緋紗奈のブログ

緋紗奈のブログ

このブログではモンハンやデジモン
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マイペースで描いています

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覚悟をして本来の姿になった。

本来の姿になってすぐ瓦礫の下敷きになる人達に防御魔術を展開し体を保護する。

父さん達は俺自身が覆い被さって守った。

超深海の水圧に耐える体だ。瓦礫が降り注いだくらいではダメージにもならない。

崩落が止まったら【リアクターディスチャージ】を使って瓦礫を吹き飛ばす。

他の人達は防御魔術で守っているので使っても問題ない。

よくも父さんを殺そうとしたな。

絶対に許さない……殺してやる!

目の前が赤く染まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「止まれ、竜治!!」

「お兄ちゃん!!」

 

ふと、父さんと幸芽の声が聞こえウィルス種の凶暴性に支配されていた意識が引き戻された。

一度ウィルス種の凶暴性に支配されると疲れるまで暴れないと正気に戻れない。通常なら。

でも二人の声はとてもハッキリ聞こえて途端に意識が鮮明になった。

近くに何故かオールマイトもいる。

久し振りに力を使ったのも相まって暴走してしまったけど、皆のお陰で止まることが出来たみたいだ。

でも同時にオールマイトにもこのことを説明しなくてはならない事実に気付いて愕然とした。

覚悟したハズなのに、これまで感じたことのない絶望が心を埋め尽くす。

個性だと誤魔化すのは無理だ。

いくら複合個性だとしても不可能なことをしたのだから。

しかし話そうとした瞬間全身をまるで焼いた鉄板を押し付けられたかのような痛みが走った。

世界の免疫システムから攻撃を受けたのだ。

不味い、忘れてた!

慌てて人間の姿に戻ったけどあまりの痛みで気を失ってしまった。

そして目が覚めたら病院で父さんとオールマイトだけじゃなくて母さんまでいた。

……母さんにまで直接言わないといけないのか。

 

「竜治じゃない? どういうことだ?」

「…………」

 

言いたくない。

でも個性じゃないとバレているから言わないと説明出来ない。

声が震えるのを必死に堪えて続きを話す。

 

「俺が元々住んでいた世界はデジタルワールドと言い、デジタルモンスター通称デジモンと呼ばれる生き物が生きている世界だ。この世界とは理も生態系も全く違う。俺はその世界で海賊として生きていた。他のデジモンの住処を襲い、略奪し、邪魔をするものは容赦なく皆殺しにしてきた」

「……まさに海賊だね」

「ああ。そんな風に生きていたからネットワークセキュリティの守護者【ロイヤルナイツ】が俺を殺すためにやってきた。この世界で言うヒーローみたいな奴等だ。俺はそいつ等と数日間戦い、ついに力尽きた。殺されると思った時、空間に歪みが生じ俺は時空の狭間に落ちた」

 

究極体でも上位に位置するデジモン同士が戦うとかなり激しい戦闘になるためその余波で稀に時空の歪みが発生する。

最高位のデジモン三体と戦っていたんだ。技も連発していた。時空の歪みが発生して当たり前だったのだろう。

 

「普通時空の狭間に落ちると助からない。でも俺は運よくこの世界に落ちて助かった。でも落ちてすぐこの世界から攻撃を受けた。俺が病原菌で世界からの攻撃が白血球と例えれば分かりやすいだろう。このままだと世界の力に殺されると思った俺の目の前に偶然、死んだばかりのこの世界の生物がいた。この世界に生きる生物の体に憑依すればもしかしたら助かるかもしれないと思った俺は咄嗟にその体に憑依し、更には死にかけの体を回復させるために一体化した。それが九年前あの嵐の日に起こった出来事だ」

「ちょっと待って……。死んだばかりのって……じゃあ竜治は……」

「ああ。宮瀬竜治はあの時すでに死んでいた。俺が一体化したことで生命活動が復活し仮死状態となっただけ。宮瀬竜治の魂はもうこの体にはない」

 

自分の本当の息子が九年前すでに死んでいると知って宮瀬志乃は膝から崩れ落ちた。

両手で顔を覆って……すすり泣く声が聞こえる。

俺はその姿を見ることが出来ず顔を背けた。

 

「では仮死状態から目覚めた時には意識はもうレガレクスモンだったということか?」

「そうだ。でもこの世界のことが何も分からなかったから記憶がないフリをしていた。その方が都合が良かったからな。人間のフリもしながら力が戻るのをジッと待っていた。見ての通り力は完全に戻っている」

「「「…………」」」

 

すぐに信じられる話じゃないが辻褄が合いすぎて信じざるおえないだろう。

じゃなければ説明がつかないからな。

 

「……市民を守っていたあの膜はどうやったんだ? 直前に見たことがない文字や模様を描いていたけど」

「魔術を使った。魔術っていうのは簡単に説明すると自身の力を消費し、本来自分には使えない事象を発生させる術だ。流石にあの人数に守りの魔術を使うのは魔力の消費量段違いだった」

「ならドゥーベの傷を治したのもその魔術か」

「ああ。自分に使うのと他人に使うんじゃやっぱり難易度が違うな」

 

オールマイト達からの質問に淡々と答える。

早くこの時間終わってくれないかな。息がし辛い。

 

「この焼けたような傷はさっき言った世界からの攻撃だったりするの? 九年前の竜治の体にも同じ傷があった。あの時は海底の岩で擦った時の傷だと思っていたけど」

「ああ。本来の姿になっているとやっぱり世界からの攻撃を受けるようだな。本来の姿になっていられるのは10分が限界だろう。それ以上は世界の免疫システムから敵だと判断され攻撃を受ける」

 

これは俺がウィルス種なのが深く関係してそうだな。

ウィルス種は一部例外はあるが皆気性が荒い。

そして怒ったりして自分の感情を制御出来なくなるとその凶暴性に支配され、疲れるまで暴れ狂う。

だからこの世界に害を与える存在だと判断され攻撃されるんだろう。

でもそうだと分かったからこそこの世界でも死ねるな。

俺はベッドから降りて病室の外へ歩き出す。

 

「待ちなさい。まだ傷が治っていないのに何処に行くつもりだ?」

「世界の免疫システムから攻撃を受けるほど俺は穢れている。きっと呪われてもいるだろう。あれだけ殺せば当たり前だけど。俺はここにいてはいけないんだ。誰もいないところで死ぬから安心してくれ」

 

相当な苦痛が襲うだろうが、苦しんで死ぬのが俺にはお似合いの最後だ。

誰もいないところって言ったらやっぱり海の底だよな。

どうやってそこまで行こうか、と考えていたら。

 

「駄目よ。行かせない」

 

何か温かいものが体を包み込んだ。

見ると宮瀬志乃が俺を抱き締めていた。

 

「何してるんだ。放せよ」

「放さない。放したら貴方を永遠に失ってしまうもの。もう息子を失くすのはごめんだわ」

 

息子? 何故俺を息子だと言うんだ?

話を聞いていなかったのか?

 

「俺は……あんた達の息子じゃない。息子のフリをしていた別の存在だ」

「そうだね。最初はそうだっただろう」

「!?」

 

気が付くと宮瀬魁も俺を抱き締めていた。

力強く、でも優しくいつものように俺に触れる。

 

「でも竜治は……いや、レガレクスモンは僕達の息子になってくれただろう? 初めて“父さん”って呼んでくれた時は嬉しかったよ。新しい息子が僕を父親だと認めてくれたんだって。フリなんかじゃない。レガレクスモンは僕達の大事な息子だ」

「……!!」

 

それもあの時と同じ言葉。

確かにそうだけど、でも……。

 

「俺はこの世界の人間からしても化け物なんだぞ。元の世界じゃ敵が可愛く思えることを平気でした。他のデジモンの幸せを奪った。子供だって殺した。誰にも許されないことをずっとしてきた! 死んだほうがこの世界のためになるだろ!!」

 

だから見捨ててくれ。

貴方達の優しさを愛情を受ける資格なんて俺にはない。

 

「そうだね。だから幸芽が生まれた時“触れられない”と言って泣いていたんだろう? でもそれは命の重さに今まで気付いていなかっただけさ。気付いたから苦しいんだ。幸せを奪っていたと知ったから悲しいんだ。敵の中には自分が間違いを犯したと気付かないものも多い。でもレガレクスモンはこの世界に来て色んな物事に触れて自分の過ちに気付いた。今レガレクスモンが何よりも欲しているのは罰だ。違うかい?」

「……罰」

 

そうだ。俺は罰して欲しい。

何も知らずに愚かで傲慢なことをし続けてきた自分を。

それには死ぬのが一番いいと思って……。

 

「でも死ぬことだけが償いじゃない。本当に悪い、申し訳ないと思っているなら生きなさい」

「生きる……」

「そう、生きて罪を償いなさい。誰か一人でも君に生きていて欲しいと願う人がいるなら。僕達はレガレクスモンに生きていて欲しいよ」

「!!!」

 

生きていて欲しいなんて言われたのは初めてだ。

今まで逆のことしか言われたことなかった。

恐怖と憎悪の目でしか見られたことがなかった。

けど二人から感じるのは間違いなく慈愛だ。

嘘偽りのない無償の愛。

 

「生きてて……いいのか? 俺……ここにいていい?」

「いいわよ。貴方が死んだら悲しいわ。私も、お父さんも幸芽も……皆貴方が大好きよ」

 

母さんの言葉に堪えていたものが溢れ出す。

俺は振り向いて両親に抱き着いた。

 

「ごめ……ごめんなさい。ずっと……騙していてごめんなさい」

「騙してないよ。レガレクスモンは僕達の家族だ」

「そう。貴方は私達の子で幸芽のお兄ちゃんよ。一人でこんなこと抱えて辛かったでしょ? もう大丈夫よ」

 

全部話したのに、俺が何をしてきたのかも言ったのに、それでも見捨てないという選択をしてくれるなんて思わなかった。

様々な感情が複雑に湧き上がって制御出来ない。

ただひたすらすがって泣き続ける俺を両親は受け止めてくれている。

その事実が今まで隠していた弱い自分を曝け出す。

 

「レガレクスモン。ヒーローになりなさい」

 

オールマイトの声が病室に響く。

決して大きな声ではなかったけどしっかり耳に届いた。

 

「ヒーローになって今まで自分が壊してしまった、奪ってしまった以上のものを救いなさい。それが君に出来る何よりの罪償いだ」

「無理……だろ。海賊の俺がヒーローに、はなれるワケない」

「なれる。あの時一瞬でも本来の姿になることを躊躇っていれば恐らく誰も助からなかっただろう。だが君は自分の素性を全て話すことになったとしても力を使い、結果全員が助かった。今の君は海賊じゃない。誰かのために力を使える強くて優しい子だ。きっと立派なヒーローになれる。やり遂げられると私は信じるよ」

 

あまりにハッキリ断言するものだからビックリして涙が引っ込んだ。

こんな俺にヒーローになって多くのものを救い罪を償えと。

そしてそれが出来ると、信じると言ってくれた。

凄いな。これがNo.1ヒーローか。

こんな人が守ってくれたらそれは皆安心するよな。

ああ……最初オールマイトに会った時思い浮かんだことはこれだったんだ。

 

 

この人がデジタルワールドいたら自分を助けれくれたんじゃないかと……。

 

 

もう迷わない。

涙を拭い、両親から離れてオールマイトの前に立つ。

 

「必ずヒーローになる。俺が傷付け、殺めてしまった以上の命を救い続けると今ここで宣言する!」

 

拳を前に突き出し、オールマイトの目をしっかり見て誓う。

今まで持っていなかった明確な生きる理由。

それを持っただけなのに自分の芯が定まる感覚がした。

 

「ははは。オールマイトに先言われちゃいましたね。でも僕も出来るって信じてるよ。無理しない程度に頑張りなさい」

「ええ。体を壊したら元も子もないもの。だから自分のことも守ってね」

 

また両親に抱き締められた。

うん。父さんも母さんも幸芽も悲しませたくないからそういう無茶なことはしない。

周りも自分も守れるようになって初めて一人前だろうからな。

 

――伝えて。

 

ふっと頭に声が響いた。

幼い頃のこの体の声だった。

 

――伝えて。……に僕の言葉を。

 

それが何かすぐに分かった。

俺は両親に向き合う。

 

「竜治?」

「“……ごめん。お母さん、お父さん。ひどいこと言ってごめんなさい。大好きだよ。”……この体に憑依した直後に聞こえた言葉だ。間違いなく宮瀬竜治が父さんと母さんに言いたかったことだろう。後悔していたんだろうな。本当は大好きなのに大嫌いだと言ってしまったことを」

 

きっと無念だったに違いない。

もう魂がなかったのに聞こえたくらいなのだから。

ショックを受けるかと思ったんだけど。

 

「そう……。伝えてくれてありがとう」

 

母さんも父さんも優しく微笑んで受け止めた。

 

「きっとその言葉を伝えるためにあの子はレガレクスモンに体をくれたのね」

「そう……かな?」

「きっとそうだよ。じゃなきゃ拒絶反応もなしに別の体と一体化なんて出来ないだろうから」

 

言われてみればそうだな。

あの時はそんなこと考えている余裕なかったけど、かなりすんなり憑依し一体化していた。

そっか。受け入れてくれたのか。じゃあお礼言わないとな。

 

「ありがとう。伝えるのが遅くなってごめんな」

 

お前とはヒーローになる理由違うけど、お前が救いたかった分まで人を救うからな。

だから安心してくれ。

 

――こっちこそありがとう。僕の分まで長生きしてね。

 

また声が聞こえた。

幻聴だとは思いたくないから最後の言葉としてしっかり受け取るよ。

今まであったわだかまりが消えて心がとても穏やかになった。

 

 

 

 

 

 

 

落ち着いたのでベッドに戻ってまた横になる。

さっきは自害しようと歩いてたけど実際はまだフラフラで立ち上がるのもキツい。

世界からの攻撃を受けると体の内部まで損傷するからな。

魔力に余裕はあるけど今いるのは病院だから医者に任せよう。

 

「ところでさっき言っていた【ロイヤルナイツ】……だっけ? それは一体どんな存在なんだい? ヒーローみたいな奴等だと言ってたけど」

「みたいなって言ったけど【ロイヤルナイツ】は……」

 

オールマイトからの質問に答えようとしてあることを考えていなかったことに気が付いた。

うわぁ……これは不味い。

もしそうなったら絶対大変なことになる。

 

「ど、どうしたの竜治。まだ何かあるの?」

「……あー……」

 

これも言わないと駄目だな。

じゃないと本当にそうなった時対処出来ない。

 

「【ロイヤルナイツ】はデジタルワールドの神イグドラシルに仕える13体の聖騎士型デジモンだ。秩序を守る守護者ではあるけど、この世界のヒーローとは似て非なる存在だ」

「どうして? 秩序を守る存在なら一緒じゃないの?」

「いや全くの別物だ。例えば……山の麓に敵の根城があって、それを殲滅せよという任務が来たらこの世界のヒーローならどうする?」

「まずは情報収集から入るね。索敵に長けた個性を持つヒーローを先に派遣する」

「そうですね。中がどうなっているのか、囚われている人がいるのか徹底的に調べてから作戦行動に入るかな。【ロイヤルナイツ】は違うの?」

「その任務を請け負った【ロイヤルナイツ】は根城があるという山を跡形もなく吹き飛ばした」

「「えぇ!?」」

 

父さんとオールマイトが驚きのあまり声を上げた。

そういう反応になるよな。

でもこれ本当にあったことなんだよ。

ちなみにやったのは白竜騎士の異名を持つデジモン、デュナスモンだ。

 

「【ロイヤルナイツ】は秩序を守る存在だけどデジモンを守る存在じゃない。秩序を守るためなら冷酷なことさえ平気でする。しかも面倒なことに【ロイヤルナイツ】は一人一人持っている正義が違う。その聖騎士によって行動が全く違うんだ。この聖騎士は助けてくれたけどこの聖騎士は見捨てたとかザラにある」

 

だからこそ【ロイヤルナイツ】同士での争いもちょくちょく起こる。

一枚岩ではないってのが唯一の救いだな。

 

「ということで【ロイヤルナイツ】がこの世界にやって来た場合俺のことは見捨てろ」

「は!? な、何を言っているんだ! そんなこと出来るワケないだろ!!」

「しないと駄目なんだ。【ロイヤルナイツ】がやってくるとしたら狙いは間違いなく俺だ。俺はすでにイグドラシルより討伐命令が出ているデジモン。普通時空の狭間に落ちたら助からねぇが、過去助かったデジモンがいるから捜している可能性は零じゃない。【ロイヤルナイツ】の邪魔をして敵だと判断されれば確実に殺される。ひょっとしたら日本どころかこの世界が滅ぼされる可能性まである。【ロイヤルナイツ】は一体で世界を滅ぼせる力があるからな」

「「「…………」」」

 

来たのが話し合いが出来そうなガンクゥモンやジエスモンならいいけど、イグドラシルに忠誠を誓っているクレニアムモンとかロードナイトモンだったら最悪だ。

邪魔をした時点でヒーローを皆殺しにしようとか考えるかもしれない。

1体ならオールマイトでも対抗出来るとは思うが、複数体で来られたら無理だろう。

出来たとしても確実に都市部が壊滅するほどの被害が出る。

 

「俺が死ねばこの世界は安全だ。だから何もしないでくれ。俺は誰にも死んで欲しくない」

「それは僕達だって同じだ。竜治に死んで欲しくないよ」

「……その言葉だけで十分だ。ありがとう」

 

そんなこと言ってくれるのは父さん達だけだ。

あっちの世界じゃ俺は嫌われ者だからな。

 

「確実に来るというワケではないのだろう?」

「ああ。可能性があるってだけだ」

「なら今それは忘れていいだろう。100%じゃないものにずっと怯えていても仕方ないからね。君は君がやりたいことをすればいい。この世界では君は守られるべき子供なんだからね」

「そうね。それにもしかしたら今の貴方は違うって分かってくれるかもしれないもの。最後まで諦めないでいきましょう」

「……そうだな」

 

話し合いは終わって、俺は一日だけ入院することになった。

そして俺が大暴れした件は個性が初めて発現したことで暴走状態に陥っていたという処理がされてお咎めなしになった。

オールマイトが色々してくれたらしい。

頭上がんなくなっちゃったな。

そして退院した日の夜。

 

「何でこうなるの?」

 

何故か俺は父さんと母さんと幸芽で川の字で寝ている。

父さんが全員で一緒に寝たいと言って駄々をこねたのだ。

子供か!?

 

「お兄ちゃんといっしょでうれしい!」

「そ、そうか。俺も嬉しいぞ」

 

幸芽がめったに一緒に寝ない俺にくっついてはしゃいでいる。

本来の姿で暴走したところをばっちり見ているのに全然態度変わんないな。

はしゃぎすぎてすぐ寝ちゃったし、俺の妹が可愛い。

 

「あらあら嬉しすぎてぴったりくっついてること。幸芽はお兄ちゃんが大好きね」

「もうちょっと怖がるかと思ったんだけどな。幼い幸芽にはレガレクスモンの姿はかなり怖いと思うんだけど」

「最初は怖かったみたいよ。牙も爪もあるし大きいしで。でも仕草も声も竜治そのものだから怖くなくなったみたい。あ、個性は【魚人化】って届けてあるから訊かれたらそう答えてね」

「分かった」

 

しかし本来の姿の最大活動時間が10分しかないから人間のまま、もしくは一部変化で力を使えるように訓練しないといけないな。

これまでそういう力の使い方をしてこなかったから相当練習しないと使いこなせない。

使える魔力も限られているから魔術は主に守りと治癒に使うことにしよう。

 

「竜治」

「何だ?」

「竜治が入院している間に考えたんだけどさ。竜治がこの世界に来たのって誰かを愛する大切さを学ぶためだったんじゃないかと思うんだ」

「え?」

 

今後の方針をうんうん考えていると父さんからそう言われた。

誰かを愛する大切さを学ぶため? どういうこと?

 

「デジモンって親子の繋がりがないんだろ? なら誰かを愛することに関しては感情は薄いんじゃないかい?」

「そうだな。俺も最初の頃は家族愛が全然理解出来なかった。今も愛情に関しては理解出来てない部分があるよ」

 

子を成すのに伴侶を持つ必要もなければ、親も必要ない。

深い愛情を持つことは普通のデジモンならまずないと思う。

だからこそ疑問なんだよな。

何で俺は愛情を欲しがっていたんだろう?

