BIG BLUE SKY -around the world- -3ページ目

RW-19, Island of Ghosts/Rossy


[Island of Ghosts/Rossy] (1991)

1. Madagasikara 2. Hazo Avo 3. Mbola Tsara 4. Maki
5. Kila 6. Dia Maninona 7. Mazava Atsinanana 8. Mitopa
9. Midona 10. Tsingy 11. Hiakan' Ny Babakoto 12. May
13. Hazofotsy 14. Salegy 15. Betsiboka 16. Gasigasy
17. Soa


マダガスカルの Rossy の ‘91年作品は、母国の首都アンタナナリボのスタジオで収録された音源を、英国人プロデューサーが Real World スタジオでミキシングして製作された。当時の水準以上の音質だったので、マダガスカルの録音技術の高さに驚いたことを覚えている。

‘91年当時の音楽ファンにとって、マダガスカルと言えば Weather Report の曲名だった。マダガスカル共和国に関する知識は、アフリカの東側に位置するインド洋の島国で、モーリシャスやセーシェルの近くの大きな島ということぐらいだった。それに、多分私はザンジバル島 (タンザニア) とマダガスカル島とを混同していたと思う。全く失礼な話だ。



[Night Passage/Weather Report] (1980)  “Madagascar” 収録作.Rossy とは何も関係無い


Rossy 作品の特徴は、幾らでも挙げることが出来た。手拍子を交えたビート,流麗なるアコーディオン,メロディックなギター.ギターに似た共鳴胴を持つ弦楽器,ツィターか琴のような撥弦楽器,軽やかなベース,キメキメのリズム構成,不思議な魅力を持つフルート,レゲエ・バンドにも似た女声コーラス,インストルメンタル楽曲と歌曲とが交差する楽曲群,ドレッドロックスの Rossy,何語なのか全く分からない歌詞 ...

『 これがどこの音楽なのかを言い当てるのは、とても無理な話しだ 』

Rossy の音楽は、カリブ海マルチニークの Kali の “Racines” を思わせた。“Racines” は、ヨーロッパとアフリカが融合したクレオール音楽だ。Rossy 作品もまた、ヨーロッパとアフリカ,そしてアジア,アラブ系の音楽が融合したものだ。ドレッドロックスの若者が、ミクスチャー音楽を演奏するところまで、Kali と Rossy はそっくりだ。



[Racines Vol.1/Kali] (1989)  クレオール音楽の傑作


“Island of Ghosts” のライナーを読み、マダガスカルの歴史を調べてみると、文化的には東南アジア,東アフリカ,アラブ,フランス (西欧) の影響を受けていることが分かった。マダガスカルの音楽は、そのような歴史を背景とした、各種の音楽が融合したものと言える。

また、マダガスカルの人々にとっての音楽は、祖先とのつながりを持つためのものである。そのような存在としての音楽は、伝統音楽の中にも、ポピュラー音楽の中にも根付いていると言う。



[Kabosy/Tao Ravao] (2004)  この楽器が Kabosy.フレット形状に注目


ギターではない共鳴胴を持つ弦楽器は、Kabosy (カボシー) という 4~6弦の楽器だと分かった。長方形の箱型で4弦のものが多い。マダガスカル出身のブルーズ・マン Tao Ravao の作品を聴いて、カボシーの音がよく分かった。

また、ツィターか琴のような撥弦楽器は、Valiha (ヴァリハ) という竹筒を用いたツィターだと分かった。ヴァリハはマダガスカルの国楽器とされている。Kate Bush 作品にも参加した Justin Vali が有名だ。



[RW-51, The Truth (Ny Marina)/The Justin Vali Trio] (1995)  手前の楽器が Valiha. 左後方には Kabosy が見える


もしも今、”Island of Ghosts” を初めて聴いたとしたならば、ヴァリハの音でマダガスカルの音楽だと分かっただろう。しかし、もしも、ヴァリハが使われていなかったとしたならば、どこの音楽か言い当てることは難しいと思う。手拍子とアコーディオンで分かるかも知れないが。


 [#1396]

 

RW-18, Homrong/Musicians of Cambodia


[Homrong/Musicians of the National Dance Company of Cambodia] (1991)

1. Breu Peyney 2. Leng Suan 3. Homrong
4. Tep Monorom Dance 5. Nor Kor Reach
6. Luok Phsar  7. Tropangpeay 8. Preah Chinnavong
9. Bohrapha 10. Mohori Bompay


