「昨日は、まぁお疲れっす」
この大陸には、何でも屋、所謂万屋的なギルド、グループの様なものがある。
実際、その殆どは法に触れるような仕事を主にやっているとされている。
殺し、盗み、密売、暗躍……数えればキリがない。
此処、『フィンブル』もそのような集団のひとつ。
主に殺し専門だが、基本的に何でもやるギルド。しかし、ヒットマンの様にカッコいいものではない。
もっと穢い、忌み嫌われる落ちこぼれの集まりだ。
この男、『フラン』もそのうちの一人。
フランという名前は孤児院の院長である『フラン院長』からとられた。
両親ともに彼が幼いころに亡くなっている。
長い間孤児院で生活していたが、銃の腕を見出され、この仕事をするようになった。
「お疲れ様……」
パチパチと小さな手を叩いている少女は灯夜。
彼女もまた、フランと同じ孤児院で暮らしていた。
フランと同じように、孤児院の院長に名前を与えてもらった。
フランがこの仕事を始める時に、孤児院を抜け出して付いてきてしまったのだ。
「灯夜サン、どぞ、いつも通りのオレンジジュースっす」
フランはなぜか年下のはずの灯夜にサン付けして、しかも敬語である。
何か尊敬するところがあるのか、ただ単に癖なのかは定かでない。
「ありがと」
灯夜は一言入れ、コップに注がれたオレンジジュースを一気飲みする。
続いてフランもコップに注がれたお茶を一気飲みする。
格別おいしいわけではないが、キンキンに冷やされているためか鋭利な甘みが口の中に広がった。
「あぁ……仕事の後のこれは最高っすね。キンキンに冷えたお茶、全ての季節において能力を発揮……」
「おじさん……?」
ふぅ……とフランはため息を漏らし、自分が愛用している銃のメンテナンスを始める。
技術の発達により、武具もドンドン進化していった。
燃料ガスの圧力で銃弾を放っていた銃はやがて、電子機器や特殊装置による電子銃に、
そして今は音すら聞こえない光線銃へと、様々な形に変化してきた。
いや、変化というよりも派生と言ったほうがいいかもしれない。
というのも、現在でも普通の拳銃や小銃は造られ続けており、そっちの方が使いやすい、と言う人もいる。
今フランがメンテナンスしているのは所謂『普通』のハンドガンだ。
数年ほど前、フランがこの仕事に手を付け始めてからずっと使っている言わば『相棒』の様な存在だ。
しかしそのフランも、周りのメンバーと同じように電子銃や光線銃は何本も持っているし、
鈍器や刀剣類もかなりの数を所持している。
それでも、やはりこの銃だけは手放せないようで、常に持ち歩いている。
ちなみに、フランの持つ銃は企業が大量生産したような安価な物ではなく、古くから銃を作っている武具職人が作ったものだ。
銃に付けられた系番は『F-0』、Francの『F』が系番になっている。
バレルとマズルに『Franc』の文字が彫られており、まさしくフランの為の銃になっている。
「まぁ、そう笑わねェでくださいよ灯夜サン。それより、ちゃんとヒロサンに連絡しときましたよね?」
「うん」
「ならいいんスけど。そうそう、昼もお仕事あるらしいっすよ。ちゃんと準備しといてくださいよ?」
「了解……」
んじゃ、と手を振りながら言い、灯夜は自分の部屋に戻っていく。
中央酒場に残り、銃の整備をするフラン。
生憎、フラン以外のメンバーは誰一人として居らず、フランは一人孤独に銃のメンテナンスをすることになった。
カチカチと、金属同士が擦れる音がこだまする。
時間はゆっくりと過ぎ、そろそろ昼頃、というところでメンテナンスが終了する。
未だに、酒場にはフラン一人だけだ。
「昼の仕事はわざわざ依頼主が来てくれるそうだし……めんどくさいっすけど一応綺麗なシャツに着替えておきますか」
一人呟き、自分の部屋に戻るフラン。
そこにあるのはスーツ類ばかり。