 

「ならデジタルワールドにいた時に自分の間違いに気付くのは無理だったと思うな。こっちに来たからこそ知った。その分苦しい思いはしたけれど、きっと意味がある。必要になることだったんだ。これからも沢山知って学びなさい」

「うん、分かった」

「そうそう。今は理解出来なくてもいつか理解出来る時が来るわ。そのうち素敵な人見つけて結婚も出来るわよ」

「それは流石に無理だろ。元海賊な上に異世界の生物の俺と結婚したい奴いないって」

「えー、僕達に孫抱っこさせてくれないの?」

「抱っこしたいのかい。生殖能力はあるみたいだけどそれも諦めてくれ」

 

というか何故あれで子供が生まれるのか未だに分からん。

それ言ったらデジモンの生まれ方も人間からしたら理解不能なんだろうけど。

そんなこと考えている間にウトウトしてきた。

温かいから安心する。

 

「……本当に、ありがとう。父さんも母さんも幸芽も大好きだ」

「おや、随分素直だね。いつもなら恥ずかしがってそういうこと言わないのに。僕も竜治が大好きだよ」

「私も大好きよ。勿論幸芽もね」

 

父さんと母さんから頭をなでなでされた。

嬉しい。

皆から愛して貰えて幸せだな。

今度はそう感じても苦しくない。

俺はゆっくりと眠りについた。

◆◇◆◇◆

≪宮瀬志乃視点≫

 

「ぐっすり眠ってる?」

「うん。触っても起きないくらいぐっすりだ。今日はあの夢を見ないだろう」

「ならいいわ」

 

幸芽を抱き締めて眠る竜治を見てホッと一息つく。

ここしばらく竜治はあの悪夢を見て苦しむ頻度が増えていた。

思春期だからかと思っていたけど、実際は罪悪感で精神が脆くなっていたことが原因だった。

こことは異なる世界で海賊として生き、残虐な行為を続けていた自分を許せなかった。

でもそれを誰にも相談することが出来なくて悩んで、悩んで、悩み疲れて心が壊れかけていた。

多分自分では自覚していなかったでしょう。

もう少し遅かったら本当に壊れていたハズ。

話すのはとても勇気のいることだったでしょうけど、話してくれて良かった。

 

「しかし右目もあの夢もデジタルワールドにいた時のことが原因ならここじゃ治せないね。右目はどうしようもないけどあの夢はなんとかしてあげたいな」

「そうね。ただでさえこれから困難な道ばかりなのだから、せめて夢は穏やかなものであって欲しいわ。薬で誤魔化すのには限界があるもの」

 

あの夢を見ると時には自傷行為に走ってしまうほど竜治は酷く苦しむ。

一体何があったらあれほど苦しむのかしら?

薬で苦痛を和らげてあげることしか出来ないけど、これもちゃんと治してあげたい。

すやすやと眠る竜治の顔に触れる。

最初の頃は部屋に近付いただけで飛び起きるほど警戒していたのに、今はこうして触れても起きないし何ならすり寄ってくる。

結構甘えん坊なのよね。

これも無自覚なんでしょうけど可愛いわ。

 

「大丈夫よ。お母さんもお父さんも竜治の味方だからね」

 

幸芽ごとぎゅうっと抱き締めて私も眠りにつく。

大切な大切な私の子供。

その時までずっと一緒にいましょう。

◆◇◆◇◆

朝起きたら幸芽だけじゃなく両親からぎゅーとされていました。

何で?

ともかく今後の方針は決まったからそれに向かって頑張るぞ。

それはそれとして俺の正体を話さないといけない奴がもう一人いる。

 

「というワケだ」

 

学校が終わり次第、俺は心操を人気のないところへ呼んで全てを話した。

案の定口を開けて驚いた顔をしている。

 

「……そんな重大なこと俺に話していいのか?」

「だって疑問に思ってただろ? いくら複合個性であっても説明がつかないことしてたからな」

「そうだけど……俺が誰かに言いふらしたりしたらどうするんだよ」

「? 心操はそういうことしないだろ」

 

何だかんだ係わるようになってもう一年。

心操が人の秘密を誰かに話すような奴じゃないって知ってる。

しかし俺がそう言うと心操が頭を抱えてしゃがみ込んだ。

どうした急に。

 

「お前……距離感おかしくないか? ついこの間まで俺のこと遠ざけてたのに」

「それはこんな穢れている俺と係わって欲しくなかったからさ。さっきも言った通り俺は海賊で血に塗れた殺戮者だ。しかもお前が話しかけてきた頃、死にたいって気持ちがあったから親しい奴を作るつもりがなかった。その上純粋にヒーローを目指している心操は闇の中で生きてきた俺にはめちゃくちゃ眩しかったからな。だから遠ざけてた」

 

薄れゆく意識の中、心操が俺を本気で心配していたのをちゃんと覚えている。

家族以外で俺を心配してくれる奴なんてオールマイトしかいなかった。

無個性の俺を決して馬鹿にせず心配してくれた心操なら信じてもいいと思ったんだ。

 

「眩しくはないだろ」

「そうか? ちゃんと夢を追っていてカッコいいと思うぞ」

「素直すぎるだろ! 聞いてるこっちが恥ずかしいから止めろ!!」

「それは悪かったな。ま、ともかく俺もヒーロー目指すことにしたからこれからもよろしくな」

「お、おう。じゃあ竜治って呼んでいいか? 俺お前の家族と会ってるから宮瀬って呼ぶとごっちゃになる」

「いいよ。なら俺も人使って呼んでもいいか?」

「ああ」

 

うん。これで人使とも普通に付き合えるな。

今までは大分ギクシャクした関係だったから。

 

「竜治。ヒーローを目指すのならヒーロー科に入るんだろ?」

「勿論」

「なら一緒に雄英を受けようぜ。今度は断る理由ないだろ」

「え? いやヒーロー科は受けるけど雄英には行かねぇぞ」

「何でだよ! お前の成績なら筆記は余裕だし、敵を圧倒したあの力使えば実技なんか楽勝だろ!」

 

そうだろうけど雄英は受けるつもりない。

別に雄英じゃなくてもヒーロー科はあるんだし近間でいいよ近間で。

そう思っていたんだけど……。

 

「宮瀬。ヒーロー科を志望するなら雄英高校を受けてみないか?」

「はい?」

 

改めて進路希望の用紙を出しに行ったら担任にそう言われた。

 

「模試はA判定。しかも先日起こった敵襲撃で個性が発現しているそうじゃないか。聞いた話だとかなり強い個性らしいし、元より運動神経が抜群だった宮瀬がその個性を使いこなせるようになれば十分合格を狙える。試験までまだ10ヶ月ある。いけると思うぞ」

「え、そうなんですか?」

「ああ。変身型の個性で街を破壊していた敵を圧倒したそうだ。まぁ初めての個性発現でその後暴走してしまったそうだが」

「あー、それで数日学校休んでたのか。これまで無遅刻無欠席だった子がどうしたのかと思ってた」

「…………」

 

俺を置いて教師陣大盛り上がりである。

そりゃ盛り上がるか。

今まで雄英高校のヒーロー科に合格した生徒がいなかった学校で合格するかもしれない奴がいたら。

 

「俺は近くのヒーロー科がある高校でいいです。雄英を受けるつもりはありません」(父親に叩き込まれているのでちゃんと敬語使える)

「そんな……勿体ないよ! 折角実力があるのに! でも気が変わったらいつでも言っていいからね」

 

気なんか変わるかよ。

俺本当に雄英受けるつもりないんだから。

 

「竜治。先生から聞いたけど本当に雄英高校受けないの? オールマイトやエンデヴァーという名高いヒーローの出身校だよ。竜治なら楽勝だと思うんだけど」

「そうよね。ヒーローを育成する設備も整っているし、行けるなら行った方がいいわ」

 

が、家に帰ったら父さんと母さんにも言われた。

ちなみに帰り道でオールマイトにばったり遭遇し、そのオールマイトにも「雄英受けない?」と言われていたりする。

 

「雄英、雄英って……何で皆雄英を進めるんだよ! 雄英のバーゲンセールか!?」

「お、いい表現だね」

「茶化すな! 俺は近くのヒーロー科でいい。別に雄英に行かなくたってヒーローになれるんだし」

「そう言われたらそうだけど、何でそこまで嫌がるんだ? 行きたくない理由があるのか?」

「……注目されるのが嫌だ」

 

雄英は体育祭やらなんやらでTVで出ることが多い。

何かあるとメディアはすぐ注目する。

注目されるのが苦手な俺には絶対合わないところだ。

 

「まぁ竜治の境遇を考えれば注目されるのが嫌なのは分かるわ。でもヒーローになれば嫌でも注目されることになるのよ? 早いうちに慣れておいた方が絶対にいいわ。それには雄英に行くのが一番手っ取り早いと思うわよ」

「それは……」

 

オールマイト見ていれば分かる。

そこにいるだけでめちゃくちゃ注目される。

ヒーローになるなら絶対に慣れないといけないことだ。

分かるんだけど……。

 

「ほほう。これはそれ以外に雄英に行きたくない理由があるな。ほら白状しなさい。どうしてそんなに雄英に行きたくないんだ?」

「……えっ、と……」

「何よ。言い辛いことなの? もう私達に隠すことなんて何もないじゃない。言っちゃいなさいよ」

 

俺が雄英に行きたくない理由を聞き出すため両親は左右から俺を抱き締めて拘束した。

これ絶対言わない限り逃げられない奴だ。

嘘だろ。言わないと駄目?

でも言わないとマジで放してくれないよなぁ。

観念した俺はすっかり重くなった口を開いた。

 

「……から」

「ん? 何?」

「父さんと母さんと幸芽と離れたくない……から」

「「…………」」

 

そう、本当の理由はこれ。

雄英は遠いから受かったら一人暮らししないといけない。

一人暮らしが嫌というワケじゃない。

ただ……やっとわだかまりがなくなった家族と離れたくないんだ。

も、もうちょっと一緒にいたいなーって……。

 

「「いやー! うちの息子が可愛いーー!!」」

「ぐえっ!?」

 

返答を聞いた両親は更に俺を強く抱き締めた。

ちょっ! 首絞まってる、首絞まってるから!

 

「私達と離れたくないなんて可愛いんだから! この甘えっこさんめ!」

「本当最高に可愛いな。今日一緒にお風呂入ろ♪」

「あーもー! そういう反応になるって分かってたから言いたくなかったんだよ!」

 

聞いたら絶対スイッチが入るから黙ってたのに!

とりあえず放してくれ!

苦しいのもあるがそれ以上に恥ずかしい!

 

「よしお母さん。竜治が雄英高校合格したら引っ越すよ!」

「了解!」

「はぁ!? 何でそうなるんだよ!!」

「だって僕達と離れたくないから雄英行きたくないんだろ? なら家族全員で近くに引っ越せば万事解決だ!」

「そ、そうだけど……幸芽はどうするんだよ! 友達と離れることになっちゃうだろ!」

「幸芽いいよ。友達と離れるの寂しいけどお兄ちゃんと離れるほうが寂しいもん」

「いいんかい!」

「じゃ決定だね。仕事は頑張って探すから竜治は勉強頑張って!」

「わ、分かったよ」

 

 

 

 

 

 

「てなことで俺も雄英受けることになりました」

「……お前の家族凄いな」

「本当にな。テンション上がるとマジついていけねぇや」

「お、お疲れ。しかし孤高の海賊だったとは思えないくらい竜治って寂しがり屋だな」

「自分でもそう思うわ」

 

 

 

それから数ヶ月。

筆記はなんとかなるからやっぱり目下の課題は力の使い方。

10分しか全力を出せないから人使と一緒に連日特訓している。

 

「うお!?」

「ほう、よく避けたな。大分目が育ってきている。後は怖くても目を絶対に閉じないよう心掛けろ。一瞬でも相手の姿が見えなくなったら死ぬぜ」

 

組み手をしながら俺も身体能力の上乗せや一部変化を瞬時に出来るように体を慣らす。

魔術で身体能力を強化したほうが正直楽なんだが、魔力を他のことに使いたいからそれは封印する。

大分様になってきたな。

これなら試験に十分間に合いそうだ。

 

「はあ…はあ…。瞬時に腕だけ変身させるとか、剣だけ出すとかお前器用だな。本来の姿見てなかったら別の個性だって勘違いするぞ」

「全力を出せる時間が限られてるからな。出し惜しみする気はねぇが基本は人間の姿で戦う」

 

人間の姿のままだと技を出すことは出来ねぇが弱い敵相手ならこれで十分だ。

けど一定以上強いのは流石に難しいか?

やっぱり本来の姿で戦いたい。

何かいい方法ないかな?

…………。

あ、力を抑え込んだ状態なら長時間本来の姿でもいけるか?

魔力は消費してしまうが魔術で力を抑え込めばもしかしたら世界の免疫システムから攻撃を回避出来るかもしれない。

攻撃を受ける理由がウィルス種って理由だけじゃなく力が強いのもあるなら出来そう。

俺の力はデジタルワールドでもトップクラスだからな。

それで回避出来るなら防御力は上がるし威力は格段に落ちるが技も使える。

それに深海への潜水も可能になる。海で活動するなら必須だ。

よし、早速検証だ。

サッと服を脱いで力を抑制する魔術を掛け本来の姿になる。

 

「わっ! え……大丈夫なのか?」

「今しがた立てた仮説の検証だ。力を1割ほどに抑えている。これで活動出来るか試す。体の大きさも2mに抑えてあるから向かってきな人使」

「…………」

「どうした?」

「いや、やっぱりカッコいいなと思って」

「…………」

「その姿でも照れてるのがよく分かるな」

「うっさいわ!」

 

色々と試した結果、力を4割にまで抑えれば免疫システムからの攻撃を回避出来るということが分かった。

やっぱり力が強いのも理由だったか。

半分出せないのは痛いが仕方ない。

これで大抵の敵は蹴散らせる。

ただ力を抑制する術も魔力消費量が多いから気軽に使えないな。

まぁなんとかなるか。

ちなみに見られないよう認識阻害の魔術を周囲にかけて特訓している。

怒られるの面倒だからな。

 

「そういえばその魔術って人間も使えたりするのか?」

「構造を理解すればいけると思うけど止めとけ。この世界の人間は魔力を持っていない。魔力を持っていない場合魔力の代わりに命を削って術を発動させるんだ。使えば文字通り寿命が縮むぜ」

「うわ、マジかよ。便利だから使ってみたかったんだけど」

「まぁ俺も本当はこんな高度な魔術使えるほどの魔力持ってないんだけどな。体内に埋め込んだ魔力を蓄えられる特殊な宝玉のお陰で使えるってだけだ。あ、この宝玉天使族から奪った奴な」

「軽率に自分がやった悪事を暴露していくスタイル止めろ!」

 

そう言われても本当にやっちまったことだしな。

後あれだ。天使族相手には悪いことした気分になってないのもある。

何でか知らねぇけど天使族は凄い敵視しちゃうんだよな。

何でだろう?

 

「あれ?」

 

夕飯の買い物をするために訓練を早めに切り上げて商店街へ向かい歩いているとオールマイトの気配がした。

何でオールマイトの気配がするんだ? いつも会うところと全然違うのに。

そう思っているとコンビニから金髪で細身の男が出てきた。

一瞬目を、自分の力を疑った。

その細身の男からオールマイトの気配がしたからだ。

え? どういうこと??

見た目全然違うのに何でこの男からオールマイトの気配がするんだ?

しかも気配だけじゃなくて匂いまで同じ。

二つも一致しているならいくら見た目が違っていても確定だよな。

 

「オールマイト。こんなところで何してるんだ?」

「え?」

 

声を掛けると細身の男が立ち止まって振り向いた。

思いっきり驚いた顔してるな。

 

「……人違いだよ。君と私は初対面だ」

 

けどしらばっくれられた。

まぁ……それもそうか。

周りにいる人達は誰も気付いていない。

知られていないオールマイトのもう一つの姿なんだろう。

きっと今日は休日でのんびり過ごしたいんだろうし、ここは俺もそうしよう。

 

「失礼しました。知っている人に似ていたのでつい話しかけてしまいました。すみません」

 

さっさと買い物して帰るか。

今日の夕食はコロッケでも作ろう。

 

「……いや。君は全てを話してくれたのに私が話さないなんて不公平だ。ついておいでレガレクスモン」

「!」

 

その名前で呼ばれたら行かないワケにいかないな。

後をついていくと土手までやってきた。

誰もいない、人気のない場所ではあるが念のため音声を遮断する陣を展開する。

 

「これでこの中の会話は誰にも聞かれない」

「君の力は本当に素晴らしいね。やっぱりヒーローに向いているよ」

「貴方だからここまでするんだ。俺を導いてくれた恩人だからな」

「ははは。随分と懐かれたね。じゃあ話すよ」

 

そして俺はオールマイトが隠している秘密を知る。

そんな状態だったのか。

俺を助けてくれた時もかなり無理をしていたようだ。

 

「じゃあもうあまり長くヒーローは続けられないのか」

「そうだね。そう遠くない未来引退するだろう」

「そっか……。残念だな。貴方の隣でヒーローとして立ってみたかった」

 

傷も見せてもらったが、あまりにも深い傷で俺が知っている治癒魔術で治すのは無理だった。

デジタルワールドで一番治癒効果の高い“生命の水”なら治せるだろうけど、あれは滅多に手に入らないものだし何より神族が管理している聖水だから入手は不可能。

俺の恩人の一人なのに何も出来ないのが悔しいな……。

 

「その言葉だけで十分だよ。ありがとう竜治くん」

「……そういえばオールマイトはどうして俺の家族……というか父さんを気にかけてるんだ? 何かあったのか?」

 

今まで疑問に思わなかったけどやたら父さんのことを気にしてくれている。

No.1ヒーローで多忙なのに半年に一度は家に来ているくらいには。

何かがあったとしか思えない。

 

「単純に友人なのもあるけど、少し責任を感じているのもあるね」

「え?」

「ドゥーベは当時人気のヒーローでね。事件解決数もさることながら、優しく穏やかに被害者に寄り添う姿勢がとても素晴らしかった。でもあの時……ドゥーベは幼い子供を庇って敵の攻撃を受けた。私はすぐ近くにいたのに助けられなかったんだ」

「…………」

「子供は無事だった。でもドゥーベは左半身に大怪我を負って、その後遺症でヒーローを続けられなくなってしまった。平気そうにしているけどドゥーベは左目があまり見えていない上に左腕の感覚もほとんどないんだよ」

「それは初めて知った。左目の視力が落ちたのは聞いてたけど」

 

でも言われてみれば俺に触れる時必ず右手からだったな。

幸芽を抱っこする時も右手だけの時が多かった。

そっか。感覚がほとんどないからなのか。

けどそれを悟られないように振舞っているなんて父さん凄いな。

 

「更にはその後に君が……ね。だから気にかけてしまった。でももう心配はいらないかな」

「ああ。十分助けてもらったよ。俺も父さんも。だから無理しなくていい。ちゃあんと俺がヒーローになってオールマイトの分まで人を助けてやる」

 

体がそんな状態なんだ。

10年以上前のことを気にしなくてもいいように俺が立派なヒーローになればいい。

安心して余生を過ごせるならそれが恩返しになるな。

 

「そんなに深く考えなくていいよ。ただでさえ竜治くんは背負うものが多いんだから」

「多いくらいがいいさ。俺はそれだけ業が深いんだ。これくらい背負わないとヒーローにはなれない」

「…………」

「それに父さんが言ってた。ヒーローは余計なお世話だって言われるくらいお人好しなのが丁度いいって。だから気にするな」

 

あの日から父さんはヒーローの心得を俺に教えてくれる。

俺が知らなかったことを沢山教えてくれるからめっちゃためになってる。

実践出来るか怪しいところもあるけど。

 

「強くなったね。雄英に行きたくない理由が可愛らしい子とは思えないな」

「……それ言ったの絶対父さんだろ。今夜の夕飯はトマトのフルコースで決まりだ」

「わー、トマト嫌いなドゥーベ泣いちゃう」

 

帰り際に治癒魔術をかけてみたけどやっぱり駄目だった。

けど少し体が軽くなったと言っていたからやらないよりマシだったかな。

 

「えー! 何で……どうして全部トマト料理なの!? ちょっと竜治ー!!」

「トマトパスタにトマトスープ。トマトたっぷりのサラダにトマトの卵炒め。駄目押しミニトマトのコンポート。お父さん竜治に何かした?」

「何もしてないよー!! 嫌だ! 僕食べたくない!!」

「お父さん好き嫌いしたら駄目だよ。ちゃんと食べて」

「うぐっ……た、食べるよ。頑張って食べます」

「で? お父さん何したの?」

「家族以外に知られたくないこと恩人にバラした」

「あら、それは駄目ね。お仕置きはしっかり受けなさい」

「こ……これはトマトじゃないこれはトマトじゃないこれはトマトじゃない」

「呪文かよ」

 

 

 

 

 

あっという間に季節が過ぎて気が付けば試験当日。

俺と人使は試験会場である雄英高校にやってきた。

が……。

 

「「でっか……」」

 

TVで見た以上にデカいな。

本当に高校かこれ……。

 

「き、緊張するな」

「そうだな。流石の俺も緊張する。とりあえず中入ろうぜ」

「ああ」

 

中に入る道中に俺達以上に緊張している緑色の髪の奴ややたら口の悪い奴がいた。

色々いるなー。それ見てるだけでも緊張解れる。

 

《今日は俺のライブへようこそー!!! エヴィバディセイヘイ!!!》

「誰?」

「ボイスヒーロー『プレゼントマイク』だ。知らないのか?」

「これまでヒーローに興味なかったし、ヒーローになるって決めた後もほぼ勉強と特訓しかしてなかったからな」

 

だから知らない奴のほうが多い。

流石に調べた方がいいか。

それはそれとして……。

 

「これ落ちたんじゃね?」

「……落ちたかもしれない。対人なら良かったんだけどロボット相手じゃ俺の個性無意味だし」

 

まさかの試験内容が仮想敵を倒すって……。

これ人使みたいな個性持ってる受験生圧倒的不利じゃねぇか。

対人なら死ぬほど鍛えたんだけどこれは想定外だ。

しかも会場が違うから俺がサポートすることも出来ねぇし、どうしようこれ。

 

「やるだけやってみる。折角お前が鍛えてくれたんだから無駄にしたくない」

「ごめんな。頑張れしか言えなくて」

「例え落ちて普通科になっても這い上がれるチャンスがある。気にするな」

 

自分に不利な実技試験である可能性も考慮して人使は普通科も受験している。

人使は頭も良いし普通科なら楽勝だ。

けど人使みたいな役に立つ個性を持つ奴が合格出来ない試験ってどうなんだ?

