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緋紗奈のブログ

このブログではモンハンやデジモン
日常で起こったことを自由気ままに
マイペースで描いています

 

 

 

 

 

何も感じない……。

 

あの時の……前世で車にはねられて死んだ時と同じ感覚……。

 

ああ……死ぬんだ。

 

どうあがいても私は式神。

 

魂の繋がりを切られたら消滅するしか道はない。

 

繋がりを切られているから、多分私の力も他の式神に引き継がれることはない。

 

本当に本当の完全な消滅。

 

…………。

 

嫌だ。死にたくない。

 

あの時は「呪術廻戦の続きが読みたいから」って理由だったけど、今は違う。

 

恵さんを助けたい。

 

アイツらに利用されたくない。

 

私をずっと支えてくれた、守ってくれた人を助けたい。

 

でも、この死を避けることなんて……。

 

……そうだ。

 

どうせ死を避けられないのなら。

 

もう一度……。

 

生まれ変わってやる!

 

持てる全ての力を使って!!

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

≪虎杖悠仁視点≫

 

 

「何が起こって……」

 

氷が溶けたことで自由に動けるようになったから、魔虚羅の代わりに伏黒と五条先生を取り戻そうとしたら急に真っ暗になった。

自分の姿さえ見えないほどの闇で、また動けなくなった。

夏油がやったのかと思ったんだけど、あっちも動けなくなってるから違うみてぇだ。

何がどうなったのか分からなくて様子を見てたら、今度は鈴の音が聞こえた。

これ魔虚羅が好きだった水琴鈴の音……だよな?

何で急に? ワケ分かんねぇよ。

なんて思ってたら小せぇ光の粒が急に現れた。

なんか蛍みてぇだけど、こんなところにいるワケねぇよな。

更にワケ分かんなくなっていると、また鈴の音が鳴って、今度はその光の粒がそこかしこに現れた。

まるで満点の星空の中にいるみてぇな神秘的な光景……。

また鈴の音が鳴ると、その光の粒が一カ所に集まって一つの光の塊になった。

その光の塊が強い光を放って思わず目を瞑る。

光が収まったから目を開けると、光の塊が人の形に変わっていた。

光の塊がパキンと音を立てて霧散すると、そこにはさっき目の前で消えた魔虚羅がいた。

体が小さくなって(小さくって言ってもパンダ先輩くらいあるけど)服装と翼の色が変わってるけど、間違いなく魔虚羅だ。

生きてたのか?

でも確かに気配が完全に消えたのを俺は感じたぞ。

だから死んだと思って……。

 

『……せ』

 

「え?」

 

『か……え、せ』

 

下を向いていた顔をゆっくりと上げながら魔虚羅が口を開く。

 

『そ、の人を……! 恵、さんを……返せええええええええええ!!!』

 

まるで腹の底から声を出すように魔虚羅が叫んだ。

左手を前に突き出す。

そしたら左手に光が集まってあっという間に握り拳大の球体になった。

 

「全員目を閉じ、顔を手で覆って地面に伏せて下さい!!」

 

それを見てさっき魔虚羅と一緒にいたモヒカンの男が声を上げた。

 

「悠仁、壊相の言う通りにしろ!」

 

「え!? わっ!!」

 

脹相が俺の頭を掴んで地面に伏せさせた。

俺は言われた通りに目を閉じて手で顔を覆う。

 

――カッ!!

 

直後に凄まじい閃光が放たれた。

目を閉じて手で顔を覆っていても感じるほどの光が辺りを埋め尽くす。

あっぶねぇ!

言われた通りにしなかったら目が潰れてるんじゃねぇか!?

光が収まったのを確認して顔を上げると、脹相が壊相と呼んだ人の指示通りにしなかった人達が気絶していた。

意識があるのは俺と脹相、壊相。それと隣にいる女の人と釘崎、七海さん。

後夏油とおかっぱの術師だけだった。

夜に目が慣れていたんだし、あの光量浴びればそりゃ気絶するよな。

あれ? 魔虚羅は何処行った?

姿が見えねぇけど。

 

「つ……な、何だ。今のはっ!?」

 

意識があってもあの閃光を浴びてフラフラになっていたおかっぱの術師の腕が突然宙を舞った。

何が起こったのかと思ってそっちに目をやるとおかっぱの術師の後ろに魔虚羅がいた。

い、いつの間に……全然分からなかった。

それはおかっぱの術師も同じみたいでめちゃくちゃ驚いた顔をしてた。

 

「オマエは…!」

 

『ガアアアアアアアアアア!!』

 

魔虚羅がおかっぱの術師のもう一本の腕もぶった斬ってガラ空きになった腹に思いっきり蹴りを入れた。

勿論抱えられていた伏黒に衝撃が行かないように。

おかっぱの術師が遠くへ吹っ飛ぶ。

直ぐさま魔虚羅は地面に倒れそうになった伏黒を抱きかかえた。

 

『あああ……』

 

愛おしそうに伏黒の顔を撫でると、パッと一瞬魔虚羅の体が光って姿が消えた。

え? 今度は何処に行ったんだ??

慌てて辺りを見回すと魔虚羅はナナミンのところにいた。

はっや!

移動したのさえ分かんなかったんだけど!

さっきの場所からナナミンのところまで100m近くあるのに。

魔虚羅は気を失っている伏黒をナナミンに手渡した。

 

「……分かりました。これ以上伏黒君には怪我一つさせないと約束します」

 

『あ、…うぅ』

 

意識が戻らない伏黒を心配そうに見る魔虚羅。

けど何か様子が変……だよな。

なんつーか意識が錯乱してね?

 

『……せん、せいも…かえ、せ』

 

伏黒をナナミンに託した魔虚羅が振り返って夏油へと顔を向けた。

その発言から次は五条先生を取り戻そうとしているみてぇだ。

魔虚羅が夏油へ向かって走り出す。

 

『アアアアアアアアアアアアア!!』

 

「可笑しいね。ちゃんと魂の繋がりは切ったのに。死んで呪霊でも転じたのかな?」

 

冷静を装ってるみたいだけど、この事態に流石のアイツも少し困惑しているらしい。

魔虚羅の意識が錯乱してるのは多分間違いないけど、今なら獄門疆を奪還できるかもしれねぇ。

この機に乗じる!

 

「夏油! 五条先生を返してもらうぞ!」

 

「俺も手伝うぞ悠仁!」

 

すぐに動けるのは魔虚羅と俺と脹相だけだ。

魔虚羅の意識が錯乱しているのが気がかりだけど、絶対に取り返す。

魔虚羅が剣を振るうのに合わせて俺と脹相も拳を振るう。

それを避けて距離を取る夏油。

くっそー! 中々攻撃を当てられねぇ!

あの女の人は手伝ってくれなさそうだし、動ける人数が少ないんだから時間をかけると逃げられるかもしれない!

 

『ガアアアアアアアアアア!!』

 

再び魔虚羅が大声で叫んだ。

そしてまたパッと体が光って姿が消える。

次の瞬間ズバン、と夏油が背中を斬られた。

夏油の背中を斬ったであろう魔虚羅はすでに夏油の真正面に移動している。

だから速すぎるだろ!

全く見えねぇし、どんな速度で動いてるんだよ!

 

「な、何なんだ君は……」

 

『オオオアアアアアアア!!』

 

体勢が崩れた夏油に魔虚羅が剣を振るった。

胸部をザックリと斬られた夏油から獄門疆がこぼれ落ちる。

 

「五条先生!!」

 

「ぐっ! 悪いけどこれを奪われるワケにはいかないね」

 

夏油が獄門疆を奪われまいと俺達に残っていたらしい呪霊をぶつけ、地面に転がった獄門疆に手を伸ばす。

不味い! 折角のチャンスなのにこのままだと取り返せない!

 

「虎杖(ブラザー)!!」

 

――パァン!

 

その声が聞こえた俺はすぐに身構えた。

パッと俺と獄門疆の位置が入れ替わる。

 

「なっ!?」

 

俺は渾身の力を込めて拳をぶつける。

獄門疆を手にしようと無防備に近かった夏油にそれなりの一撃を食らわす。

 

――ドゴンッ!!

 

黒閃は出せなかったけど、【逕庭拳】を当てたから時間差で二重の攻撃が夏油を襲う。

よし。なんとか獄門疆から引き離せた。

 

「悠仁! 獄門疆を取り返せたぞ!」

 

「ありがとう脹相!」

 

俺と獄門疆との位置を入れ替えたから、獄門疆は脹相の目の前に来ていた。

呪霊にもみくちゃにされながらも脹相が獄門疆を手に取る。

これで獄門疆の奪還成功だ!

 

「東堂もありがとう!」

 

俺はその功労者にも礼を言う。

東堂だ。

東堂の術式がなかったら取り返せなかった。

いつの間にかここに来ていたらしい。

 

「気にするな。これくらい朝飯前だからな」

 

「それでもありがとう! ……てか、あれ? 東堂怪我は?」

 

東堂はさっきの真人との戦いで結構な大怪我を負ってた。

その大怪我がない。

真人に【無為転変】されて、自分で切り落とした左手も元通りになってる。

 

「この妙な蛙が治した!」

 

そう言って顔を向けた先に壊相と一緒にいた呪霊がいた。

 

「俺蛙じゃねぇんだけどなぁ。まぁいいけど」

 

「血塗!? オマエそんな力持っていたのか!?」

 

「ううん、持ってなかったぞ。魔虚羅から貰ったんだぁ」

 

「は、はあ!?」

 

魔虚羅から貰ったってどういうことだよそれ。

脹相が死ぬほど驚いてるぞ。

 

「と、とにかくこれで後は封印解除すればいいんだよな。えと、どうすれば……!?」

 

脹相がどうやって封印解除すればいいか分からず淡々していると、周囲に群がっていた呪霊が一瞬で細切れになって消滅した。

呪霊が消えた時に出る煙の間から魔虚羅が飛び出す。

そのまま今にも斬り殺しそうな勢いで脹相に向かって走り出した。

 

「ええ!? ちょっ、魔虚羅ぁ! 兄者は敵じゃねぇって!」

 

「違う! 狙いは獄門疆だ! 獄門疆を手放せ!!」

 

いち早く魔虚羅の狙いに気付いた東堂が脹相に指示を出す。

獄門疆から離れないと脹相ごと斬ってしまいそうな勢いだし、そうするしかなさそうだ。

脹相が東堂の指示に従って獄門疆を投げると、魔虚羅は獄門疆へ標的を変えた。

魔虚羅は狙いを定めると、剣を高々と振り上げる。

 

――【刀剣錬成】≪神纏(シンテン)≫

 

魔虚羅が持っている剣の刀身が伸びて、金色の光を放つ。

 

――【天羽々斬(アメノハバキリ)】!!

 

そして光を帯びた剣を獄門疆へと振るった。

一振りした剣から光が消えて、刀身の長さも元に戻る。

へ? 【天羽々斬】?

【天羽々斬】って神剣の名前じゃ……。

 

 

 

――ピキッ……。

 

 

 

その剣を振るわれた獄門疆に亀裂が走る。

 

『ぎぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!』

 

獄門疆から形容しがたい奇声が発せられた。

思わず耳を塞いじゃったけど、目を疑う光景がそこに広がる。

 

 

 

獄門疆が真っ二つに割れて壊れた。

 

 

 

「……は?」

 

「え……ええええ!? 嘘でしょ!! 特級呪物を壊した!!」

 

今まで事の成り行きを見ているだけ何もしなかった女の人も思わず驚愕の声を上げた。

東堂もナナミンも、それを見ていた全員が目を見開いている。

そして獄門疆が壊れた場所から、その人が出てきた。

 

「いてっ!」

 

ドサッとその場に倒れたのは紛れもなく五条先生だ。

 

「五条先生!」

 

「え? 何事!? 今どういう状況なのこれ!?」

 

五条先生も突然の出来事に混乱してるみたいだけど大丈夫そうだ。

壊れた獄門疆は元に戻る様子がない。

先生が封印される心配はもうなさそうだ。

魔虚羅の身に何が起こったのか全然分かんねぇけど、こんな力を持ってたのか。

 

「いや、本当にすげぇよ! ありがとな魔虚……羅?」

 

魔虚羅に礼を言おうと彼女のほうを向いた俺は思わず息を呑んだ。

膝を地面について苦しそうに息をする魔虚羅の姿が目に入った。

どう見てもさっきの……【刀剣錬成】≪神纏≫を使った反動。

たった一振りしただけでかなりの体力を消耗したことが誰の目にも分かる。

 

「ま…魔虚羅ちゃん?」

 

『ハア……ハァ……。ぐうぅ……』

 

剣を杖代わりにして魔虚羅は立ち上がると、再び夏油のほうへ顔を向けた。

まだ何かあるのか?

ちょっ……頼むから無茶するなよ!?

オマエに何かあったら伏黒絶対気に病むぞ!

 

「なる、ほどね。裏梅が君を警戒するワケだ。まさか獄門疆を破壊してしまうとは……」

 

夏油が心底悔しそうな表情を見せる。

そりゃそうだ。

今回の騒動って多分五条先生を封印するのが一番大きな目的だったんだろうし、それを魔虚羅に台無しにされたんだ。

しかもさっき言ってた“殺し合い”も多分止めることができない。

五条先生がいなくなったから始めたんだろう計画さえ台無しになってしまうかもしれない状況。

何考えてるか分かんねぇヤツだけど、流石に苦虫を1000匹くらい噛み潰したような顔になるよな。

 

「けれど今の一撃でかなり弱ったみたいだね。なら今が君を殺す絶好の機会だろう。かなりの痛手だけど、君だけは始末させて貰う」

 

そう言うと夏油の足下からドパッという音と共に大量の呪霊が飛び出した。

呪霊は辺りを埋め付くさんとばかりに絶え間なく出続ける。

夏油はその呪霊達に隠れながら立ち去って行く。

追おうにも呪霊が多すぎる。

な、何だこの数……。

数えられねぇが、出てきた呪霊の数は1万をとっくに超えている。

いくら魔虚羅が退魔の剣を持っててもこの数は流石に無理だろ!

ていうか今持ってる剣ってその退魔の剣なのか?

見た目全然違うけど。

 

――【刀剣錬成】≪神纏≫

 

それを見て魔虚羅が両手で剣を構え、再び【刀剣錬成】≪神纏≫を発動させた。

でも獄門疆を破壊した時のとは少し違う。

剣の刀身が伸びたのは変わらないけど、帯びている光が青色だ。

こ、今度は何だ?

 

【天叢雲剣(アメノムラクモノツルギ)】!!

 

魔虚羅は剣を横に大きく振った。

一振りするとまた刀身が戻って青色の光が消える。

え……えええええええ!?

【天叢雲剣】って確か三種の神器の一つじゃん!!

どういうこと何だよそれ!!

