何も感じない……。
あの時の……前世で車にはねられて死んだ時と同じ感覚……。
ああ……死ぬんだ。
どうあがいても私は式神。
魂の繋がりを切られたら消滅するしか道はない。
繋がりを切られているから、多分私の力も他の式神に引き継がれることはない。
本当に本当の完全な消滅。
…………。
嫌だ。死にたくない。
あの時は「呪術廻戦の続きが読みたいから」って理由だったけど、今は違う。
恵さんを助けたい。
アイツらに利用されたくない。
私をずっと支えてくれた、守ってくれた人を助けたい。
でも、この死を避けることなんて……。
……そうだ。
どうせ死を避けられないのなら。
もう一度……。
生まれ変わってやる!
持てる全ての力を使って!!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
≪虎杖悠仁視点≫
「何が起こって……」
氷が溶けたことで自由に動けるようになったから、魔虚羅の代わりに伏黒と五条先生を取り戻そうとしたら急に真っ暗になった。
自分の姿さえ見えないほどの闇で、また動けなくなった。
夏油がやったのかと思ったんだけど、あっちも動けなくなってるから違うみてぇだ。
何がどうなったのか分からなくて様子を見てたら、今度は鈴の音が聞こえた。
これ魔虚羅が好きだった水琴鈴の音……だよな?
何で急に? ワケ分かんねぇよ。
なんて思ってたら小せぇ光の粒が急に現れた。
なんか蛍みてぇだけど、こんなところにいるワケねぇよな。
更にワケ分かんなくなっていると、また鈴の音が鳴って、今度はその光の粒がそこかしこに現れた。
まるで満点の星空の中にいるみてぇな神秘的な光景……。
また鈴の音が鳴ると、その光の粒が一カ所に集まって一つの光の塊になった。
その光の塊が強い光を放って思わず目を瞑る。
光が収まったから目を開けると、光の塊が人の形に変わっていた。
光の塊がパキンと音を立てて霧散すると、そこにはさっき目の前で消えた魔虚羅がいた。
体が小さくなって(小さくって言ってもパンダ先輩くらいあるけど)服装と翼の色が変わってるけど、間違いなく魔虚羅だ。
生きてたのか?
でも確かに気配が完全に消えたのを俺は感じたぞ。
だから死んだと思って……。
『……せ』
「え?」
『か……え、せ』
下を向いていた顔をゆっくりと上げながら魔虚羅が口を開く。
『そ、の人を……! 恵、さんを……返せええええええええええ!!!』
まるで腹の底から声を出すように魔虚羅が叫んだ。
左手を前に突き出す。
そしたら左手に光が集まってあっという間に握り拳大の球体になった。
「全員目を閉じ、顔を手で覆って地面に伏せて下さい!!」
それを見てさっき魔虚羅と一緒にいたモヒカンの男が声を上げた。
「悠仁、壊相の言う通りにしろ!」
「え!? わっ!!」
脹相が俺の頭を掴んで地面に伏せさせた。
俺は言われた通りに目を閉じて手で顔を覆う。
――カッ!!
直後に凄まじい閃光が放たれた。
目を閉じて手で顔を覆っていても感じるほどの光が辺りを埋め尽くす。
あっぶねぇ!
言われた通りにしなかったら目が潰れてるんじゃねぇか!?
光が収まったのを確認して顔を上げると、脹相が壊相と呼んだ人の指示通りにしなかった人達が気絶していた。
意識があるのは俺と脹相、壊相。それと隣にいる女の人と釘崎、七海さん。
後夏油とおかっぱの術師だけだった。
夜に目が慣れていたんだし、あの光量浴びればそりゃ気絶するよな。
あれ? 魔虚羅は何処行った?
姿が見えねぇけど。
「つ……な、何だ。今のはっ!?」
意識があってもあの閃光を浴びてフラフラになっていたおかっぱの術師の腕が突然宙を舞った。
何が起こったのかと思ってそっちに目をやるとおかっぱの術師の後ろに魔虚羅がいた。
い、いつの間に……全然分からなかった。
それはおかっぱの術師も同じみたいでめちゃくちゃ驚いた顔をしてた。
「オマエは…!」
『ガアアアアアアアアアア!!』
魔虚羅がおかっぱの術師のもう一本の腕もぶった斬ってガラ空きになった腹に思いっきり蹴りを入れた。
勿論抱えられていた伏黒に衝撃が行かないように。
おかっぱの術師が遠くへ吹っ飛ぶ。
直ぐさま魔虚羅は地面に倒れそうになった伏黒を抱きかかえた。
『あああ……』
愛おしそうに伏黒の顔を撫でると、パッと一瞬魔虚羅の体が光って姿が消えた。
え? 今度は何処に行ったんだ??