今考えてもしょうがないか。試験に集中しよう。

 

「試験会場広すぎだろ……」

 

やってきた演習場が広すぎて逆にビビるわ。

何これ街じゃん。

どれだけの施設があるんだ雄英は。

 

《ハイスタートー!》

 

その声が聞こえた瞬間俺は駆け出す。

カチカチと喉を鳴らして反響定位を使い仮想敵の位置を把握。

ズドモンの角をもぎ取って作った剣を出して仮想敵を真っ二つにする。

 

――バキャアアアッ!

 

真っ二つになった仮想敵が崩れ落ちる。

まずは一体。

……あれ? 誰もいない?

スタートって言ったの俺の聞き間違いか?

 

《どうしたあ!? 実戦じゃカウントなんざねえんだよ!! 走れ走れぇ!! 賽は投げられてんぞ!!?》

 

あ、良かった。フライングしてしまったのかと思った。

じゃあ他の仮想敵もやっちまおう。

他の受験生を邪魔しないように奥から仮想敵を倒していく。

思いの外脆いな。剣だけで十分そうだ。

 

「きゃあ!」

 

と、仮想敵に吹っ飛ばされたのか受験生が転がって来た。

足を挫いてる。これじゃ歩くのは無理だ。

 

「大丈夫か? 入り口まで運んでやるからしっかり掴まってろ」

「え? わぁ!」

 

試験だし万が一に備えてヒーローが何処かに待機しているとは思うが、いつ来るか分かんねぇもんを待ってたら更に怪我を負ってしまう。

受験生を背負うと脚に本来の姿の身体能力を上乗せして安全な場所まで一気に運ぶ。

 

「ひ、ひー! 速い速い!」

「口閉じてろ。舌嚙むぞ」

 

入り口に到着すると怪我をした受験生を下して演習場に戻る。

あそこなら誰かが治療してくれるだろ。

獲得ポイントを数えながら仮想敵を倒す。

怪我をした人を見つけたら安全な場所まで運ぶ。

どんな状況でも人を助けられなければヒーローじゃないからな。

例え試験でもそれは怠らない。むしろそれが癖になるくらいならないと。

そんなことを考えているとついにそれが現れた。

 

「ほう、これが0Pのお邪魔虫か」

 

明らかにこれまでの仮想敵と違うな。思ってたよりデカい。

これは他の受験生には脅威だろう。

実際皆我先にと逃げている。

0Pだから倒す意味もないし、普通なら逃げるのが正解だ。

 

「けどやりがいがあるな」

 

仮想敵が脆かったからちょっと物足りなかったんだ。

お前はどうかな?

その前に逃げ遅れた人がいないか確認するため走る。

残り時間は僅か。さっさと動けなくなっている人を運ぶ。

 

「よし、これでいい」

 

反響定位を使って再確認したが人の反応はない。

じゃあ遠慮なくやってやるぜ。

俺は建物の陰に隠れると服を脱いで本来の姿になる。

 

「「「「ええええええええええ!!??」」」」

 

レガレクスモンの姿を見た何人かが驚愕の声を上げた。

大丈夫。これ個性だから(大嘘)

 

「あー……やっぱり100%の力だと締め付けられるような感覚がなくて楽だぜ」

 

10分しか本気を出せないのは本当にしんどいな。

悪いがストレス発散に付き合って貰うぜお邪魔虫さん。

【リアクターディスチャージ】を使おうかと思ったんだが威力が高すぎて他の人を巻き込んでしまうな。

なら使うのはこっちだ。

電気を剣に集中させ、稲妻の速度で駆けて相手を貫く。

 

「【ブリューナストライク】」

 

――ガアアォォォオオン!!

 

雷鳴が轟くと同時にお邪魔虫が粉々になって崩れ落ちた。

陸上ではそこまで速く動けないんだがこの技を使う時は別だ。

連発は出来ないが避けられる奴はまずいない。

 

《終了~!!!!》

 

と、ここで丁度試験時間が終わった。

ギリギリ間に合ったな。得点にはならねぇがやっぱ時間内に倒すのは気分がいいぜ。

終わったのでまた隠れて人の姿に戻り服を着る。

 

「(しかし一々服脱ぐのは手間だな。でも自分の金で買った服じゃないから破きたくない。変身前提のコスチュームとか作れたらいいんだけど)」

 

入り口に向かい歩を進める。

試験終わったし人使と合流してかーえろっと。

 

 

 

 

 

 

一週間後。

そろそろ合否通知が来る頃なんだが……。

 

「どうかな? どうかな?」

「お兄ちゃんならぜったい合格してるから大丈夫だよ!」

「おっと幸芽が一番信じてるか。そうだよねお兄ちゃんだもんね」

「……何で俺より父さん達が緊張してるんだよ」

 

筆記は自己採点でもほぼ満点だったし、実技のほうも点数を数えながら仮想敵を倒していたので問題ない……ハズ。

でも実際どうかな?

俺も思ったより緊張してるみたいだ。

 

「竜治! 来てた、来てたわよ!」

 

ちょっとドキドキしながら待っていると母さんが雄英から届いた合否通知を持ってリビングにやってきた。

受け取ると、妙に分厚いことに気が付いた。

 

「紙……にしては硬いな」

「とりあえず開けてみよう。何か重要な書類が入っているのかもだし」

「ああ」

 

そして開けると中から小さな機械が出てきた。

何これ?

 

《私が投映された!!》

「え!? オールマイト!?」

 

何とその機会からオールマイトが映し出された。

どういうこと!? そもそも何でオールマイトが!?

 

《何故私が投映されたのか疑問に思っているだろう。答えは単純明快。雄英に勤めることになったからなのさ》

「まさかオールマイトが教鞭を取ると!? 凄いな!」

 

つまりオールマイトから直に教えて貰えるってこと?

は? 何それ……めっちゃ羨ましいんだけど。

 

《そして君の合否の結果だけど、筆記はほぼ満点! 実技はというと……実は試験で見ていたのは敵Pだけではない。審査制の救助活動P! 君は仮想敵をただ倒すだけではなく積極的に救助活動をしていた。ヒーローの卵に相応しい活躍だった。敵P52、救助活動P100! 文句なしの1位合格だ!!》

 

良かった。受かった。

これでヒーローへの第一歩を踏み出せる。

……後ろで馬鹿騒ぎしている両親をしり目にまだ続いている映像を見る。

 

《しかし他の受験生とあまりに実力差があるため、君には特例枠という形で雄英に通ってもらう。まぁ君の生い立ちを考えれば他の生徒と実力に差があるのは当たり前なんだけどね。でもそれに驕る君ではないことも知っている。新しく出来るであろう友や仲間と日々精進してくれ! 来いよ竜治くん! 雄英が君のヒーローアカデミアだ!》

「え゛!?」

 

そこで映像が終わった。

特例枠?

そうなるとは思わなかった。

少し加減するべきだったかな?

でもそれはそれで他の受験生に悪いしなぁ……。

 

「凄いじゃないか! 1位合格だけじゃなくて特例枠なんて! 流石我が息子だ!」

「嬉しいけど……ちょっと俺には荷が重くないか?」

「何言ってるの。それだけ竜治の実力をちゃんと見てくれてるってことじゃない。お母さん誇らしいわ」

「うん! お兄ちゃん凄い!」

 

自分のことのように喜ぶ家族全員からぎゅーっと抱き締められた。

俺も嬉しい。

友達が出来るかは分かんないけど、何とかなると信じよう。

俺に一番必要なのってそれだろうからな。

 

「お祝いに今日は竜治が好きなもの作るわよ! 何がいい?」

「……じゃあピーマンの肉詰めが食べたい」

「OK! 張り切って作るわね!」

「僕はケーキ買ってくるよ。幸芽も来るかい?」

「行く!」

 

相変わらず騒がしいな。

そういうところが好きなんだけど。

と、その様子を眺めていたら人使から連絡が来た。

 

《もしもし。結果どうだった?》

「ヒーロー科受かった。しかも特例枠だって。ちょっとやりすぎたかも」

《ああ、本来の姿で0Pの仮想敵倒したって言ってたもんな。やっぱり凄いな。おめでとう竜治》

「ありがとう。人使はどうだった?」

《俺は……やっぱり駄目だった。普通科は受かったけど》

「普通科に受かっただけでも凄いって。おめでとう人使。また鍛えてやるからお前もヒーロー科来いよ」

《勿論だ。絶対お前と並び立ってやる》

「ああ、楽しみにしてるよ。じゃあまたな」

 

ピッと通話を切る。

実技試験の内容が対人だったら人使は間違いなく受かってるんだけどな。

けどまだチャンスはある。焦らず鍛えてやるとしよう。

でもヒーローになったらああいう敵を相手にする可能性も十分あるから何かしら武器を使えた方がいいかもしれない。

TV見てるとかなり大柄の敵がいたりするから素手で挑むのは危険だ。

けど俺だと剣しか教えられないんだよな。

人使の体格や個性を考えたら剣は相性が悪い。

他にいい武器ないかな?

これも後々調べておこう。

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「救助P0で2位とはなあ!! 『1P』『2P』(仮想ヴィラン)は標的を補足して近寄ってくる。後半他が鈍っていく中派手な“個性”で迎撃し続けた。タフネスの賜物だ」

「しかし1位の子が圧倒的だろ。仮想敵の位置をどうやってか知らねえが正確に探知して倒してたぜ。怪我をした受験生を見つけたら迷わず安全な場所まで運んでるし、戦い慣れてるって感じがしたな」

「オマケにあの姿。一体どんな個性なんだ? アレを粉々にぶっ壊した技も肉眼じゃ全く見えなかった。超スーパースロー映像で見ても恐ろしい速度で動いたことしか分からん」

「直前に電気溜めてたしまさに雷の速度だったんじゃね? その前にお邪魔虫ブッ飛ばしてた奴も凄かったけど、こいつはそれ以上だ。思わずYEAH!って言っちまったからなー」

「だけど他の生徒と実力差がありすぎます。彼を入れるとなると他の優秀な生徒が入れません」

「そうだね。ということで今回は特例枠として彼を入れようと思う。人数が一人増えてしまうけど、担任は君に任せるよ」

「俺ですか?」

「そう。実は彼個性が発現したのがここ1年くらいで初めて個性が発現した時に暴走しているそうなんだ。でも君なら彼がまた暴走してしまった時止められる」

「……そういうことでしたら」

「は!? 個性発現して1年!? しかも暴走してるとか……でもあの力が突然発現したら誰でも暴走するか」

「我々も気を付けなければいけませんね」

「いやー、今年の1年は粒ぞろいだね。どう成長するのか楽しみだ」

あれからすぐ手続きをして引っ越した。

前の場所からかなり離れている。

ここまで離れているなら俺達のことを知っている奴はいないだろう。

海からも遠くなってしまったのは残念だが。

そして月日が経ち、俺は6歳になったので小学校に通い始めた。

相変わらず無個性だからと馬鹿にされているが、ふとあることに気が付いた。

いくら個性を持っているからと言っても個々の才能や身体能力は別じゃないかと。

だって見た感じ羽が生えてるだけとか、姿が獣人っぽいだけとか結構いる。

そして大人であろうと子供であろうとそれを使いこなせている奴はいない。

使いこなせているのはそれこそプロヒーローと呼ばれる奴等だけだ。

ということで思いついた手。

 

「うそだろ!? おまえ無個性のくせに何でそんなにはやいんだよ!!」

「はっ、悔しかったらその馬のような足で俺より早く走るんだな」

 

50m走で断トツの一位になり堂々と言い放つ。

公共の場での個性使用禁止というルールを利用して自身の身体能力だけで自分のほうが上だと知らしめることにしたのだ。

まだデジモンの力は使えねぇが体の使い方ならこの世界の誰よりも分かってる。

戦闘経験はピカイチだからな。

運動だけではなく勉学でも一位を取る。

これでいくら俺が無個性であろうと馬鹿に出来ねぇだろ。

あー面白い。

どんなに頑張っても無個性の俺に勝てないと分かった個性持ちの連中の顔が笑えるぜ。

勿論直接攻撃はしていないぞ。

そんなことしたら母さんと父さんに迷惑かけてしまうからな。

…………。

まぁ言いたいことは分かる。

この世界に来てもうすぐ1年。

すっかり俺は宮瀬志乃と宮瀬魁を親として慕っていた。

心の底から信頼している。欠片も疑っていない。

恥ずかしくてまだ母さん、父さんと呼べていないけど。

 

「竜治テストでオール100点なんて凄いじゃないか。先生も褒めていたぞ」

「これくらい普通だろ」

「そんなことないわ。頑張ったのね」

 

両親からぎゅーとされてももう嫌ではない。

むしろ嬉しい。

最近じゃもっと抱き締めて欲しいとも思っている。

両親もそれを察したのか抱き締めてくれる回数が増えた。

そして嬉しいと感じるようになってから俺が本当に欲しかったのってこれなのかと思い始めていた。

だって凄く満足してるから。

何だ。

俺は誰かに愛して欲しかっただけなのか。

それはいくら奪っても満足出来ねぇわ。

物理的に手に入るものじゃねぇからな。

でも何が欲しいのか分からずに手当たり次第奪っていたせいで自分からそれを遠ざけていたという……。

うーん。本末転倒とはこのことか。

 

「竜治、今日お隣さんから立派なキャベツを貰ったからロールキャベツ作るわね」

「何か手伝おうか?」

「じゃあそこにある大きな鍋出してくれる?」

「分かった」

 

テキパキと母さんの手伝いをこなす。

人間のフリもとい子供のフリをするのも前より苦じゃない。

肉体の年齢に精神年齢が引っ張られているのもあるが究極体に進化する前の記憶がないなら、幼年期からやり直すつもりで過ごせばいいんじゃね? と思い直したからだ。

子供らしく甘えることは出来ねぇがなんとかなっている。

 

「きゃあ!!」

「!? 母さん!!」

 

突然母さんが悲鳴を上げて倒れた。

何事かとすぐに駆け寄る。

 

「どうした!?」

「か……」

「か?」

「かえる……」

「は?」

 

母さんが指差す先には確かに蛙がいた。

どうやらキャベツの葉の間に蛙がいたらしい。

 

「ご、ごめんね。お母さん昔道路にいた蛙がひき蛙になる瞬間を見てから蛙が苦手で……」

「? 蛙が蟇蛙になる? どういうことだ??」

 

この世界の生き物は進化して姿が変わることはないハズだが、蛙は進化するのか?

(後にひき蛙の“ひき”の部分が“轢き”であることを知る)

とりあえず葉の間で休んでいただけの蛙を外に逃がした。

 

「ほら、もういいぞ」

「ありがとう竜治。助かったわ」

「別に……ん?」

 

キッチンに戻ると母さんが異様にニコニコしていることに気が付いた。

どうしたんだそんなに笑って。

 

「竜治……」

「何だよ」

「やっと私のことお母さんって呼んでくれたのね! 嬉しいわ!」

「へ? ……あ」

 

そういえばさっき母さんって呼んでた。

咄嗟だったから自分でもそう呼んだの忘れてた。

やっべ! 死ぬほど恥ずかしい!

 

「……部屋で勉強してくる」

「行かせませーん。もう一回お母さんって呼んで♡」

「これから何回でも呼んでやるから今は放してくれ!!」

 

嬉しさのあまり俺に抱き着く母さん。

くっそ! 純粋に喜んでるだけだから振り解けねぇ!

エビドラモンみたく真っ赤になってる顔見られたくねぇのに!

 

「ただいまー」

 

更に最悪のタイミングで父さんが帰ってきた。

不味い。絶対カオスなことになる!

 

「おかえりなさい。お父さん聞いて聞いて! ついに竜治が私をお母さんって呼んでくれたわ!」

「えっ、そうなのか!? じゃあ僕のこともお父さんって呼んで!」

「断る」

「何でぇ!?」

「あら照れちゃって可愛い。ということでこの可愛い竜治は私が独り占めするわね」

「ちょっ!? それはいくら何でも狡いよ! 僕だって竜治のこと愛でたいのに!」

 

勘弁してくれ。

普段は物静かなのに何でスイッチが入るとテンション爆上がりするんだよ。

これには流石について行けねぇ……。

でもやっと呼べた。

今まで呼びたくても呼べなかったからな。

これで少しは家族らしくなれたかな?

 

 

 

 

 

 

「竜治しっかり。ほら、ゆっくり息をして」

「……はっ……ひぃ、ぐ……」

「ちょっと過呼吸気味になってるな。袋取ってくるよ」

 

ただあの変な夢を見るとどうしても心配かけてしまう。

隠そうとしても父さんが気配に敏感だからすぐバレる。

 

「治まってきたかしら。薬飲めそう?」

「う、ん……」

「飲んだらもっと楽になるからもう少しの辛抱だよ」

 

呼吸が整うように母さんがトントンと優しく背中を撫でる。

弱っている姿なんか見られたくねぇのに両親がいるとすがってしまう。

 

「うーん……その時によって出る症状が違うのが厄介だな。いつその夢を見てしまうのか竜治本人にも分からないから事前に対策することも難しいし」

「先生は鉄砲水に飲まれた時の恐怖を体が覚えていて、感覚でその時のことを夢で見ているんじゃないかって言ってたわ。それは怖いわよね。一度死んでいるようなものだもの」

「…………」

 

中らずと雖も遠からず……だな。

この夢はデジタルワールドにいた時から見ていたから。

でも体の記憶も侮れないと実感したばかりだ。究極体に進化する前の記憶がないのは分かっている。

だからこの夢は究極体になる前に経験したことが原因なんだろう。

しかし覚えていないから改善策がない。

……一生これに苦しめられるのかな?