色々と聞きたいことが多いんだけど、更に驚くことが目の前で起こっている。

 

 

魔虚羅が剣を横に振るった直線上にいた無数の呪霊が全て斬られていた。

 

 

それだけならそこまで驚かないんだけど、範囲と攻撃が当たった時間が可笑しい。

範囲は剣を振るった直線上にいた全ての呪霊。

しかも普通は攻撃位置から遠ければその攻撃が届く時間が遅いハズなのに、魔虚羅が剣が振るった瞬間には奥にいた呪霊もすでに斬られている。

呪霊だけじゃなくて更に遠く、1kmくらい離れた場所にあったまだ倒壊していない建物まで剣を振った時にはもう斬られていた。

幸いなことにその建物は亀裂が走っただけで壊れていないけど……まるで時間空間を無視して次元ごと斬ったような一撃。

たったの一振りで出てきた呪霊の大多数が祓われた。

いやいやいや、威力も可笑しいだろ!

これが【天叢雲剣】の力なのか!?

 

「いけません魔虚羅様! それ以上その力を使ってはなりません! 命に関わります!!」

 

その一撃に唯々驚いているとまた壊相が声を上げた。

命に関わるって何?

そう思って魔虚羅を見て俺は血の気が引いた。

 

 

魔虚羅は全身のいたるところの皮膚が裂けて血を流していた。

 

 

……反動。

最初の【天羽々斬】でさえ一振りしただけで膝をつくほど体力を一気に消耗してたんだ。

その状態で同じ力をまた使った。

こうなるのは必然。

けど更にヤバいのが魔虚羅が今の【天叢雲剣】をもう一度使おうとしていることだった。

出てきていた呪霊の大多数は祓ったけど、現在進行形で呪霊は出続けている。

あっという間に元の数に戻った。

それを祓おうとしているんだろうけど、これ以上【刀剣錬成】≪神纏≫を使ったら間違いなく魔虚羅は死ぬ。

 

「だ…駄目だ魔虚羅ちゃん! 確かに使えばあの呪霊を全て祓えるけど今の魔虚羅ちゃんにその力は負担が大きすぎる! 止めるんだ!!」

 

『ガアアアアアアアアアア!!』

 

「僕の声が聞こえていないの!? もう駄目だってば!!」

 

一番近くにいた五条先生が魔虚羅を止めようと羽交い締めにしてるけど、魔虚羅は全く止まる気配がない。

さっきまでは“意識が錯乱している”だった。

でも今は完全にない状態らしい。

それどころか体の不調はおろか痛みも感じていないようだ。

気絶させてでも止めないと取り返しがつかなくなる。

 

「魔虚羅止めろ! 何があったか知らねぇけど折角生き返ったのに……もう俺友達が死ぬの見たくねぇよ!」

 

魔虚羅に駆け寄って剣を振るおうとしている腕を掴んだ。

何だこれ!? すっげぇ力!!

呪力で強化しているワケじゃないのに腕の動きを封じ込むので精一杯で他のことができない。

魔虚羅は俺と五条先生の拘束から逃れようと暴れ出した。

 

「だ、誰か魔虚羅のこと気絶させてくれ! じゃないと止められねぇ!」

 

力を貸して欲しくて声を出すも、そこかしこに呪霊がいて誰も来られそうにない。

これは本格的に不味い!

今にも拘束を振り払いそうなのに!

 

「獄門疆の影響が残ってて上手く術式を使えない。もう! 魔虚羅ちゃんが無理したら恵が悲しむでしょ! 恵のためにも止まって!」

 

「そうだ! こんな状態の魔虚羅見たら伏黒絶対に悲しむって! だから……」

 

『アアアアアアアアアアア!!』

 

嘘だろ!? 伏黒の名前を言っても反応すらしなくなってる!

どうすれば魔虚羅を止められるんだ!?

もう手が思い付かねぇ!

 

「…………ら。ま……魔虚、羅……」

 

その時アイツの声が響いた。

呪霊達の奇声とか足音とかで辺りは騒然としているのに、不思議とその声はハッキリと聞こえた。

 

「止めろ。……俺は…大丈夫だから……」

 

『ガアアアア……アアァァァ……』

 

力なくグッタリとしてナナミンに抱えられながらもしっかりと魔虚羅を見て声をかける伏黒。

魔虚羅の体から少しずつ力が抜けていく。

 

「俺の為に、しようとしてくれてるんだろ? もう…十分だ。だから止めてくれ……」

 

『ああ、あ……。……め、ぐ……恵……さん……?』

 

ようやく魔虚羅が伏黒の名前を口にした。

その瞬間、全身を包んでいた狂気が消えていく。

あんなに拘束から逃れようと暴れていたのに、もうその様子はない。

正気に……戻ったか?

 

「よし、魔虚羅ちゃん。僕が分かる?」

 

『……え? 五条、先生?』

 

「うん。正解! もう大丈夫だね」

 

五条先生の呼び掛けに魔虚羅はやっと応えた。

ゆっくりと五条先生が拘束を解く。

それに合わせて俺も掴んでいた手を放した。

 

『あ、あれ? 何で? 私は……』

 

正気に戻って明らかに混乱してるな。

自分でも何をしたのか、何が起こったのか分からねぇみたいだ。

その様子から最初から意識がなかったのが見て取れる。

マジで伏黒と五条先生を取り返すことしか頭に残っていなかったんだな。

 

『あっ……。恵さん、恵さんは?』

 

「伏黒なら無事だよ。魔虚羅が取り返したんじゃん。やっぱ覚えてないか」

 

と伏黒に目をやると、伏黒はまた気を失っていた。

えぇー……まさか魔虚羅の暴走を止めるためだけに起きたの?

本当に仲良いな。

 

『恵さん……ぐう!?』

 

ようやく魔虚羅は体の痛みを感じたようだ。

全身から力が抜けて地面に倒れ込む。

動くこともできないのかそのまま蹲ってしまった。

あれだけ力を使えばまぁ当然だよな。

 

「魔虚羅ちゃん大丈夫? 悠仁、皆を連れてここから早くりだ……!!」

 

動けない魔虚羅を抱えようとした五条先生が呪霊に吹っ飛ばされた。

術式を使ってない。まだ獄門疆の影響が残ってるのか!?

 

「五条君!」

 

吹っ飛ばされた五条先生をあの女の人が庇った。

五条先生は大丈夫そうだけど魔虚羅がヤバい!

立ち上がることさえできないのに格好の的になる!

なんとか魔虚羅を守ろうとするけど、あまりにも呪霊の数が多すぎて徐々に魔虚羅から引き離されていく。

こんなに呪霊の数が多いんじゃ東堂の術式で位置替えをするのは逆に危険だ。

それを東堂も分かっているから使っていないんだろう。

 

「悠仁! 大丈夫か!?」

 

「脹相!?」

 

ここで脹相が俺のところにやって来た。

かなり無理矢理呪霊の間を潜ってきたようで至る所に怪我をしてるけど元気そうだ。

 

「お、俺よりも魔虚羅を助けてやってくれ!」

 

「俺も弟達を守ってくれた魔虚羅を助けてやりたいが呪霊の数が多すぎて体外での血液操作が上手く出来ん! オマエのところに来るので精一杯だ!」

 

「くっ!」

 

呪霊が今にも魔虚羅に食らい付きそうな勢いで迫っているのに何も出来ないのか!?

魔虚羅は本当にもう動けないんだ。

このままだと呪霊に殺される!

 

「魔虚羅様! 私と血塗を呼んで下さい!」

 

壊相が目一杯声を張り上げて魔虚羅に呼び掛けた。

つーかさっきスルーしちゃったけど魔虚羅“様”?

魔虚羅が消える前は“さん”だったよな?

 

『え…壊相さん、血塗…君』

 

その呼び掛けに応じて魔虚羅が2人を呼んだ。

すると壊相と血塗がパッと魔虚羅の目の前に瞬間移動するかの如く現れた。

はぁ!? 何今の!!

 

「魔虚羅様。八握剣をお借りしてもいいですか?」

 

『う、うん。いいよ』

 

「ありがとうございます」

 

魔虚羅から許しを貰って壊相がその剣を手にし、襲いかかって来る呪霊に斬りかかる。

初めて剣を使ったのか動きがかなりぎこちない。

けど掠っただけなのに呪霊が次々と祓われていく。

やっぱりあれは退魔の剣らしい。

 

「……やっぱり見様見真似じゃ上手くいかないか。血塗、早く魔虚羅様の怪我を治して!」

 

「おう。でも魔虚羅から貰ったの力でも疲労とかは治んねぇぞ」

 

「それでもいいよ。後でちゃんと休ませれば良いんだから。このまま七海さんのところまで後退するから血塗は魔虚羅様を抱えて」

 

「分かったぁ」

 

壊相が呪霊を祓うことに専念して、血塗が傷を治した魔虚羅を連れてナナミンのところまで移動する。

ナナミンのところには釘崎もいた。

いつの間にかナナミンの元に来ていたみたいだ。

多分伏黒のことを心配してだろうな。

 

「壊相! 血塗!」

 

「兄さん、私達は魔虚羅様と共に行く。兄さんは悠仁を!」

 

「ああ! 分かった!」

 

「無事に高専で」

 

壊相の言葉が言い切られる前に、呪霊共が目の前に来て視界を塞いだ。

くっそ! マジで数が多すぎるだろ!

でも気絶している人達は多分大丈夫。

見えないけどあの女の人が何かしているらしい感じがするし。

魔虚羅もナナミンと釘崎が近くにいれば大丈夫だろう。

また気を失っちまった伏黒のことだけが気がかりだけど、今は自分達の身の安全を優先に考えないと!

 

 

 

 

 

 

そして夏油があの時解き放った呪霊の数が1000万にも上ると聞かれたのはそれから数日後。

そのおよそ三分の一、300万体近くは魔虚羅があの時【天叢雲剣】で祓っているとも聞かされた。

……マジで規格外すぎるだろ。

気配も消える前とは全くの別物になってるし、一体魔虚羅に何があったんだ?

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

八握剣異戒■■■魔虚羅

恵を守るために、その身に宿っていた全ての力を■■に注ぎ込んだ成り主。

■■と壊相、血塗の■■■に力を使い果たしてしまったために自我を失って暴走状態になってしまう。

その時のことは一切記憶にない。

 

虎杖悠仁

一番間近で魔虚羅の力を目撃した本編主人公。

結構友達とゲームをしていたので神剣の名前もすぐに分かった。

封印を解いてすげぇ! あの数の呪霊を一撃で祓ってすげぇ! と驚きつつも格好いいと思っていた。

魔虚羅が死にかけながらも頑張っていたので自分も出てきた大量の呪霊を少しでも多く祓おうとこの後しばらく魔境と化した東京をうろうろする。

勿論脹相と一緒である。

 

五条悟

どうなるのかなーと思っていたら突然空間が割れて外に放り出された呪術師最強。

何がどうなっているのか他の人以上に分かってなかったけど、とりあえず死にそうになっている魔虚羅を止めようと奮闘。

獄門疆の影響から一時的に術式が上手く使えなくなっていたが、六眼は大丈夫だったので魔虚羅がどういう存在になっているのか察しはついている。

これから呪術界にどんな影響を及ぼすのかちょっとワクワクしてる。

 

夏油傑ことメロンパン

何年もかけて練ってきた計画が一瞬にして台無しにされた渋谷事変首謀者。

裏梅から聞いた時は半信半疑だったけど、この一件で六眼並みに邪魔な存在だと認識した。

頑張れーメロンパン。オマエが敵に回したのは世界で一番敵対してはいけない存在だ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

≪脹相視点≫

 

考える。

あの記憶。

眼前で感じた虎杖悠仁の死。

虎杖悠仁とは一体何だ?

俺は何だ?

 

「……は?」

 

考えても答えが出ず、ただその場に蹲っていると突然壊相と血塗の気配を感じた。

弟達は死んだハズじゃ……。

いや、でも確かに壊相と血塗の気配だ。

最後に感じた気配と違うけど間違いない。

途絶えていた繋がりも復活している。

たまらず俺は壊相と血塗が気配がする場所へと走り出した。

駅を出てひたすら弟達の元へ走る。

 

「兄さん!」

 

「ああ、兄者だぁ」

 

前方から俺を呼ぶ2人の声が聞こえた。

初めて見る姿だが、感覚で俺は弟達が受肉した姿だと確信した。

 

「壊相! 血塗!」

 

久し振りの弟達との再会。

俺達は熱い抱擁を交わした。

 

「生きていたんだな。……良かった。繋がりが切れたからお兄ちゃんオマエ達が死んだとばかり……」

 

あんな別れ方をしたのも相まって本当にそう思っていた。

思わず涙があふれる。

 

「私達も会いたかったよ兄さん」

 

「うん、すっげー嬉しい」

 

「ああ。……しかし壊相、血塗一体何があった? 何があったらこんなことになる」

 

何があったらというのは別れ方のほうもそうだが、壊相と血塗の気配のことも言っている。

間近にすると更によく分かるその変化。

最早全くの別物を考えたほうがしっくり来るほどだ。

まさか引き離されている間に改造でもされたのか!?

誰だそんなことしたヤツは!

お兄ちゃん絶対に許さんぞ!!

 

「大丈夫だよ兄さん。これは改造されたワケじゃなくて私達がこの変化を望んだんだ」

 

「望んだ?」

 

「うん。魔虚羅と家族になりたくて」

 

「誰だそれは」

 

高専の関係者や呪術師の名前はある程度記憶しているが、そんな名前お兄ちゃん知らないぞ。

 

「私達を助けてくれた人。……正確には人じゃなくて式神なんだけど心は人だよ。時間が限られてるから今は簡単に説明するね」

 

俺はあの時引き離された経由とその後の弟達がどう過ごしていたのか聞いた。

とりあえず酷い扱いはされていないことに安堵した。

いや、酷い扱いどころか手厚く保護されていないか?

ずっと弟達を守ってくれていた魔虚羅という式神。

しかも必ず俺と再会させると約束までしてくれて、それをちゃんと果たしてくれた。

感謝してもしきれないな。

 

「兄さん。魔虚羅さん今凄く弱ってる状態なんだ。今までの恩を返すためにも魔虚羅さんが大切だと思っている人達を守りに行きたい。いいかな?」

 

「そういうことなら反対しない。というか俺も行く。弟達を助けてくれたヤツを助けない理由はない」

 

「ありがとう兄さん」

 

「じゃあ真人ってヤツと戦ってる悠仁助けに行こうぜ。魔虚羅の話だと悠仁と俺達兄弟らしいんだぁ」

 

「は?」

 

今血塗が言った悠仁って虎杖悠仁のことだよな?

きょう、だい。兄弟……?