‘91年に発表されたカンボジア王立舞踏団の伴奏を務める音楽家たちによる作品は、’90年に Real World スタジオでレコーディングされた。

『 今までに聴いた音楽と全く異なる音楽だ。馴染めないかも 』

カンボジアの伝統楽器で演奏され、伝統的な唱法で歌われる楽曲は、これまでに聴いたどこの音楽にも似ていなかった。初めて聴く異質の音世界に、戸惑いしか感じることができなかったのだ。



[Cambodia - Royal Music] (LP: 1971,CD: 1989)


’90年と言えばカンボジアに関する東京会議が開催された年だ。翌 ‘91年には、国際連合カンボジア暫定統治機構 (UNTAC) が設立され、’92年から平和維持活動が始まった。続いて ’93年5月には、国民議会総選挙が行なわれて立憲君主制が採択され、カンボジア王国が約23年ぶりの統一政権として誕生した。そのような時代背景の中で、製作された作品なのである。

音楽家たちは、’70年代に地方へ送られて、音楽とは無縁の作業に従事させられていた。その後 ’80年前後の国家体制の変更を機に、音楽家たちの首都プノンペンへの帰還が実現し、文化省芸術局による音楽・演劇の復興に力が注がれた。本作の音楽家たちは、復興活動を経て伝統文化に新たな息吹を吹き込み、国際的な活動を行うに至ったのだ。



[Cambodian Rocks/Various] (2000リリース)  ‘60~’70年代のポピュラー音楽作品


その後の十余年、東南アジア諸国を訪ねて、現地の音楽に触れる機会を多く持つことになった。The Rough Guide シリーズで、隣国ベトナムやタイの伝統音楽に親しむこともできた。さらには、ポルポト期以前のカンボジアのポピュラー音楽作品や、LA で活動するカンボジアン・ロック・バンド Dengue Fever の楽曲を通じて、カンボジアの音楽が次第に身近に感じられるようになって来た。

加えて、カンボジアにルーツを持つ方々と、お付き合いをするようにもなった。今では、もはや異質の音世界、馴染めない音楽ではない。



[Escape from Dragon House/Dengue Fever] (2005)  クメール語で歌うロック・バンド


“Homrong” を初めて聴いた ‘91年から現在までの、カンボジアと自身との関わりを振り返ってみると、典型的な異文化理解の過程を辿って来たと思える。異なる文化背景を持つ人々と交流すること、違う価値観の存在を認識すること、知識や経験は普遍性を有するものではないと理解することを経て、”Homrong” の音世界の持つ尊さや楽しさ、そして感情表現を、少しではあるが理解できるようになった。埃をかぶった CD ”Homrong” を三十余年振りに手に取って、改めてそう思った。

実は、私はまだカンボジアを訪ねたことが無い。そう遠くない将来、カンボジアを訪ねて、伝統音楽からポピュラー音楽まで、様々な音楽文化に触れたいと思う。


 [#1395]

 

RW-17, The Wild Field/Dmitri Pokrovsky Ensemble


[The Wild Field/The Dmitri Pokrovsky Ensemble] (1991)

1. Mosquito 2. Oak Forest 3. Slow Kaliuki (Extract)
4. Pine Tree 5. Slow Kaliuki (Extract) 6. Porushka
7. Lullaby 8. Geese Fly 9. Fast Kaliuki (Extract) 10. Sadko
11. Fast Kaliuki (Extract) 12. Where Have You Been?
13. Three Sisters 14. On the Street
 

 

‘70年代初期に結成された The Dmitry Pokrovsky Ensemble が、’91年に発表した Real World 作品。Dmitry Pokrovsky がロシア各地を回って収集した、農民たちの歌が収録されている。

 

Dmitry は音楽大学在学中、古い形式と規則に縛られた音楽シーンに不満を持ち、何か現状を変えられるものを追い求めていた。そして数年後に、遂に現状を打破できる歌を見つけることができた。なんと皮肉なことに、ロシアの辺境の街で長い間歌い継がれて来た歌の中に。5人の老女たちの歌は、あり得ないほどの音量で、とてつもなく複雑で濃密な形式だったと言う。それから Dmitry は楽団を組織すると、ロシア中を回って古い歌の収集に努めて来た。失われゆく運命にある過去の財産を。



[Head of a Peasant/Kazimir Malevich] (1928)  フロント・カバーの元絵。髪の色が違うのは何故なのだろう


そのエピソードを読んで、フロント・カバーに、ロシアのシュールレアリスム画家 Kazimir Malevich の作品 “Head of a Peasant (農民の頭部)” を使ったことにも、合点がいった。