 

「ごめん……父さん、母さん」

「謝らなくていいの。うん、大分良さそうね。お父さん先に休んでて。今日は私が竜治についているわ」

「分かった。何かあったらすぐに起こしてね」

「ええ」

 

明日朝早くから仕事がある父さんは寝室に戻る。

残った母さんは俺に添い寝した。

最初添い寝された時はマジでビックリした。

今は慣れたし何より凄く安心するから俺も母さんにピッタリくっ付く。

 

「大丈夫よ。お母さんが傍にいるからね」

「うん。ありがとう」

 

今のこの状況を数年前の俺が見たら絶句するな。

でも本当に安心するんだよ。すんなり眠りにつける。

こんなに安心するなんて向こうじゃ考えられなかったな。

温かい母さんの愛情を感じながら俺は目を閉じた。

 

 

 

 

 

それから更に月日が経ち、俺は七歳になった。

今日母さんはいない。

遠方に住んでいる友人の結婚式に呼ばれて数日留守にしている。

でもそろそろ帰ってくる時間だから夕食の準備をするか。

昨日電話した時「肉料理が多いから魚料理食べたいのよね」と言ってたな。

 

「ということでスーパーに行ったら新鮮な鯛が売っていたので今日は鯛料理だ」

「すごーい。僅か八歳で鯛一匹捌いて料理出来るとかうちの子って天才かな?」

 

鯛の刺身に鯛の塩焼き、鯛の兜煮、あら汁、鯛の炊き込みご飯とまさに鯛三昧。

母さんの手伝いをしているうちに料理にハマってしまったのだ。

一つの食材が調理法次第で多種多様に変化するのが面白い。

デジタルワールドじゃ料理の種類こんなに沢山なかったからな。

 

「ただいま」

「「おかえりなさい」」

 

調理と片付けを終えた頃母さんが帰ってきた。

父さんと二人でお出迎えをする。

 

「お土産沢山買ってきたわよ。今度竜治も旅行行こうね」

「うん」

「ありがとう。結婚式どうだった?」

「綺麗だったわよ。お母さん感動して泣いちゃった」

 

二日振りに会った母さん。

嬉しくて思わず抱き着いた時だった。

 

――ドクン

 

「……ん?」

 

母さんの腹から何か聞こえた。

 

「どうしたの竜治。寂しかった?」

 

その音が気になって母さんの腹に耳を当てる。

少し前からようやく人間の姿でもデジモンの力が使えるようになった。

とはいえまだ五感の一部を強化したり、ほんの一瞬身体能力を僅かに乗せられる程度なんだがな。

今日は練習がてら聴覚を強化していた。

だからこそ聞こえたんだが……何だこの音。

 

――トク、トク、トク。

 

やっぱり聞こえる。

小さな鼓動のような音が。

 

「そんなに寂しかったの? 竜治も寂しがり屋なのね」

「母さん体何ともないのか? ここから小さい鼓動のような音が聞こえるんだけど」

「鼓動のような音?」

「うん。リズムが一定だから心音っぽいけど」

 

指差す先はへその少し下。

それを聞いた二人は目を見開いた。

あ、不味い。

つい気になって言ってしまった。

普通の人間は体内の音なんて聞こえないのに。

どうやって誤魔化そうこれ。

 

「もう一度訊くよ竜治。ここから心音みたいな音が聞こえるんだね?」

「え? あ……ああ聞こえる」

 

どう誤魔化そうか考えていたら父さんから再確認された。

あれ? 不思議に思わないのか?

無個性の俺が突然こんなこと言ったら不思議に思うんじゃ……。

 

「今の時間病院やってる?」

「ギリギリだね。でも近くに7時までやってるところがあったハズだ。そこに行こう」

「そうね」

「は!? 何で病院!? もしかして俺が聞いたのってヤバい音だった!?」

「違う違う。ちょっと確かめに行くだけだよ。それに予想通りなら悪いものじゃなくて良いものだから」

「へ??」

 

すぐ帰ってくるから待ってて、と言われて仕方なく一人大人しく待つ。

しかし気が気じゃない。全く落ち着けねぇ。

……やっぱり言わない方が良かったか?

でも病気なら早いうちに見つけた方がいいのは確かだし……。

悶々としていると「ただいまー」と二人が帰ってきた。

? 何か行く前よりテンション高いな。

 

「お待たせ竜治! いやー竜治凄いね! お医者さん驚いてたよ!」

「驚いてた? 何の音だったんだ?」

「竜治が聞いたのはやっぱり良い音だったわ。竜治はこれからお兄ちゃんになるのよ」

「は?」

 

お兄ちゃん?

……お兄ちゃん??

え? どういうこと?

 

「つまりお母さんのお腹に新しい命が宿ってるんだ。竜治が聞いたのは胎児の心音だったんだよ」

「新しい命? てことは腹にデジタ……卵があるのか? どうやって取るんだ?」

 

そんな大きなものが腹にあるようには見えないけど。

 

「違うわよ。人間はお腹の中で赤ちゃんを育てるの。今は分からないけどこれから少しずつお腹が大きくなっていくわ」

「???」

 

ごめん。言っている意味が全然分からん。

腹の中で育てるって何??

 

「それにしても竜治は耳がいいんだね。相当聴覚が鋭くないと胎児の心音は聞こえないよってお医者さんが言ってた。もしかして右目が見えないから代わりに聴覚が鋭くなってるのかな?」

「ど……どうなんだろう? まぁ感覚は鋭くなってると思う」

 

深海は光が届かない漆黒の世界。

だからそこに生きる生物は目を極限まで発達させるか匂いや音、振動で周囲の状況を把握する。

そして俺は視覚以外の全てを使う。

なので究極体としては視力は並程度だが、他の感覚は恐ろしいほど鋭い。

でもそんなこと言えるワケないので適当に誤魔化す。

 

「今日は鯛料理なんだって? 偶然だけどおめでたいから丁度いいじゃない。さ、皆で食べましょう!」

「ああ、縁起物なんだっけ」

「そうそう。順調にいけば来年の春に生まれる予定だ。今日はパーッと祝おう!」

 

その後父さんから「赤ちゃんはこうやって生まれてくるんだよー」と簡単に教えて貰った。

うわぁ……こんな風に育って生まれてくるの?

デジモンと全然違う。ちょっと理解が追い付かない。

けど日に日に心音は大きくなってるし、母さんの腹も膨らんできている。

正直に言うとめちゃくちゃ楽しみだ。

 

「また背が伸びた竜治くんを見かけた私が来たー!!」

 

夕飯の買い出しに行っているとオールマイトに会った。

忙しいハズだが、近くに来るとこうして様子を見に来てくれる。

……実は両親の次くらいには信用してる。

 

「久し振り。残念だが今日は母さんも父さんもいねぇぞ。健診に行ってるから」

「知っているよ。いよいよ君もお兄ちゃんか。来年の春が楽しみだね! 性別はもう分かった?」

「うん。女の子みたいだ」

「そうか。……名前はどうするのか聞いてる?」

「生まれてから考えるって言ってたぞ。……? どうした?」

 

名前の話になったらオールマイトが見たこともない表情をした。

どういう意味の表情なんだそれ。

 

「あー……うん。竜治くんしっかりしてるから竜治くんに頼んだほうがいいか」

「何を?」

「実はあの二人……常識はあるハズなのにネーミングセンスが死んでいてね。君の時もとんでもない名前を付けようとして周りにいたヒーローが全力で阻止するという伝説を作ったんだ。今回止められそうなのが竜治くんしかいない。だから二人が変な名前を付けようとしていたら全力で阻止して欲しい!」

「は?」

 

とんでもない名前って何だよ。

よく分かんねぇけど名前を付けるという概念がないデジモンの俺にそれが出来るか?

変な名前かどうかも判別出来ないかもしれねぇのに。

まぁ……判別出来たら止めるか。

 

「分かった」

「頼むよ。それじゃあね」

「ああ」

 

それから数か月後、予定日より二週間早く妹が生まれた。

俺……学校に行っていてその場面を一切見られず。

嘘だろ!?

ちょっと……いや、かなり見たかったのに!

 

「物凄くすんなり生まれてきたのよ。油断してたわ。一気に陣痛強くなるんだもの」

「ま、マジかよ……」

「竜治の時は二日陣痛に苦しんでたのにね。安産すぎて僕もビックリした」

 

「迎えに行けなくてごめんね」と謝られたが……まぁいいか。

調べた時人間の出産は命懸けだと記載があったから心配だったんだ。

見られなかったのは残念だが母さんも妹も無事ならいい。

 

「竜治抱っこする?」

「え!? そ、それは止めておく。生まれてまだ数時間だろ。流石に怖い」

「補助してあげるから大丈夫。ほら手を出して」

 

母さんが俺の手が届く位置に生まれて間もない妹を近付けた。

初めて人間の赤ちゃんを間近で見た。しわしわでちょっと猿みたいだ。

でも可愛い。

そっと手を伸ばす。

 

 

 

 

――止めろ! この子は生まれたばかりなんだ。この子は見逃してくれ!

――あそこにいるのは皆幼年期だ。だから狙わないで!

 

「ーーーーっ!!!」

 

瞬間、自分がやってきたことを思い出した。

突然顔を青褪めた俺に何事かと父さんが近寄る。

 

「どうした竜治」

「……ない」

「え?」

「俺は……その子に触れられない」

 

俺は略奪する時、あまりに邪魔をするデジモンがいれば見せしめとばかりにそのデジモンが住んでいる村や町を全滅させてきた。

その中には当然幼年期のデジモンも含まれている。

抵抗することも出来ない幼い命さえ平気で奪ってきた俺に妹に触れる資格はない。

 

「何言ってるの。大丈夫だって」

「わっ!」

 

遠ざかろうとした俺の腕に半ば無理矢理母さんが妹を乗せた。

ずしり、と命の重さがかかる。

 

「……結構、重い…な」

「これでも新生児としては小さいほうなのよ」

「そう……なのか」

 

まだ目も開いていない。本当に生まれたばかりの命。

でも生きているってハッキリ分かる。

こういう命を俺は何も考えずに奪ってきたのか……。

初めて感じる罪悪感が全身を埋め尽くす。

デジタルワールドは基本弱肉強食の世界。

強いものが絶対だ。

こことは世界の理そのものが違う。

頭では分かっているが心がついていかない。

 

「竜治大丈夫か? 何処か苦しい?」

「……感動して泣いてるんじゃなさそうね。どうして泣いてるか言える?」

 

でもこんなこと言えるワケがなく首を横に振る。

この世界に来てもう三年。

デジモンとは違う人間の豊かな感情に触れて俺も随分人間に近くなったらしい。

しんどい、悲しい……。

何も言わずにただ泣き続ける俺を父さんが抱き締める。

少しすると泣き止めたけど、罪悪感で妹の姿をまともに見られない。

どうしよう。俺お兄ちゃん出来るかな?

 

「よく分かんないけど大丈夫よ。そんなに心配しないで。あ、そうだ。竜治が来る前に名前の候補考えておいたの。竜治どれがいい?」

 

話題を変えようと母さんが名前の候補が書かれた紙を俺に手渡す。

特に何も考えずその紙を見た。

 

「(嘘だぁ)」

 

しかし見てすぐオールマイトが言ったことの意味を理解した。

何これ!?

あまりの衝撃に罪悪感が吹っ飛んだ!

 

「い、いいの一個もないぞ」

「そうか? 春生まれだからいいと思うんだけど」

「なら梅とか桜でいいだろ!」

「えー。でもよく見る名前じゃないの」

「よく見る名前でもちゃんと意味が込められていればいいだろ! これに至っては季節も花も関係ねぇ! 何だよアレキサンドラって! せめて日本人の名前にしろ!」

 

名前を付けるという概念がない俺VSネーミングセンスゼロの両親との勝負勃発である。

デジモンの俺でも速攻で分かった。

これはヤバい! キラキラネームが可愛く見える!

この二人に名前決めさせたら駄目だ!

これで妹がもし無個性だったら無個性+キラキラネームで苛められる未来しかないじゃねぇか!

オールマイト教えてくれてありがとう!

かなり不利な勝負だが絶対に負けるか!!

 

「三日に及ぶ戦いに何とか勝利して俺が命名権を得ました。妹の名前は宮瀬ゆきめです。“幸”せが“芽”吹くと書きます」

《そ、そうか。頑張ったね》

「すっげー揉めたぜ。調べまくったし、今までの人生で一番疲れた」

《でもお陰で可愛い名前になったじゃないか。今度幸芽ちゃんに会わせてくれ》

「ああ。……ところで俺の時ってどんな名前付けようとしてたんだ?」

《……ドラゴンフライとか……》

「それもう蜻蛉でいいじゃん……」

 

 

 

 

 

 

妹の幸芽が生まれて五年が経ち、俺は中学生になった。

幸芽は誕生日に無事個性が発現した。

俺のように無個性だと苛められる心配はなくなって一安心……なのだが

 

「(中身が俺で良かったな。もし宮瀬竜治のままだったら絶対に関係こじれてるだろ)」

 

幸芽は父さんと母さん両方の個性を受け継いでいたのだ。

母さんのだけならともかく、ヒーローとして活躍していた父さんの個性まで持っていたら無個性ながらヒーローを目指していた宮瀬竜治は激しく嫉妬したに違いない。

俺は全く気にしていないがな。

というか……。

 

「にーちゃん。にーちゃん。あそんであそんでー!」

 

幸芽が可愛すぎて気にならない。

顔立ちは父さん似だ。母さんには目以外あまり似ていない。

そういう俺は母さん似でよく女顔と言われてるが。

 

「じゃあ何して遊びたい?」

「おにごっこ!」

「そうか。なら公園に行くぞ」

 

この世界に来て八年。

デジモンの力は完全に復活した。

本来の姿になることも出来る。

宝玉に魔力も蓄えられるようになって魔術も使える。

人間の姿のままでも腕とか足だけ本来の姿にするとか出来るし、身体能力だけを上乗せすることも可能だ。

使ったことはないけど。

 

「あーもうつかまった」

「はい、俺の勝ち。そろそろ帰るぞ。夕飯はカレーだ」

「やった! にーちゃんがつくったの?」

「今日は母さんだ」

「えー、にーちゃんがつくったのがいい」

「母さんのも十分美味いだろ。肩車してやるから機嫌直せ」

「はーい!」

 

幸せだな。

そう思う度に昔の自分が許せなくなる。

誰かの幸せを奪い続けてきた自分が……。

あれだけ奪って殺したのに幸せだと感じていいハズない。

でも償い方なんて知らない。

あと数年もすれば宝玉に溜められる魔力が最大値まで達する。

大規模な転移術も使えるだろう。

だからそれを使ってデジタルワールドに帰って【ロイヤルナイツ】に処刑して貰った方がいいんじゃないかと思っている自分と、ここにずっといたいと思っている自分がいる。

どちらも俺の本音。

俺はどうすればいいんだろう。

一人じゃ答えが出ないのに、こんなこと誰にも相談出来ない。

苦しい胸の内を言えないのが更に苦しい。

 

 

 

 

 

 

「宮瀬。今日空いてるなら教えて欲しいことがある」

「え?」

 

そして中学二年になって俺は妙な奴にからまれるようになった。

名前は心操人使。

同じクラスではないが何故か最近話しかけてくる。

持っている個性は【洗脳】。

心操の問いかけに答えたものは洗脳スイッチが入り心操の言いなりになってしまう。

初めて聞いた時かなり強い個性だと思った。

問いかけに答えるという条件が必要だが、人を助けることが出来る個性だ。

……そう言ったのが不味かったか?

 

「無個性の俺が教えることなんかねぇぞ」

「いや、ある。これは宮瀬じゃないと駄目だ」

「意味が分からん。さっさと散れ。そしてもう話しかけんな。お前まで馬鹿にされるぞ」

 

中学生になっても変わらず無個性だと馬鹿にされる。

成績は常にトップを維持していて、運動だって個性使われなければ誰にも負けねぇ。

でもそれが気に入らないという連中が一定数いる。

本当無個性には厳しい社会だぜ。

 

「俺は、雄英のヒーロー科に行きたいんだ。でも筆記は何とかなっても実技試験は今のままじゃ厳しい。だから体の動かし方を学びたい。どんな風に鍛えたらいいかだけでも教えてくれ。宮瀬なら……純粋に体を鍛える方法知ってるだろ?」

 

確かに戦闘系の個性や異形型の個性じゃ体の動かし方が根本的に違う。

そいつらに教えを乞うたとしても参考にならないだろ。

しかしなぁ……。

 

「今言ったが俺と関わると」

「俺は馬鹿にしない。というか馬鹿にする奴がおかしいだろ。宮瀬がどれだけ苦労してるか考えもしない連中の声なんか耳に入らないよ」

 

く、苦労って……。

そんな御大層なことしてるつもりはないんだがそう見えるのか?

けど家族以外の人間にそう言われたことないから少し嬉しいかも。

 

「……今日は駄目だ。妹の迎え行かないとだから」

「そっか。次の日ならいいか?」

「今のところ予定はないな」

「じゃあ決まりだな。頼むぜ」

「最初に言っておくが俺はこういうことを誰かに教えたことがない。上手く教えられるかは分かんねぇぞ」

「そこは自分でなんとかする。けどお前変わってるな。普通俺と話す人構えるんだけど」

「だって洗脳するつもりで話しかけてないだろ。それくらい分かるさ」

「…………」

 

デジタルワールドには恐ろしく厄介な能力を持っているデジモンがわらわらいる。

瞬きをする間にノーリスクでその能力を使ったりしてくるから対峙する時は常に警戒していないといけない。

だから今心操が洗脳しようとしていないと感覚で分かる。

それを聞いて立ち尽くす心操を放って俺は幸芽の通う幼稚園に向かった。

で、翌日。

 

「体うんぬん以前に体力がねぇ。これじゃ本格的に鍛えるのは無理だな」

「うぅ……」

 

最初は受け身からと思って数回投げただけなんだがもうダウンしてら。

雄英でどんな実技試験があるかは知らねぇがこのままだと確実に落ちるな。

 

「基礎中の基礎から行くか。走り込み行くぞ。遅れてもいいから全速力で付いてこい」

「……分、かった」

「じゃあ先行ってるぜ」

「いや速!!」

 

一応加減して走ったんだが、それでも心操には速かったらしい。

10分後にはヘトヘトになった心操が地面に横たわっていた。

 

「毎日吐くまで全力で走り込みな。で終わったらしっかり食べて休むこと。それだけで体力がつく」

「お、おう……」

「一ヶ月経って折れてなかったらまた教えてやる」

「ああ……頼む」

 

早々に折れるかなーと思っていたら意外と根性があってやり遂げた。

本気でヒーロー目指してるのがよく分かる。

ということで受け身の練習再開。

 

「難しいな」

「出来るのと出来ないのじゃ全然違うぜ。致命傷を避けられるし、すぐ反撃に転じることも出来る。特にお前の個性は前線のほうが力を発揮出来るハズだ。戦闘中お前の問いかけに咄嗟に警戒し対応出来る奴のほうが少ないだろうからな。しっかり覚えておけ」

「…………」

「何だ?」

「何か……戦い慣れてるような感じの言い方だと思って」

 

戦い慣れてるどころか戦いのプロです。

やっちまったな。

家族と話す時はそういう言い方にならないのに何で!?