慌てて辺りを見回すと魔虚羅はナナミンのところにいた。
はっや!
移動したのさえ分かんなかったんだけど!
さっきの場所からナナミンのところまで100m近くあるのに。
魔虚羅は気を失っている伏黒をナナミンに手渡した。
「……分かりました。これ以上伏黒君には怪我一つさせないと約束します」
『あ、…うぅ』
意識が戻らない伏黒を心配そうに見る魔虚羅。
けど何か様子が変……だよな。
なんつーか意識が錯乱してね?
『……せん、せいも…かえ、せ』
伏黒をナナミンに託した魔虚羅が振り返って夏油へと顔を向けた。
その発言から次は五条先生を取り戻そうとしているみてぇだ。
魔虚羅が夏油へ向かって走り出す。
『アアアアアアアアアアアアア!!』
「可笑しいね。ちゃんと魂の繋がりは切ったのに。死んで呪霊でも転じたのかな?」
冷静を装ってるみたいだけど、この事態に流石のアイツも少し困惑しているらしい。
魔虚羅の意識が錯乱してるのは多分間違いないけど、今なら獄門疆を奪還できるかもしれねぇ。
この機に乗じる!
「夏油! 五条先生を返してもらうぞ!」
「俺も手伝うぞ悠仁!」
すぐに動けるのは魔虚羅と俺と脹相だけだ。
魔虚羅の意識が錯乱しているのが気がかりだけど、絶対に取り返す。
魔虚羅が剣を振るうのに合わせて俺と脹相も拳を振るう。
それを避けて距離を取る夏油。
くっそー! 中々攻撃を当てられねぇ!
あの女の人は手伝ってくれなさそうだし、動ける人数が少ないんだから時間をかけると逃げられるかもしれない!
『ガアアアアアアアアアア!!』
再び魔虚羅が大声で叫んだ。
そしてまたパッと体が光って姿が消える。
次の瞬間ズバン、と夏油が背中を斬られた。
夏油の背中を斬ったであろう魔虚羅はすでに夏油の真正面に移動している。
だから速すぎるだろ!
全く見えねぇし、どんな速度で動いてるんだよ!
「な、何なんだ君は……」
『オオオアアアアアアア!!』
体勢が崩れた夏油に魔虚羅が剣を振るった。
胸部をザックリと斬られた夏油から獄門疆がこぼれ落ちる。
「五条先生!!」
「ぐっ! 悪いけどこれを奪われるワケにはいかないね」
夏油が獄門疆を奪われまいと俺達に残っていたらしい呪霊をぶつけ、地面に転がった獄門疆に手を伸ばす。
不味い! 折角のチャンスなのにこのままだと取り返せない!
「虎杖(ブラザー)!!」
――パァン!
その声が聞こえた俺はすぐに身構えた。
パッと俺と獄門疆の位置が入れ替わる。
「なっ!?」
俺は渾身の力を込めて拳をぶつける。
獄門疆を手にしようと無防備に近かった夏油にそれなりの一撃を食らわす。
――ドゴンッ!!
黒閃は出せなかったけど、【逕庭拳】を当てたから時間差で二重の攻撃が夏油を襲う。
よし。なんとか獄門疆から引き離せた。
「悠仁! 獄門疆を取り返せたぞ!」
「ありがとう脹相!」
俺と獄門疆との位置を入れ替えたから、獄門疆は脹相の目の前に来ていた。
呪霊にもみくちゃにされながらも脹相が獄門疆を手に取る。
これで獄門疆の奪還成功だ!