仕事柄、夜に動くことがほとんどだが、なるべく人物を特定されにくい格好で動くことが多い。
そのため、必然的に大多数が着用している様な安価な多機能スーツが多くなるのだ。しかも何種類も。
血の染みが取れないスーツ、渇いた血の黒が至る所に付着しているシャツ……どれこれこれも汚い。
フランはそういえば……と呟きタンスの一番下を開ける。
そこには真新しい白のシャツが何枚もしまってあった。
一番手前のシャツを取り出し、袖を通す。
ボタンはしっかり一番上までしめる。
いつもはしない癖にタイまでしめる。
青白い紋章をシャツの襟に付ける。
これがギルドフィンブル式の正装である。
「んじゃ、そろそろエントランスに戻りましょうか。」
エントランスに戻ると、既に依頼主と思われる少年がソファに腰かけていた。
少年はまだ幼く、とてもこの様な場所に足を踏み入れてはいけないような子だった。
少年を見てか、フランも言葉を失ってしまう。
一応「依頼主さんっすか?」と聞いてみると、少年はコクリと頷いた。
「あぁ……えっと依頼とは?殺し?密売?誘拐かな?それとも盗み?クスリとか?情報欲しかったり?」
「探してほしい人が居るんです……」
「探し、ね。Guardian(ガーディアン)とか、D-Fence(ディフェンス)の皆さんに頼まねェってことは、少し危なかったりする感じっすかね?」
Guardianとは、一つの巨大ギルドの様なもの。
巨大と言っても三つの大陸で構成されたこの世界のほとんどの戦士を支配しているような組織で、
名前の通り、大陸を護る者達だ。
D-Fenceは、Guardianと似たような組織ではあるが、こちらは警察の様なものだ。
『危ない感じ』というフランの問いかけに対し、少年は先ほどと同じようにコクリと頷いた。
「えっと……誰をお探しで?」
「僕の……孤児院の院長先生……」
「名前は?」
少年は間を置き、ゆっくりと名前を呟く。
「フラン……フラン先生……」
その名前を聞き、フランは少し思考が停止してしまった。
フラン・メルルア、フランの名の由来になった人物で、フランが最も尊敬する人物だ。
単に、懐かしいから、尊敬する人物だから思考が止まったわけではない。
もしかしたら、その尊敬する先生も殺さなくてはならない、と思ったからだ。
というのも、失踪した人間を探すという事は、フィンブルの様なギルドと接触する可能性があるからだ。
事実、何度か同じようなことがあり、怒り狂った過激派集団のリーダーが探していた人物、つまるところのターゲットを殺してしまったことがあるからだ。
「依頼とは言え……なかなかめんどくせェっすね」
「やっぱり……無理ですか……?院長先生が……自分が居なくなったら此処を頼れって……」
少年は涙目になりながら聞いてくる。どれだけ悪党でも、涙には弱いわけで。
院長自らが此処を教えたのか、と一人心の中でフランは納得していた。
「まぁ、別にイイっすよ。フラン院長にはいろいろとお世話になりましたしね。お代はタダでいいっす。その代わりなるべく情報貰えると嬉しいんですが……」
「多分……院長先生は『ツイスター』って人たちのところだと……院長先生が此処を教えてくれたときに、電話で話してて……喧嘩してました……」
(ツイスターねぇ……うち等と同じような集団だったような………まぁ、情報はヒロサンにやってもらえばいいっすね。)
フランは頭の中で、ツイスターに関する情報を交差させる。
ツイスター、過去に何度かフィンブルともめた事がある犯罪ギルドだ。
(院長が電話してた、てのも引っかかるっすね……その辺もヒロサンに徹底的に調べといてもらわねェと……)
「じゃあ、まぁそん位でいいっす。ツイスターの連中は、何人か殺しちまうことになりそうっすけどね。」
灯夜サン仕事っす、と大声で灯夜を呼び、フランは先にスタスタと外に出てしまう。
行く宛ても持たず。