 

「まぁでもそれだけ学んでるってことか。どれだけ学べばそうなるんだよ。俺と同い年だろ」

「さ、さぁな……」

 

勝手に解釈してくれて助かった。

何か過大評価されている気がするが、疑問に思わないならいいか。

そんな感じで心操に体の鍛え方とかを教えていたら中三になっていた。

進路どうしよう。特に希望はないから地元の高校でいいか。

 

「宮瀬。一緒に雄英受けよう」

「は?」

 

進路希望の用紙とにらめっこしていたら心操に誘われた。

大分鍛えているんだが、筋肉が付き辛いのかパッと見はそこまで変化はない。

でも体幹はしっかりしている。そこらの雑魚に後れを取ることはない。

ちなみに中三になったら同じクラスになった。

同じクラスになったので更に話しかけてくる回数が増えたのは言うまでもない。

 

「決めてないんだろ? ならヒーロー科受けようぜ。お前なら楽勝だろ」

「何で雄英? しかもヒーロー科とか……俺はヒーローになるつもりねぇぞ」

 

つか無理だろ。

海賊にヒーローが務まるかよ。

 

「ははははは。無個性がヒーローになれるワケねぇだろ。やるだけ無駄だって。俺のほうがまだ希望あるぜ」

「そういうのは右目の光さえ失ってる宮瀬に勝ってから言いな。全てにおいて負けてるだろ」

「ぐっ……」

 

本当に過大評価してるな。

何だかんだ言いつつ心操を鍛えて一年。

そこそこ親しい間柄ではあると思う。

けど雄英を受けるつもりはない。

 

「誘うなら他の奴をあたれ。俺は帰る」

「何か用事あるのか?」

「……ああ」

 

将来も何もない俺にはちゃんとヒーローを目指している心操が眩しく見える。

カッコいいとも思う。俺にはないものを沢山持っているから。

だからこそこんな血に塗れた俺から離れて欲しいんだが……

 

「いたいた。逃げるように帰るなよ」

 

何でこんなに懐かれてるんだろ。

夕飯の買い物をするためにさっさと学校から出て商店街に来ていたらまさかの遭遇。

手に荷物持ってるし周りに人がいるから邪険に出来ねぇ……。

 

「別に逃げたワケじゃねぇよ。買い物があったから」

「ハマチ丸々一匹って……誰が捌くんだよ」

「俺だけど」

「宮瀬が!? あ、でも昔調理実習で先生を泣かせたって話あったな。料理上手なのか」

「母さんが料理教室の先生だからその影響でな」

 

あれはちょっと可哀そうなことしたな。

普通の豚汁作るだけなのに食材が色々あったから楽しくなって気が付いたら立派な懐石料理が完成していた。

先生本気で涙目になってたからそれ以降調理実習の時はやりすぎないようにしてる。

 

「お兄ちゃーん!」

「竜治ここで買い物してたのか。丁度いいから一緒に帰ろう」

 

そこに幸芽と父さんがやってきた。

父さん今日休みだったから近くの公園で遊んでいたようだ。

たまたま俺の姿を見た幸芽が追いかけてきたらしい。

 

「この子が宮瀬の妹か?」

「ああ、幸芽っていうんだ」

「初めまして! みやせゆきめ、6才です!」

「初めまして。俺は心操人使。お兄さんの同級生だ。そちらが宮瀬のお父さんでいいですか?」

「そうだよ。宮瀬魁だ。よろしくね。いやービックリしたよ。竜治に友達がいたなんて知らなかったから」

「え?」

「え?」

「ん?」

 

父さんの言葉に全員が固まった。

友達……友達?

え? そうなの?

心操って俺の友達なの?

 

「違うのか? 随分親しそうだからそう思ったんだけど」

「あー俺はそう思いたいんですけど宮瀬がそう思っていないと言いますか……」

「えー? 駄目だぞ竜治。人付き合いが苦手だからって好意的に見てくれる人を邪険にしたら」

「俺、友達ノ、基準知ラナイ」

「何で片言? 一緒にいて楽しければそれが友達でいいだろ。ごめんね。竜治無個性だからって馬鹿にされることが多いから警戒心が強くて中々心開けないんだ。でも見た感じ結構警戒心解けてるみたいだからこれからも仲良くしてあげて」

「よ、余計なこと言わなくていいよ」

 

警戒心が強いのは認めるけど、別に友達なんかいらないからほっといてくれ。

正確には友達がどんなものか知らないだけどな。

悪かったな。これが百年ボッチの弊害ですよ。

 

「……ところで貴方は【麻痺眼】の一等星ドゥーベでは? 敵窃盗団が人質を取ってアジトに立てこもった時、誰一人怪我をさせずに事件を解決したヒーローですよね?」

「あれ、知ってる? もう引退して十年は経つのに嬉しいね」

「その事件は有名ですから。そっか、だから宮瀬は戦闘とかに詳しいんだな。父親がヒーローなら納得だ」

 

違うんだけど適当に頷いておくか。

父さん話を合わせ……。

 

「僕は竜治にそういうの教えたことないよ。竜治はヒーローに興味がないからね」

 

てくれるワケないか。

合わせて欲しかったんだけど父さんも素直だからなぁ。

 

「え? じゃあ何であんなに詳しいんだ? 体術も完璧だったのに」

「……そ、れは」

「きゃああああああ!!」

 

どうやって話題を変えようか考えていたら突然悲鳴が聞こえた。

しかも普通の悲鳴じゃない。遠くから爆発音まで聞こえる。

 

「敵か!? 竜治、幸芽と人使くんと一緒に逃げなさい」

「え!? 父さんは」

「お父さんは大丈夫。安全なところまで離れたらすぐヒーローに連絡するんだ。いいね?」

「は、はい」

 

やっぱり元ヒーローだ。

何かあると即ヒーローの顔になる。

自分が戦えないということは父さん自身も分かっているから一般人を避難させるつもりなんだろう。

俺は幸芽を抱きかかえて心操と一緒に爆発音が聞こえた方とは逆方向へ走る。

 

「お父さんは?」

「父さんとは後で会えるから今は逃げ……!? 心操!!」

「え!? わっ!!」

 

それに気付いた俺は抱きかかえていた幸芽を心操に無理矢理渡して思いっきり突き飛ばした。

瞬間俺がいた場所が爆発する。

幸芽を守ることを優先したため、俺はその爆発に巻き込まれた。

 

「宮瀬!?」

「お兄ちゃん!」

「う……」

 

不味い。脚を負傷してしまった。

骨が見えるんじゃないかと思うくらい肉が裂けて血がダクダク出ている。

防御魔術を使ったけど、咄嗟だったから流石に強度が足りなかったか。

使わなかったら多分脚がなくなってるけど。

 

「待ってろ、今助ける!」

「こっちに来たら駄目だ! 地中を何かが移動してる。そいつが爆弾か何かを下から爆破させてる!」

 

反響定位(跳ね返ってきた音で周囲を把握する方法)で探ると地中に何かいるのが分かる。

そういう個性なんだろうがかなり移動速度が速い。

これはプロヒーローじゃないと対処は無理だ。

 

――ドゴオォォン!!

――ドン! ドオォォオン!

 

そいつは無差別にあちこちを爆破し始めた。

突然のことに周囲の人達は完全にパニック状態になる。

次に何処を爆破されるか分からないという恐怖がそれを更に助長させる。

 

「ほほほほ。良い感じに壊れてるねぇ。準備した甲斐があった」

「そうっすねー。ここは建物が多いのに近くにヒーロー事務所がないからねー。暴れるにはまさに最適ー」

 

周囲を探っているとこの辺りで一番高い建物の上に何かがいるのに気が付いた。

一人は昆虫のような翅がある男でもう一人は牛の角を持つ女。

会話からどうやらこの騒ぎはあいつらの仕業らしい。

 

「竜治しっかりしろ! 立てるか?」

 

俺が怪我をしたことに気付いた父さんが危険を顧みずやってきた。

治癒魔術を使えば治せるが今ここで使うことが出来ない。

 

「む、無理だ。脚が……動かせねぇ」

「酷いな。筋肉まで裂けてる。痛むだろうけど少し」

「おんやぁ……お前ドゥーベじゃね?」

「「!!!」」

 

気が付くとあの昆虫の翅を持つ男が父さんの背後にいた。

どんな昆虫の個性か分からないが動きが相当速い。

 

「ほほほほ。まさかここでボスの仇が取れるとは思わなかったよぉ。引退してから何処行ったから分からなかったからねぇ」

「ボス!? 君は」

 

――ドズ!

 

「うっ!?」

 

父さんが苦痛の表情を浮かべて倒れ込んだ。

昆虫の個性を持つ男が持っていたナイフで父さんの背中を刺した。

かなり深く刺したらしくナイフ全体が赤く染まる。

 

「と……! てめぇ!!」

「ほほほほほ、いい気味だねぇ。お前の個性のせいでボスは崩落に巻き込まれたんだ。同じ目に合わせてやるよぉ」

 

それ絶対父さんのせいじゃねぇだろ!

逆恨みもいいところだ!

てか同じ目って……まさか。

 

「ではド派手にやっておしまーい♪」

 

その合図と共に地中を移動する敵がこちらにやってきた。

道中でも建物を爆破していく。

地中から爆破され、支えがなくなった建物が崩落していく。

 

「竜治…お父さんを見捨てて逃げ、なさい……」

「……!!」

 

い、嫌だ。見捨てたくない。

でもナイフで深く刺された父さんはもう動くことが出来ない。

脚を怪我している俺じゃ父さんを運ぶことは無理だ。

どうすればいい? どうしたら……。

 

「お父さん!」

「ば、馬鹿! 行ったら駄目だ!」

 

心操の静止を振り切って幸芽がこっちにやってきた。

それを追って心操もこっちに来る。

 

――ドゴオォォオオン!!

 

今までで一番大きな爆発が起こった。

計算されていたのか周囲の建物が全部俺達のほうへ倒れてくる。

 

「ばいばいドゥーベ。あの世でボスに土下座しなぁ」

 

……駄目だ。

全員崩落に巻き込まれる。

皆死んで……。

 

 

…………。

 

 

俺は……どうなってもいい。

でも父さんと幸芽と心操は絶対に助ける!

俺は覚悟を決めた。

◆◇◆◇◆

≪宮瀬魁視点≫

瓦礫が降ってくるのがとてもゆっくりに見えた。

背中を深く刺されていてもう動けない自分では竜治も幸芽も心操くんも助けられない。

元とはいえヒーローなのに一番大切なものを守れないなんて……。

……頼む神様。

自分の命と引き換えでいいから子供達だけは助けて!

そう思った瞬間だった。

 

「アアアアアアアアアア!!」

 

竜治がまるで獣のような咆哮を上げた。

そして姿がみるみるうちに変化していく。

体が大きくなり口には鮫のような鋭い牙が生える。

皮膚が青色に変じ、後頭部から長い魚の尾が伸びる。

右手には白い刀身の剣を持ち、左腕には巨大な海老か蟹の鋏を装備していた。

完全に変態を遂げたその姿はまさに魚の亜人だ。

大きさは3mを優に超えている。

な、何だこの姿。

変形型の個性? にしては姿が異質すぎる。

というかそもそも竜治は個性を持っていない。

何が起こって……。

変化した竜治は僕達に覆い被さると右手を動かして何かの陣を描き始めた。

見たこともない文字と模様。

描かれた陣が光ると僕達と同じく建物の崩落に巻き込まれそうになっている人達の体が光って薄い膜のようなものが体を覆った。

何を? そう考える間もなく僕達は建物の下敷きになる。

しかし……何ともない。

瓦礫でよく見えないが、幸芽も心操くんも無事だ。

姿が変わった竜治が僕達を身を挺して守っている。

 

「宮瀬……?」

「……耳塞げ。加減はするが近いから鼓膜破けるぞ」

 

鼓膜が破ける? どういうことだ?

とりあえず言うことを聞いて全員が耳を塞ぐ。

すると竜治は全身に電気を纏った。

その電気が左腕の鋏に集中する。

 

「【リアクターディスチャージ】」

 

――ドゴオォォォオオン!!

 

鋏から電気の塊が発射され周囲の瓦礫が吹き飛んだ。

凄まじい爆音。その爆音に違わぬ威力。

半径100m内の瓦礫が全てなくなっていた。

これは確かに耳塞いでいなかったら鼓膜が破れる。

でも僕達を含め誰も傷付いていない。

瓦礫の下敷きになった他の人達も竜治が纏わせた膜が守っていて無傷だ。

どうやらあの膜はシールドのようなものらしい。

 

「よくも父さんを……」

 

突然の出来事にぽかんとしている敵。

何が起こったのか分かっていない。

そんな敵を竜治が睨みつけた。

また電気を纏うと今度はそれが右手に持っている剣に集中する。

 

「【ブリューナストライク】」

 

――バチィィイン!

 

雷鳴が轟いたと思った瞬間、雷が落ちるような速度で竜治が駆け抜け虫の個性を持つ敵の背にある翅を全て斬り落とした。

いや、翅だけではない。背中もざっくり斬られている。

恐ろしい速度の攻撃に敵が地面へと落下した。

 

「ぎゃああ!! い、いてぇ……いてぇ!! どんな速度だよぉ! 全然見えなかったぞぉ!」

「ガアアアアア!!」

 

痛みで悶える敵に追撃を加えようと竜治がすぐさま体を反転させる。

あっという間に倒れている虫の敵の前に立った。

3mは超えている巨体なのにとんでもない速度だ。

 

「ちょっ! 何なんだこの魚……リーダーから離れろー!」

 

吹っ飛ばすためだろう、牛の角を持つ敵が猛スピードで竜治に突っ込む。

しかし後ろから突進したにも関わらず。

 

――ガシッ!

 

「は?」

 

あっさりと竜治は敵の頭を掴んで倒壊していない建物に向かい放り投げた。

かなりの力で投げたのか敵は完全に気絶している。

 

「嘘だろぉ!? 一撃かよぉ!! くっそ……やっちまえぇ!!」

 

虫の敵が叫ぶと再び爆発が始まった。

下からの攻撃で竜治を倒すつもりらしい。

何処にいるのか分からないのに格好の的になる。

 

――ダンッ!!

 

竜治君は地面に剣を突き刺すと地面に向かい放電した。

かなりの電流だ。まさか電気まで操れるのか?

一体いくつの個性が発現している!?

 

「いぎぃああああああ!!」

 

電流に耐え切れず地中にいた敵が飛び出してきた。

手がモグラのようになっている。あれで地中を移動していたらしい。

背に大量の爆弾を抱えている。全て爆発したら危険だ。

地面から飛び出た敵に近付くと顎を剣の峰の部分で殴り気絶させた。

気絶させるとさっきの牛の敵同様建物に放り投げた。

その目はもう虫の敵に向いている。

 

「ちょっと待て。まさか宮瀬あの敵殺すつもりなんじゃ……」

「え?」

 

刺された僕の止血をしている心操くんが呟いた。

言われてよく見ると竜治の目は狂気に染まっている。

明らかに正気じゃない。

まさか個性が急に発現して暴走状態になっているのか?

 

「ひっ!? わ、悪かったぁ! もうドゥーベを狙わねぇし、こういうことしねぇから……だから許してぇ!!」

 

あまりの圧倒的な力。威圧感に加えてその異質の姿に敵が完全に怖気づい命乞いをしている。

もう……もう十分だ。だから止めろ。

それ以上は……!

竜治が剣を敵へと向ける。

 

――バキイィン!!

 

突如何かの力に吹っ飛ばされて竜治が倒れた。

 

「もう大丈夫だ。私が来た!!」

 

竜治を倒したのはまさかのオールマイトだった。

何故ここに? た、多分たまたまだと思うけど助かった。

オールマイトの攻撃をまともにくらって動けるハズないからこれで竜治は大丈夫だ。

 

「背中に怪我をしているな。すぐにヒーローが到着するから治療して貰うといい!」

「へ? ひゃ……はい」

 

いや、オールマイトそいつ敵なんですよ。

竜治の姿が姿だから狙われていた方を市民だと勘違いしてるな。

 

「グルルルル……」

 

しかしホッとしたのも束の間、まるで地鳴りのような唸り声が聞こえた。

竜治がゆっくりと起き上がった。

嘘だろ……。

顔の装甲に少し罅が入っているけどダメージになってないのか?

 

「随分と頑丈のようだな。というか……異形型の個性? え? 何この姿。見たことないけど」

「ガアアアアア!!」

 

竜治がオールマイトに剣を振るう。

やっぱり正気じゃない。

何だかんだいいつつ竜治はオールマイトを信用していた。

にも係わらずその攻撃に一切の迷いがない。

竜治の攻撃を避けたオールマイトが連撃を叩きこむ。

 

「効かないワケではないのだろう!? ならダメージを蓄積させればいいだけだ!!」

 

凄まじいスピードで動き竜治に反撃の隙を与えない。

あれだけオールマイトの攻撃を受けたらどんな敵でも体が持たないが、今の姿だと相当頑丈だ。

けどこのままじゃ……。

 

「や……止めてオールマイト! お兄ちゃんをきずつけないで!」

「何!?」

 

幸芽の声でオールマイトがこちらに気付いた。

一瞬気がそれたオールマイトに竜治が左腕の鋏で殴りかかる。

攻撃を受けたオールマイトだがすぐに体勢を立て直してこちらにやってきた。

 

「ドゥーベ無事か!?」

「かなり深く刺されて動けませんけど、重要な臓器は傷付いていないみたいなのでとりあえず……」

「そうか。それであれが竜治くん……なのか?」

「はい。この目で、姿が変わるところを見ま…した。あの魚人が竜治です」

「うん。お兄ちゃんがゆきめたちを守ってくれたの」

「だが竜治くんは個性を持っていなかっただろう?」

「多分ですけど急に発現したので宮瀬本人にも何が起こったのか分かっていないんじゃないかと。それで興奮状態になって個性が暴走しているんだと思います」

「その可能性が高そうだ。何にせよ早く止めなければならない」

 

個性の暴走は非常に危険だ。

体力を著しく消耗するから最悪命を落としてしまう。

早く止めないといけない。

それには幸芽の個性が必要だ。

 

「幸芽、お兄ちゃんを助けたいなら……個性を使って」

「え?」

「お兄ちゃんの体を麻痺させて動きを止めるんだ。そして皆で…お兄ちゃんに呼び掛ける。それで止まる……かもしれない」

 

【麻痺眼】は両目でかつ裸眼で5秒間見続けた相手の体を2分間麻痺させる個性。

聞くだけだと簡単だがかなりコツがいる。

一朝一夕で使えるものじゃない。

でも確実に動きを止めるには使うしかない。

 

「わ、わかった」

「大丈夫…。オールマイトもいるから、しっかりね。心操くんも頼む。一人でも多くの声が……必要だ」

「分かりました」

「オオオオオオオオ!!」

 

竜治がこちらに向かってくる。

あの姿でしかも暴走状態の竜治が迫ってくるのは幼い幸芽には相当恐ろしいだろう。

でも幸芽は自分がやるべきことだと理解している。

 

「【麻痺眼】!」

「!!??」

 

“個性”が発動し、竜治の体が麻痺した。

だけど完全に麻痺しておらず少しずつ動いている。

幸芽は個性を使う練習をして間もないから無理ない。

オールマイトが竜治の首を掴んで完全に動きを止める。

 

「竜治くん! もう敵はいない! だから止まるんだ! 竜治くん!!」

「宮瀬!!」

「竜、治……」

「グウウウウウウ!!」

 

正気に戻れ竜治。

でないと死んでしまう。

もっと大きな声で……傷が痛むがそんなことどうでもいい。

父として、絶対に竜治を止める!

 

「止まれ、竜治!!」

「お兄ちゃん!!」

 

 

「―――っ!!」

 

フッと竜治の目から狂気が消えた。

体の力が抜けて持っていた剣が地面に落ちる。

 

「……あ、れ?」

 

さっきまで唸るか、吼えるだけだった竜治の口から人の言葉が発せられる。

正気に戻った……か?

 

「よし、竜治くん私が分かるかな?」

「……え? オール、マイト」

「ああ、そうだ。もう大丈夫だね」

「…………」

 

正気に戻った竜治は茫然としている。

暴走状態の記憶はなさそうだけど良かった。

 

「あっ! と、父さんは?」

「傷は深いが出血はそこまでではない。すぐ私が病院へ運んで……おい竜治くん!?」

 

正気に戻った竜治がこちらへやってきた。

オールマイトの攻撃を受けているから所々内出血しているが割と平気そうに動いてるな。

 

「父さん……」

「大丈夫……だよ。動けないけど、心配するな」

 

本当は今思いっきり叫んだのもあってヤバいくらい痛いけど気力で耐える。

すると竜治が手をかざした。

その手からさっきとは違う文字や模様が描かれた複雑な陣が展開された。

今度は何を? と思ったけど痛みがなくなっていくことに気が付いた。

1分もしないうちに痛みは完全に消えた。

 

「え? え……ええ!?」

「ま、マジか!? 傷が治った!!」

「違和感あるか? 自分以外に治癒の術使ったことないから加減が分からなくて」

「い、いいや全然……嘘だろ? まさか治癒の個性まで」

 

治癒の個性はかなり珍しい。

しかもこの傷の治り方ならその中でも更に希少だ。

以前リカバリーガールに治して貰った時のように体力が減る感覚もないとか……一体どんな複合個性なんだ!?