「東堂もありがとう!」
俺はその功労者にも礼を言う。
東堂だ。
東堂の術式がなかったら取り返せなかった。
いつの間にかここに来ていたらしい。
「気にするな。これくらい朝飯前だからな」
「それでもありがとう! ……てか、あれ? 東堂怪我は?」
東堂はさっきの真人との戦いで結構な大怪我を負ってた。
その大怪我がない。
真人に【無為転変】されて、自分で切り落とした左手も元通りになってる。
「この妙な蛙が治した!」
そう言って顔を向けた先に壊相と一緒にいた呪霊がいた。
「俺蛙じゃねぇんだけどなぁ。まぁいいけど」
「血塗!? オマエそんな力持っていたのか!?」
「ううん、持ってなかったぞ。魔虚羅から貰ったんだぁ」
「は、はあ!?」
魔虚羅から貰ったってどういうことだよそれ。
脹相が死ぬほど驚いてるぞ。
「と、とにかくこれで後は封印解除すればいいんだよな。えと、どうすれば……!?」
脹相がどうやって封印解除すればいいか分からず淡々していると、周囲に群がっていた呪霊が一瞬で細切れになって消滅した。
呪霊が消えた時に出る煙の間から魔虚羅が飛び出す。
そのまま今にも斬り殺しそうな勢いで脹相に向かって走り出した。
「ええ!? ちょっ、魔虚羅ぁ! 兄者は敵じゃねぇって!」
「違う! 狙いは獄門疆だ! 獄門疆を手放せ!!」
いち早く魔虚羅の狙いに気付いた東堂が脹相に指示を出す。
獄門疆から離れないと脹相ごと斬ってしまいそうな勢いだし、そうするしかなさそうだ。
脹相が東堂の指示に従って獄門疆を投げると、魔虚羅は獄門疆へ標的を変えた。
魔虚羅は狙いを定めると、剣を高々と振り上げる。
――【刀剣錬成】≪神纏(シンテン)≫
魔虚羅が持っている剣の刀身が伸びて、金色の光を放つ。
――【天羽々斬(アメノハバキリ)】!!
そして光を帯びた剣を獄門疆へと振るった。
一振りした剣から光が消えて、刀身の長さも元に戻る。
へ? 【天羽々斬】?
【天羽々斬】って神剣の名前じゃ……。
――ピキッ……。
その剣を振るわれた獄門疆に亀裂が走る。
『ぎぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!』
獄門疆から形容しがたい奇声が発せられた。
思わず耳を塞いじゃったけど、目を疑う光景がそこに広がる。
獄門疆が真っ二つに割れて壊れた。
「……は?」
「え……ええええ!? 嘘でしょ!! 特級呪物を壊した!!」
今まで事の成り行きを見ているだけ何もしなかった女の人も思わず驚愕の声を上げた。
東堂もナナミンも、それを見ていた全員が目を見開いている。
そして獄門疆が壊れた場所から、その人が出てきた。
「いてっ!」
ドサッとその場に倒れたのは紛れもなく五条先生だ。
「五条先生!」
「え? 何事!? 今どういう状況なのこれ!?」
五条先生も突然の出来事に混乱してるみたいだけど大丈夫そうだ。
壊れた獄門疆は元に戻る様子がない。
先生が封印される心配はもうなさそうだ。
魔虚羅の身に何が起こったのか全然分かんねぇけど、こんな力を持ってたのか。
「いや、本当にすげぇよ! ありがとな魔虚……羅?」
魔虚羅に礼を言おうと彼女のほうを向いた俺は思わず息を呑んだ。
膝を地面について苦しそうに息をする魔虚羅の姿が目に入った。
どう見てもさっきの……【刀剣錬成】≪神纏≫を使った反動。
たった一振りしただけでかなりの体力を消耗したことが誰の目にも分かる。
「ま…魔虚羅ちゃん?」
『ハア……ハァ……。ぐうぅ……』
剣を杖代わりにして魔虚羅は立ち上がると、再び夏油のほうへ顔を向けた。
まだ何かあるのか?
ちょっ……頼むから無茶するなよ!?
オマエに何かあったら伏黒絶対気に病むぞ!