『 このポリフォニーの凄さは、怖いぐらいだ 』

東ヨーロッパにポリフォニー文化が有ることは、ブルガリアン・ボイスを通じて知っていた。バルカン半島から黒海周辺はポリフォニーの宝庫で、ブルガリアの女声合唱やジョージアの男声合唱があることを。



[Le Mystère Des Voix Bulgares] (LP: 1975,日本盤 CD: 1987)


“The Wild Field” には、独唱 4曲,男声合唱 3曲,女声合唱 1曲,混声合唱 2曲、短い間奏曲 4曲の、計 14曲が収録されている。楽曲の特徴として、次の五つを挙げることができる。

① 独唱における、無拍・付加リズムの使用。
② 主唱部と副唱部の音程の干渉による、緊張状態の増幅。
③ ドローン唱者のいない合唱。
④ 独唱者が、一瞬にして主唱部に取り込まれる展開。
⑤ 主唱部と副唱部における、コール & レスポンスの関係。

① 無拍リズムはブルガリアン・ポリフォニーにも見られるもので、共通の特徴と言える。過去に東洋からの影響が有ったのかも知れない。

②・③ の特徴では、特に③のドローン唱者がいないことが、ブルガリアン・ポリフォニーと聴き比べたときの違いである。その分と言う訳ではないが、主唱部と副唱部とが作り出す、リズムと音程のズレによる緊張感が際立つ。何だか怖いと感じたのは、この緊張感溢れる展開だ。

④・⑤ の特徴を成すコール&レスポンスは、混声合唱の二曲 (6,12曲目) で顕著である。二曲ともに、夏至の日に村の路上で歌われる性的な歌のようだ。北の国ロシアの農村で、夏至は特別な日だったのだろう。

また、ライブでは、足を踏み鳴らすダンスが見られるそうだ。本作はスタジオ録音のため、足を踏み鳴らすストンプ音は聞こえない。その効果は、ライブ盤で確認していただきたい。



[Russian Chorus Music ロシアの歌/Pokrovsky Ensemble] (2001収録/2008リリース)  東京公演のライブ盤


The Pokrovsky Ensemble は 2001年に来日公演を行い、ライブ盤をリリースした。ここで特徴的なのは、ロシアの古儀式派とキリスト教各宗派の音楽を 6曲取り上げていることだ。辺境部に移動した古儀式派等の楽曲は、ロシア正教の楽曲とは違った特徴を有している。続けて収録されている前者 6曲と後者 3曲で、両者を聴き比べることが出来る。

アンサンブル創始者の Dmitri Pokrovsky 氏は、残念ながら ‘96年に逝去された。楽団はその後も活動を続け、2023年には 50周年記念公演を行っている。再度の来日公演に期待したい。


 [#1394]

 

RW-16, Shahbaaz/Nusrat Fateh Ali Khan


[Shahbaaz/Nusrat Fateh Ali Khan] (1991)

1. Beh Haadh Ramza Dhasdha
2. Shahbaaz Qalandar
3. Dhyahar-Eh-Ishq Meh
4. Jewleh Lal


Qawwali (カッワーリー) の大スター Nusrat Fateh Ali Khan の、Real World レコードからの 3作目。ここまでの Real World 16作中 3作が Nusrat 作品で、しかも前作と本作は連番だ。いかに Nusrat がドル箱スターだったかが窺える。



[RW-15, Mustt Mustt/Nusrat Fateh Ali Khan] (1990)  前作


前作 “Mustt Mustt” 同様に、Michael Brook がプロデュースを担当した。前作がアンビエントなワールド・フュージョンだったのに対して、本作は Nusrat 本来の伝統的カッワーリー作品だ。そのプロデュースを担当したのだから、Nusrat は Michael Brook を高く評価していたことが分かる。

『 前々作 Shahen Shaht に比べて、随分と音像が変わったな 』

一人ひとりの歌声,一つひとつの楽器の音がとてもクリアに聴こえる。まるで二列に座った楽団の中に一緒に坐っているかのようだ。時折聞こえる少年の歌声は、Nusrat の若干 16歳の甥 Rahat のもの。Rahat の高音もいいが、タブラの低音が効いているのが嬉しい。