 

「お待たせしました。後は私達に任せて下さい!」

 

傷が治ったのと同時にこの地区担当のヒーローがやってきた。

オールマイトの指示で瓦礫の下敷きになった人達の救助と敵の捕縛に取り掛かる。

しかし瓦礫の下敷きになったのに軽傷で、更に不思議な膜に守られている市民に驚いている。

 

「その守りは瓦礫と衝撃を弾くものだ。人間は弾かないから怖がらなくていい。後20分くらい効果は持つ」

「だ、そうだ。安心して作業を進めてくれ。あっ、彼は私の知り合いだ。怖がらなくていい」

「は、はい」

「あれも君の個性か? 凄いな。こんな個性見たことがない。もしかして今まで個性が発現しなかったのは体が耐えられなかったからかな?」

「…………」

「竜治くん?」

「違う。これは個性じゃな…………うぐっ!?」

 

何かを言いかけたが竜治だが突然苦しみ出した。

体を押さえてうずくまり、痛みに耐えているのか歯を食いしばる。

 

「竜治くんどうした!?」

「竜治!?」

「おい宮瀬!」

「お兄ちゃん!」

「あああああああああああ!!」

 

悲痛な声を上げながら竜治は人の姿に戻った。

その体にはオールマイトから受けた傷だけではなく何かで焼かれたような傷が出来ていた。

人の姿に戻った時裸だったから否が応でも見える。

心操くんが学ランを脱いで全裸の竜治に被せた。

 

「宮瀬とりあえずこれ着とけ。宮瀬を早く病院に!」

「誰か担架を。動くことが出来ないみたいだから」

「お兄ちゃんだいじょーぶ? お兄ちゃん!」

「……っ!!」

 

余程痛むのか竜治は言葉を発するどころか身動きすら取れていない。

強力な個性を使った反動か?

ならもっと早く症状が出ているハズだ。

とにかく今は病院だ。

痛みの原因を早く取り除いてやらないと!

 

 

 

 

 

 

敵襲撃から数時間が経った。

僕の傷は治癒が完璧だったからもう平気だし、竜治もまだ眠っているけど命に別状はない。

幸芽と心操くんはほぼ無傷だったし、建物の崩落に巻き込まれた人達も多少怪我をしているが命を落としたものはいない。

あれだけの被害だったのに死亡者がいなかったのはまさに奇跡。

それを成し遂げたのは間違いなく竜治だ。

しかし……。

 

「(本当にあの力は何なんだ? しかも検査結果によると竜治は無個性のままだそうだ。苦しむ直前確かに個性じゃないと言いかけてみたいだし)」

 

竜治が苦しみ出した原因も謎だし、あの焼かれたような傷も何故ついたのか分からない。

調べても分からない以上竜治に直接訊くしかないか。

 

「もう平気なのかドゥーベ」

 

うんうん考えているとオールマイトがやってきた。

どうやら事後処理を終えたらしい。

 

「少し貧血気味ではありますが竜治が治してくれたのでもう大丈夫です。それより助けて下さってありがとうございました」

「私は何もしていないよ。敵を戦闘不能にさせたのも市民を救ったのもドゥーベの傷を治したのもやったのは全部竜治くんだからね」

「ですが暴走状態に陥っていた竜治を止めるにはオールマイトの力がなければ不可能でした。本当に感謝しています」

 

オールマイトが来てくれていなければ竜治はどうなっていたのか分からない。

もしかしたら敵と認定されていたかもしれない。

またオールマイトに恩が出来ちゃったな。

 

「貴方竜治が目を覚ましたわ。あらオールマイトも。良ければオールマイトもどうぞ」

 

病室から志乃が顔を出し、竜治が目を覚ましたことを告げる。

オールマイトと一緒に病室へ入ると起き上がっている竜治がいた。

だがその目は刑の執行を待つ敵のように生気を感じないものだった。

暴走してしまったとはいえ大活躍だったのに何故そんな目をする?

嫌な予感がするな。

 

「お母さん。幸芽を別の場所に連れて行ってくれない?」

「分かったわ」

 

話の内容によってはまだ6歳の子供に聞かせられるようなものではないかもしれないからね。

志乃が幸芽を連れて一旦病室から出る。

幸芽を看護師に預けると戻ってきた。

ちなみに心操くんは親御さんが迎えに来たので今ここにはいない。

かなり竜治を心配していたから後で無事だと連絡してあげないと。

 

「竜治、個性が発現したんですってね。ちょっと怖かったけどカッコよかったって幸芽が言っていたわ」

「うん。かなり厳つい姿だったけどカッコよかったよ。一言で言い表すなら魚の亜人って姿だった」

「うむ。異形型にしても変形型にしても見たことがない姿だったな」

「そうなの。お母さんも見たいわ」

「…………」

 

僕達がそう言っても竜治の表情は冴えない。

むしろどんどん顔色が悪くなっていく。

早いうちに訊いたほうが良さそうだな。

 

「竜治。あの姿は個性ではないね。検査の結果、足の小指に関節が二つある。つまり無個性のままだと医師が言っていた」

「「え!?」」

「……!!」

 

竜治が驚いて僕の顔を見る。

やはり個性じゃないことは間違いなさそうだ。

 

「そして初めてあの力が発現したワケでもない。技の使い方、テクニック。体の動かし方も素人のものではなかった。僕から見てかなり戦い慣れているように感じた」

「…………」

「竜治。あの力は一体何なんだ? 怒らないから話してくれない?」

 

病室に冷たい空気が流れる。

誰も動けない。

その冷たい空気を破ったのはすっかり顔の青褪めた竜治だった。

 

「俺は……宮瀬竜治じゃ……ない」

 

震える唇でゆっくりと言葉を紡ぎ出す。

全てを諦めたような口調で竜治は衝撃的な事実を口にした。

 

「俺の本当の名前はレガレクスモン。こことは違う別の世界で《深海の覇者》と呼ばれ恐れられた海賊だ」

デジモン×僕のヒーローアカデミアのクロスオーバーです。

捏造だらけなので読む場合はご注意を。

最初はヒロアカの主要人物は出てこない展開が続きますが、なるべくサクッと雄英入学まで進めるように努めます。

ちなみに作者はヒロアカにわかです。

これのためにアニメ見たり色々調べてはいますけど違っているところがあったら教えてください。

オリキャラやオリジナル個性も出てきます。

キャラブレもあるかと思いますので合わないと思ったらそっとブラウザバックをお願いします。

 

ではOKという方は続きをどうぞ!

 

◆◇◆◇◆

ずっと何かが欲しかった。

 

でも何が欲しいのか自分では分からない。

 

だから少しでも欲しいと思ったものを片っ端から手に入れようとした。

 

ひたすら奪って、奪って、奪い尽くした。

 

それしか手に入れる方法を知らなかった。

 

俺の姿を見てまともに話を聞こうとする奴なんかいない。

 

邪魔するものは全部潰した。

 

けどどれだけ奪っても本当に欲しいものじゃないから満たされなかった。

 

満たされないからまた奪う。その繰り返し。

 

それがどれだけ虚しいことなのか気付かないまま……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここまでだなレガレクスモン」

 

目の前にネットワークセキュリティの守護者である【ロイヤルナイツ】がいる。

この世界の神イグドラシルの命令で俺を討伐しにやって来たのだ。

オメガモン、マグナモン、クレニアムモンと三日三晩戦い続けてついに俺は力尽きた。

大分長い間戦っていたが流石デジタルワールドの秩序を守る存在だ。

劣勢になるまでそこまで時間は掛からなかった。

全身は傷だらけ。右目も潰された。左腕と両足も折られ変な方向に曲がっている。

もう動けない。

 

「思っていたよりも手間取ったな。《深海の覇者》の異名に相応しい実力。正しく史上最悪の海賊だ」

「はい。コイツに壊滅させられた町や村は数知れず。しかも普段は深海にいるため浅瀬に出てくるまでは何処に現れるか分からない。本当に厄介なデジモンです」

「そのためこちらも相応の対策を講じなければならなかった。一度でも海に逃がしてしまえば追うことさえ難しいからな」

「…………」

 

いつかは来るだろうと準備はしていた。

俺は高度な魔術が使えるほどの魔力を持っていない。

だから魔力を蓄えられる特殊な宝玉(これも奪った超レア品)を体内に入れて高度な魔術を使えるようにしていた。

だがその宝玉に蓄えていた魔力は尽きた。

拠点としていた場所も逃げるために用意していた隠しルートも全部潰されている。

完全に俺の負けだな。

 

「何か最後に言いたいことはあるか? 聞くだけ聞いてやろう」

「……何も。殺すならさっさと殺せ」

 

本当は山ほどあるが、言ったところで負け惜しみにしかならない。

何をしても負け犬が吠えているように見えるだけ。

そんな無様な真似流石にしたくねぇ。

 

「ならば己が犯した罪を噛みしめ死ぬがいい」

 

オメガモンの剣が目前に迫る。

ああ……ここまでか。

あれだけ抵抗していたのすんなり自分の死を受け入れ目を閉じた。

 

――ピピピピッ

 

と、オメガモンがグレイソードを振り切る寸前通信音が響いた。

オメガモンは手を止め、その通信に応える。

 

「……どうした?」

『オメガモン、マグナモン、クレニアムモン今すぐそこから離れろ!!』

「は? なぜ急に」

『今そこに時空の歪みが発生したんだ! 早く離れないと歪の渦に巻き込まれる!!』

「!!!」

 

時空の歪み?

それは確か……。

 

――ゴゴゴゴゴゴ

 

思考を巡らせる前に地鳴りが響き雲行きが一気に悪くなる。

頭上にドス黒い渦が発生した。

 

「不味い! かなり大規模な時空の歪みだ! 全部隊速やかに撤退せよ!」

「周囲に生息しているデジモンにも避難命令を出します。オメガモン早くトドメを!」

「分かっている!」

 

オメガモンが止めていた剣を再び振るう前に時空の歪みにより空間が裂けた。

時空の歪みによって出来た亀裂。

そこを中心に強風が吹き、あらゆるものが裂け目に吸い込まれる。

 

「駄目だオメガモン! すぐに離れろ!! 裂け目に落ちれば我々でも命の保証がない!!」

「くそ!!」

 

オメガモンが急いでその場から離脱した。

しかし聖騎士との戦いで深手を負った俺は逃げることが出来ない。

何の抵抗も出来ず裂け目に吸い込まれた。

 

吸い込まれた先にあるもの。

 

それは時空の狭間。

 

時空の狭間は様々な世界が複雑に入り混じった特殊な場所。ここに落ちると何処の世界に飛ばされるか分からない。

しかし複雑に空間が入り混じっていて五体満足で世界を渡ることは不可能に近い。

体の一部だけ別の世界に流されるなんてことザラにある。

神でもなければこの空間ではまともに存在出来ない。

つまりここに落ちれば死んだも同然。

実際体がバラバラにされるような強烈な痛みが襲ってくる。

複雑に点在する異世界への裂け目に体が引っ張られているのだ。

痛い、痛い……痛い!!

嫌だ。死にたくない! 死にたくない!!

さっきは死を受け入れたハズなのに必死に抗う自分がいる。

何とか死を回避しようと、俺はたまたま見つけた比較的大きな時空の裂け目に体をねじり込ませた。

 

 

 

――ドボオォン!!

 

幸運なことに俺は五体満足で世界を渡ることが出来た。

落ちた場所は海。

しかし丁度大きな嵐が起こっているらしい。

荒れ狂う波が襲い掛かる。

いくら海のデジモンとはいえ右腕しか自由に動かせない俺では成す術がない。

海底にある岩に何度も体を叩きつけられ更にダメージを負ってしまった。

もっと最悪なことが世界の免疫システムに攻撃を受けていることだ。

異物を排除しようする世界そのものの力が更なる追い打ちをかける。

時空の狭間にいた時とは比べ物にならない痛みが襲う。

苦、し…い。

あまりの苦痛に意識が朦朧としてきた。

生きて世界を渡れたのにこの攻撃をなんとかしないと本当に死ぬ。

でも何をすれば……。

その時海底に沈んだこの世界に生息する生物が目に入った。

もう息絶えているのか生命活動を感じない。

でもまだ死して間もないようだ。

……そうだ。

この体に憑依すればもしかしたら助かるかもしれない。

少なくともこの世界の生物の体の中にいるうちは免疫システムの攻撃は受けないハズ。

薄れゆく意識の中、俺は死んだばかりの魂のない肉体に手を伸ばしその体に乗り移った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――……ごめん。

 

――お母さん、お父さん。

 

――ひどいこと言ってごめんなさい。

 

――大好きだよ。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「……っ」

 

どのくらい意識を失っていたのだろう。ふっと意識が浮上した。

ここ……何処だ? 妙に暖かい。

視線の先には白い天井が見える。

ということは建物の中なのか?

俺は……どうなった?

状況を確かめようと体を動かそうとしたのだが、動かした瞬間猛烈な激痛に襲われた。

あまりの痛みに思わず顔が歪む。

 

「竜治!!」

 

と、横から何やら声が聞こえた。

声が聞こえた方へ視線を向ける前に声を発した何かが俺の手を握った。

 

「ああ……良かった。目が覚めたのね。1ヶ月も眠ったままだったからお母さん本当に心配で……」

「……?」

 

それは人間だった。

デジタルワールドでは御伽噺の中でしか存在しない種族。

一応異世界で実在していると奪った本から知っている。

それが今目の前にいるということはここは異世界なのか?

……あ、そうだ。

俺は【ロイヤルナイツ】に殺される直前で時空の裂け目に落ちて死にかけの体で世界を渡ったんだった。

それで……確か……。

 

「竜治大丈夫? 今お医者様呼ぶから何処が悪いか」

「う、るさい……。誰だてめぇは……話かける、な」

「え!?」

 

必死に思い出そうとしてるんだから話しかけんなよ。

てか気安く俺の体に触るな。

 

「竜治……お母さんが分からないの?」

「知ら、ねぇよ。ベタベタ……触るな、うっとおしい」

「!!」

 

なんかショック受けてるみてぇだけど知らないものは知らない。

えっとそれで……おっ、そうそう。五体満足で世界を渡れたはいいけど世界の免疫システムの攻撃を受けてそれを回避しようとして死んだばかりの生物の体に憑依したんだった。

ん? あの時はそんなこと確認している余裕なかったけど憑依した生物……人間だったな。

ということは……。

俺は辛うじて動かせる顔を動かして自分の手を見た。

それは間違いなく人間のものだった。

うわぁ……今の俺人間なのかよ。

魂のない空っぽの肉体だったから意識は俺だけど、そうじゃなかったら発狂してそうな状況だ。

しかもこの体から抜け出すことは現状不可能。

どうやらこの体と完全に一体化しているらしい。

多分……死にかけの体だったからだ。

世界の免疫システムの攻撃を受けたのもあってデータ損傷が激しかった。

それを回復させるには憑依状態じゃ無理だったから無意識のうちに一体化したんだろう。

けど傷が治りきっていないからデジモンの姿には当分なれそうもないな。

その証拠に体の節々が痛い。

特に折られた左腕と両足は少し動かしただけで激痛が走る。

【ロイヤルナイツ】に潰された右目は完全に失明しているようで右側が全く見えない。

だから今の俺はデジモンの力を全く使えない。本当に人間と同じ。恐ろしいほどの弱体化。

えー……生きるためには仕方なかったとはいえどうすればいいんだこれ。

 

「どうしたんだ志乃。竜治は起きたのか?」

 

これからどうしようと考えていたらもう一人人間がやってきた。

随分がっちりした体形だな。

かなり鍛えているのが分かる。

 

「魁どうしよう。竜治……私のことが分からないみたいなの」

「は!?」

 

いつの間にか泣いていた人間の言葉に驚いている。

そいつは俺に近付くと

 

「竜治僕のこと分かる?」

 

そう訊いてきた。

 

「知らねぇ。てかりゅうじって誰だ? 俺は……」

 

おっと、デジモンの名前言ったらヤバいか。

うっかり言いそうになったぜ。

けど状況から察するに“りゅうじ”ってのがこの体の名前みたいだな。

 

「記憶が、ないのか? 仮死状態が長かったせいか? とりあえずドクターに診察して貰おう。詳しくはそれからだ」

 

それから何人かやってきた。

色々質問されているが、この世界のことを知るために記憶がないフリをしたほうが都合が良さそうだ。

 

「君の名前は宮瀬竜治。■■県に住む5歳の男の子だ」

 

5歳!? デジモンならまだ成長期の年齢だぞ!?

言われてみればこの体は随分小さい。

嘘だろ!? 正確な年齢は分からないが少なくとも100年以上生きている俺がガキの体になってるのか!?

ちょっと現実逃避したい!

 

「そしてここにいる二人は君の両親だよ。覚えているかな?」

「いいや」

「…………」

「そうか。実は1ヶ月前に大きな嵐があってね。君達家族は避難所に避難していたんだけど、そこで君は両親とちょっと口論してしまって、君は外に飛び出してしまったんだ。でも飛び出した先で鉄砲水に飲まれてね。そのまま海に流されて数時間後に仮死状態で発見されたんだ。それから今日までずっと意識不明の状態だった。記憶にあるかな?」

「全然」

「そうか。じゃあちょっとこれを持ってもらえるかな?」

 

渡されたのは細い何か。

何だこれ?

 

「使い方分かる?」

「いいや」

「それはボールペンと言ってそれで文字が書けるんだ。ここを押すと芯が出る。何か書いてみてくれるかい?」

 

言われた通りの場所を押すと確かに芯が出た。

見た感じこれで字が書けるとは思えねぇがとりあえず適当に書いてみるか。

一瞬デジ文字を書こうと思ったが、見える文字から明らかに言語が違うと分かる。

全然読めねぇ……。

とりあえず円をぐるりと書こう。

わぁ……どういう仕組みか知らねぇけど本当に書けた。

 

「使い方も持ち方も分からないか。これは読める?」

「全く」

「簡単な文字も読めない。これまで培ってきた知識や経験もなくなっているみたいです。記憶喪失の中でもかなり重篤とみていいでしょう」

「そ、んな……」

 

まぁ間違いではない。

なんたってこの世界のことを何一つ知らないんだから。

……ヤバいな。

どのくらいこの世界にいなきゃいけないのか分からないのに前途多難すぎるだろ。

というか元の世界に戻れるのか?

幸いなことに魔力を蓄えられる宝玉は体内に残っているから力が完全に復活したら宝玉に魔力を蓄えて転移術を使えばなんとかなりそうな気もするが、それがいつになるのか全く見当がつかない。

俺結構難易度ハードなことになってない?

 

「記憶が戻る可能性はありますか?」

「今のところはなんとも言えません。仮死状態が長かったことが原因なら一生戻らないことも十分考えられます」

「そうですか。なら最初から始めた方が良さそうだな」

 

医者らしい人間の隣にいた男が膝をつきベッドで未だ横たわる俺と目線を合わせる姿勢になった。

何する気だ?

 

「初めまして。僕は宮瀬魁。両目で捉えた相手の体を麻痺させる【麻痺眼】の個性を持つ元ヒーローで君のお父さんだ。よろしくね」

「……は?」

 

警戒していたが始めたのは自己紹介だった。

あっけにとられたが、“個性”という単語が気になった。

 

「個性……? 何だそれ?」

「あ、そこからか。個性っていうのはこの世界に住む人間のおよそ8割が持っている超能力のことだよ。でも竜治は無個性なんだ。あの日喧嘩した理由もそれなんだ。元ヒーローなのにすぐ助けに行けなくてごめんね」

 

何だ。

ほとんどの人間が持っていると聞いて少し期待したがないのか。

しかしヒーロー?

そんなもの近くにいるのか?

 

「ヒーロー?」

「ヒーローっていうのは個性を使って悪いことをするヴィランをやっつけたり、災害から市民を守る人達のことだ。僕が元ヒーローだったから竜治もなりたいって言ってたんだけど竜治は無個性だったから……」

 

要するに天使族みたいな奴らということか。

天使族とは何度か戦ったことがあるが大したことなかったな。

悪だの正義だの口にするくせに手応えのない奴らだった。

まぁ天使族が本領を発揮するのは闇の種族と戦う時だから闇の種族ではない俺との戦闘じゃ弱いのは当たり前だけど。

そして元この体の持ち主はそのヒーローを目指していたと?