「なる、ほどね。裏梅が君を警戒するワケだ。まさか獄門疆を破壊してしまうとは……」
夏油が心底悔しそうな表情を見せる。
そりゃそうだ。
今回の騒動って多分五条先生を封印するのが一番大きな目的だったんだろうし、それを魔虚羅に台無しにされたんだ。
しかもさっき言ってた“殺し合い”も多分止めることができない。
五条先生がいなくなったから始めたんだろう計画さえ台無しになってしまうかもしれない状況。
何考えてるか分かんねぇヤツだけど、流石に苦虫を1000匹くらい噛み潰したような顔になるよな。
「けれど今の一撃でかなり弱ったみたいだね。なら今が君を殺す絶好の機会だろう。かなりの痛手だけど、君だけは始末させて貰う」
そう言うと夏油の足下からドパッという音と共に大量の呪霊が飛び出した。
呪霊は辺りを埋め付くさんとばかりに絶え間なく出続ける。
夏油はその呪霊達に隠れながら立ち去って行く。
追おうにも呪霊が多すぎる。
な、何だこの数……。
数えられねぇが、出てきた呪霊の数は1万をとっくに超えている。
いくら魔虚羅が退魔の剣を持っててもこの数は流石に無理だろ!
ていうか今持ってる剣ってその退魔の剣なのか?
見た目全然違うけど。
――【刀剣錬成】≪神纏≫
それを見て魔虚羅が両手で剣を構え、再び【刀剣錬成】≪神纏≫を発動させた。
でも獄門疆を破壊した時のとは少し違う。
剣の刀身が伸びたのは変わらないけど、帯びている光が青色だ。
こ、今度は何だ?
【天叢雲剣(アメノムラクモノツルギ)】!!
魔虚羅は剣を横に大きく振った。
一振りするとまた刀身が戻って青色の光が消える。
え……えええええええ!?
【天叢雲剣】って確か三種の神器の一つじゃん!!
どういうこと何だよそれ!!
色々と聞きたいことが多いんだけど、更に驚くことが目の前で起こっている。
魔虚羅が剣を横に振るった直線上にいた無数の呪霊が全て斬られていた。
それだけならそこまで驚かないんだけど、範囲と攻撃が当たった時間が可笑しい。
範囲は剣を振るった直線上にいた全ての呪霊。
しかも普通は攻撃位置から遠ければその攻撃が届く時間が遅いハズなのに、魔虚羅が剣が振るった瞬間には奥にいた呪霊もすでに斬られている。
呪霊だけじゃなくて更に遠く、1kmくらい離れた場所にあったまだ倒壊していない建物まで剣を振った時にはもう斬られていた。
幸いなことにその建物は亀裂が走っただけで壊れていないけど……まるで時間空間を無視して次元ごと斬ったような一撃。
たったの一振りで出てきた呪霊の大多数が祓われた。
いやいやいや、威力も可笑しいだろ!
これが【天叢雲剣】の力なのか!?
「いけません魔虚羅様! それ以上その力を使ってはなりません! 命に関わります!!」
その一撃に唯々驚いているとまた壊相が声を上げた。
命に関わるって何?
そう思って魔虚羅を見て俺は血の気が引いた。
魔虚羅は全身のいたるところの皮膚が裂けて血を流していた。
……反動。
最初の【天羽々斬】でさえ一振りしただけで膝をつくほど体力を一気に消耗してたんだ。
その状態で同じ力をまた使った。
こうなるのは必然。
けど更にヤバいのが魔虚羅が今の【天叢雲剣】をもう一度使おうとしていることだった。
出てきていた呪霊の大多数は祓ったけど、現在進行形で呪霊は出続けている。
あっという間に元の数に戻った。
それを祓おうとしているんだろうけど、これ以上【刀剣錬成】≪神纏≫を使ったら間違いなく魔虚羅は死ぬ。
「だ…駄目だ魔虚羅ちゃん! 確かに使えばあの呪霊を全て祓えるけど今の魔虚羅ちゃんにその力は負担が大きすぎる! 止めるんだ!!」
『ガアアアアアアアアアア!!』
「僕の声が聞こえていないの!? もう駄目だってば!!」
一番近くにいた五条先生が魔虚羅を止めようと羽交い締めにしてるけど、魔虚羅は全く止まる気配がない。
さっきまでは“意識が錯乱している”だった。
でも今は完全にない状態らしい。
それどころか体の不調はおろか痛みも感じていないようだ。
気絶させてでも止めないと取り返しがつかなくなる。
「魔虚羅止めろ! 何があったか知らねぇけど折角生き返ったのに……もう俺友達が死ぬの見たくねぇよ!」
魔虚羅に駆け寄って剣を振るおうとしている腕を掴んだ。
何だこれ!? すっげぇ力!!