 

「魔虚羅さんによると親が同じなんだって。ごめんね兄さん。さっき悠仁と会ったんだけど、話し合えるような状況じゃなかったんだ」

 

「そ、うか」

 

じゃああの記憶は本物なんだな。

あの時感じた死も……。

年齢を考えれば、悠仁は10人兄弟の一番下。

俺は弟を殺そうとしたのか。

しかも悠仁は本当に壊相と血塗のことを知らなかったのに、俺は勝手に逆恨みして……。

 

「兄さん大丈夫。悠仁はきっと許してくれる。話せば分かってくれるから」

 

「うん、大丈夫だよ兄者。悠仁は魔虚羅の友達だから許してくれるさぁ」

 

壊相と血塗の言葉で自責の念に沈みかけていた意識が戻ってくる。

2人がそう言うのならきっと大丈夫だ。

今は再び戦場に戻ったという悠仁を助けに行こう。

それにしても親が同じとは……そして魔虚羅という式神は何故その事を知っている?

 

――ドゴン!

 

「「「!?」」」

 

まるで地面から何か巨大なものが飛び出してきたような衝撃と轟音が鳴り響いた。

さっきまで俺がいた渋谷駅のほうからだ。

壊相の話だと悠仁は渋谷駅にいるんだよな。

悠仁は無事なのか!?

 

「急ごう兄さん」

 

「ああ!」

 

疑問に思うのは後だ。

早く悠仁の元へ行かなくては。

待ってろ、今お兄ちゃん達が助けてやるからな!

 

 

◇◆◇◆◇

≪禪院真希視点≫

 

突然現れた白い髪でおかっぱの男か女か分からない術師。

辺り一面が一瞬で氷に覆われてしまうほど広範囲の氷の術式を使ったそいつは恵を連れて去って行った。

そいつの姿が完全に見えなくなって少ししてから術式を解いたのか氷が溶けた。

数分は氷に覆われていたから全身が冷えてしまって動きがままならない。

 

「冷てぇ。何だアイツ」

 

「知らねぇよ。魔虚羅は知ってるみてぇだったけど……って魔虚羅は!?」

 

アイツさっき攫われる恵を助けようとして氷で腹を貫かれた。

ただでさえ弱っていたんだ。

なのにあんな攻撃食らったらいくら体が頑丈でも保たねぇだろ。

冷え切った体をなんとか動かして蹲る魔虚羅に近付く。

私が近付いて来たことに気付いたのか魔虚羅は少し顔を上げた。

腹を貫いた氷が溶けたことで塞ぐものがなくなった傷口から血がダクダク出ている。

元からあった傷からの出血も止まっていないのにこれ以上血を流したらヤバいんじゃないのか?

式神に人間の定義は当てはまんねぇだろうけど、かなり悪い状態なのは確かだ。

 

『ま…真希、さ…』

 

「魔虚羅、しっかりしろ。オマエ死んだら恵悲しむぞ」

 

『……』

 

苦しそうに顔をゆがめる魔虚羅。

式神の力を使おうとしているみたいなんだけど、やっぱり使えないらしい。

使えればこのダメージもリセット出来るんだろうけど望み薄と見たほうが良さそうだ。

 

『な、んで使えないの。恵さんが…何されるか分か、んないのに……1回でいいから動いてよ』

 

「無理するな。伏黒は俺達が助けに行ってやるから魔虚羅は安静にしてろ。その状態で動いたら悪化するぞ」

 

『猪野さんと、真希さんが行ったところで…裏梅相手じゃ何も出来ないよ。裏梅は…宿儺の部下なんだ…』

 

「「!!??」」

 

は、はぁ!?

裏梅ってあのおかっぱのヤツのことだよな。

アイツが呪いの王両面宿儺の部下ぁ!?

そんなのいくらなんでも……と思おうとしたんだけど、あの強さを考えれば納得だ。

呪いの王の部下ならあれくらい強くて当たり前だろ。

ただ宿儺が存在していたのは1000年以上昔だ。

見たところ呪霊には見えなかった。

どうやって1000年以上もの長い間生きていたんだ?

まさか宿儺と同じように呪物なっていたとかか?

思わず思考の渦に入っていると魔虚羅が立ち上がった。

もう動けるような体ではないのに無理矢理。

 

「ちょっ……動くなって! その傷、普通の人間なら死んでるくらいのもの何だぞ」

 

『私は、人間じゃないから…大丈夫』

 

「そういう問題じゃないだろ! 安静にしてないと駄目だ。本当に死ぬぞ!」

 

『安静なんかしていられない。私なんかより恵さんが…恵さんが……』

 

出たな魔虚羅の悪い部分。

魔虚羅は自分のことなんかどうでもいいと思ってる。

自分を心配する人なんかいない、どれだけ傷付いていても気にする人なんかいないと。

魔虚羅が異常に無理をする原因だ。

恵によると呪いのせいらしいけど本当にめんどくせぇ呪いだな。

でも攫われた恵が心配なのは事実だ。

あれ絶対にえげつないこと考えてるだろ。

 

「分かったよ。けど本当に無理だと思ったらすぐに言えよ。大したこと出来ねぇけど支えてやるくらい出来るから」

 

『ご、めんなさい』

 

「謝るくらいなら最初からすんなっての」

 

まぁ私が支えるっても魔虚羅のほうが圧倒的に体デカいから微々たるもんだけど。

なるべくゆっくり歩かせて体に負担がかからないようにする。

出血が止まっていないから滴り落ちた血が地面に跡を残す。

恵のいる位置は呪力感知で分かるみたいで、その場所へ迷わずに向かう。

 

「はぁ!? 何で魔虚羅怪我悪化してんのよ!」

 

ここで真人とかいう特級呪霊と戦っていた野薔薇が戻ってきた。

怪我してるみたいだが、走って来たってことは大したことなさそうだな。

 

「真希さん、猪野さん何があったの? っていうか伏黒は!?」

 

「伏黒は急に現れた術師に攫われた。それを阻止しようと魔虚羅が動いたんだけど逆にやられちまって……」

 

「えぇ!? じゃあ今伏黒を助けに行こうとしてるってこと!? 真希さん達その時」

 

「何にも出来なかったんだ。ソイツ氷の術式を使う術師で全身凍らされて身動きすらとれなかったんだよ」

 

ああ……あの時の魔虚羅の悲痛な声が耳から離れねぇ。

魔虚羅にとって恵は記憶も力も失って弱っていた自分をずっと支えてくれた唯一無二の存在だ。

なのにあんな引き離され方されて、どれだけショックだったんだろう。

 

「魔虚羅。伏黒が何処にいるか分かるのよね? 手を貸してあげるから死ぬような無茶するんじゃないわよ。アンタ死んだら伏黒絶対立ち直れなくなるから」

 

『五条…先生にも言われたけど、やっぱりそう、なる……かな?』

 

「100%なるわ。それだけアンタ伏黒に大事にされてんのよ。だから意地でも死なないようにしなさい」

 

『……うん』

 

大事にされてるってレベルじゃねぇと思うんだけどアレ。

恵は隠してるつもりらしいけど、誰がどう見ても魔虚羅のこと好いてるって分かるぞ。

魔虚羅は宇田川の辺りまで足を進めるとふいに立ち止まった。

宿儺の領域展開でほぼ更地になったそこに悠仁と七海さんと……何故か京都校の連中が勢揃いしていた。

何で真依がここにいるんだよ!

更にその中心部に恵を拘束した裏梅とかいうヤツ。

そして去年の12月24日に私とパンダと刺をボコボコにした夏油傑がいた。

 

 

◇◆◇◆◇

≪魔虚羅視点≫

 

 

……視界が霞む。

足がふらつき、ちゃんと歩を進められているのかも怪しい。

本当は歩くどころか立ち上がれるような状態じゃないのは自分でも分かる。

けど恵さんが……裏梅に連れて行かれた恵さんが何をされるのか予想できない。

最悪の事態が頭を過ぎる。

伏黒恵は死ぬ可能性が高いと考察している人がいたけど、死なせたくない。

今にも気を失いそうだけど、お願いだから恵さんを助け出すまでもって……。

真希さん達に支えられながら、ようやく恵さんの呪力反応がある場所へたどり着いた。

多分本編でメロンパンがいた宇田川交番跡だろう。

そこにメロンパンと恵さんを拘束した裏梅がいた。

それと京都校の生徒の人達も。

もう京都校が到着した後のようだ。

 

「魔虚羅!」

 

虎杖君の声が響くと、七海さんが私のほうへ駆け寄って来た。

 

「何をしているのですか君は。安静にしていなければ駄目でしょう」

 

『七海さ…ん!?』

 

七海さんの顔を見て、私は言葉を失った。

左目がない。

顔の左半分もまるでヤスリで削られたかのように傷付いていた。

な、んで……。

 

「……すみません。気をつけていたのですが真人の攻撃を受けてしまいました」

 

申し訳なさそうに怪我を負った部分を隠しながら顔を背ける七海さん。

本編で野薔薇さんが負うはずだった怪我を七海さんが負ったってこと?

野薔薇さんだったら即死の攻撃。

七海さんだから生きているんだ。

……やっぱり止めれば良かった。

 

「これは私の落ち度が招いた怪我です。君が気に病む必要なありません」

 

『で、も……あれ? 東堂さんは……?』

 

たとえ真人と対戦する前に会えなくても、本編通りに進んでいるなら東堂さんとは合流しているハズだ。

今この場に東堂さんがいないということは……まさか。

 

「真人に黒閃を出させないように心掛けていたのですが彼は君が言っていた通りの怪我を……。その後真人は遍殺即霊体に変化してしまいました。虎杖君が東堂君の手を借りてなんとか倒したのですが、完全に祓う前に羂索に取り込まれてしまって」

 

それを聞いてグラリと足下が崩れ地面に膝をついた。

一番阻止したかった事態になってしまった。

東堂さんはもう術式を使うことができない。

死滅回遊が起こって、津美紀さんがそれに巻き込まれる。

 

『あ…あぁ……』

 

私のせいだ。

せめて真人と戦う余力を残していれば少なくともこんなことには……。

 

 

 

 

 

 

“何をやっても満足に出来ない役立たずが”

 

 

“産む順番間違えたわ。せめてアンタが後が……いや、そもそも産んだことが間違いだった”

 

 

“なーんにもできない無能に間違ったこと教えられるなんて可哀想”

 

 

“穀潰しが。いるだけで目障りなんだよ”

 

 

“ああ、本当に”

 

 

 

 

 

“何 で オ マ エ み た い な ヤ ツ 生 ま れ て 来 た ん だ”

 

 

 

 

 

 

『ーーーーーーーっ!!!!!』

 

頭に忘れていたかつての家族から言われた言葉が響いて私は声にならない悲鳴を上げた。

突然頭を抱えてうずくまった私に周りにいた皆が何事かと集まる。

 

「ど、どうしたの? 落ち着いて。伏黒まだ無事なんだから」

 

「魔虚羅君しっかりなさい! 君のせいではありません!」

 

野薔薇さん達が声を掛けてくれているみたいだけど、酷い耳鳴りがして聞こえない。

聞こえるのはひたすら前世で言われ続けた言葉。

その言葉が聞こえる度に、頭をまるで鈍器で思いっきり殴られたような痛みが走る。

体の痛みは感じないのに、その頭痛は異常に強く感じる。

 

 

 

“言う通りにさえ出来ないなんて、とんだ出来損ないだわ”

 

痛い。

 

“落ちこぼれが何しても無駄なんだよ”

 

痛い。

 

“いても何の価値もない存在のくせにでしゃばるな”

 

痛い、痛い、痛い、イタい、いたい、いたい。

 

 

いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい

いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい

いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい

いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい

いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい

いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい

いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい

 

 

いたい

 

やめて

 

なんでもいうこときくから

 

やくにたつからすてないで

 

ひとりにしないで

 

 

 

 

 

「魔虚羅! 大丈夫だから落ち着け! 誰もそんなことでオマエを見捨てたりしない!」

 

皆の声は聞こえないのに、その人の声はハッキリ聞こえた。

紛れもない恵さんの声。

 

『め、ぐみさ……』

 

恵さんの声が聞こえた途端耳鳴りが止んだ。

それに伴って皆の声も聞こえるようになる。

 

「……やっぱり一番効くのは恵の言葉か。ほら、しっかりしろ。恵を助けるんだろ!」

 

『う、うん』

 

そうだ。

恵さんを助けるためにここまで来たんだ。

宿儺が恵さんに何をさせようとしているか分からないけど、絶対に助けないと。

まだ頭がズキズキ痛むけど気力を振り絞って再び立ち上がる。

 

「魔虚羅さん!」「魔虚羅ぁ!」

 

その時、脹相さんのところへ向かった壊相さんと血塗君の声がした。

そちらへ顔を向けると脹相さんと一緒にこっち走ってくる2人の姿が視界に入った。

 

「あれぇ!? 魔虚羅なんか怪我悪化してるんだけど!!」

 

「兄さん、魔虚羅さんのところへ行って良い?」

 

「ああ! 悠仁のことは任せろ!」

 

脹相さんと別れた壊相さんと血塗君が私の元へ駆けつけ、私の体を支えた。

お腹に空いた風穴に壊相さんが手を添える。

 

「手荒ですけど、私の術式で出血を止めます。かなり痛みがあると思いますが」

 

『あ、りがとう壊相さん』

 

壊相さんの術式も自身の血を操るものだからその応用だろう。

最も壊相さん達の血は他の人には毒だから気軽にできるものじゃない。

まぁ今の私は体の痛みを感じていないから問題ない。

 

「ごめんなぁ魔虚羅。俺は兄者みたいに器用なことできないから支えるくらいしかできなくて」

 

『十分だよ、血塗君もありがとうね』

 

結構血を流してしまったから、今壊相さんが止血しても動ける時間はほとんどないと思う。

多分まともに動けるのは数十秒ってところかな。

その数十秒で恵さんを助けないと。

 

「そういうことか!! 加茂憲倫!!」

 

改めてメロンパンを見てその事実に気付いた脹相さんが声をあらげる。

皆脹相さんの発言に驚いているけど、壊相さんと血塗君は前もって話していたから落ち着いている。

とはいえ内心穏やかで無いだろう。

九相図兄弟は加茂憲倫嫌いだし。

 

「よくも……!! よくも俺に!! 悠仁を!! 弟を!! 殺させようとしたな!!」

 

「引っ込め三下。これ以上私を待たせるな」

 

「どけ!!! 俺はお兄ちゃんだぞ!!!」

 

わー。生で聞けると思ってなかったよその台詞。

改めて聞くと意味が分からん。

脹相さんが【赤血繰術】を使い、裏梅に【穿血】を放つ。

【穿血】は確か【百斂】で圧縮させた血液を音速で放つ技だったよね。

タメが必要だけどかなり強力な技だ。まず避けることができない。

万全の状態の私でも無理だろうな。

裏梅に【穿血】を食らわせた脹相さんがメロンパンに立ち向かう。

普通ならその血が毒である脹相さんの【穿血】食らったらまともに動けなくなるところなんだけど、裏梅は毒の効果が出るの遅いんだよね。

禪院直哉はすぐに効果出ていたのに呪力量の差かな?