今の俺にとっては至極くだらんものだな。

 

「ほら志乃も」

「え、ええ……。私は宮瀬志乃、貴方のお母さんよ。手に持ったものの重さが分かる【計量】の個性を持っているからそれで料理教室の先生をしているわ」

 

あのー……おとうさん、おかあさんと説明されてもそれが分からねぇんだけど。

何なんだそれは。

聞いたことのない種族にくらいしか思えん。

 

「おとうさんとかおかあさんって何だ?」

「…………」

 

本当に分からなくて素直に訊くことにした。

何か頭に攻撃食らったみたいな顔しているが分からないものは分からない。

 

「君の生みの親、育ての親だよ。記憶がないから分からないと思うけど今までずっと君と暮らしてきた家族だ」

 

硬直している二人に代わって医者が返答した。

折角説明してくれたところ悪いんだがデジモンに親とか家族の概念がないから理解が出来ない。

【命の花園】という場所に生える花に実るデジタマから生まれるから親なんかいないし、生まれて間もないデジモンの世話をする存在はいるがただそれだけで親しい関係でもない。

「だから何?」というのが率直な感想だ。

 

「記憶がないから本当に最初からだな。竜治にお父さんだと思って貰えるように頑張るから、これからゆっくり家族になろう」

 

そういうと宮瀬魁が俺の頭を撫でた。

……気持ち悪い。

そう感じ、俺はその手を思いっきり振り払った。

元々体に触れられるのが嫌いだ。

初対面の奴に触られるなんざ正に論外。

 

「嫌だった? まぁ今の竜治にとっては僕は赤の他人だから無理ないか。ごめんね」

「…………」

 

しかしベッドから起き上がることさえ出来ない今の俺は誰かの世話にならなければ生きていけない。

だからどんなに納得出来なくてもこいつ等の保護下に入るしかない。

 

「……いや」

 

諦めて世話になるか。

どうせ力が完全復活するまでの間我慢すればいいだけだしな。

こうして何の因果か俺は人間として生きることになった。

 

◆◇◆◇◆

 

目が覚めてから1週間ほど経ってようやく俺は立ち上がれるくらいに回復した。

まだ痛みはあるが、これくらいなら我慢出来る。

しかし1ヶ月も眠っていたせいで筋力がバカみたい落ちていて支えがないと満足に歩けない。

今は筋力を回復させるためにリハビリをしている。

はぁーうざ。

デジモンの体なら1ヶ月寝てても体が鈍るくらいで筋力が落ちたりしないのに。

 

「少し休憩しよう。焦っても体がついていかないから」

「…………」

 

そう言われ仕方なく医者の指示通り椅子に座る。

その時右側が見えないせいでバランスを崩した。

近くにいた宮瀬志乃が慌てて手を差し出す。

 

「竜治大丈夫?」

「あ、ああ……」

 

くっそ! まだ右目が見えないことに慣れねぇ!

気配も満足に探れないから物によくぶつかってしまう。

慣れて気配が探れるようになればハンデでも何でもないのに。

 

「……先生。この子の右目診て貰えませんか? もしかしたら見えていないかも」

「え?」

「!!!」

 

は!? な、何で分かったんだ??

バレないようにしていたのに俺そんな分かりやすかったか??

 

「あ、ごめんね。お父さん1年位前に左半身に大怪我していてね。その時に左目を痛めているの。怪我は治ったんだけど視力が凄く落ちちゃってね。慣れていない頃は左側があまり見えないせいで物にぶつかったり、バランスを崩して転んだりしていたわ。それによく似てたからそうかもって思ったの」

 

なるほど。経験談か。

それならバレても仕方ないか。

結局右目が失明していることが知られた。

しかも医学的には異常がなくて何故失明しているのか分からないらしい。

俺も「【ロイヤルナイツ】に右目を潰されたから」なんて言えるワケもなく、原因不明と診断されることになった。

宮瀬志乃は治せる方法がないか何度も訊いていたが無理だろうな。潰されたよりは抉られたに近かったから。

医者にも宮瀬志乃にも謝られたが、慣れさえすれば右目が見えなくても支障がない俺は何故謝られているのか分からなかった。

 

 

 

それから更に数日後。

リハビリ以外特にやることがないので共用スペースでテレビとやらを見ていた。

こういうのデジタルワールドになかったから新鮮だなぁ。

手っ取り早く文字を覚えるために字幕付きでテレビを見ていると

 

「私が来た!!」

 

異様に大きな声で明らかに場違いな男がやってきた。

他のガキが「オールマイトだー!」と言って駆け寄る。

オールマイト?

あーさっきテレビで出ていたNo.1ヒーローか。

何でこんなところにいるんだ?

 

「久しいね竜治くん! 無事意識が戻ったみたいで安心したよ!」

「え?」

 

いつの間にか目の前にそのオールマイトが来ていた。

体デカ……。本来の姿なら俺の方がデカいが、子供の体である今は異様にデカく感じる。

てか名前呼んでるってことは顔見知りなのか?

 

「あ、あれ!? 前は凄く喜んでいたのに無反応!?」

 

そりゃ別人ならぬ別デジモンなんで。

しかしどうするかこの状況。

他のガキが見てるしNo.1ヒーローを適当にあしらうと面倒なことになりそうだ。

どうしようか悩んでいると飲み物を取りに行っていた宮瀬志乃が急いで戻ってきた。

 

「お久しぶりですオールマイト」

「一等星ドゥーベの奥さん久しぶり!」

「もう夫はヒーローではないのでその呼び方は止めて下さい。それよりも息子が申し訳ありません。意識が戻ったはいいですがそれまでの記憶を全て失くしてしまっていて……」

「なんと!!」

 

どうやら二人も顔見知りらしい。

宮瀬魁が元ヒーローだからそれでか?

 

「竜治、彼はオールマイト。お父さんが現役の時に何度か組んで戦ったことがあるの。記憶を失くす前の竜治も会ったことがあるわ。海に沈んでいた竜治を見つけてくれたのもオールマイトなのよ。本当にありがとうございます。あの時は直接お礼が言えなくてすみませんでした」

「何、ヒーローとして当然のことをしたまで!」

 

恥ずかし気もなく堂々を言うオールマイト。

凄いな。天使族だってここまで自信満々に言わないぞ。

…………。

今一瞬何か変な考えが頭に浮かんだような……。

 

「記憶がないというのは想像を絶するほどに大変だろう。だが大丈夫! 君のお父さんはヒーローの中でも上位に入る実力者だった。引退したとはいえ身体能力の高さは健在。必ず君を守ってくれる! 安心するといい!」

「は?」

 

守る? 俺をか?

その言葉にポカンとしているうちに頭をポンポンと撫でられた。

普段なら「気安く触るな!」と怒鳴っていたと思うが、オールマイトの言葉と行動に硬直していて動けない。

動けない間にオールマイトは他のガキのところへ行ってしまった。

 

「相変わらず忙しい方ね。今日はたまたまこの近くに来ていて貴方が目覚めたことを聞いて病院に来て下さったんですって。記憶を失くす前の竜治なら嬉しすぎて倒れてそうだわ」

「…………」

 

確かに普通の子供なら興奮するだろうな。

俺は中身100歳超えのデジモンだから欠片もそうならないが。

あれが平和の象徴か。

【ロイヤルナイツ】や天使族とは全然印象が違うな。

……うん?

また変な考えが浮かんだような……。

 

「さぁリハビリの時間よ。早く行きましょう」

 

宮瀬志乃に言われ俺は共用スペースを後にした。

本当になんだ?

何を考えたのかすぐ忘れているのに凄く気になる。

もう一度オールマイトと話したら分かったりするのかな?

らしからぬことをつい考えてしまった。

◆◇◆◇◆

異世界で目を覚まして1ヶ月ほど経った頃、ようやく病院を退院することが出来た。

よし。痛みは消えたし、右目が見えないことにも慣れた。

普通に生活することは問題なく出来る。

ただデジモンの力はほとんど回復していない。

精々気配が少し探れるようになったくらいだ。

思っていたより回復が遅くて正直絶望している。

あまりにも遅いので力が完全復活するのが何年後になるのか全く分からい。

嘘だろ……。

いつまで人間のフリしてなきゃいけないんだよ。

もう疲れ切ってるんだけど……。

 

「2ヶ月振りの幼稚園だけど、先生達もサポートしてくれるって言ってから大丈夫よ。お友達も待ってるからいってらっしゃい」

 

そして俺は幼稚園とかいうガキが沢山いるところに行かないといけないらしい。

病院にいた時でさえガキが目に映るのは寒気するくらい嫌だったのに半日そこにいろと?

俺に死ねって言ってるのか?

 

「……本当に行かないと駄目か?」

「僕も志乃も仕事があるから家にいられないんだ。右目が見えない竜治を一人家に置いておくことは出来ないよ」

 

むしろ一人のほうが楽だからそうしてくれよ。

今までずっと一人だったんだから。

 

「でも幼稚園なら常に大人の目があるから何かあってもすぐに対処出来る。初めてだから不安だと思うけど事情は話してあるから皆竜治を守ってくれるよ。そんな顔しなくても大丈夫」

 

不安で顔が歪んでるんじゃなくて嫌で顔が歪んでるんだよ。

ああ……本当に嫌だ。

何で《深海の覇者》と呼ばれ恐れられた俺がそんなとこ行かないとなんだ。

信じられないくらいの屈辱感で頭がおかしくなりそうだ。

……それに……何でかは知らねぇけど行きたくない。

何だろうこれ。

まるで体が行くのを拒んでいるような……。

 

「じゃあ送ってくるわ。魁も気を付けてね」

「うん。いってらっしゃい」

「…………」

 

仕方なく車に乗って幼稚園に行く。

この乗り物にはビックリした。

早く走れたり、飛んだり出来ないからこういう乗り物を考えられるんだろうな。

デジタルワールドよりも文明が進んでいるからそれを知られるのは嬉しい。

 

「では竜治をお願いします」

「分かりました」

 

あっという間に幼稚園に到着。

センセイとやらが俺の手を掴もうとするのを払い除ける。

だから何ですぐそう触ろうとするんだよ。

 

「……すみません。記憶がないせいで警戒心が凄く強くなってて私達もまだ……」

「無理ないですよ。竜治くんからすれば誰を信用していいか分からない状況ですから。大丈夫。前の竜治くんの友達にも事情を話してあるから皆良くしてくれるよ」

 

別に良くしてくれなくていいからほっとけ。

とは言えるはずもなく渋々頷く。

 

「行ってくるわね竜治。夕方には迎えに来るから」

 

そう言って宮瀬志乃は仕事に向かった。

脱走しようかとも思ったが、思ったより塀が高くて無理そうだ。

 

「あ! むこせーがいるぞ!」

「ほんとうだ。むこせーのくせにオールマイトに会ったことがあるのマジなまいきだよな」

「むこせーいなくてさいこーの気分だったのになんでいるんだよ。はやくかえれよ」

 

そして幼稚園に入ってすぐ行きたくないと感じていた理由が分かった。

どうやら個性社会において無個性は虐げられる存在らしい。

センセイがいなくなった途端これだ。

そりゃ行きたくねぇよな。

会うガキ全員から罵声を浴びせられるんだから。

多分虐められていたのを体が覚えているんだろう。

記憶はデジコア……人間でいう脳の部分だけじゃなく体にも記憶されると本で読んだことがある。

しかし何も知らない俺が行きたくないと感じるとか相当だな。

 

「きいたぞ。まえのきおくないんだってな。じゃあもう一度おしえてやるよ。むこせーはこせー持ちには何にもできないって」

「そうだな。まえはむこせーでもがんばればヒーローになれるとかわけわかんねぇこと言ってたんだ。ぜったいに無理なのにバカだよな」

 

ニヤニヤと笑うガキ共。

けどここには俺の他にも無個性がいる。

そいつもからかわれているけどここまでじゃない。

これは父親の宮瀬魁が元ヒーローなのが関係ありそうだな。

聞いた話だと結構有名なヒーローで、その子供である宮瀬竜治は優秀な個性を持つだろうとかなり期待されていたそうだ。

だから無個性だと分かった時周りの人間は酷く落胆したらしい。

無個性だと分かる前なんか言ってたのか?

一体化する前の記憶は残ってないから断言出来ねぇけど。

まぁほっとくに限るか。

イラつくがまだ年相応の身体能力しかないこいつ等に何か出来るとは思えねぇ。

個性も発現して日が浅いから使いこなせているワケねぇしな。

ということで無視してこっそり持ち込んだ本を読む。

大分文字が読めるようになったから宮瀬魁の部屋に忍び込んで難しめの本を持ってきていた。

本を読むのは好きだ。知識が増えることが楽しい。

俺が無視したことが気に入らないのかガキがまたやってきたけど、適当に巻いてまた本を読む。

一応センセイがいると何も言ってこないからそういう時は大人しくガキのフリを続行した。

怪しまれないようそう過ごしていたのだが

 

――ガツンッ!

 

「っ!?」

 

2週間経った頃、教室に入った瞬間右のこめかみに痛みが走った。

何かと思ったら毎日のように俺を虐めていたあのガキが石を投げたきたのだ。

切れたようでツゥーと血が流れる。

 

「ほら、狙い通りだ! おれのこせーは百発百中なんだぜ!」

「すげー! ほんとうにピンポイントに当たった!」

「あはははは! 見ろあれ! むこせーだから何も出来ずにつったってやんの!」

「…………」

 

馬鹿なのかこいつ等。

何故俺が今まで何もしなかったのか分からないようだな。

危機感のないガキが……。

 

「次はどこにあてようかな? リクエスト聞くぞ」

「じゃあドゥーベにそっくりのはなで!」

「いいぜ! まかせ……っ!?」

 

調子に乗っていたガキ共だが、俺が放つ殺気にようやく気づいたらしい。

顔がみるみるうちに青褪めてきた。

先に攻撃してきたのはお前等だ。

なら反撃される覚悟もあるんだろ?

その身をもって実力の差を思い知れ。

◆◇◆◇◆

≪宮瀬魁視点≫

幼稚園から連絡を受け、仕事場から急ぎ向かう。

記憶を失ってから竜治は異常なくらい警戒心が強くなった。

前は無邪気で誰とでも仲良くなれる子だったのに今は見る影もない。

でも攻撃的になることはなかった。

だから竜治がしたことが信じられない。

 

「竜治!」

 

幼稚園に着き竜治がいる教室へ入るとそこには右のこめかみにガーゼを貼られ、両手に包帯を巻いた竜治がいた。

先に着いていた志乃が泣きながら他の児童の親に謝っている。

どうしてこんなことに……。

 

「信じられない! 記憶を失っているとはいえ前はこんなことする子じゃなかったでしょ!」

「も、申し訳ありません」

「謝って済む話じゃないわ! まさか両腕の骨を折っちゃうなんて……これでうちの子が個性を使えなくなったらどうするのよ!!」

 

なんと竜治……同じ組の児童数人と喧嘩をして大怪我を負わせた。

そのうちの一人は両腕の骨を折る重傷。

他の子も歯が折れたり、鼓膜が破れたりしている。

あまりに凄惨な現場に幼稚園の先生も目を疑ったそうだ。

 

「竜治どうしてこんなことしたんだ? 竜治は覚えていないだろうけど前はよく遊んでた友達なのに」

「はっ、あれが友? 弱所へいきなり石を投げつける奴がそんな御大層なもののわけねぇだろ。頭おかしいんじゃねぇか?」

「は?」

 

竜治は右のこめかみを指差した。

両手の傷は児童を殴った時のものだそうだけど頭の傷は違うと。

そうだとすると失明している右目を狙ったのか。

いくら子供でも許されることではない。

 

「うちの子がそんなことするわけないじゃない! 正義感が強いお利口さんなのよ!」

「ならお前の目は腐っているな。俺が無個性だからと毎日のように罵声を浴びせていた無知なガキだぞ。俺が本気を出した途端震えあがる様は見てて爽快だったな」

 

くすくすと不気味に笑う竜治。

まさかそんな……竜治からそんな話一切聞いたことがない。

でも今回の件を受け、他の児童から話を聞いた先生によると竜治が罵声を浴びせられていたのは事実で記憶を失う前も後も竜治はじっと耐えていたそうだ。

無個性だと判明してからだとすると1年も前からずっと?

それを聞いた他の保護者も「うちの子が……」と絶句していた。

 

「いくら何でもやりすぎよ。骨が折れるまで攻撃するなんて……いえ、どんな理由があっても他の人に暴力を振るっちゃ駄目なの!」

「何故だ? やられたからやり返して何が悪い。随分と甘い考えだな」

 

そう言うと竜治は教室の外へ向かって歩き出した。

志乃が「待ちなさい!」と声を掛けても無視して扉に手を掛ける。

 

「竜治まだ話は終わってない! 戻りなさい!」

「あ? 話たってあのガキ共に謝れって言うだけだろ。ここまで我慢してやったんだからむしろ褒めて欲しいものだぜ。あんな弱い奴等いつでも潰せたんだからな」

 

その目は誰も信用していない。自分の周りにいるものは全部敵だと思っていると感じられるものだった。

いくら凶悪なヴィランでもこんな目はしないぞ。

まだ5歳の子供がしていいものじゃない。

それほど苛めが酷いものだったということか?

 

「竜治戻りなさいって言ってるでしょ! 貴方に聞かないといけないことがあるんだから!」

「しつけぇな。俺のことなんかどうでもいいだろ。どうせ」

「どうでもいいわけないでしょ!!」

「!?」

 

竜治が何か言い切る前に志乃が大きな声で言い放った。

空気が震えるような声だったからその場にいた全員が驚いて立ち尽くす。

 

「貴方は私の息子なのよ。記憶がなくてもそれは変わらない。私はいつでも貴方の味方よ。だから何が苦しくて悲しいのか、どうして怒っているのか言って。言ってくれないと私は貴方を守れない……」

 

涙ぐみながら必死に訴える志乃。

竜治は記憶を失ってから簡単な受け答えはしてくれるけどほとんど話さない。

だから右目が失明していることに気付くのが遅れてしまった。

何か言えない事情があるにしても、言ってくれないと僕達は竜治のために動くことが出来ない。

 

「俺に親なんかいねぇ」

 

しかし志乃の言葉を聞いた竜治は酷く冷たい声でそう答えた。

 

「それに味方だって? そんなの俺にいるワケねぇだろ。ずっと俺のこと見捨ててきたくせに……助けてって言っても誰も助けてくれなかったくせに!! 今更そんなこと言われたって信じられるか!!」

 

最後は興奮気味に言い放ち出て行った。

すぐ追いかけたのにあっという間に姿が見えなくなった。

竜治あんなに足が速かったか?

 

「すまない。見失ってしまった」

「…………」

「すぐに見つけ出すから待ってて。先生申し訳ないですけど後を頼みます」

 

すっかり泣き崩れた志乃を慰めてから僕は竜治の捜索を再開する。

子供の足だからそこまで遠くには行っていないと思うけど、喧嘩していた竜治の動きがまるでベテランヒーローのように機敏だったと聞いているから僕が予想付かない場所に行っていてもおかしくない。

……昔の仕事仲間の手を借りるか。

 

「お忙しいところすみません。頼みたいことがあるんですけど」

 

これから雨が降る予報だ。

一分一秒でも早く見つけ出さないといけない。

もうあんな思いは二度とごめんだ。

◆◇◆◇◆◇◆

ああ……イライラする。

やられたからやり返しただけであんな騒ぎになるとか人間のルール面倒くさすぎるだろ。

しかも……

 

「いってぇ……」

 

思っていた以上に体が脆い。

本気で殴ったら簡単に手の皮膚が裂けた。

つい本来の姿のつもりで動いたらいたるところの筋肉が切れて正直立っているのもしんどい。

まぁこれは人間のフリをしていたせいでもあるんだけど、それにしたって貧弱だ。

嫌になる。早く力戻れよ。

そしたら人間なんか簡単に潰せるのに。

そんなことを考えているうちに海岸までやってきていた。

大分離れたところまで来たな。

ここまで来れば誰も追って来られないだろ。

俺は堤防に座って休むことにした。

久し振りに海を見たな。

今の状態だと海に入れないのが残念だ。

 

「それにしても何であんなこと言ったんだろ?」

 

見捨てられた覚えも、誰かに助けてなんて言った覚えもない。

なのに気が付いたらそう叫んでいた。

でもああ言ったってことは俺ずっと昔に助けを求めたことがあるのか?