呪力で強化しているワケじゃないのに腕の動きを封じ込むので精一杯で他のことができない。
魔虚羅は俺と五条先生の拘束から逃れようと暴れ出した。
「だ、誰か魔虚羅のこと気絶させてくれ! じゃないと止められねぇ!」
力を貸して欲しくて声を出すも、そこかしこに呪霊がいて誰も来られそうにない。
これは本格的に不味い!
今にも拘束を振り払いそうなのに!
「獄門疆の影響が残ってて上手く術式を使えない。もう! 魔虚羅ちゃんが無理したら恵が悲しむでしょ! 恵のためにも止まって!」
「そうだ! こんな状態の魔虚羅見たら伏黒絶対に悲しむって! だから……」
『アアアアアアアアアアア!!』
嘘だろ!? 伏黒の名前を言っても反応すらしなくなってる!
どうすれば魔虚羅を止められるんだ!?
もう手が思い付かねぇ!
「…………ら。ま……魔虚、羅……」
その時アイツの声が響いた。
呪霊達の奇声とか足音とかで辺りは騒然としているのに、不思議とその声はハッキリと聞こえた。
「止めろ。……俺は…大丈夫だから……」
『ガアアアア……アアァァァ……』
力なくグッタリとしてナナミンに抱えられながらもしっかりと魔虚羅を見て声をかける伏黒。
魔虚羅の体から少しずつ力が抜けていく。
「俺の為に、しようとしてくれてるんだろ? もう…十分だ。だから止めてくれ……」
『ああ、あ……。……め、ぐ……恵……さん……?』
ようやく魔虚羅が伏黒の名前を口にした。
その瞬間、全身を包んでいた狂気が消えていく。
あんなに拘束から逃れようと暴れていたのに、もうその様子はない。
正気に……戻ったか?
「よし、魔虚羅ちゃん。僕が分かる?」
『……え? 五条、先生?』
「うん。正解! もう大丈夫だね」
五条先生の呼び掛けに魔虚羅はやっと応えた。
ゆっくりと五条先生が拘束を解く。
それに合わせて俺も掴んでいた手を放した。
『あ、あれ? 何で? 私は……』
正気に戻って明らかに混乱してるな。
自分でも何をしたのか、何が起こったのか分からねぇみたいだ。
その様子から最初から意識がなかったのが見て取れる。
マジで伏黒と五条先生を取り返すことしか頭に残っていなかったんだな。
『あっ……。恵さん、恵さんは?』
「伏黒なら無事だよ。魔虚羅が取り返したんじゃん。やっぱ覚えてないか」
と伏黒に目をやると、伏黒はまた気を失っていた。
えぇー……まさか魔虚羅の暴走を止めるためだけに起きたの?
本当に仲良いな。
『恵さん……ぐう!?』
ようやく魔虚羅は体の痛みを感じたようだ。
全身から力が抜けて地面に倒れ込む。
動くこともできないのかそのまま蹲ってしまった。
あれだけ力を使えばまぁ当然だよな。
「魔虚羅ちゃん大丈夫? 悠仁、皆を連れてここから早くりだ……!!」
動けない魔虚羅を抱えようとした五条先生が呪霊に吹っ飛ばされた。
術式を使ってない。まだ獄門疆の影響が残ってるのか!?
「五条君!」
吹っ飛ばされた五条先生をあの女の人が庇った。
五条先生は大丈夫そうだけど魔虚羅がヤバい!
立ち上がることさえできないのに格好の的になる!
なんとか魔虚羅を守ろうとするけど、あまりにも呪霊の数が多すぎて徐々に魔虚羅から引き離されていく。
こんなに呪霊の数が多いんじゃ東堂の術式で位置替えをするのは逆に危険だ。
それを東堂も分かっているから使っていないんだろう。
「悠仁! 大丈夫か!?」
「脹相!?」
ここで脹相が俺のところにやって来た。
かなり無理矢理呪霊の間を潜ってきたようで至る所に怪我をしてるけど元気そうだ。
「お、俺よりも魔虚羅を助けてやってくれ!」
「俺も弟達を守ってくれた魔虚羅を助けてやりたいが呪霊の数が多すぎて体外での血液操作が上手く出来ん! オマエのところに来るので精一杯だ!」
「くっ!」
呪霊が今にも魔虚羅に食らい付きそうな勢いで迫っているのに何も出来ないのか!?