裏梅に術式を使われたらここにいる全員が動けなくなる。

なんとか阻止しないと獄門疆を奪還できない。

 

『壊相さん、血塗君。裏梅の動きを抑えるの手伝ってくれる?』

 

「勿論いいですよ」

 

「私達が悟が封印されてる獄門疆を奪還するから、魔虚羅は恵を助け出すことだけを考えろ」

 

『……はい。お願いします真希さん』

 

両手両脚が凍り付いている恵さんは自力で拘束から抜け出せない。

術式で作られた氷だから簡単に壊せないけど、脹相さんと加茂さんがいるなら溶かせる。

早く溶かしてあげないと壊死するかもしれないから急がないと。

皆が獄門疆奪還のためにメロンパンに向かう中、私と壊相さんと血塗君は裏梅に向かう。

 

「ほう」

 

『恵さんを返せ!!』

 

残っている呪力を八握剣に込める。

壊相さん達との呪力共有のお陰で呪力だけはまだ少し余裕がある。

でも【刀剣錬成】を使えるほど余裕があるワケではない。

使えたら楽だったけど贅沢言ってられない。

 

「その状態でよく動けるな。宿儺様がオマエを警戒するのがよく分かる。宿儺様の復活にこれほど邪魔なヤツもいないでしょう」

 

『!?』

 

私の攻撃を軽い動きで避ける裏梅。

次の瞬間、懐に入り込んでみぞおちに蹴りを入れてきた。

かなり力を込めていたらしい。踏ん張ることもできなかったから10メートル近く吹っ飛ばされた。

 

「魔虚羅さん!?」

 

「貴様らも邪魔だ」

 

「!! いぎっ」

 

私が吹っ飛ばされたことで気がそれた壊相さん達にも蹴りを入れる。

壊相さん達は更に遠くへ吹っ飛ばされた。

 

『うぐ……』

 

元々無理矢理動かしていた体。

今の一撃で完全に動けなくなった。

起き上がることも出来ない。

ま、不味い。術式を使われる。

 

――氷凝呪法 【霜凪】!!!

 

恐れていた裏梅の術式の発動。

全員が凍り付けになる。

何故か私だけ凍り付いていないけど、凍らせなくとも動けないだろうとの判断だろう。

実際顔を上げるだけで精一杯だし。

 

「夏油。あれが言っていた式神だ」

 

裏梅が恵さんを引き摺りながらメロンパンに歩み寄る。

 

「今は宿儺様の領域展開を相殺するために力のほとんどを使い切ったため弱っているが、ある意味五条悟より厄介な力を持つ式神だ。しかもまだ成長の余地がある。今後我々の計画を確実に潰そうとしてくるだろう」

 

「ふぅん。君がそこまで言うなんて相当だね」

 

メロンパンが興味ありげに私を見る。

でもそれは同時に邪魔者を見る目でもあった。

前世で幾度となく向けられた目。

その時のことを思い出し、自然と体が強ばる。

 

「先程破壊しようとしたのだが、ただ破壊しただけではコイツの力は失われない。そこで夏油の力を借りたい」

 

裏梅が恵さんをメロンパンに差し出した。

 

「術師を殺すのが一番手っ取り早いのだが、この術師の力を宿儺様が望んでいる。だから夏油、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【無為転変】で術師と式神との魂の繋がりを切れ」

 

 

 

 

 

 

 

 

『……は?』

 

裏梅が言ったことを理解するまで時間がかかった。

いや、理解したくなかった。

魂の繋がりを切る?

え? ちょっと待って。

それを切られたら式神の私は……。

 

「いくら厄介な力を持っていようが所詮は式神。そしてこの術式は他の式神を操る術式とは違い、術師と式神との間に魂の繋がりがあるそうだ。ならその繋がりを切ればどうなるでしょう」

 

「それはやってみる価値がありそうだね」

 

「止めろ! 離せ! そんなことさせるか!!」

 

恵さんが必死に抵抗しようとしているけど、がっちり掴まれているから全く抜け出せていない。

メロンパンが恵さんの頭を掴む。

阻止したいのに、体が言うことを聞いてくれない。

 

「切るのはあの式神との魂の繋がりだけだ。誤って他の部分は弄るなよ」

 

「分かってるよ」

 

嫌だ。止めて!

恵さんとの繋がりを切らないで!!

嫌だ、嫌だ、嫌だ!!

 

 

 

『嫌だああぁぁぁぁぁぁぁ恵さーーーーん!!!』

 

「魔、虚羅」

 

「【無為転変】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ブツン

 

 

 

 

何か不快な、形容しがたい感覚が全身を駆け巡った。

恵さんの体からは力が抜けて耳や目、鼻から血が流れ出る。

多分魂の繋がりを切られまいと必死に抵抗したんだと思う。

残っていた呪力のほぼ全てを使い切った恵さんは意識を失った。

 

――恵さん。

 

ずっと私を守ってくれた人の名前を呼びたいのに声が出ない。

なけなしに残っていた感覚が消えていく。

もう熱さも寒さも感じない。

さっきまであった頭痛でさえ……。

ああ、“あの時”と同じ感覚だ。

結局……私は何も……。

 

 

 

 

 

“あの時”とは違う絶望を感じながら、私の体は塵になって消えた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

≪釘崎野薔薇視点≫

 

 

魔虚羅の体がボロボロと崩れていく様子を私は見ていることしかできなかった。

いつもみたいに伏黒の影の中に戻るのとは違う。

祓った呪霊が消えていくのと同じ。

死んだんだ。本当に。

呪術師なんて死と隣り合わせの仕事してるんだ。

仲間が死ぬのは珍しいことじゃない。

でも……こんなのあんまりでしょ。

 

 

魔虚羅の第一印象はとにかく「図体はでかいのに死ぬほどビビりなヤツ」だった。

 

 

最初の頃は不意に声かけただけでビクッてなったり、上手く話せずつっかえたり、何をするにもおどおどして全員が心配するレベルだった。

数日経ってやっと私達に慣れたのかようやく普通に話せるようになった。

するとすぐに真希さんのしごきにもついて行けるようになって、元から習っていたという体術では完全顕現だとパンダ先輩もあっという間にのせるようになっていった。

やっぱり最強の式神なんだなーと思ったわ。

でも優しい性格のヤツなのもすぐに分かった。

気性も凄く素直だし、皆が声を揃えて「可愛い」って言ってしまうところまであった。

けど妙に人間くさいところがあって疑問に思っていた。

口調もそうだし、何より仕草がまんま女。

いくら記憶がすっぽり抜けてもこうはならないでしょ、って思っていたんだけどその疑問が解消されたのは姉妹校交流会の後。

まさか式神として生まれる前は人間の女の子だったなんて……一体どんな地獄なのよ。

私だって人間の記憶持ったまま人外に生まれ変わったら発狂する自信あるわ。

そりゃビビりになるわ。

いや、このビビりは人間の頃からみたいだけど、よく正気保っていられるわね。

そこから私は前よりも魔虚羅のこと気にかけるようなった。

けどあんまり気にかけすぎても魔虚羅困っちゃうわよね。

それでずっと隠していたんだろうし。

だから表向きには態度を変えずに、魔虚羅の様子を見ながら。

そしたらすぐあることに気付いた。

魔虚羅は極端に愛情を感じにくい。

伏黒のクソデカ感情を全く感じていない。

皆からの親愛の情も分かっていない。

あまりにも鈍いすぎるから伏黒に訊いてみたらとんでもない答えが返ってきた。

 

「魔虚羅は前世で家族から“いないもの”として扱われていたみたいでな。それで……愛情を感じないほうが楽だったからなのか、その部分を捨ててしまったらしい」

 

「……ちょっと魔虚羅の前世の家族トンカチで殴ってくるわ」

 

「俺も殴ってやりたいが、世界が違うからな」

 

「チッ!」

 

クッソ。魔虚羅がビビりな理由もそれかよ。

ほんの少しのことでも異様に嬉しそうにするから変だとは思ってたけど、そういうことだったなんて。

あんな可愛い子捨てるとか頭可笑しいんじゃない!?

感じられたら伏黒の気持ちもすぐに気付けるのに。

まぁ感じにくいってだけで魔虚羅の心は伏黒のこと好き好きーって言ってるけどね。

だからさっさと伏黒が魔虚羅に告白すればその問題解決するだろうに「混乱させたくないから」とか言っていつまでも言わないし、ヘタレかよ!

端から見れば付き合ってると思うくらいの仲なんだから言えば良いじゃん。

魔虚羅がそういうことに対する耐性がないのは分かるけどさ。

まだ伏黒も見たことがない魔虚羅が笑っているところ、私達だって見たいんだから。

それなのに……。

 

 

「よほど切られたくなかったみたいだね。かなり抵抗されたよ」

 

 

夏油とかいうヤツに頭を掴まれて気を失う伏黒。

顔の穴という穴から血が流れ、魂の繋がりを切られまいと全力で抵抗したのが誰の目にも分かる。

嫌だ、と叫ぶ魔虚羅の悲痛な叫びが耳に残る。

もう魔虚羅の体は完全に消えて跡形も無い。

あんな寂しがり屋な子なのに、凍らされていたせいで寄り添ってあげることも、声を掛けることもできなかった。

そんな場合じゃ無いのは分かってるのに涙が出てくる。

真希さんも同じようで今にも泣きそうな顔になっていた。

 

「久しぶりだね夏油君。あの時の答えを聞かせてもらおうか。どんな女が好みだい?」

 

その時氷をぶち破って見たことがない術師がやってきた。

 

「九十九由基!!」

 

へ? 九十九由基?

九十九由基って確か4人しかいない特級術師の一人じゃ……。

な、何で今頃来たのよ!

もうちょっと早く来てたら伏黒も魔虚羅も助けられたかもしれないのに!

今こんなこと思っても仕方ないけどさ!

ああ、もう!

魔虚羅が死んだことが自分でも思っている以上にショックだったみたいで、夏油と九十九由基が何か重要な話をしているのに全然頭に入ってこない!!

 

――パシャン

 

「!?」

 

なんて思っていたら全身を覆っていた氷が突然溶けた。

氷の術式を使った術師を見ると、苦しそうに膝をついていた。

どうやら虎杖の隣にいる術師の毒の効果らしい。

チャンスだ。氷の術式さえ発動させなければなんとかなる。

氷が溶けたことで皆が一斉に動き出した。

ほぼ全身が凍らされていた私は体温が下がって動きがまだ鈍い。

 

「よ、くも魔虚羅を……。私の友達を殺したわね」

 

それでも夏油に一発ぶち込んでやらないと気が済まない。

せめて魔虚羅の代わりに伏黒だけでも取り返さないと。

トンカチと釘を手にして夏油に向かう。

 

「まだ話の途中だよ。私が配った呪物は……」

 

 

――バチン!!

 

 

夏油が話の続きを口にしようとした時だった。

急に辺り一面真っ暗になった。

 

「は? え……何これ??」

 

一寸先も見えない闇が場を包み込む。

月明かりも、電気の明かりさえ消えた。

暗闇に目が慣れているハズなのに、自分がどうなっているかさえ分からないほどの漆黒。

 

「……これはどういうことだ? 裏梅」

 

「私じゃない。誰だ!? こんなことをしたのは」

 

「じゃあ君かい? 九十九由基」

 

「いや、私にもこんなこと出来ないよ。っていうか術式でこうなったんじゃないね。呪力の流れを感じなかった」

 

どうやらここにいる誰の仕業でもないみたい。

じゃあ誰が?

 

「えっ……う!?」

 

「ぐぅ! こ、これは……」

 

何も分からず狼狽えていると後ろから苦しそうな声が聞こえてきた。

さっき魔虚羅と一緒におかっぱの術師に向かっていった2人の声だ。

まさか攻撃されてるの?

でもこの状況下じゃ何も出来ない。

辺りがどうなっているのかまるで分からないから、助けようがないわ。

 

――シャラン

 

その時、鈴の音が鳴り響いた。

それは普通の鈴の音じゃなく、魔虚羅が大好きな水琴鈴の音色。

音のしたほうへ顔を向けると、小さな光の粒がそこにあった。

 

「蛍?」

 

なワケないわよね。時期が違いすぎる。

辺りは真っ暗だからその光の粒が余計目立つ。

 

――シャラン

 

また鈴の音が鳴った。

今度は光の粒がそこかしこに現れ始めた。

その数が尋常じゃない。

10や20どころじゃなく100……いや、1000以上はありそう。

下手したら1万を超えるんじゃ……。

 

――シャラン

 

再び鈴の音が鳴ると光の粒が一カ所に集まり始めて、あっという間に光の粒は一つの大きな球体になった。

人1人がすっぽり入りそうな球体。

辺りは真っ暗だからその光の球体が発する光はとても眩しく感じるハズなのに、不思議と眩しく感じない。

なんだか温かい光で守られているように思えてくる。

 

――ギギギ……ガコン!

 

そして次に鳴ったのは鈴の音ではなく何かが回転するような音。

何の音なの?

そう思う間もなく、光の球体がまるで朝日のような光を放った。

あまりの光量に思わず目を瞑る。

光はゆっくりと収束していき、ようやく光が収まって目を開けると漆黒の闇が消えていた。

でもあの光の球体はそのままその場にある。

全員が突如として現れた光の球体に注目している中、その球体の形が変わっていく。

まるで光が固まって形を成すように人の姿になっていく。

そしてパキンと音を立てて形を成した光が砕け散ると、誰もが驚くべき存在がそこに現れた。

 

「へ? 魔虚、羅?」

 

それは紛れもなく、ついさっき消えたハズの魔虚羅だった。

けど今までとは姿が少し異なっていた。

まずは大きさ。

今までは3mを超える大柄だったのに、目の前にいる魔虚羅は2mほど。

丁度呪骸と同じくらいの大きさだ。

呪骸に乗り移って助かったとか?

それにしては身に纏っている服が違う。

これまでは呪骸でも上半身裸だった。

今は袖は肘までの長さで丈の先が4つに分かれた黒い羽織を纏っていて、胸部にはいかにも頑丈そうな鎧を身につけている。

でも決定的に違うのは顔から生えた翼と手に持った剣だった。

翼は黄金色。

……なんだけど光の加減で虹色に見えるなんとも幻想的な色。

控え目に言ってめちゃくちゃ綺麗だわ。

そして最後に剣。

呪骸でも完全顕現でも右手に巻き付けるように持っていた剣がなくなり、代わりに1本の抜き身の剣を持っている。

刀身が白くて、柄の部分に法陣が描かれた剣。

頭上の法陣はそのまんまだけど……一体何が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――記録。

2018年10月31日23:45

世界中に突如謎のブラックアウトが発生。

日中だった地点もまるで新月の夜のような漆黒の闇に覆われる。

電気系統の明かりさえ消え去り、世界中が大混乱に陥った。

しかし不思議なことに計器類は光を発しないだけで正常に機能していたという。

ブラックアウトは数十秒間続き、その後回復。

 

 

2018年10月31日23:46

魔を照らす光の化身 生誕。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

こんばんわ、お久しぶりの緋紗奈です。

 

大分久し振りですが、仕事が忙しかったのとこれが原因です。

 

 

 

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いやー最初ぐったぐただったんですけど、

大分慣れて来たらめっちゃやり込んでしまいましたw

 

 

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まさかの異世界転移かよ!!