気になって記憶を探るとあること気が付いた。

あれ? 俺……

 

 

究極体に進化する前の記憶がない?

 

 

そんなことあるはずない。

俺はちゃんと進化して……え?

俺進化前どんなデジモンだったっけ?

どのデジモンから進化した?

何処で生まれて何処で過ごした?

……駄目だ。

どれだけ記憶を探っても結論は同じ。

俺は究極体に進化する前のことを一切覚えていない。

何で覚えていないんだ?

一番古い記憶もかなりあやふやだ。

まるで靄がかかっているように上手く思い出せない。

 

「な、何だよこれ……。何で今まで疑問に思わなかったんだ?」

 

どう考えてもおかしい。

ただ唯一ハッキリしているのは何かを欲しがっていたこと。

でも何が欲しかったのかが分からない。

分からないから欲しいと思ったものを片っ端から手に入れようとし始めた。

けど俺の姿を見ると他のデジモンは怖がって逃げ出すか攻撃してくるから無理矢理奪うしかなくて、それがいつの間にか当たり前になった。

欲しくて手に入れたのに、本当に欲しいものじゃないからどれだけ奪っても満足出来なかった。

海や沿岸部にある価値があるものや貴重な品、食料は全部奪い尽くした。

なのに未だ満足出来ていない。

俺は……何が欲しかったんだろう?

俺は何なんだ?

どうしてこの姿に進化した?

この姿に進化する前何をしていた?

その問いに答えてくれる人は誰もいない。

 

「ははは……自分のことさえ何も分からないとか終わってるな」

 

記憶を掘り起こしたことで生まれた疑問。

その疑問から俺は自分が中身のない空っぽな存在だと気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――ザアアアアアア……

 

どれくらいそこにいたのか。いつの間にか雨が降っていた。

季節が冬に近いため冷たい雨が体を濡らす。

人間の貧弱な体だからこのままこうしていたら低体温で死ぬかな?

でも……いいや。

俺が死んでも誰も何も思わない。

むしろ喜ぶだろうな。

【ロイヤルナイツ】に攻撃されて動けなくなった時、周囲にいたデジモンも「やっと《深海の覇者》が倒れたぞ!」って歓声を上げていたし。

……あっ、そうだった。

デジタルワールドに帰ることが出来たところで俺【ロイヤルナイツ】に殺されるだけなんだよな。

今頃思い出すとか……やっぱりここで死んだ方がいいかもしれない。

そしたら少なくとも戦って痛い思いしなくて済む。

よく分かんねぇけど戦いたくないんだよな。

何だか、凄く……疲れた。

 

「風邪を引くよ。家に帰ろう」

 

このまま何もせず死を受け入れようとしてたら聞いたことのある声が後ろから聞こえた。

振り向くとNo.1ヒーローのオールマイトがそこにいた。

 

「酷い顔色だね。手の傷も塞がってないから血が滲んでいるじゃないか。先に病院かな」

「な、んで……」

「君のお父さんからの依頼で君を捜していたんだ。随分遠くまで来たんだね。幼稚園から3kmは離れているのに本当に子供の行動は予想が難しい」

 

「私は偶然その依頼を耳にしただけなんだけどね」と笑うオールマイト。

何のために俺を捜していたんだ?

まぁ、心当たりなんて1つしかないけど。

 

「帰らねぇぞ。どうせ説教するために捜してたんだろ」

 

騒ぎが治まっていないのに飛び出したからな。

俺が言ったことなんて誰も信じてないだろ。

 

「違うよ。お父さんもお母さんも君が心配なんだ。ましてや今日は雨だ。あの嵐の日のことを思い出して今頃生きた心地がしてないと思うな」

 

またオールマイトの口から俺には全く縁がない言葉が飛び出した。

 

「俺の心配なんかする奴いるかよ。こんな面倒なガキいなくなったほうが生々するだろ」

「それは絶対にあり得ない。竜治くんは2人が欲しくて欲しくて、そしてやっと生まれてきた子供(たからもの)なんだから」

「は?」

 

宝物? 俺が?

意味が分からなくて首を傾げた。

 

「ドゥーベはヒーローになってすぐ幼馴染のお母さんと結婚したんだけど中々子宝に恵まれなくてね。6年経ってようやく授かったのが君なんだ。余程嬉しかったみたいで毎日のように皆に自慢していたよ」

「…………」

「記憶を失って君は変わった。異常に警戒心が強くなって誰も寄せ付けなくなり、両親に甘えることもなくなった。でもそれは自然なことだ。君からしたら誰を信じればいいか分からない状況だからね。けど二人のことは信じてあげてくれないかな? 君は覚えていなくても二人にとっては大事な大事な一人息子なんだから」

 

確かにあの二人が俺に危害を加えたことはない。

むしろとても良くしてくれていた。

俺がどんなに素っ気ない態度を取っても「ごめんね」と言うだけで怒ったこともない。

怒ったのは俺が出て行こうとしたあの時だけ。

でも……。

 

「……くな」

「竜治君?」

「嘘付くな! 俺が大事だなんて思う奴いるか!!」

 

いない。そんな奴絶対に。

今まで俺を異物のように見る奴しかいなかったのに信じられるか!!

 

「いるよ。ほら来た」

「は?」

「「竜治!!」」

 

オールマイトの後ろに車が止まって、その車から宮瀬魁と宮瀬志乃が降りてきた。

一直線に俺に駆け寄るとその勢いのまま二人は俺に抱き着いた。

 

「ああ……良かった。オールマイトまた見つけて下さってありがとうございます」

「いえいえ、見つけられて良かったよ」

「本当にありがとうございます。竜治ごめんね。ずっと虐められて辛かっただろう」

「…………」

 

何も言えなかった。動けなかった。

その気になれば振り解くことも出来たのに出来なかった。

二人から抱き締められたのは初めてだ。

触られるのが嫌いだからいつもなら気持ち悪いと思うだろう。

なのに……。

 

「(何でこんなに安心するんだ?)」

 

この温もりに覚えがある。

知らないハズなのに知っている。

これは……幼稚園に行きたくないと思ったのと一緒だ。

体が覚えている。

この二人が俺の両親で自分を守ってくれる存在だと……。

 

「体が冷え切ってるじゃないの。ほらお母さんのコート着て。早く家に帰りましょう」

「か、える……?」

「そう。幼稚園のほうは気にしなくていいから家に帰ろう。あ、でも包帯を巻き直したほうがいいから病院にも行かないと」

 

動かない俺をひょいっと抱き上げて宮瀬魁が車まで運ぶ。

この抱き方も体が覚えている。

温かくて安心する。してしまう。

 

「…おれ、かえって…いいの、か? おれは…もうあんたたちが知ってるおれじゃ……」

「当たり前だろ。竜治の帰る場所なんだから」

「言ったでしょ。記憶がなくても貴方は私達の息子だって。だからいいのよ」

 

そっか、帰っていいんだ。

帰る場所もなかった俺にそう、言ってくれるん、だ……。

ずっと、冷たい態度を取って……い、たのに、まだ俺を……。

 

「竜治どうした? 竜治!?」

「いけない。熱が出ているな。ドゥーベ私が先に病院に連れて行っても」

「お願いします。車で行くより貴方に運んで貰ったほうが速いので」

 

安心したことでプツリと糸が切れたのか体から力が抜ける。

それと同時に襲ってくる寒気と倦怠感。

あれ? なんか苦しい……。

 

「死んだら駄目だよ。君は沢山愛されるべき子供なんだから」

 

ゆっくり閉ざされる視界の中、オールマイトの言葉が異様に大きく聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――助けて。

 

――助けて。痛い、苦しい。

 

――何で僕がこんな目に合わないといけないんだ。怖いよ。

 

――ここから出してくれ。止めろ、殺さないで!

 

――放してよ! 助けて……もう苦しいのは嫌だ!

 

 

 

 

――お前を助けるものなど存在しない。

 

――そうだ。憎め、恨め、全てに絶望しろ。

 

――その闇を抱えたまま我の……

 

 

 

 

 

「ーーはっ!!」

 

物凄く苦しい夢を見て目が覚めた。

久し振りにこの夢を見た。

時々見るんだよな。

全身から汗が吹き出すほど苦しいのに内容が思い出せない変な夢。

 

「ん? ここ…部屋」

 

そして目が覚めた場所は宮瀬竜治の部屋だった。

ヒーローグッズや本が数多くあるちょっとしたオタク部屋だ。

何でここにいるんだ?

えっと確か……。

 

「竜治目が覚めたのね」

 

思い出そうとしていると宮瀬志乃が部屋に入ってきた。

手にタオルとペットボトルを持っている。

 

「酷い汗。今拭いてあげるわ」

「あ……」

 

手慣れた様子で宮瀬志乃が汗を拭く。

触れられるのなんか絶対に嫌だったのに、あの感覚が残っていて前より嫌だと感じない。

そっか。俺あれから意識を失ったのか。

手の包帯も新しいし体も意識を失う前より軽いから治療を受けたっぽいな。

 

「かなりうなされていたわ。悪い夢見たのね。どんな夢だったか話せる? 悪い夢を見た時は誰かに話すだけでも気分が良くなるから」

 

そうなのか?

なら話したいところなんだけど生憎自分でも覚えていないんだよな。

マジあの夢見ると気持ち悪くて仕方ないから。

 

「……覚えてない」

「そう? なら思い出した時でいいわ。かなり汗をかいているから水を飲んで」

 

渡された水を飲んだら少し気分が良くなった。

しかし熱出すなんていつ以来だ?

こんなにしんどかったっけ?

 

「まだ熱が高いわね。体痛くない? 筋肉もかなり傷めてるそうだから痛かったら言って。痛み止めも貰ってあるから」

「…………」

 

以前の俺なら弱ってる姿なんか見られなくないし、何処が悪いのかも絶対言わない。

弱肉強食の世界じゃ弱っているなんて知られたら即刻死に繋がる。

でもここは野生じゃない。

それにこの人は俺が弱っていると知っても命を狙ったりしないと知ってる。

 

「喉と……腕と脚がいてぇ。でも薬はいい」

「分かったわ。まだ眠ってていいわよ。朝になったらご飯食べましょ」

 

ゆっくりと宮瀬志乃は俺の頭を撫でる。

やっぱり体が覚えてて安心するな。

あの変な夢見た後だから余計そう思う。

 

「お休み竜治」

 

気が付いたらまた目を閉じて眠っていた。

誰かの前で意識を失うのではなく眠ってしまうなんて……体の記憶も馬鹿に出来ないな。

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

目が覚めたら熱は下がっていた。

大分体調は良いハズなのに上手く考えることが出来なくて頭がボーっとする。

無気力状態って言うのかな? 何かをする気力が湧いてこない。

まぁ当然か。

色々思い出したからな。自分がどれだけ中身のない存在なのかとか。

今の俺は何の目的もない。本当に無。

全ての目的を失うとデジモンってこうなるんだな……。

あ、これは人間も同じか。

そんなこと考えながらベッドの上で茫然と外を見ていると

 

「竜治入るよ」

 

宮瀬魁が部屋にやってきた。

ベッドの横に椅子を持ってくるとそこに座る。

 

「熱はもうないみたいだけど、まだ何処か悪い?」

「いいや……ただ何もする気力がないだけだ」

「そっか。実は昨日のうちにお母さんと相談して決めたことがあるんだ」

「決めたこと?」

「うん。あんなことがあった後じゃ竜治は幼稚園に行き辛いだろ? だから遠いところに引っ越そうと思うんだ。竜治が嫌なら止めるけど、どうかな?」

「……別に」

「分かった。じゃあすぐ手続きをするね」

 

デジタルワールドでも決まった場所にいなかったから生活圏を移動することは苦じゃない。

ん? でも人間の引っ越しって結構大変じゃなかったっけ?

かなり費用とか掛かるって本で読んだけど大丈夫なのか?

 

「竜治がそんなこと気にする必要ないよ。ヒーローだった時僕そこそこ稼いでたから貯蓄はバッチリさ。心機一転。いいところに引っ越そうね」

「……何で」

「ん?」

「何で俺なんかのためにそこまでするんだ?」

 

勝手にいなくなって勝手に具合悪くなって……今まで迷惑しかかけてない。

態度だって最悪だった。

正直捨てられて当たり前というレベルだ。

 

「なんか、じゃないよ。竜治は僕達の大事な息子だ」

 

しかし宮瀬魁は迷うことなく言った。

 

「それにあれは僕達も悪いんだ。竜治がいい子だから甘えちゃった」

「え?」

「竜治は甘えん坊で無邪気だったけど年の割にしっかりしている子だった。手のかからない子だねって言われて僕達もいい気になっていたんだと思う」

「…………」

「竜治が無個性だと分かる少し前に僕は左の上半身に大怪我を負って左目の視力が極端に落ちた。僕の個性は相手の姿をしっかり両目でかつ裸眼で捉えないと発動しないものだから正に致命的な怪我だった。日常生活を送る分には問題ないけどヒーローは続けられなくなっちゃった」

 

宮瀬魁は俺が知らない“前”の話をし始めた。

それを俺は口を挟まず聞く。

 

「竜治はヒーローになってお父さんが救うハズだった人達を僕が救うんだって意気込んでいたよ。だから無個性だと分かった時竜治は酷く落ち込んでた。その時僕達は無責任なこと言っちゃったんだ。無個性でも頑張ればヒーローになれるよって。そのために頑張っていたことが原因で苛めが始まった」

 

そういえばあのガキ共もそんなこと言ってたな。

興味がなかったからスルーしてたけど。

 

「この個性社会で無個性がどれほど差別されるのか個性を持っている僕もお母さんもちゃんと理解出来てなかった。出来ていたら竜治が苛められているってすぐ気付けたのに。あの後更に話を聞いたら竜治は罵声を浴びせられるだけじゃなく物を隠されたり壊されたりもされてたんだって。けど竜治はそれを誰にも言わなかった。……多分僕達に心配かけまいと黙ってたんだろう。それがあの嵐の日に爆発した。自分と同じくらいの子供が個性を使って人助けをしているのを見て」

 

低体温で死にかけていた老婆を助けるために加熱関連の個性を持つ人が必要でたまたまその個性を持っていたのが自分と同じ年齢の子供だった。

ヒーローから許可を得てその子供が個性を使って老婆を助けている場面を見て今まで我慢してきたものが爆発したと。

 

「何で僕を個性持ちで生まれさせてくれなかったんだ。お母さんとお父さんも大嫌いだ、と言って竜治は避難所を飛び出した。その時僕は元ヒーローとして救助活動に参加してたからすぐ追いかけられなくて……いや、これも僕のせいだ。一番大事なのは竜治なのに他を優先してしまったから。他のヒーローから子供が鉄砲水に飲まれたと知らせを受けた時は本当に後悔したよ。状況からそれが竜治なのはほぼ確定だったから」

「…………」

「竜治が記憶を失くしたと知った時は罰だと思ったよ。竜治を助けられなかった、些細な変化に気付いてあげられなかった僕達への罰だって。ねぇ竜治。もう一度チャンスをくれない? 今度はちゃんとお父さんとして竜治を守るよ。だから少しでいい。僕達のこと信じてくれないかな?」

 

守る。

あの時オールマイトが言ったことと同じ。

……何だろう。

ずっと誰かにそう言って欲しかった……気がする。

 

「信じる、なんて出来るかよ……。どうせ……いらなくなったら捨てるんだろ」

 

でも信じてもいいのかと思った瞬間、異常なほどの恐怖心を感じた。

信じたところでまた裏切られる、見捨てられる。そう思っている自分がいる。

あんな思いをするくらいなら最初から一人でいいと……。

 

「そんなことしないよ。言っただろ。竜治が大事だって。例えどんなことがあっても僕もお母さんも竜治の見捨てない。約束するよ」

 

けど宮瀬魁は真っ直ぐに俺の目を見て断言した。

嘘は言っていない。長年の経験で分かる。

あまりに迷いのない返答に俺のほうが驚いてしまった。

 

「そ、それに俺は……自分のことが分からない。何の目的もない。本当に空っぽなんだ。多分これからもあんた達に迷惑しかかけねぇぞ」

「それは当たり前だよ。竜治には記憶がないからね。でもそれはこれから知っていけばいい。目的がないなら見つければいい。空っぽなら埋めていけばいいだけさ。勿論僕達も協力する。だからそんな顔しないで。辛かったらそうだと言ってくれれば僕達がちゃんと受け止めるから。もう一人で我慢しなくていいよ」

 

宮瀬魁が優しく俺の顔に触れる。

そんな顔って俺どんな顔してたんだ?

けどわざわざそう言うってことは余程酷い顔だったんだろう。

俺を気遣って触れる手がとても温かい。

俺が何を言っても意思を曲げない心の強さ。

この人達なら信じてもいいの……かな?

 

「……ありがとう。俺も……頑張る、な……」

 

自然とその言葉が口から出た。

それを聞いた宮瀬魁はゆっくりと俺を抱き締める。

もう気持ち悪いとは感じない。

俺は静かにその抱擁を受け入れた。

おはようございます。緋紗奈です。

 

えー…唐突なんですが、この度ペンタブレットを買いました。

何でかっと言いますと、仕事が忙しくてマンガを描きたいのにストレス解消にYouTube見ていることがほとんどだったので、PC触っている時間が多いのならいっそのことデジタルのほうがいいのでは?と思ったからです。

 

しかし買ったはいいがどのソフトでやればいいんだ?という悩みに直面。

 

全部調べてから買えよ、と自分ながら思いましたが生憎その時は考えに至らなかった(馬鹿)

数日調べて悩んだ末、メディバンペイントという無料ソフトが良さそうということで今ほどインストールしました。

なのでまだ実際にはやっていません。

でも調べてみた結果デジタル画初心者向けらしい。

イラストもマンガも描けるそうだし、本当に無料なので自分に合わなければ別のを探せばいいだけですからね。

 

うーん…しかし難しそう…。

 

ペンタブはペンタブでも板タブのほうなんですよね。

あ、これはちゃんと調べてから買っていますので問題ありません。

液タブより安価で慣れれば手元を見ずに描けるし、何より下を見ないので良い姿勢のまま作業が出来て肩こりしにくいそうなのです。

けど値段の差がエグいな。

板タブは安いと5000円くらいで買えるのに液タブはどんなに安くても2万とかするからね。

最初は液タブにしようかと考えていましたが、新しい自分用のPCが欲しかったので。

不安は尽きませんが、板タブ早いと数時間で慣れるそうだから頑張ろう。

マンガ描けるようになったらより綺麗なものを皆さんにお届けできるしね。

そうなるまでどれ程時間がかかるか分かりませんがやってみます!

 

 

でもこれでいいかと思ってインストールしたソフトが一つ前のバージョンの奴だったのよね。

だからちゃんと見ろってぇの!!

これ最新バージョンどれインストールすればいいんだ??

マジこういうのに疎すぎるので後で詳しい父に聞こう……。

 

 

二次創作を考える以外は基本馬鹿な緋紗奈がお送りしました。

 

 

PS:え!? 板タブって登録必要なのかよ!? めんどくさっ!!

面倒くさがり屋な私に絵を描かせないつもりか!?(違う)

明けましておめでとうございます。

かなりお久しぶりの緋紗奈です。

生きてますよ。

ただ仕事が忙しすぎて更新出来なかっただけです(-_-;)

流石に更新しないといけないと思いましてね。

 

 

いやぁ…まさか元日にこんな大地震が起ころうとは…

 

新潟もかなり揺れました。

その時私は寝ていたんですけど、突然目が覚めた。

なんでこんな時間に目が覚めたのだろうと思ったら揺れ始めて緊急地震速報が鳴り響いた。

即座に「あ、これ本能的に目覚めた奴だ」と思ったのですがかなり揺れが激しく動けない。

収まってから急ぎ情報収集したって感じですね。

ここまで大きな揺れは久しぶりです。

しかも津波警報まで…先が思いやられる年始になってしまいました。

私が住んでいる地域はそこまで被害が大きくなかったのですが、実家のほうは塀が崩れたりしたところもあるようです。

皆さんの住んでいる地域はどうでしょうか?

震源地からさほど離れていないところに知り合いがいるので心配です。

 

皆さんの無事を祈ることしか出来ませんが一人でも多く救われますように。

 

 

駄文ですが、失礼いたしました。