RW-24, … My Ancestors' Voices/Sheila Chandra

[Weaving My Ancestors' Voices/Sheila Chandra] (1992)
1. Speaking in Tongues I 2. Dhyana and Donalogue
3. (a) Nana, (b) The Dreaming
4. Ever So Lonely / Eyes / Ocean
5. The Enchantment 6. The Call 7. Bhajan
8. Speaking in Tongues II 9. Sacred Stones
10. Om Namaha Shiva
『 本人による詳しい曲解説があるのは、とてもありがたい 』
ライナーノートには、Sheila Chandra 本人による全曲の解説が載っていた。曲の成り立ち,その曲で用いた唱法,どのような思いが込められているか等、詳しく記述されている。歌手以外には書けない専門的な内容が、初心者にも分かり易く記述されているのだ。今になって思えば、2009年に歌手を引退した後、文筆業に転身しただけのことはある。

[Third Eye/Monsoon] (1983)
Sheila Chandra は、ライナーノートに 「声は最初にして究極の楽器である」,「声は血流とつながっている」,「声は生物学的に全ての人に共通するものである」 と書いていた。楽器とは異なる声の特性について、ご自身の言葉で力強く記している。その記述通り、本作全曲を通じて、Sheila Chandra の声が堪能できる。伴奏は控え目なドローンだけで、正に歌を聞かせる作品なのだ。邦盤には、Sheila の意を汲んだかのようなサブタイトル "遠き彼方の記憶を呼び覚ます10の歌声" が冠されていた。
プロデューサーは、Monsoon 時代からのパートナー Steve Coe。10曲中 8曲は Sheila Chandra と Steve Coe の共作である。Monsoon 時代の楽曲 "Ever So Lonely / Eyes" の再演が収録されているのには、アルバム中での曲配置を含めて、込められた意味が有るのだろう。

[Ever So Lonely/Monsoon] (1981)
Sheila Chandra は、WOMAD '92 横浜で来日を果たした。そのときは都合がつかず、残念ながらステージを観ることは叶わなかった。その後、WOMAD 横浜はいつの間にか開催されなくなり、Sheila Chandra の Real World 三部作が '96年の "ABoneCroneDrone" をもって完結してからと言うもの、消息を聞くことは殆ど無くなった。
そんなある日、英国で "Ever So Lonely" の Jakatta (DJ Dave Lee) によるカバー "So Lonely" がトップ 10ヒットとなった。何と、このバージョンには、Sheila Chandra のオリジナル・バージョンでのボーカル・トラックが使われていた。"So Lonely" を聴く度に、機会が有れば Sheila のステージを観に行きたいという気持ちが、沸々と湧き上がって来たのだった。

[So Lonely/Jakatta] (2001)
WOMAD 2007 シンガポールに Sheila Chandra が出演すると知り、丁度都合が付くので観に行くことにした。とても楽しみにしていたのだが、会場に付いた私を待っていたのは、Sheila 病欠の知らせだった。
病気とは BMS (burning mouth syndrome, 舌痛症) で、それがもとで Sheila Chandra は 2009年に歌手活動からの引退を決めてしまった。何とも残念だ。

[Womadness Singapore 2007: Ten Years of Real Music] (2007) "Ever So Lonely / Eyes / Ocean" 収録
Sheila Chandra は、歌手引退後は文筆業に転身して、Self-Help Books (いわゆる自己啓発本) を執筆している。"Banish Clutter Forever – How the Toothbrush Principle Will Change Your Life" (2010) は、邦訳本 "歯ブラシの法則" が出版されているので、いつか読もうと思っている。
[#1401]
RW-23, Terem/The Terem Quartet

[Terem/The Terem Quartet] (1992)
1. Lyrical Dance 2. Fantasy
3. The Legend of the Old Mountain Man 4. Cossack's Farewell
5. Toccata 6. Variations on Swan Lake 7. Simfonia Lubova
8. Old Carousel 9. Two-Step Nadya 10. Tsiganka
11. Letnie Kanikuli 12. Country Improvisation
13. Valenki 14. Barnynia
『 Real World にしては、いいジャケットだな 』
楽器を掲げたメンバーの逆光写真が気に入った。これまでの Real World 作品のジャケットは、良いデザインだと思えなかった。皆既日食や地表の写真,ミュージシャンや動植物の不自然なアップ,そして両者の組み合わせは、全く良いと思えなかったのだ。許容できたのは、Papa Wemba と The Saburi Brothers 作品ぐらい。今回の “Terem” は、Real World 作品にしては、いい写真だと思った。