と突っ込んだ人多いんじゃないんですかね?

 

親方! 空から女の子が!

 

女主人公を選んだ人ならこうなったハズ。

もうエンディング終えて、裏ボスも倒して今はアルセウスに会うためにポケモン捕まえまくってます。

 

ちなみに今作は色違いが出やすい。

多分卵孵化がないからでしょうね。

ストーリー中に出会うことも多いみたいです。

私も会いました。

 

 

 

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迷子になっていたらイシツブテの隣になんか金色の見たことないポケモンがいるなーと思って見たら、まさかの色違いでした。

今作はポケモンが逃げることあるため出やすいのでしょう。

 

 

しかし野生のポケモンが強すぎて泣けます。

マジで強い。

もう寄り道が必須レベルである。

レベルが低いとその辺のポケモンに普通に負けるんだもん。

長年やってるけど、あんなにポンポンやられるの初めてだわ……。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

本日、禪院家本家のあるこの場所はとても冷え込んでおります。

まだ12月なんだけど寒い。

天気予報によると結構な寒波が来ているらしく東北は雪が降っているらしい。

いや、本当に寒いよ。

物置のような部屋に押し込められていて、衣服もまともに貰えない甚爾は更に寒そう。

このコタツがなければ即死だった。

 

「はー……あったけぇな。マジ清松に感謝だわ」

 

「本当だね。【木工術】最高!」

 

「ありがとうございます」

 

私が【成長期】に進化して実は2年経過している。

中々進化条件が達成できなくてねー。

 

 

【有翼の白蛇への進化条件】

・飛翔能力を持つ3級呪霊を25体倒す〔23/25〕

 

【刃尾の聖獣への進化条件】

・3級呪霊を20体倒す〔達成〕

・2級呪具を入手する〔達成〕

 

【秘めたる猫への進化条件】

・3級呪霊を30体倒す〔達成〕

 

【棘の獣人への進化条件】

・3級呪霊を20体自身の力のみで倒す〔達成〕

・棘を持つ3級以上の呪霊を5体倒す〔達成〕

 

 

この飛翔能力を持つ呪霊を倒すってのが意外と曲者だった。

ふよふよ浮いている呪霊倒してもカウントされないのよ。

ちゃんと翼を持っている呪霊倒さないといけない。

そしてその翼を持っている呪霊が思っている以上に少ないのだ。

最初は棘を持つ呪霊を倒すって条件のほうが難しいと思っていたんだけど、これは予想外である。

移動範囲がまだそこまで広くないのも原因ではあるが、お陰で2年経っても全達成にならない。

戦闘訓練は甚壱、甚爾と毎日やってるから大丈夫なんだけど……はぁ、早く【成熟期】に進化したいよ。

そんな時にこの物置部屋に新しい仲間が加わった。

それが彼、禪院清松君である。

まだ6歳の彼はなんと結構な呪力量を持っているのに判明した術式が戦闘向きのものじゃなかったためにここに追いやられたのだ。

術式は木を自分の思い通りに加工する【木工術】。

その術式を知った私の反応は「めっちゃ便利じゃん」だった。

木って加工するの結構大変なんだぞ。

それを自分の思うままに加工するなんて凄いよ。

でもここに押し込められた当初の清松は私が言っていることの意味が分からなかった。

どうやら術式が判明した時、周囲のクズ共にボロクソに言われて自信を失ってしまったようだ。

まぁ確かに戦闘向きの術式じゃないけど、ものを作り出せるのは才能だよ。

それが分からないとはマジでクソだわ。

というワケですっかり自信を失っていた清松を私達家族で時間をかけて元気付けた。

小さいことでも褒めてあげる。

木で箸やコップ、お皿を作らせてみて上手に出来たら皆で褒めた。

なんとこの【木工術】、木を一瞬で乾燥させることもできるし、不要なヤニを取り除くこともできる優れものだった。

木の乾燥なんて1年はかかるのに凄すぎる。

細かい模様を彫ることもできるし、しかも呪力を込めて加工するから普通のものよりずっと頑丈になる。

これはエラい術式だ。

と、褒めまくったことで自信を取り戻せたようで随分暗かったのに今では年相応の子供に戻った。

【木工術】の可能性は無限大だ。

大きいのはまだ無理だけど、こういう小さい家具を作るのはもうお手の物。

このコタツは清松が作った品物。

清松がコタツを作っている間に私と甚爾で床を引っ剥がして堀を作る。

作った堀にこれまた清松お手製の木の板を貼って、その上にコタツを置いて布団を被せればなんちゃって堀コタツの完成だ!

物置部屋に一つだけある火鉢を堀の中に入れて温かさはバッチリだ。

火事と火傷に注意しないとだけど、ただ部屋に火鉢を置くより温かい。

コタツを最初に作り出した人マジ天才です。

 

「家具職人になろうかなぁ…」

 

「いいんじゃね?」

 

「うん、賛成!」

 

すっかり私達に慣れたねー清松。

警戒心バリバリだった頃とは打って変わったよ。

まぁ警戒心バリバリだったのは九割私のせいなんだけどさ。

そりゃあね、突然呪霊でもない人外が話し掛けてきたら誰だって警戒するわ。

 

「母様、甚爾、清松。もう昼だがおはよう」

 

「おはよー甚壱!」

 

「おす、兄貴」

 

「おはようございます甚壱さん」

 

ここで朝の訓練を終えた甚壱がやってきた。

まーた怪我してる。しかも顔。

せっかくの可愛い顔が……。

怪我しないでねって言ってるのにしょうがない子だ。

 

「甚壱しゃがんで。治してあげるから」

 

「ああ、すまない母様」

 

「そう思うなら怪我しないの」

 

甚壱の顔に触れると反転術式をかける。

スウッと痕もなく怪我が治っていく。

ふふふふ、何を隠そうこの2年の間に反転術式が使えるようになったのだ。

まだ掠り傷治す程度しか出来ないほど弱いけど、進化するにつれて強くなるだろう。

十中八九、おばあちゃんからずっと反転術式かけて貰っていたからだね。

そのおばあちゃんは去年亡くなってしまったんだけど。

随分お年だったから別に不思議ではないのだけど、もっと遊びに行けば良かったなぁ……。

もう少ししたら命日だからお花供えに行かないと。

 

「蜜柑持ってきた。皆で食べよう」

 

「サンキュ兄貴」

 

「ありがとー甚壱」

 

「頂きます」

 

清松は私の正体を知っているので私達も気兼ねなく話せる。

元より隠すつもりはなかったけど、初対面で甚爾が私のこと「お袋」って言っちゃったのよ。

あの時の甚壱の呆れ顔はいつ思い出しても笑えるわ。

 

「清松もっと食べな。ほら、私の分あげるから」

 

「じゃあ俺のお袋にやるわ」

 

「いやいやいや。甚爾は成長期なんだからそれは甚爾が食べなさい」

 

「それ言ったらクダモンも十分【成長期】ですよね?」

 

「私はいいの。沢山食べたからって次の進化に影響があるワケじゃないから」

 

「そう言って母様はあまり食べないじゃないか。俺は母様にもちゃんと食べて欲しい」

 

えー。別に気にしなくて良いのに。

この体小さいからそんなに量がいらないのは本当だし。

でも甚壱の顔に“母様のことが心配”って書いてあるように見えるから今日は食べるか。

 

「分かった。これは私が食べるね」

 

「ああ」

 

「それはそうと兄貴。なんかあったか? 妙に家の連中が喧しいんだけど」

 

そうなの?

私と清松の耳には何にも聞こえないよ?

流石は甚爾の優れた聴覚だ。

 

「どうも五条家で六眼を持つ子供が生まれたらしい。そのせいで本家の人間が騒いでいる」

 

ふえ? 六眼??

六眼って五条悟さんが持ってた特別な眼だよね。

確か数百年振りの六眼と【無下限】の抱き合わせだって……。

ってことは五条悟さんが生まれたの?

 

「あの……六眼って何ですか?」

 

「五条家の人間だけが持つ特別な眼だよ。呪力の流れや術式を見ることが出来るの。五条家の相伝【無下限呪術】を使いこなすためにはその眼は必須と言われてる。滅多にその眼を持つ人は生まれないけどね」

 

「そうなんですか。騒いでるってことは生まれたの凄く久し振りなんですか?」

 

「ああ、数百年振りらしい」

 

うん、五条悟さんで確定だね。

五条さんの誕生日知らなかったけど12月なんだ。

……ちょっと赤子の五条さん見に行きたい。

 

「暇だな。他所の家のことで騒ぐ時間あるんだったら呪霊の情報くれっての。お袋がいつまで経っても進化できねぇじゃん」

 

「そうだろうと思って小耳に挟んだ情報を持ってきた」

 

「あ?」

 

「近くにコウモリ型の3級呪霊が現れたそうなんだが、かなり高い場所を飛んでいて祓うのに苦労しているらしい。数は3体。行くか?」

 

「「勿論行く!!」」

 

うっしゃあ! 約1週間振りの実戦!

気合い入るぜ!

 

「清松。お願いしてたもの作ってくれる?」

 

「勿論です!」

 

清松の気合いもバッチリ。

これが実証されれば清松は更に自信を持つことが出来る。

木を加工するだけとかバカにしてた連中よ。

泣いて清松に媚びるといい。

 

◇◆◇◆◇

 

 

その日の夜。

私と甚爾はいつも通りこっそり屋敷を抜け出して町中を歩いております。

寒い!

早くコタツに入りたい!

 

「おっ、見つけたぜ。アレだな」

 

と、歩き回って1時間ほどで甚爾が甚壱が話していた呪霊を発見した。

本当に高い場所飛んでいるね。

遠距離の術式を持っている術師って意外と少ないからこりゃ大変だ。

すぐに戦いたいところだけど、まだ町中なので我慢。

呪霊が人気のないところへ行くまで後を追う。

しばらくすると町外れになる学校までやってきた。

ここならいいな。

 

「闇より出でて闇より黒くその穢れを禊ぎ祓え」

 

私は帳を下ろす。

突然自分達の進路が塞がれ、呪霊がギャーギャーと騒ぎ出した。

 

「行くぜお袋」

 

「思いっきり頼むよ」

 

私は薬莢にすっぽりと入って甚爾の手に収まった。

甚爾がそれを呪霊に向かって投げつける。

 

「ギギャアア!」

 

「うし、命中」

 

薬莢は見事呪霊に当たった。

結構な速度で投げられたけど、薬莢に入っていれば痛くありません。

多少の衝撃は来るけどね。

いきなり攻撃され怒った呪霊が噛み付いてきたけどこれも痛くない。

そして一瞬だけ薬莢の外に出ると技を放つ。

 

「『絶光衝!!』」

 

私は左耳のピアスから強力な閃光を放つ。

暗い中、間近で閃光を浴びた呪霊は目をやられその体がグラリと傾く。

ドズとその呪霊に何かが突き刺さり、呪霊が消え去る。

それは甚爾が投げた木の槍。清松お手製のものだ。

清松は木を加工する時、呪力を込める。

込めた呪力の量によって加工した木の強度が変化するんだけど、じゃあ結構な呪力込めたら凄い呪具が出来るんじゃないかと考えた。

清松はその考えに至らなかったようで、今回ノリノリで協力してくれた。

結果はご覧の通り、どこからどうみても立派な呪具です。

木限定になっちゃうけど、呪具職人ここに誕生である。

今度木刀作って貰おう。

甚爾の力で普通の木刀持つとすぐに壊れちゃうんだけど、清松の【木工術】で作られた木刀なら大丈夫でしょ。

それにしても100mは離れているのに、的確に投擲できる甚爾の身体能力相変わらずヤバいね。

 

「おっと、思わず頭に当てちまった。でも残り2体いるからいっか。援護するぜお袋」

 

「お願いね甚爾」

 

さっきまで一部までだったけど完全に薬莢から出て戦闘態勢に入る。

まだ目が潰れている呪霊へ体を回転させ持っている薬莢ごとぶつかる。

 

「『弾丸旋風!!』」

 

ゴキン、と頭蓋骨が陥没したような音が聞こえると呪霊が消えた。

やっぱかなりの威力だな『弾丸旋風』。

薬莢に正のエネルギーが僅かながら宿っているみたいで、急所じゃなくても数回この薬莢を当てられれば呪霊を祓える。

神聖系のデジモンはやっぱ対呪霊キラーになりそうだ。

しかし神聖系のデジモンって天使型が真っ先に思い付くんだけど、天使型デジモンってめちゃくちゃ強いってイメージがないんだよね。

確かに対呪霊キラーだろうけど、呪術師って呪霊だけじゃなくて呪阻師とも戦わないといけない。

呪霊はともかく呪阻師と戦えるかな?

……多分アレだ。

フロンティアで三大天使が軒並み格下にやられてたからだな。

まぁまだ天使型になると決まったワケじゃないから後1体倒したら【秘めたる猫】へ進化しますか。

もう白井さんの押しが凄かった。

甚壱と甚爾の意見全部押しのけるほどに一歩も引かなかったからね。

白井さん絶対猫好きでしょ。

 

「ゴハンサキ、タベルノズルイイィィィィイイイイ!」

 

ここで残っていた最後の1体が襲いかかってきた。

空中だから身動きが取れない私に真っ直ぐ向かってくる。

普段ふわふわ浮いて移動してるんだけど、飛べるワケではない。

素早く移動することは出来ないからコイツの攻撃なんて避けられないんだけど、甚爾の援護があるから慌てずに待つ。

 

「動くなよお袋。おら! もういっちょ!」

 

甚爾が持っていたもう1本の木の槍を投擲する。

槍が見事呪霊の肩に命中。

上手く羽ばたけなくなった呪霊がバランスを崩した。

 

「ラスト一発『弾丸旋風!!』」

 

そして止めの一撃が炸裂し、呪霊が消え去った。

よっし、これで全項目クリアだぜ!