[RW-3, Shahen Shaht/Nusrat Fateh Ali Khan] (1989)  前々作


Nusrat は ‘90年 4月のインタビューにて、「カッワーリーのレコーディングをする人は、東洋音楽の楽器にも西洋のレコーディングのテクニックにも通じてなきゃいけない」 と語り、タブラの音を捉えることの難しさに言及した。そして 「ピーター (Peter Gabriel) のところはそれを理解していた」 と語った (季刊「ノイズ」第6号より)。

Nusrat と Michael Brook の関係は本作以降も続いたので、Nusrat は Michael のプロデュースにさぞかし満足されたのだろう。

Michael Brook がプロデュースした本作 ”Shahbaaz” と、前年リリースのワールド・フュージョン作品 “Mustt Mustt” とを、是非併せて聴いていただきたい。


 [#1393]

 

RW-15, Mustt Mustt/Nusrat Fateh Ali Khan


[Mustt Mustt/Nusrat Fateh Ali Khan] (1990)

1. Mustt Mustt 2. Nothing Without You 3. Tracery
4. The Game 5. Taa Deem 6. Sea of Vapours
7. Fault Lines 8. Tana Dery Na 9. Shadow 10. Avenue
11. Mustt Mustt (Massive Attack Remix)


イスラム神秘主義スーフィズムの音楽 Qawwali (カッワーリー) を代表する存在であるパキスタンの Nusrat Fateh Ali Khan が、カナダのプロデューサー/ギタリスト Michael Brook と組んで製作した作品。Massive Attack Remix 版 “Mustt Mustt” は英国のクラブ・シーンでヒットし、アルバムはインド亜大陸以外で 60万枚のセールスを上げるヒット作となった。



[Hybrid/Michael Brook with Brian Eno and Daniel Lanois] (1985)


『 インスト中心の楽曲は、まるで環境音楽のようだ。
  それでも、これは、ヌスラット作品以外の何物でもない 』


歌詞とメロディーらしいメロディーが有る楽曲以外は、Nusrat の声をも素材とした環境音楽に聞こえた。Brian Eno のアルバム・タイトルで、Ambient (アンビエント) という言葉は知っていたが、まだ環境音楽の方が通りの良い時代だったと思う。

プロデューサー Michael Brook は、Eno,Daniel Lanois と組んだアンビエント作品 “Hybrid” を ‘85年に発表していた。ロック・ファンには、その Eno と組んだ作品と、U2 のギタリスト The Edge と組んだ作品 “Captive” で知られていた。”Mustt Mustt” で聞ける Infinite Guitar を、それらの作品でも聴くことができる。中でも U2 ‘87年のヒット曲 “With or Without You” では、The Edge が弾く Infinite Guitar によるロング・サスティーン・サウンドが堪能できる。



[The Joshua Tree/U2] (1987)  “With or Without You” で Infinite Guitar が聴ける


ロック・サイドのファンから見ると、Michael Brook プロデュースと言うことで、環境音楽風の作品になることが予想された。しかしながら、実際に “Mustt Mustt” を聴いてみると、環境音楽風 の要素は強いものの、Nusrat 以外には作り得ない作品であった。Nusrat と Michael Brook の相互作用で、完全に予想を超えた作品に仕上がっていたのだ。

Nusrat は ‘90年 4月のインタビューにて、「世界中のミュージシャンが伝統的なものにエレクトロニクスを入れたり、他の国の音を吸収して世界が混ざっている、という状況があるんですが」 と問われ、「それは大変いい状況と思う。私もそういうのは多く目にしている。もしいろいろな音楽が混ざり合って世界に新たな発展があるとしたら、大変よいと思う」 と答えている (季刊「ノイズ」第6号より)。同年 12月リリースの ”Mustt Mustt” は、正にその通りの World Fusion 作品となっていた。



[Captive/The Edge] (1986)  Michael Brook との共同プロデュース作品


Nusrat に Michael Brook を推薦したのは、Peter Gabriel だそうだ。当時 Michael Brook は、U2 作品をプロデュースした Eno と Daniel Lanois、そして U2 の The Edge と深い関わりを持っていた。これらのことから、Peter が推薦したことも、環境音楽風の作品となったことも、起こるべくして起こったことに思える。その一方で、”Mustt Mustt” は当時の一音楽ファンの想像を超えた、今まで聴いたことが無く、且つ誰にでも親しめる作品に仕上がっていた。その主要因は、Nusrat の力に他ならないと思う。

本作 ”Mustt Mustt” と、翌年リリースされたカッワーリー作品 “Shahbaaz” とを、是非併せて聴いていただきたい。


 [#1392]