[Inner Photo, Terem/The Terem Quartet] (1992)
The Terem Quartet は、ロシア,サンクトペテルブルグ出身の 4人組。バヤン (ロシア式アコーディオン) が 1台,ドルマ (リュート系,3~4弦) がアルトとソプラノ各 1台,低音担当のバラライカ 1台のカルテット編成。
バヤンは、トレモロ・リードの無い、ロシア式のクロマティック・アコーディオン。本作では多彩な音色を聞かせてくれる。
ドルマは、バラライカの三角ボディに対して、丸いボディが特徴的だ。バラライカは指弾きだが、ドルマは主にピックで弾くそうだ。バラライカ同様に、トレモロ奏法やピチカート奏法が聞ける。ピック弾きのバラライカという印象を受けた。
低音担当のバラライカは、底部にエンドピンを備えたコントラバス・タイプ。このように巨大なバラライカがあるとは知らなかった。とても持ちにくそうなので、どうしても三角形じゃないと駄目なのかなと、少々疑問を感じてしまった。アコースティック・ベース・ギター然とした音が聞ける。

[The Terem Quartet] (1991 or 1992)
収録曲は、ロシア民謡にクラシックから,ポピュラーまで幅広い。このカルテットには、オリジナル曲ですら、どこかで聞いたことがあると感じさせる何かが有る。ペンタトニックでの下降メロディーに長二度音程を重ねて弾いたフレーズにも、ロシアを感じる。カルテットが使うロシア楽器の響きが、聴く者にロシアを感じさせるのだろう。
それにしても、ザ・ピーナッツ “恋のバカンス” が収録されているのには驚いた。この曲は度々ロシアでカバーされていて、”恋のバカンス” を直訳した曲タイトル ”カニークルィ・リュブヴィー” として、スタンダードになっているそうだ。作曲者のクレジットを見ると、宮川泰氏のローマ字表記が Miagava になっている。ロシア語のキリル文字表記をラテン文字に置き換えるとそうなるのだろうか。致し方ないとしか言いようがない。

[Rear Cover, Terem/The Terem Quartet] (1992)
“Terem” は、’91年 8月の Real World レコーディング・ウィークに製作された。’91年 8月と言えば、The Terem Quartet の母国でクーデターが発生した月だ。彼らは、どのような思いでレコーディングを行っていたのだろうか。私にはそれを聴き取ることはできないが、母国の人々にとっては特別な作品に聞こえることだろう。

[2000th Concert Live/The Terem Quartet] (2008) 彼ら自身のレーベルからのリリース.まるで Real World 作品のようなデザイン
Terem Quartet は、メンバー・チェンジを経て、現在も活動を続けている。将来、彼らの来日公演が楽しめる日が来ることを願う。
[#1400]
RW-22, Mambo/Remmy Ongala

[Mambo/Remmy Ongala & Orchestre Super Matimila] (1992)
1. Dodoma 2. One World 3. I Want to Go Home
4. Inchi Vetu 5. What Can I Say? 6. No Money, No Life
7. Living Together 8. Mrema 9. Kidogo Kidogo
『 去年の WOMAD '91 横浜でやった新曲が入ってるな 』
タンザニアの Remmy Ongala & Orchestre Super Matimila が ‘92年にリリースした新作には、前年の WOMAD 横浜で披露した新曲 “One World”,”I Want to Go Home” が収録されていた。
この二曲は英語歌詞だったのと、Bob Marley を思わせるレベル・ミュージックだったので、記憶に残っていた。洗練されたスーク―ス・サウンドと、腰蓑ルックに瓢箪ネックレスのいで立ちのコントラストとともに、理想を歌う姿は、一年を経ても印象に残っていたのだ。

[WOMAD '91 横浜] (1991) 二日目 8月31日のメイン・ステージに出演
本作では、英語歌詞の楽曲が半数を占めている。‘91年の WOMAD ツアーと Real World レコーディング・ウィークでの経験が、英語歌詞に向かわせたのだろうか。
それは、より多くの聴衆,ミュージシャンとコミュニケーションをとるための手段に思えた。

[RW-224, Worldwide: 30 Years of Real World Music] (2019) Remmy Ongala は Real World レコード 30年の歴史を代表するスター
一作目と比べると、スーク―ス・ギター・アンサンブルを、よりくっきりと聴き取ることができる。3人のギタリストをシンプルに左・右・中央に定位させた音像は、リスナーの期待に応えたものと言える。プロデューサー Rupert Hine の作り出した音からは、音数の多いバンド演奏をすっきりと聴かせる巧みさを感じた。
Rupert Hine は、本作の前に Rush 作品をプロデュースしている。当時の Rush は、キーボード中心の音作りが過剰気味だったが、Rupert プロデュースによる “Presto”, ”Roll the Bones” で、すっきりしたギター中心のサウンドに整えられた。Remmy Ongala 及び Rush ファンの自分にとって、Rupert Hine は名プロデューサーだ。