 

「やったよ甚爾。これで進化できる」

 

「おめでとさん。じゃあさっさと帰るか」

 

「うん」

 

ようやく進化できる。

まさか2年もかかると思ってなかったよ。

次はもっと時間かかりそうだけど……まぁ、なんとかなるだろう。

 

◇◆◇◆◇

 

翌朝。

甚壱、甚爾、白井さん、清松と私のことを知っている人が全員揃ったところで進化を開始します。

清松は私が進化するところを初めて見るからもう興味津々だ。

 

「それじゃ進化するね」

 

「「おう」」「「はい」」

 

んじゃ術式よ。早速頼むよ。

 

≪選択を確認≫

≪【秘めたる猫】への進化を開始します≫

 

体が淡く光り、3度目の進化が始まる。

小学生くらいの大きさになって耳が猫らしく大きくなる。

首にはモコモコの毛が生え、更には2本の触手が伸びた。

短いけどしっかり両手両脚が出来て、尻尾も太くなって進化が完了した。

【成熟期】だけどあんまり大きくないな。

テイルモンになるかと思ったけど違うし。

 

「か……」

 

「か?」

 

「「「「可愛い……」」」」

 

全員の声が揃った。

すげーな。甚爾まで可愛いって言ってるしそんなに可愛いの?

いつもの通り鏡で姿をチェックだ。

クルッと後ろを向いて置いてある鏡で確認する。

……。

うん、これ可愛いね。

え? これが今の私ですか!?

一体どんなデジモンなの?

デジモン図鑑どうぞ!

 

【メイク―モン】

【成熟期】

【タイプ不明】

【属性不明】

【大きな耳と尻尾が特徴的な成熟期デジモン】

【ふわふわの毛並みと愛らしい姿からは想像ができないが、実は手の中に非常に鋭い爪を隠し持っている】

【首から伸びる2本の触手は、恥ずかしがり屋のメイクーモンの顔を隠す以外にも、寒いときにはマフラーとして使える優れものだ】
【必殺技は、鋭い爪で相手をひっかく「シャットクロー」と、口からデータを破壊する毛玉を吐き出す「トリコベゾアール」】

 

タイプも属性も不明だと!?

そんなのディアボロモン進化系列しか知らんわ。

確かに【秘めたる猫】だね。

この先どんなデジモンになるか更に想像出来ない。

 

「こ、これが進化なんですか? 見た目ガラッと変わりましたね」

 

「全然違うでしょ。ビックリした?」

 

「はい、とても」

 

「姿だけじゃなく名前も変わるからな。母様、今度はどんな名前なんだ?」

 

「メイク―モンだよ」

 

「はぁ…名前も可愛らしいです奥様」

 

「可愛くてもクダモンの時より力強いから気をつけてね」

 

白井さんがうっとりと私を見つめている。

めちゃくちゃ触りたそう。

後で触らせてあげるから先どんなデジモンに進化するか見させて。

さてさて、次の進化条件はっと……。

 

 

≪進化条件を提示します≫

【猫の女神への進化条件】

・2級呪霊を30体倒す。

・相手を魅了し操る術を身に付ける(呪具による補助可)

 

【穏やかなる獣人への進化条件】

・2級呪霊を50体倒す。

 

【月の妖精への進化条件】

・2級呪霊を30体倒す。

・反転術式を習得する〔達成〕

 

【神使の寅への進化条件】

・2級呪霊を30体自身の力のみで倒す。

・黒閃を成功させる。

 

 

も う 色 々 と ヤ バ い !!

 

 

【完全体】への進化条件エグい、エグすぎる!

え? 【完全体】でこれって……【究極体】大丈夫??

と、とりあえず落ち着いて一体一体ちゃんと見よう。

最初は【猫の女神】。

やっぱり知らないな。でも猫だし正統進化かな?

いやでも“相手を魅了し操る術を身に付ける”ってどんな進化条件だよ。

間違いなくそういう系統の力持ってるデジモンだな。

難しそうだけど、“呪具による補助可”ってあるからちょっと優しい。

次は【穏やかなる獣人】。

これも知らないけど、気性が大人しいデジモンなんだね。

しかしデジモンって見た目に反して大人しい種族結構いるから、字面だけだとどんな姿か想像できない。

進化条件は一つしかないけど、代わりに数が多いな。

そして【月の妖精】。

妖精だから一瞬ピッコロモンかと思ったけど、ピッコロモン月関係ないよな。

後妖精型のデジモンで知ってるのはリリモンくらいだけどあの子も月関係ないし、マジで誰だか分からん。

これは進化条件が2つあるけど、1つはすでに達成されてる。

こういう場合もあるんだ。

最後は【神使の寅】。

流石にこいつは分かるぞ。

デジモンテイマーズに出てきた十二神将の1体ミヒラモンだ。

ミヒラモンに進化出来るんなら、【究極体】はバイフーモンになれそう。

でも進化条件ヤバいだろ。

“黒閃を成功させる”……だと?

これが来るとは思わなかったー!

出来るの? 私に黒閃出来る??

無理じゃね!?

 

「お袋どうした?」

 

どうやら顔に困惑が出ていたらしい。

甚爾が心配して声を掛けてきた。

 

「いや……進化条件の1つに“黒閃を成功させる”ってのがあって……」

 

「今までで一番難易度が高いな」

 

「でしょ?」

 

黒閃って相当なセンスがないと発生しなかったハズだ。

しかも技じゃなくて現象だから狙って出すことは出来ない。

私が知る限り黒閃を成功させた呪術師は五条さん、七海さん、東堂君、そして特級呪物、両面宿儺の器である虎杖君くらい。

みーんな戦闘センス抜群の人達ばかりです。

これは……ミヒラモンへの進化諦めた方が良いか?

 

「お袋ならいけるだろ。俺達も協力するから頑張ろうぜ」

 

「ああ、母様ならきっと成功させられる」

 

「分かった! お母さん頑張る!」

 

うっしゃー! 何が何でも黒閃成功させるぞー!

黒閃に比べたら他の進化条件なんかちょちょいのちょいだー!!

 

「さっきまであんなに落ち込んでたのに一瞬で立ち直った!!」

 

「ふふふ、基本的に奥様は甚壱様と甚爾様に甘いですから。ところでそんな進化条件がある進化先とは一体どんなものなのですか?」

 

「おっと伝え忘れてたね。ごめんごめん。次の進化先は【猫の女神】【穏やかなる獣人】【月の妖精】【神使の寅】だよ」

 

「じゃあ俺は【神使の寅】だ」

 

「俺は【猫の女神】だな」

 

「ぼ、僕は【月の妖精】で」

 

「私は【穏やかなる獣人】ですね」

 

「見事に全員バラバラ!!」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

いつも通りのアンケート。

【猫の女神】

【穏やかなる獣人】

【月の妖精】

【神使の寅】

この中から主人公に進化させたい進化先を選んで下さい。

 

ちなみに

【有翼の白蛇】→クアトルモン

【刃尾の聖獣】→レッパモン

【棘の獣人】→フィルモン

でした。

ちなみにクアトルモンの次の進化先にエアロブイドラモンとかが用意されていたりしました。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

領域展開【蹈鞴天目殿】

 

発動すると蹈鞴製鉄所と鍛冶場が合わさった空間がそこに出現する。

普段は術式で作った刀剣は1本しか持てないけど、領域展開中は2本持つことが可能。

錬成する刀剣は全て特級クラスになり、壊されたり別の形の刀剣にしたい時もすぐに新しい刀剣を錬成できる。

能力を強化する効果も勿論付与されている。

でも能力上昇値は1級クラス。

それだけ聞くと劣化なんだけど、その1級クラスの能力上昇の効果をなんと1本につき2つ付けることが出来るのだ。

同じ効果でも重複可能なので“身体能力強化”の効果を1本につき2つずつ、計4つ付ければその上昇値は5倍以上にもなる。

そして私には能力強化をもたらしてくれる刀剣だが、私以外の人にはその逆の能力低下の効果をもたらす。

この刀剣で斬ったり刺したりすると発動。

所謂デバブを相手に強制的に与える。

もし刀剣に“防御強化”と“動体視力強化”が付与されていた場合、相手には“防御低下”と“動体視力弱化”という効果が発生する。

必中効果は私が投げた刀剣に付いているので簡易領域を展開しない限り防ぐことは不可能。

まぁデバブが発生してなくても最大級に能力強化した最強の式神が迫ってくると考えたら相手からしたら恐怖以外の何者でもないけど……。

 

これが私の領域展開。

必中必殺の奥の手だ。

 

使えると気付いたのは、素振りを皆の前で披露したその日の夜。

恵さんに渋谷事変のことを話した後だ。

唐突にふと、『あっ……私領域展開使える』と感じ取った。

でもそれを恵さんにも五条先生にも言うつもりはなかった。

領域展開はまさに奥の手。

基本1日に1回しか使えないくらい発動すれば力を消費する。

例外は六眼を持つ五条先生くらいなもの。

そんな力を式神である私が使えば、私と繋がりを持つ恵さんにどんな影響が出るのか分からない。

何度か領域展開が使えることを話して試しにやってみようと思ったけどやっぱり怖かった。

本編でも初めて恵さんが領域展開した時かなり疲弊してしまっていたから。

だから誰にも言わず、使わないことにした。

もし使うことになったとしたらそれは“あらゆる事象への適応”を使ってもどうにもならない時。

そう、例えば宿儺が領域展開した時とか。

 

 

まさかこんなに早く使うことになるとは思わなかった。

 

 

こんなことなら少しでも練度を上げておけば良かったと思ったけど、もう後の祭り。

とにかく縛りで力を上げて、宿儺の領域に完全に潰されないようにするしかなかった。

【蹈鞴天目殿】の必要最低限の効果が残ってくれたからそれに全てをかける。

残ってくれた効果は特級クラスの刀剣に1級クラスの能力上昇の効果を2つ付けられることと、デバブを相手に押しつけられること。

その【蹈鞴天目殿】の効果が残っている刀剣は領域展開してすぐに作った長剣2本と短剣1本だけ。

長剣のうち1本には素早く動くために“身体能力強化”が2つ。

もう1本には更にそれを底上げするための“脚力強化”と、宿儺の斬撃と移動速度に少しでも耐えられるように“防御強化”を付与した。

残った短剣は宿儺にデバブを押しつけて虎杖君が戻って来られやすいように“身体能力強化”と“使用呪力量軽減”を。

【伏魔御廚子】が発動した瞬間、私は生きている人に降りかかろうとする斬撃を相殺するために動く。

まさに音速に近い速度で領域内を駆け抜ける。

この速度で動けばいくら頑丈でも体がバラバラになるんだろうけど、“防御強化”のお陰である程度耐えられる。

どうしても耐えきれなくなったら“あらゆる事象への適応”を使おう。

動体視力も情報処理能力も“身体能力強化”の効果で上がっているから、この速度で動き続けてもなんとかなる。

宿儺の斬撃はなるべく八握剣で相殺して動く。

いくら特級クラスの刀剣とはいえ、宿儺の斬撃にどれくらい耐えられるか分からない。

もう新しい剣を作り出せないから極力温存させないと。

呪力感知も範囲を領域内に絞るけど、制限なしで使う。

これでどんな小さな反応も取りこぼさない。

絶対に誰も死なせない!

虎杖君にあんな顔させるもんか!

 

 

 

 

 

……痛い。

 

宿儺の目にも止まらない速度で動き続けていることで体が悲鳴を上げる。

 

範囲を絞っているとはいえ呪力感知を制限なしで使っていることで頭が焼けるように痛い。

 

痛い、痛い、痛い、痛い。

 

もう止めてしまいたい。

 

でもやるって決めたんだ。

 

最後まで投げ出すな。

 

今まで全てを諦めて逃げて来た弱い自分を捨てるためにもやりきるんだ。

 

 

 

―【伏魔御廚子】が消える。

 

 

 

斬撃が来ないことを確認すると、私は動きを止めて宿儺の前に立つ。

途中から体の感覚が分からなくなった。

どこをどう怪我しているのかも、どれくらい消耗しているかも感じられない。

 

「つまらんな。あの速さで動けるなら俺に一撃加えることも出来ただろうに、縛りの通り誰も死なせないためにしか力を使わんとは」

 

宿儺が私に話しかけてきた。

長剣はもう柄の部分しか残らないほど壊れてしまっている。

でも短剣のほうは無事だ。

一瞬だけであろう短剣を投げる隙を伺う。

 

「【開】」

 

宿儺が私へ【開】を放とうと動いた。

今しかないと私は短剣を投げる。

 

―トス

 

短剣は見事宿儺の右肩に刺さった。

軽く刺さった程度だけど、これで十分デバブが発生する。

他のもの投げると明後日の方向にしかいかないくらいノーコンなんだけど、剣を投げる時だけは別なんだよね。

剣に特化しすぎじゃない?

 

「最後の最後までつまらんな。どうせなら急所に当てるべきだろう。それを選択する思考すらないと、言…う……?」

 

余裕ぶっこいていた宿儺だけど、どうやらデバブが効いてきたみたい。

明らかに慌てている。

ざまぁみやがれ。

この状況下で無意味な行動するワケないでしょ。

どうせ気付くから【蹈鞴天目殿】の効果の一部を説明してやった。

宿儺の気配が弱くなっているのが感じ取れる。

“使用呪力量増加”のお陰で宿儺の呪力が大幅に消費されているからだろう。

でも虎杖君にはその効果がいかないようにしてある。

だから……。

 

『もう、戻って来られるよね虎杖君。私は大丈夫だから戻って来て……』

 

私の声に応えるように、宿儺の体に刻まれている紋様が消えていく。

大丈夫みたいだね。

 

「いいだろう。今回は負けを認めてやる。次に戦う時のためにもっと力を身につけておくといい」

 

『……その次が、ないことを…私は祈るわ……』

 

その言葉を最後に宿儺は完全に消えて、虎杖君に体の主導権が戻った。

 

「……ま、魔虚羅」

 

『虎杖君……良、かった』

 

虎杖君の声を聞いた直後、私は力尽きたらしくその場に倒れた。

……? 倒れた?

どんな風に倒れた?

どっちが上でどっちが下だろう?