魔虚羅は本当にもう動けないんだ。
このままだと呪霊に殺される!
「魔虚羅様! 私と血塗を呼んで下さい!」
壊相が目一杯声を張り上げて魔虚羅に呼び掛けた。
つーかさっきスルーしちゃったけど魔虚羅“様”?
魔虚羅が消える前は“さん”だったよな?
『え…壊相さん、血塗…君』
その呼び掛けに応じて魔虚羅が2人を呼んだ。
すると壊相と血塗がパッと魔虚羅の目の前に瞬間移動するかの如く現れた。
はぁ!? 何今の!!
「魔虚羅様。八握剣をお借りしてもいいですか?」
『う、うん。いいよ』
「ありがとうございます」
魔虚羅から許しを貰って壊相がその剣を手にし、襲いかかって来る呪霊に斬りかかる。
初めて剣を使ったのか動きがかなりぎこちない。
けど掠っただけなのに呪霊が次々と祓われていく。
やっぱりあれは退魔の剣らしい。
「……やっぱり見様見真似じゃ上手くいかないか。血塗、早く魔虚羅様の怪我を治して!」
「おう。でも魔虚羅から貰ったの力でも疲労とかは治んねぇぞ」
「それでもいいよ。後でちゃんと休ませれば良いんだから。このまま七海さんのところまで後退するから血塗は魔虚羅様を抱えて」
「分かったぁ」
壊相が呪霊を祓うことに専念して、血塗が傷を治した魔虚羅を連れてナナミンのところまで移動する。
ナナミンのところには釘崎もいた。
いつの間にかナナミンの元に来ていたみたいだ。
多分伏黒のことを心配してだろうな。
「壊相! 血塗!」
「兄さん、私達は魔虚羅様と共に行く。兄さんは悠仁を!」
「ああ! 分かった!」
「無事に高専で」
壊相の言葉が言い切られる前に、呪霊共が目の前に来て視界を塞いだ。
くっそ! マジで数が多すぎるだろ!
でも気絶している人達は多分大丈夫。
見えないけどあの女の人が何かしているらしい感じがするし。
魔虚羅もナナミンと釘崎が近くにいれば大丈夫だろう。
また気を失っちまった伏黒のことだけが気がかりだけど、今は自分達の身の安全を優先に考えないと!
そして夏油があの時解き放った呪霊の数が1000万にも上ると聞かれたのはそれから数日後。
そのおよそ三分の一、300万体近くは魔虚羅があの時【天叢雲剣】で祓っているとも聞かされた。
……マジで規格外すぎるだろ。
気配も消える前とは全くの別物になってるし、一体魔虚羅に何があったんだ?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
八握剣異戒■■■魔虚羅
恵を守るために、その身に宿っていた全ての力を■■に注ぎ込んだ成り主。
■■と壊相、血塗の■■■に力を使い果たしてしまったために自我を失って暴走状態になってしまう。
その時のことは一切記憶にない。
虎杖悠仁
一番間近で魔虚羅の力を目撃した本編主人公。
結構友達とゲームをしていたので神剣の名前もすぐに分かった。
封印を解いてすげぇ! あの数の呪霊を一撃で祓ってすげぇ! と驚きつつも格好いいと思っていた。
魔虚羅が死にかけながらも頑張っていたので自分も出てきた大量の呪霊を少しでも多く祓おうとこの後しばらく魔境と化した東京をうろうろする。
勿論脹相と一緒である。
五条悟
どうなるのかなーと思っていたら突然空間が割れて外に放り出された呪術師最強。
何がどうなっているのか他の人以上に分かってなかったけど、とりあえず死にそうになっている魔虚羅を止めようと奮闘。
獄門疆の影響から一時的に術式が上手く使えなくなっていたが、六眼は大丈夫だったので魔虚羅がどういう存在になっているのか察しはついている。
これから呪術界にどんな影響を及ぼすのかちょっとワクワクしてる。
夏油傑ことメロンパン
何年もかけて練ってきた計画が一瞬にして台無しにされた渋谷事変首謀者。
裏梅から聞いた時は半信半疑だったけど、この一件で六眼並みに邪魔な存在だと認識した。
頑張れーメロンパン。オマエが敵に回したのは世界で一番敵対してはいけない存在だ。


