突然、病院で「腹膜偽粘液腫(ふくまくぎねんえきしゅ)」という名前を聞かされたら、多くの方は戸惑い、言葉を失ってしまうかもしれません。インターネットで調べようとしても、専門的な用語が多く、情報が限られていることに不安を感じることもあるでしょう。
この疾患は、100万人に1〜2人と言われるほど非常に珍しい「希少疾患」の一つです。しかし、その正体を正しく知り、適切な治療法を選択することで、病気と向き合いながら前向きに生活を送っている方はたくさんいらっしゃいます。
今回は、腹膜偽粘液腫がどのような病気なのか、その特徴から治療、そして日常生活で大切にしたいことについて、私なりに整理した内容をお伝えしていきます。
腹膜偽粘液腫とはどのような病気か
腹膜偽粘液腫は、お腹の中(腹腔内)にゼリー状の粘液が大量に溜まってしまう病気です。
始まりの多くは、虫垂(ちゅうすい)などの臓器にできた小さなしこり(腫瘍)です。この腫瘍が破裂したり、細胞が漏れ出したりすることで、お腹の中に腫瘍細胞が散らばります。これらの細胞が腹膜(お腹の壁を覆う膜)に付着し、そこで増殖しながら粘液を出し続けることで、お腹全体がゼリーで満たされたような状態になってしまいます。
名前に「偽(ぎ)」という文字が入っていますが、これは「粘液が出るがんのような状態だけれど、一般的ながんと比較すると進行が非常にゆっくりである」というニュアンスが含まれています。とはいえ、放置すると内臓が圧迫されてしまうため、しっかりとした治療が必要です。
どのような症状が現れるのか
この病気は非常にゆっくりと進行するため、初期の段階では自覚症状がほとんどありません。多くの場合、以下のようなきっかけで発見されます。
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お腹が張る(腹部膨満感):太ったわけではないのに、お腹だけがポッコリと出てきた、あるいはウエストがきつくなったと感じる。
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腹痛や違和感:お腹が重苦しい、あるいは鈍い痛みを感じる。
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他の手術での偶然の発見:ヘルニアや胆石、婦人科系の手術などの際に、お腹の中に粘液があることが分かり、診断に繋がるケースも少なくありません。
症状が進むと、溜まった粘液が胃や腸を圧迫し、食欲が落ちたり、便秘になったりすることもあります。
診断までの流れ
希少な病気であるため、一般的な健康診断では見つかりにくいのが現状です。疑いがある場合は、以下のような精密検査が行われます。
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CT検査・MRI検査:お腹の中にどのくらい粘液が溜まっているか、どの臓器まで広がっているかを画像で確認します。
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腹水(粘液)の検査:お腹に針を刺して粘液を少し採取し、細胞の性質を調べます。
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腫瘍マーカー:血液検査で特定の数値(CEAやCA19-9など)を確認しますが、これはあくまで補助的な診断材料となります。
最終的には、手術で採取した組織を詳しく調べることで、確定診断が下されることになります。
治療の柱:完全切除と温熱化学療法
腹膜偽粘液腫の治療は、外科的な手術が中心となります。一般的な抗がん剤治療だけではゼリー状の粘液の中に薬が浸透しにくいため、物理的に取り除くことが基本となります。
1. 完全減量手術(CRS)
目に見える範囲の腫瘍と粘液をすべて取り除く手術です。場合によっては、腫瘍が付着している臓器(脾臓や胆嚢、一部の腸など)を一緒に切除することもあります。非常に大掛かりな手術になることが多いため、経験豊富な専門医のいる病院で受けることが推奨されます。
2. 腹腔内温熱化学療法(HIPEC)
手術の最中に、温めた抗がん剤をお腹の中に直接流し込み、数十分間循環させる治療法です。熱を加えることで抗がん剤の効果を高め、目に見えないほど小さな細胞を死滅させることを目的としています。これを行うことで、再発率を大幅に下げられることが期待されています。
治療後の経過と再発への備え
手術が無事に終わった後も、腹膜偽粘液腫は長期的なフォローアップが必要です。非常にゆっくりとしたペースで数年から十数年経ってから再発することもあるため、定期的な画像検査が欠かせません。
もし再発したとしても、再び手術で粘液を取り除くことで、良好な状態を維持できるケースも多いのがこの病気の特徴です。「一度治ったら終わり」ではなく、「長く付き合っていく病気」という意識を持つことが、心の安定に繋がります。
日常生活で大切にしたいこと
治療中や治療後、どのように過ごせば良いのでしょうか。
食事の工夫
腸の一部を切除した場合は、消化に良いものを中心に、一度にたくさん食べすぎない工夫が必要です。よく噛んで食べることは、腸閉塞などのトラブルを防ぐためにも非常に大切です。
相談できる場所を見つける
希少疾患ゆえに、身近に同じ病気の人を見つけるのは難しいかもしれません。しかし、インターネット上の患者会やSNSでは、同じ悩みを持つ方々が情報を交換し合っています。一人で抱え込まず、同じ境遇の人と繋がることで、「自分だけではない」という安心感を得ることができます。
専門医との信頼関係
この病気は治療方針が特殊であるため、腹膜偽粘液腫の治療に詳しい専門医(ストライカーなどと呼ばれることもあります)との出会いが非常に重要です。納得できるまで説明を受け、信頼できる先生と一緒に歩んでいくことが、治療の成功への第一歩となります。
おわりに
腹膜偽粘液腫という病気は、確かに珍しく、大きな手術を伴うこともある大変な病気です。しかし、医学の進歩により、かつてよりもずっと治療の選択肢が増え、長期的な生存や社会復帰が十分に可能な病気になっています。
「なぜ自分が」と自分を責めたり、絶望したりする必要はありません。ゆっくりとした時間の流れを持つこの病気だからこそ、私たちも一歩一歩、焦らずに対処していくことが可能です。
この記事が、今、暗闇の中にいるような気持ちでいる方の足元を照らす、小さな灯火になれば幸いです。あなたの体と心が、少しずつでも軽くなっていくことを心から願っています。