駄目だ。もう何も感じない。

 

「――っ! ―――!!」

 

虎杖君が必死に呼び掛けてくれているみたいだけど、それさえも上手く聞き取れない。

“あらゆる事象への適応”はまだ3回使えるハズなのに、使うために集中しようとすると逆に意識が遠ざかっていく。

式神の力も使えなくなってしまうほど力も精神力も使い切ってしまったらしい。

どうしよう。まだ真人とメロンパン、裏梅も残っているのに……。

 

「魔虚羅!!」

 

上手く聞き取れないハズなのに、その人の声ははっきりと聞こえた。

恵さんだ。

壊相さんと血塗君も一緒に駆け寄って来ているのが見えた。

ああ、そんな顔しないで皆。

とりあえず生きてるからさ。

『大丈夫だよ』と言いたいのにもう声が出なかった。

 

 

◇◆◇◆

 

《伏黒恵視点》

 

 

何かが壊れる音、金属が擦れるような甲高い音が鳴り響く。

魔虚羅が宿儺と戦っている音だ。

本当は見えるところで見守っていてやりたいのに、危険すぎていてあげられない。

万が一領域展開されたら防ぎようがないから戦場から離れるしかない。

 

「兄者ぁ。魔虚羅大丈夫かなぁ?」

 

「きっと大丈夫だよ。魔虚羅さんの目的は宿儺に勝つことじゃないんだ。虎杖君が戻ってくるまでの時間を稼げばいいんだから。ねえ恵さん」

 

「え? あ、ああ。そうだな」

 

魔虚羅が助けた呪胎九相図の2番と3番、壊相と血塗。

魔虚羅が受肉させると言い出した時は流石に反対したが、彼女が言う通りとても大人しくて本当に特級呪物なのかと思ってしまった。

漫画でもこういう感じらしいから、漫画通りに話が進んでいたら“ただ兄弟と一緒に過ごしていたい”と思っていただけの彼らを話し合う前に殺してしまっていたのかと思うとゾッとする。

本当に魔虚羅は最悪の未来を回避しようと頑張るな。

勿論救えなかった人もいるけど、それでも手が届く範囲の人は必死で助けようとする。

今だってそう。

宿儺戦っているのだって虎杖を助けるためだ。

話を聞く限り“戦わない”という選択肢も勿論取れた。

宿儺が領域展開し大量虐殺をしたのは宿儺が俺を生かすため魔虚羅を倒そうとした結果だ。

だからそもそも戦わなくても問題ないハズ。

じゃあ魔虚羅と戦わなかった場合宿儺はどんな行動を取る?

もしかしたら暇潰しで漫画よりヤバいことをしてしまうかもしれない。

というかその可能性のほうが高い。

なら自分が戦って虎杖が戻ってこられるようになるまで時間を稼ぐのが一番いいと言うのが彼女の決断だ。

……それがどれだけ彼女のプレッシャーになっているのか。

声を聞いただけで震えが止まらなくなるほど恐ろしい相手。

俺でさえまだ指3本のあの時ですら怖かったのに、今は15本だ。

直前まで恐怖心と戦っていた魔虚羅のことを考えると代わってあげたくなる。

 

―ドクン

 

「ぐっ!?」

 

「恵さん!?」

 

その時突然体の奥底から力が抜けていく感覚に襲われた。

更に全身をまるで数分間全力疾走したかのような疲労感が包み込み一歩も動けなくなった。

思わず地面に座り込む。

な、何だ? 急に何が……。

 

―キィン!

 

今度は四方八方から金属が擦れるような甲高い音が響き渡った。

周りのビルが無残に切り刻まれていく。

これはまさか……魔虚羅が言っていた宿儺の領域展開か!?

漫画では範囲を絞って使ったと言っていたが、ここまで届いているということは恐らく範囲は絞られていない。

不味い。

俺も、壊相も血塗も範囲内にいる人が全員死ぬ。

そう思った瞬間、ほんの……ほんの一瞬だけ魔虚羅の姿が目に映った。

パタリと何かが顔にかかる。

手で拭うと顔にかかったものは血だと分かった。

でもここにいる誰も怪我をしていない。

ま、さか……。

 

「あ、兄者…これ」

 

「魔虚羅さんが宿儺の領域展開を相殺している…?」

 

どうやら壊相と血塗も同じ考えに至ったようだ。

でもどうやって?

今の魔虚羅には宿儺の領域展開を相殺する力はないハズだ。

けど何かしらの方法で相殺しているとしたら……。

ならさっきの虚脱感や疲労感は魔虚羅が力を大量消費したことによる影響が俺に来たということか?

でなければ周りのビルがボロボロになっていくのに、俺達に何も起こらないのは説明がつかない。

数分間続いたであろう領域展開が俺には数十分に感じられた。

攻撃が治まった頃にはビルはただの瓦礫の山と化していた。

土煙で辺りがよく見えないが魔虚羅がどうなったのかが気になり、俺は魔虚羅の気配がする方へ走り出していた。

死んでいないのは分かるが、それと同時に酷く弱っているのも俺には分かった。

 

「ああ! ちょっ…恵。危ないって!」

 

「私達も行くよ。魔虚羅さんが酷く疲弊しているのを感じる。この状態で攻撃なんか受けたら間違いなく死んでしまう」

 

どうやら壊相と血塗も魔虚羅の状態を感じ取っているらしい。

呪力を通して繋がりがあるって言っていたし、それで分かるのかもしれないな。

 

「……ぃ、おい! 魔虚羅! 魔虚羅しっかりしろ!」

 

土煙が晴れ、領域展開が発動した中心部に辿り着こうとした時、虎杖の声が聞こえた。

宿儺の気配はもうしないし、虎杖が戻ってこられるようになるまで魔虚羅は時間を稼ぎきったようだ。

でもそれを素直に喜ぶことは出来なかった。

ようやく視界に入った魔虚羅の状態があまりに酷かったからだ。

全身の至るところが裂けて滲み出た血が地面に赤い染みを作っている。

それに手が……指が何本も欠けていた。

右手は中指と小指が第一関節から先がない。

左手に至っては人差し指と薬指が根本からなくなっていた。

一目で魔虚羅が宿儺の領域展開を相殺するのにどれだけのことをしたのか分かる。

 

「魔虚羅!!」

 

駆け寄って声を掛けるが、僅かしか反応がない。

その僅かも指先がかすかに動いた程度だ。

意識はあるみたいだが、声さえ出せないらしい。

 

「何があったらこんな…。虎杖、何があったか話せるか?」

 

「それが……宿儺が領域展開して、その領域展開から皆を守ろうとして魔虚羅も領域展開したんだ。魔虚羅の領域展開はすぐにかき消されたんだけど、少しだけ効果が残ってて……その残った効果で宿儺の領域展開を相殺しようとして……」

 

「……は?」

 

魔虚羅が領域展開をしただって?

何だよそれ……。

魔虚羅が領域展開出来るなんて俺は知らないぞ!?

 

「え? 魔虚羅って領域展開使えたかぁ?」

 

「いいや。私も初めて聞いたよ」

 

俺だけかと思ったが壊相と血塗も初耳のようだ。

ということは本当に誰も魔虚羅が領域展開出来ることを知らないのか。

魔虚羅から詳しい話を聞きたいところだが、彼女は指先を動かすのすらやっとの状態で……。

いや、話を聞く以前に少しでも楽にさせないと。

呼吸も浅くてかなり苦しそうだ。

 

「ま、魔虚羅。俺達の呪力共有を復活させてくれ。少しは違うと思うからさぁ」

 

「そうです魔虚羅さん。私達は平気ですから」

 

壊相達が魔虚羅に何かを頼んでいる。

呪力共有って何だ?

 

「壊相?」

 

「あっ……実は私達と魔虚羅さんは呪力を通して繋がっているんですけど、同時に呪力も共有しているんです。私達の呪力が減れば魔虚羅さんから呪力が自動的に提供されるし、魔虚羅さんの呪力が減れば私達から呪力が…という感じなのですが、今魔虚羅さんはその呪力の共有を遮断しているんです。魔虚羅さんがそれを復活させて下されば少なくとも話せるようになるかと……」

 

成程な。

普段は魔虚羅の呪力のほうが圧倒的に多いから魔虚羅から壊相達へなんだけど、今の魔虚羅の呪力はいつもの10%くらいしかないから壊相達から魔虚羅へ呪力が提供される流れになるハズが、それを魔虚羅が切っているのか。

多分魔虚羅のことだから壊相と血塗に今の自分の状態を共有させたくなくて、繋がりの一部を切っているんだろうな。

けどそれだとオマエがしんどいだけだろう。

 

「魔虚羅、俺の声は聞こえてるよな。壊相と血塗との呪力共有を復活させろ」

 

普通に言っただけだと魔虚羅は復活させないだろうから本気の命令をした。

壊相と血塗の顔が少し歪む。

 

『はっ……。ゲホッ…はぁ、はぁ……』

 

変化は劇的だった。

さっきまで浅かった呼吸が途端に大きくなる。

 

『め、ぐみさ…、えそ……け、ちず…』

 

声も出せるようになったようだ。

とはいえまだかなり苦しいハズ。

とりあえずうつ伏せで倒れている魔虚羅を仰向けにさせよう。

 

「虎杖手伝ってくれ」

 

「あ、ああ」

 

満象を出してもいいんだが、満象も魔虚羅ほどじゃないけど呪力の消費が多い。

まだ“使用呪力量軽減”の効果が付与された剣が残っているとはいえ無駄使いしたくない。

傷だらけの体。なるべく痛まないように仰向けにさせたんだが、魔虚羅はその間全くの無反応だった。

これは……もしかして痛くないんじゃなくて感覚がないのか?

それほどまでに消耗しているとなると壊相と血塗との呪力共有を復活させただけじゃ回復には程遠いな。

 

「魔虚羅。俺の呪力も受け取れ」

 

『でき、ない』

 

「はぁ、そう言うと思った。受け取れ魔虚羅」

 

『……はい』

 

再びの本気の命令。

どうせ俺の体のこと気にして受け取りたくないんだろう。

俺なんかオマエの【刀剣錬成】のお陰もあってあまり呪力消費していないんだから気にしなくていいのに。

魔虚羅の臍の辺りに手を置いて呪力を込める。

そして剣に込められた呪力の三分の二を使うくらいの呪力を魔虚羅に与えた。

これだけやってもまだ30分以上は完全顕現してあげられる。

影の中に戻したところで状態が良くなるわけではないから、なるべく様子をこの目で確認しておきたい。

 

「どうだ?」

 

『…うん。ちょっと楽』

 

「そうか。“あらゆる事象への適応”はまだ使えるか?」

 

『使…えるハズなんだけど……使えない、の』

 

「……」

 

式神の力さえ使えなくなるほど消耗しているのか。

使うには呪力を高めて集中しないといけないと言っていたから、そのどちらかか両方とも出来ないくらいの状態ということか。

 

「ごめん魔虚羅。俺が……俺のせいで……」

 

虎杖が今にも泣きそうな顔で頭を下げる。

 

『虎杖君のせい、じゃないよ。虎杖君は、宿儺のコントロールを放棄…したワケじゃないんだから。知ってるから、謝らないで……』

 

そうだ。今回はあの火山頭が虎杖に宿儺の指を一気に取り込ませたのが原因なんだ。

決して虎杖のせいではない。

魔虚羅もそれを分かってるから、虎杖に不要な責任を感じて欲しくなくて戦った。

 

「伏黒君!」

 

それはこの渋谷事変の出来事を事前に魔虚羅から聞いている七海さんも同じだ。

近くにいたらしい。何故か釘崎と猪野さん達も一緒だけどこちらに来てくれたようだ。

 

「ちょっ!? 伏黒、何で魔虚羅こんなにボロボロなのよ! 指ないじゃん!!」

 

「……ごめん釘崎。俺のせいだ」

 

「あ゛ぁ!?」

 

「だから虎杖のせいじゃないって言ってるだろ」

 

本当善人過ぎるのも考えものだな。

漫画通りの展開になって宿儺が大量虐殺していたら虎杖マジで心折れていただろうな。

 

「伏黒君。さっきのは一体何なのですか? 魔虚羅君の姿が一瞬見えたのは分かったのですが、何が起こったのか……」

 

「ああ、それは……魔虚羅、どんな領域展開の効果なのか話せるか?」

 

『うん……』

 

「「「「領域展開!?」」」」

 

そして俺達は魔虚羅の領域展開【蹈鞴天目殿】の効果と、魔虚羅が宿儺の領域展開をどうやって相殺したのかを知る。

正直開いた口が塞がらなかった。

その僅かに残った効果でそんなことをしたとか……頭いてぇ。

でもそこまでしないと相殺出来なかったし、しなければここにいる全員が死んでいた。

それは間違いないんだけど、いくらなんでも無理しすぎだろう。

 

「ほう、まさか式神が領域展開とは。これは更に手放すのがおしいな」

 

「ジジイはちょっと黙ってろ。おい、恵。色々と言いたいこと多いけど、最初にこれだけ言うぞ。魔虚羅無理しすぎ!!」

 

「本当それよ! 何で止めなかったのよ! お陰でこの状態じゃない! 魔虚羅が大事なら止めるべきでしょう!」

 

「しかし魔虚羅君がここまでしなければ私達は確実に死んでいました。あまり魔虚羅君と伏黒君を責めてはいけません」

 

「い、いや…そうだけどさ……」

 

「つーか、魔虚羅の側にいるアイツら誰だよ! 一匹どう見ても呪霊だろ!」

 

と、真希さんが指差す先には壊相と血塗がいた。

まぁ、そういう反応になるよな。

呪胎九相図である壊相と血塗のことを知っているのは魔虚羅と俺と七海さんと五条先生だけだ。

更にその受肉体だと知ってるのは魔虚羅と俺だけだし。

 

「挨拶が遅れましてすみませんでした。私は壊相と申します。こちらは弟の血塗です」

 

「血塗だ、よろしくなぁ」

 

「少々怪しい者に見えるかと思いますが私達は魔虚羅さんに恩がありまして、魔虚羅さんを害する気は全くありません。勿論魔虚羅さんのご友人を傷付けるつもりもありませんのでご安心下さい」

 

「は…はぁ…」

 

『大袈裟だよ壊相さん。私別に大したことしてないか、ら。それより虎杖君』

 

「何だ?」

 

『渋谷駅に真人がいる』

 

それを聞いて虎杖の顔が変わった。

虎杖と真人という特級呪霊は因縁があるらしい。

魔虚羅の話だと助けようとしていた吉野順平という術師を目の前で改造され殺されているそうだが、この反応を見るとそれだけじゃなさそうだな。

 

『正確な場所は分からないけど、道玄坂改札の辺りだと思う。それでその、近くに東堂さんもいる』

 

「東堂が?」

 

『うん。東堂さんと合流して真人を……。ご、めんね。私ならすぐに祓えるのに、もう動けなくて』

 

「大丈夫だ魔虚羅。俺行ってくる。オマエの分まで戦って今度こそ絶対に真人と決着をつけるからな」

 

『お、願い…』

 

魔虚羅の手を取って虎杖が力強く宣言する。

退魔の力が宿る八握剣なら特級呪霊であろうが一撃で倒せる。

それが【無為転変】とかいう魂を弄る術式を持つ真人であろうが。

だから魔虚羅は自分なら大した怪我もなく祓えるからと真人と対峙したがっていた。

でも消耗しすぎた魔虚羅はもう戦えないから、この中で唯一【無為転変】が効かない虎杖に託すしかない。

それがとても悔しそうだ。

 

「私も行きましょう」

 

「!? 駄目だ七海さんは……」

 

その戦いで二度とまともに動けないほどの重症を負うって魔虚羅が……。

七海さんだって知っているハズなのに何で。

 

「大丈夫です、対処法は知っています。それに彼女のお陰で大して消耗していませんから心配無用です」

 

「分、かりました。無茶はしないで下さい」

 

これはてこでも動かないな。

なら後押しするほうが一番だ。

それに東堂もいるならなんとかなるだろう。

 

