 本態性振戦 パーキンソン認知症複合 (牟婁病)などがあり、二次性には薬物性や脳血管性などがある。厚生労働科学研究費補助金難治疾患克服研究事業 神経変性疾患に関する調査研究班.パーキンソン病と関連疾患 (進行性核上性麻痺 大脳皮質基底核変性症) の療養の手引き. p3.PD, MSA, PSP, CBDは指定難病になっており、受給者証所持者数などで、本邦の患者数をある程度推計できる。特定医療費(指定難病)受給者証所持者数(令和4年度末) 総数 0~ 9歳 10~ 19歳 20~ 29歳 30~ 39歳 40~ 49歳 50~ 59歳 60~ 69歳 70~ 74歳 75歳 以上 パーキン ソン病 143267 - 4 17 138 1109 5598 19866 26688 89847 脊髄小脳 変性症 * 26476 - 30 315 895 1952 3555 5309 4491 9929 進行性核 上性麻痺 12830 - - 1 - 6 124 1209 2312 9178 多系統 萎縮症 10808 - - - 10 167 1359 2967 2389 3916 大脳皮質 基底核 変性症 4428 - - - 1 12 117 604 971 2723 ハンチン トン病 892 - 1 8 34 133 210 207 124 175 神経有棘 赤血球症 36 - - 1 8 8 9 6 4 - * 多系統萎縮症を除く上記を基にしたPD, PSP, MSA, CBDの4疾患の年齢別の比率出典: 厚生労働省「令和4年度衛生行政報告例」 図はデータを元に本サイトで作成脊髄小脳変性症、ハンチントン病、神経有棘赤血球症はパーキンソン病類縁疾患ではない?のかもしれないが、教科書で近い場所に記載されているし、不随意運動をきたしうるので、併せて記載してみた。意味があるか分からないが、グラフも作成してみた。ただし指定難病の受給者数には、・後期高齢者医療制度や障害者医療費助成制度などの利用で、難病患者がすべて特定疾患医療受給制度による医療を受給しているわけではない。・都道府県により受給者証の交付基準が一律でない。といった注意点もあるそうだ。中村好一.難病の患者数と臨床疫学像把握のための全国疫学調査マニュアル 第3版. 2017, p3-4.また難病認定される基準の一つに重症度分類があり、たとえばパーキンソン病ならYahr 3度以上かつ生活機能障害度2度以上などとなっている。このため比較的症状の軽い患者の数はあまり反映されていないかもしれない。二次性パーキンソニズムも含めると?二次性パーキンソニズムも含め、広くパーキンソニズムを呈する患者集団で考えると、どうなるのだろうか?実際のオーダーでも「パーキンソニズム精査」とかあるよね…?パーキンソニズムがある人を広くスクリーニングし、原因疾患を調べた報告はいくつかあるようだった。まず以下の2報告を引用するが、いずれも有料でAbstractしか読んでない。パーキンソン病と他のタイプのパーキンソニズムの有病率を調べるため、スペインの3地域で調査を行った。調査は戸別訪問で2段階アプローチ (65歳以上の被験者に対し簡単なアンケートを行い、陽性なら神経科医が調べる) で行った。5278人を調べ、118人 (2.2 %) にパーキンソニズムがあった。原因 パーキンソン病 81(68.6%) 薬剤性パーキンソニズム 26(22.0%) Parkinsonismindementia 6(5.1%) 血管性パーキンソニズム 3(2.5%) 非特異的なパーキンソニズム 2(1.7%) J Benito-León, et al.Prevalence of PD and other types of parkinsonism in three elderly populations of central Spain.Mov Disord. 2003 Mar;18(3):267-274.ブラジルのバンブイでパーキンソニズムの有病率と原因を調べるため調査を行った。64歳以上の1186人に対し、アンケートでスクリーニングを行い、2点以上なら内科医が診察した。86名 (7.2 %) にパーキンソニズムがあった。原因 パーキンソン病 39 薬剤性パーキンソニズム 32 血管性パーキンソニズム 12 外傷後パーキンソニズム 1 多系統萎縮症 1 MT Barbosa, et al.Parkinsonism and Parkinson's disease in the elderly: a community-based survey in Brazil (the Bambuí study).Mov Disord. 2006 Jun;21(6):800-8.いずれも薬剤性パーキンソニズムがパーキンソン病の次に多いという結果になっていた。また以下はヘルシンキ大学病院の報告で、元々は本邦でのダットスキャン的な検査の有用性を調べたものだ。1996~1998年にかけて、病歴と神経学的所見から線条体疾患が疑われて神経科に紹介された連続する185例を検討した。123-I β-CIT SPECT (本邦の123i-ioflupaneみたいなもの) およびCT and/or MRIが行われ、少なくとも2年のフォローアップ後に、2人の神経科医により最もふさわしい診断がなされた。診断 (n=185) パーキンソン病 92(49.7%) 進行性核上性麻痺 4(2.2%) 心因性パーキンソニズム 20(10.8%) 非特異的な運動失調 2(1.1%) 本態性振戦 16(8.6%) Alzheimer病 1(0.5%) 血管性パーキンソニズム 15(8.1%) 頸椎椎間板脱出 1(0.5%) 薬剤性パーキンソニズム 12(6.5%) 神経梅毒 1(0.5%) 多系統萎縮症 8(4.3%) 正常圧水頭症 1(0.5%) レビー小体型認知症 5(2.7%) 神経根炎の後遺症 1(0.5%) ジストニア 5(2.7%) 外傷後の錐体外路症状 1(0.5%) J Eerola, et al.How useful is [123I]ß-CIT SPECT in clinical practice?J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2005 Sep; 76(9): 1211–1216.アンケートで患者を探した研究よりも、病院受診者を調べた報告の方が、画像診断医の経験する頻度に近かったりして…こんなのもあった。オランダのマーストリヒト大学病院の報告のようだ。経頭蓋USで黒質を評価し、パーキンソン病を診断する精度を調べるために前向き研究を行った。臨床的に原因が明確でないパーキンソニズム (clinically unclear parkinsonism) のために紹介された連続する283例のうち、42例は初回の診察で確定診断が得られ、45例は側頭骨窓からUSでアプローチできなかったので除外された。残りの196例を検討した。最終診断 (n=196) パーキンソン病 102(52.0%) 血管性パーキンソニズム 21(10.7%) 本態性振戦 20(10.2%) 多系統萎縮症 8(4.1%) 薬剤性パーキンソニズム 7(3.6%) 進行性核上性麻痺 6(3.1%) Lewy小体型認知症 6(3.1%) 大脳皮質基底核変性症 4(2.0%) その他の診断 * 22(11.2%) *孤立性振戦、起立時振戦、遅発性ジスキネジア、多発脳梗塞性認知症、Alzheimer病、脳卒中、低酸素脳症、心因性疾患などAEP Bouwmans, et al. Specificity and sensitivity of transcranial sonography of the substantia nigra in the diagnosis of Parkinson's disease: prospective cohort study in 196 patients.BMJ Open. 2013; 3(4): e002613.ちなみに本邦の高松赤十字病院の報告では、院内の神経内科医からの依頼で、パーキンソン病の鑑別目的に155例のダットスキャンが行われ、集積低下していたのは101例 (65 %) だったという。峯秀樹ら.当院におけるドパミントランスポーター画像の有用性の検討.高松赤十字病院紀要 Vol. 7:22-25,2019.まあパーキンソン病が大半なのだろうが、他の原因疾患も少なからずあるのだろう。。