[Roll the Bones/Rush] (1991) Rupert Hine プロヂュース作品
“Mambo” に続く Remmy Ongala 作品 “Sema” は、Real World ではなく、WOMAD Select レーベルからリリースされた。このレーベルは、WOMAD フェスティバルを代表するアーティストを紹介する目的で設立されたもので、よりコレクター向けと言える。そのレーベルの第二弾として、”Sema” がリリースされた。
第一弾は WOMAD 出演者の作品を集めたコンピレーション盤だったので、”Sema” は実質的に最初のリリース作品と言える。新レーベルをスムーズに立ち上げるために、Remmy Ongala を移動させたのではないかと思った。その後、WOMAD Select レーベルは2001年をもって残念ながら解散したが、”Sema” は iTunes ショップで Real World 作品として購入することができる。

[Sema/Remmy Ongala & Orchestre Super Matimila] (1995)
Remmy Ongala は 2010年にタンザニア,ダルエスサラームの自宅にて、63歳で逝去された。その後 2012年のタンザニア・ミュージック・アワードで、殿堂入りトロフィーが授与された。レベル・ミュージックの Remmy Ongala が、祖国で殿堂入りを果たしたのだ。WOMAD ’91 横浜のステージを思うと、とても感慨深かった。
[#1399]
RW-21, Jubilation/The Holmes Brothers

[Jubilation/The Holmes Brothers] (1992)
1. Jesus is Alright 2. I Had My Chance 3. Amazing Grace
4. I'll Fly Away 5. I Want Jesus to Walk with Me
6. The Power of the Lord Come Down
7. Will the Circle be Unbroken 8. Just a Closer Walk with Thee
9. All Night, All Day 10. Do Lord 11. Oh How I Love Jesus
12. The Power of the Lord Come Down 13. A Brother's Prayer
The Holmes Brothers は、アメリカ, バージニア州出身で、ゴスペル,ブルーズ,ソウル,R&B をミックスした音楽が特徴の三人組。ジャケット写真の四人は The Holmes Brothers の三人 Sherman Holmes (B/Pf/Vo),Wendell Holmes (G/Pf/Vo),Popsy Dixon (Ds/Perc/Vo) と、ツアー・メンバー Gib Wharton (Pedal Steel Guitar/Dobro)。この四人編成で WOMAD ‘91に出演し、さらに Real World レコーディング・ウィークに参加して、本作を製作した。

[RW-25, A Week in the Real World - Part 1/Various] (1992) Track-3: I Want Jesus to Walk With Me/The Holmes Brothers
『 ゴスペルの厳格さと、音楽への貪欲さとが、無理なく共存している 』
本作は、ラスト一曲を除いて、全てカバー楽曲だ。謳い文句通り、ゴスペル,ブルーズ,ソウル等がミックスした楽曲が聴ける。意外だったのは、カントリー調のアレンジを取り入れていることだ。カントリーは、白人のものと思い込んでいたので、ちょっとした驚きだった。この機にカントリーの歴史を紐解いてみて、ブルーズと似た成り立ちがあることを知った。音楽に境界は無いと言っていながら、ステレオタイプ的思考に囚われていたことを反省した。

[RW-30, A Week or Two in the Real World] (1994) Track-1: Thats Where It's At/Van Morrison and The Holmes Brothers
Track-7 "Will the Circle be Unbroken" では、なんと、タンザニアの Remmy Ongala バンド のギタリスト三人を迎えて、ゴスペルを披露している。スーク―ス・ギターとの共演,後半でのギター・ソロの応酬は、本作のハイライトだと思う。Real World でのスタジオ・ライブは大いに盛り上がったことだろう。7分 2秒でフェイド・アウトされるのが惜しい。
Track-9 でのサミー・ノルディック Mari Boine, UK インディア Sheila Chandraによるコーラスや,Track-16 での中国 Guo Yue の横笛との共演もあり、Real World ファミリー総動員の感が有る。

[RW-150, Big Blue Ball] (収録: 1991, 1992, 1995. リリース: 2008) Track-7: Burn You Up, Burn You Down/Peter Gabriel with the Holmes Brothers
Real World レコーディング・ウィークで Van Morrison と共演した "Thats Where It's At" は、後に Van Morrison の重要なレパートリーとなり、彼のライブ・アルバムに収録された。
また、Peter Gabriel と共演した "Burn You Up, Burn You Down" は、2003年に Peter 名義でのシングルとしてリリースされて、イギリスとイタリアでヒットした。Peter はこのレコーディング・セッションでの、Popsy Dixon の歌唱を絶賛している。