『虎杖君、七海さん。これを』

 

魔虚羅が震える手で2人に何かを渡した。

それは手に収まるほどの小さい短剣。

おい、まさかそれ……。

 

『今の私だと4級の剣しか作れないけど、ないよりマシ…だと思うから持っていって』

 

やっぱり術式で作った剣だった。

今のオマエには例え4級の刀剣であろうと作るのはかなりしんどいだろうに、それでも何かせずにはいられなかったんだろう。

効果は虎杖が“腕力強化”で七海さんが“術式強化”だそうだ。

4級の刀剣だから能力上昇率は本当に微々たるものだが、確かにないよりマシだな。

 

『ついでにちょっと博打技なんだけど、一度だけ爆発的に攻撃力を上昇させる方法も教えるね。これ私じゃなくても使えるから』

 

というワケで最近発見した博打技を使う方法も2人に教えた。

使えるのは本当に一回きりだしデメリットもあるけど、その分当たった時はえげつないほどの威力が出る。

なんとなく虎杖ならそれに黒閃に合わせられるような気がするな。

 

「ありがとうな魔虚羅。じゃあ行ってくる!」

 

「行ってきます」

 

『いってらっしゃい』

 

2人が渋谷駅に向かうのを魔虚羅は心配そうな顔で見送る。

大丈夫だと思っていても何が起こるか分かるからだろう。

 

『野薔薇さん』

 

「何? 魔虚羅」

 

魔虚羅が釘崎を呼ぶ。

そして真人の分身がいる場所を釘崎に伝えるとそいつに【共鳴り】をして欲しいと頼んだ。

 

「あっ、やっぱり効くのね。OK、魔虚羅。ドデカい一撃食らわせてあげるわ」

 

『……行く前に野薔薇さん、一つだけ約束して』

 

「約束? いいけど、何を?」

 

『真人の分身体が逃げても絶対に追わないで……』

 

「はい?」

 

ほとんど力の入らない手で魔虚羅は釘崎の手を握る。

聞いた釘崎からすれば意味が分からない約束。

けど“知っている”魔虚羅はそうなって欲しくないから必死だ。

釘崎は真人と戦って左目を失くすから。

 

『絶対に追わないで。絶対に渋谷駅に入らないで。……お願い』

 

「わ、分かった。分かったわよ。追わないって約束するから」

 

『ありがとう』

 

釘崎が約束すると言ったことでようやく魔虚羅は手を放した。

それでも不安は払拭できないようだけど。

釘崎のことも見送ると魔虚羅の視線が壊相達に移る。

 

『壊相さん、血塗君。渋谷駅B3F田園都市線ホームに脹相さんがいるよ。早く行ってあげて』

 

「いえ、しかし……」

 

『私なら大丈夫、恵さん達がいるから。壊相さん達も脹相さん会いたいでしょ? 脹相さんも会いたがってるハズだから』

 

「……分かりました。ありがとうございます魔虚羅さん」

 

「うん。ありがとなぁ魔虚羅」

 

ずっと魔虚羅に寄り添っていた壊相と血塗が立ち上がって、呪胎九相図の1番がいるという場所へ向かう。

 

「恵さん。魔虚羅さんをお願いします。見た目以上に心が弱っているようですので」

 

壊相が俺にだけ聞こえるよう耳打ちをして来た。

そんなこと言われなくても分かってる。

本当は七海さんも釘崎も戦場になんか送りたくなかったのに、そうするしかなかった。

2人がどうなってしまうか分からない不安で心身ともに弱ってる。

 

「魔虚羅のことは心配するな。真希さんもいるんだし、オマエ達は脹相のところへ行ってこい」

 

「ありがとうございます」

 

ペコリと頭を下げると、壊相達はその場を離れた。

さて、ここに残っているのは俺に真希さん、猪野さん、伊地知さん、新田さんに……。

 

「おい、ジジイ。どこに行くつもりだよ」

 

禪院家当主の直毘人さんがいたんだけど、何故か帰ろうとしている。

なんだろう。良からぬことを考えている気がするな。

 

「何、ちと用事を思い出してな。おい、そこの。家まで送れ」

 

「ええ!? わ、分かったッス」

 

「では私もご一緒しましょう」

 

と、補助監督の2人が同行することになった。

猪野さんも一緒に行こうとしたんだけど、直毘人さん特別1級術師だし、補助監督殺し回っていた呪詛師はもういないから(魔虚羅が呪胎九相図の受肉体にしたとは言っていない)残ることにしたみたいだ。

 

「ったく、あのジジイ。絶対碌でもないこと考えてるだろ」

 

「伏黒が魔虚羅を調伏してること知って禪院家の当主にしようとしてるんじゃないか? 今まで誰も調伏したことがないスゲー式神なんだろ」

 

「いや流石にそれは…………ありそうですね」

 

「ありそうだな」

 

実際当主になるつもりはないか聞かれたし、めちゃくちゃありえそうだ。

当主になるなんざ死んでも嫌なんだけど……あれ? 当主になったほうが魔虚羅守れたりするか?

少なくとも禪院家の連中に好き勝手されることはなくなるよな。

そう考えると禪院家の当主になるのも選択肢の一つなのか?

……でもやっぱり嫌だな。

 

「それはそうと魔虚羅のこと影に戻さねぇのか? そのほうが回復するだろ」

 

「影の中に戻したところで回復速度は変わりません。俺の呪力が保つうちはこの目で様子を見ておきたいんです。式神の力が使えるのなら話は別ですけど」

 

「相変わらず大事にしてんな。つか魔虚羅の式神の力って何だ? それも使えるようになってたのか」

 

「はい。魔虚羅の式神の力は“あらゆる事象への適応”。どんな攻撃に対しても一度受ければ即座に対応してしまう力。簡単に言えば後出しジャンケンです。発動すればダメージもリセット出来ます」

 

言っても問題ないと思ったので言うことにした。

下手に誤魔化すのも限界がある。

それに真希さんと猪野さんなら言いふらしたりしないだろう。

 

「え? なにそれ。チートじゃん」

 

「でも一日に8回しか使えませんよ」

 

「十分チートだろ! じゃあ宿儺との戦いでその力使い切ってしまったから今この状態ってことか」

 

『ううん。後3回残っているんだけど発動出来ないんです。多分呪力が足りなくて……』

 

弱々しい口調で魔虚羅が答えた。

なんだろう。さっきよりグッタリしているな。

心が弱ってるせいか?

 

「無理に喋るな、休んでろ。なんなら眠ってていいから」

 

『でも皆が気になって』

 

「心配性だな。七海さんも悠仁も強えんだし、野薔薇だって私達にしごかれてるから大丈夫だ。オマエは気にせず休んでろ。結果はちゃんと伝えてやるから」

 

『……』

 

真希さんにそう言われても魔虚羅は“知っている”から難しいか。

聞いているだけの俺と違って漫画での展開を全て記憶している魔虚羅は気が気でないだろう。

宿儺との戦いでここまで消耗するとは思ってなかったんだろし。

 

「魔虚羅。心配する気持ちは分かるけど、虎杖達を信じてやれ。あまり心配しすぎると皆を信用してないと思われるぞ」

 

『そんなこと……』

 

「なら心配せずに大丈夫だと思ってろ。信じるってのはそういうことだろう?」

 

『うん』

 

そこまで言うとやっと表情が穏やかになった。

といっても微々たる変化なので真希さんと猪野さんには表情が変わったことに気付かないだろうな。

 

『……恵さん。領域展開出来ること黙っててごめんなさい。怖くて、使うつもりなかったから』

 

「それは俺に何かしら影響が出ると思ったからか?」

 

『うん』

 

まぁ、そうなんじゃないかと思った。

領域展開出来るというのは術師としては最高位の証みたいなもの。

それを黙っているってことは何かを気にしてのことだろうと思ったけど、やっぱり俺絡みだったか。

これは言うべきなのか?

でも隠したところで遅かれ早かれバレるだろうし、ここは言ってしまおう。

 

「宿儺の領域展開が来る直前に虚脱感と疲労感が襲ってきた。多分オマエが領域展開したことによる影響が来たんだと思う」

 

『……やっぱりあったんだ。ごめんなさい』

 

「命があるだけ儲けものだ。オマエが領域展開しなければ俺は死んでいたんだ。オマエには感謝している。俺だけじゃなくて皆がな」

 

まだ疲労感が少し残っているが、こんなの少し休めば良くなる。

魔虚羅に感謝しても、恨むやつは誰もいない。

 

「ああ、オマエすげぇよ。あそこにいた全員守りきったんだから。本当によくやったよ」

 

「おう。俺には真似出来ないぜ」

 

『そっか。良かった…』

 

皆の言葉を聞いてようやく安心したのか、まだ少し強張っていた体から完全に力が抜けた。

すると、ずっと握っていた右手から何かが落ちる。

シャランと音を立てて落ちたのは俺が魔虚羅にあげた水琴鈴だった。

といっても腕輪に結んでいた紐がなくなっていて、鈴の部分だけになっているが。

 

『あっ、ごめん。それ途中で切れちゃって』

 

「壊れないようにずっと持っていたのか。ここまでしなくてもまた新しいもの買ってやるぞ」

 

『私はそれがいい』

 

「そう言うと思った」

 

多分生まれて初めて貰ったものだろうし、大事にするのは当然か。

せっかくだし、結び紐を新しくする時に緑色の宝石でもつけてやろう。

魔虚羅は緑色が好きみたいだからな。

……俺の目と同じ色だからとかそういう理由じゃないよな?

 

「あれ付き合ってないってホント? 絶対2人の世界に入ってると思うけど」

 

「付き合ってねーぞ。魔虚羅に至っちゃ自分の気持ちに気付いてねぇし」

 

「両片想いか。こりゃ伏黒がリードしてやらないと進展しないな」

 

「だからさっさと伝えろって言ってるのに一向に伝えねぇんだ。マジへたれなんじゃねぇかと思うぜ」

 

「…………2人共聞こえてますけど」

 

「「聞こえるように言ってるんだよ」」

 

なんつー話してるんだよ。

魔虚羅にまで聞こえたらどうするんだ。

 

『? 何の話?』

 

良かった。全然聞こえてなかった。

ホッとするが、確かにいつまでも伝えないのもアレか?

でもやっぱり混乱させたくない。

大分感情が出てくるようになったけど、愛情を感じにくいのだけは変わらない。

その状態で伝えてもなぁ……。

せめてもう少し感じられるようになってからのほういいと俺は思うんだが。

 

―ザリッ。

 

悶々と考えいると誰かの足音が聞こえた。

靴の音……じゃないな。

草履の音みたいだけど、草履を履いている人なんかいたか?

音の聞こえた方向へ顔を向けると、着物を着た人が立っていた。

白い髪でおかっぱの男か女か見ただけじゃ分からない人だった。

……ん?

白い髪でおかっぱの人って、魔虚羅が言っていた1000年前の……。

 

『う、裏梅!?』

 

魔虚羅が驚愕の声を上げた瞬間だった。

空気が一瞬で冷え込み、巨大な氷柱が俺達を包み込む。

あっという間に辺りは南極のような景色に変貌する。

全員あらゆる部分が凍りつき、身動きがとれなくなった。

 

「な、なんだこれ! 動けねぇ!」

 

「だっ、誰だオマエ! 氷の術式を持つ術師なんか聞いたことないぞ!?」

 

真希さんと猪野さんの声なんか一切聞こえないというように裏梅がこちらに近付いてくる。

魔虚羅の話によると、コイツは宿儺の部下だ。

まさかさっきの戦闘を見て魔虚羅の力が危険だと判断して止めを刺しに来たのか!?

弱り切っているこの状態でコイツの攻撃なんか受けたら確実に死ぬ。

しかし他の式神を出そうにも手が凍り付いていて動かせない。

裏梅が目の前に迫る。

こうなったら術式を解いて……と思ったのだが。

 

 

 

 

裏梅が俺の首を掴んだ。

 

 

 

 

「は?」

 

『え?』

 

何をするのかと思う間もなく、裏梅はそのまま俺を引きずって歩き始めた。

な、何だ。何処に連れて行くつもりだ!?

 

『止めろ裏梅! 恵さんに何する気だ!』

 

それを止めようと魔虚羅は無理矢理立ち上がって裏梅に攻撃しようとした。

裏梅がチラリと魔虚羅へ顔を向けると、魔虚羅の背後に槍のように先端が尖った氷柱が現れる。

避けることが出来るハズもなく、魔虚羅はその氷柱に腹部を貫かれた。

 

『ああああああああああああ!!』

 

「ま、魔虚羅!!」

 

腹部を貫いた氷柱はそのまま地面に突き刺さり、魔虚羅は完全に身動きが取れなくなった。

これは本格的に不味い。

一刻も早く影の中に戻さないと本当に死んでしまう。

 

「術式は解くな。解けばここにいた全員を殺す」

 

「!?」

 

しかしそう言われてしまえば術式は解けない。

魔虚羅の命か、皆の命か。

俺が魔虚羅の命を取れば、間違いなく魔虚羅の心が壊れる。

自分のことなんかどうでもいいと思っているのに俺がそんなことしたら……。

裏梅は再び歩き始めた。

抵抗しているんだが、術式で作られた氷だから溶ける様子がない。

何も出来ないまま俺はズルズルと引きずられていく。

 

『や、めて。待って……連れて行か、ないで。恵さん……恵さーーん!!』

 

瓦礫と化した道玄坂に魔虚羅の悲痛な声が響いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

八握剣異戒神将魔虚羅

精神的にも肉体的にもボロボロの成り主。

もう式神の力はおろか、まともに術式を使えないほど消耗している。

七海さんと野薔薇さんを行かせたくなかった真人との戦いに挑ませてしまったことでSAN値がすでにやばかったのに、裏梅に恵さんを連れて行かれたことで限界に。

「あの場に恵さんがいたら裏梅に攫われていたんじゃないかって考察していた人がいたけど、いくらなんでもこれはないよ……」

 

伏黒恵

皆を守るために魔虚羅があまりにも無茶なことをしたので本気で頭を抱えたご主人様。

裏梅のことも宿儺が自分を何かに利用しようとしていることも聞いていたけど、弱っている魔虚羅を放って自分を狙うのとは思ってもいなかった。

「手はいつでも使えるように注意していたけど、あんな全体攻撃されたら流石に何も出来ねぇよ……」

 

壊相・血塗

魔虚羅に恩を返すどころか逆に恩が溜まっていっている呪胎九相図2番と3番。

急に繋がりの一部が遮断されたから何事かと思ったけど、魔虚羅の状態を見て納得した。

本当は弱り切っている魔虚羅の傍にずっといたかったけど、兄に会いたい気持ちもあったので兄に会うことにした。

「早く魔虚羅さんのこと兄さんに教えたいね」

「うん。兄者も絶対魔虚羅のこと気に入ると思うなぁ」