[Burn You Up, Burn You Down/Peter Gabriel] (2003)
"Jubilation" は、The Holmes Brothers の 37年に及んだ歴史の中にあって、異色の作品かもしれない。しかしながら、ゴスペルの厳格さと音楽への貪欲さとが無理なく共存している彼らの本質を、鋭く捉えた作品だと思う。
The Holmes Brothers の大活躍が聴ける Real World レコーディング・ウィークのコンピレーション盤と、併せて聴いていただきたい。
[#1398]
RW-20, Le Voyageur/Papa Wemba

[Le Voyageur/Papa Wemba] (1992)
1. Maria Valencia 2. Lingo Lingo 3. Le Voyageur
4. Ombela 5. Jamais Kolonga 6. Matinda
7. Yoko 8. Madilamba 9. Zero
『 これ、去年のと同じ内容じゃん。ジャケ違いなだけで 』
ザイール (現コンゴ民主共和国) 出身,パリ・シーンで活動するスーク―ス (当時はリンガラ・ミュージックと呼ばれていた) のスター Papa Wemba 初の Real World 作品は、’91年にアースビート (バンダイ) からリリースされたアルバムと全く同じ内容だ。プロデューサーも、バンダイ盤と同じ Shin Yasui (安井輝氏)。何と、我が国のバンダイが製作したアルバムを、Real World が欧米向けにリリースしたものだった。
ローカル作品を欧米向けにリリースする際、歌詞を英語にしたり、ミキシングを変えたりすることが多い。本作 “Le Voyageur” で変更されたのは、デザインだけのようだ。Real World はデザインに独自の拘りがある。それに則った変更なのだろう。どちらも伊達男風だが、真っ赤なシャツの Real World の方が、世界一おしゃれなジェントルマン Sapeur (サプール) ぶりが際立って良いと思う。

[Le Voyageur/Papa Wemba] (1991) アースビート (バンダイ) 盤.帯で隠れない右側に座っている構図が日本製作盤らしい
タイトル曲 “Le Voyageur” とオープニング曲 “Maria Valencia”,ラスト曲 ”Zero” は、強い個性を残したまま新境地を開いた作品と言える。この三曲でアルバムの軸を形成するとは、素晴らしいプロデュースだと思う。
本国のミュージシャンと、ヨーロッパのミュージシャンとが融合したアンサンブルも、聴き物と言える。英国版リズム・セクション [John Giblin (ベース,ex-Brand X),Steve Alexander (ドラムス,future-Jeff Beck Band)] は、Viva La Musica とは全く違ったノリだが、スーク―ス楽曲に不自然さは感じられない。ダンス・パート風間奏部での疾走感は、スーク―スならではのものだ。
Viva La Musica 時代と、本作 “Le Voyageur” との間には、The Police 楽曲と Sting ソロ楽曲以上の違いがある。それが、安井輝氏の手腕によるものなのかは分からない。もしそうだとしたならば、讃えられるべき功績だと思う。

[M'Fono Yami/Papa Wemba] (1988) 日本語が聞こえる楽曲有り
そう言えば、前作 “M'Fono Yami” には、変な日本語による歌詞が入っていた。’88年当時、ワールド・ミュージックのマーケットとして重要であった日本を、意識した演出と思われる。もし同様のことが ”Le Voyageur” で行われていたとしたら、欧米市場向けの Real World 盤では修正されたことだろう。バンダイ盤は Real World 盤入手後すぐに手放してしまったので確認することは出来ないが、記憶が確かなら日本語が聞こえる箇所は無かったと思う。
Papa Wemba の音楽は ‘80年代にパリに拠点を置いてから、大きな変革を遂げた。コンゴのスーク―スにロック,ラテン,レゲエ等の要素が加わり、よりワールドワイドな支持を得やすいサウンドに変わって行った。母国とフランスでは異なるバンドを使い分けるようになり、スタジオ盤は 5分以下の楽曲で構成され、スーク―ス特有の倍速ダンス・パートは影を潜めるようになった。
それをヨシとしない評論家の意見が多かったのも事実で、’80年代前半の Viva La Musica サウンドへの回帰を唱える向きも強かった。しかしながら、‘93年に参加した Peter Gabriel “Secret World Tour” でのパフォーマンスを見れば、アフリカのポップ・スターとしての本質を失うことなく、成功を収めていたことがわかる。

[Ceci-Cela/Papa Wemba, Lidjo Kwempa Et Orchestre Viva La Musica] (1987) P-Vine レコードからのコンピレーション盤
Papa Wemba は 2003年に不法移民に関与した疑いで、パリで逮捕・収監され執行猶予判決を受けた。その後 2006年にコンゴ民主共和国に帰国して、2016年に逝去されるまで母国を拠点に活動を続けた。
現在では、’70年代から始まる Papa Wemba の作品・パフォーマンスを、数多く視聴することができる。アフリカを代表する一時代を築いたスターの軌跡を、是非とも確かめていただきたい。
[#1397]